第一印象って大事じゃね?
Phantom Magician、4
「んー、まぁ、あたしは魔法が使えるってことだよねぇ」
とりあえず、あたしは最も重要であろう事柄を確認する。
それさえ分かっていれば問題はない。
人に借りようが自分で持っていようが、使えるんだからノープログラムOK☆
『それじゃ【計画なし】じゃないか……。正しくはプロブレム』
「さんには通じてるから良いんだよ」
『あっそう』
「んじゃ、改めてよろしく、かな?スティア!」
『…………』
「……なぜ黙る」
『いや、別に。……ああ、ついでに言えば君、
動物もどきだよ』
「え、マジで!?グッジョブ!」
『何になるかはその時のお楽しみってことで』
「えぇー、良いじゃん教えてくれたって」
どうしてこの猫は相談役とか言ってるくせに無駄に焦らすんだ。
あー、でも楽しみだなぁ。
とりあえず狼と犬と鹿と鼠は駄目でしょ?
猫も良いかもしれないけど、スティアと被るし……。
様々な動物が頭の中に浮かんでは消えていく。
どれもしっくりくるようで、全くこなかったので、あたしはうんうんと唸って悩み続けた。
「ねぇ。ねぇ、君
――…?」
「待って、言わないで!こうなったら意地よ意地!絶対当ててやる……っ」
『誰がいつクイズ形式にしたんだよ。良い?がなるのは
――』
「わぁー!煩い煩い!」
今度はあっさりと答を言おうとする魔の声から逃れる為に、耳を塞いで騒ぐ。
ネタバレっていうものにはやって良い場合と悪い場合があるのを知らないのだろうか。
……分かっててやってそうだな。
そして、絶対耳を貸すもんかと決意したあたしの手を誰かが掴んだ。
「手を外させようったってそうはいかな
――」
猫が手を掴めるはずもないことすら忘れて、あたしは背後に怒鳴る。
がしかし、相手を見た瞬間、最後の一文字はのどの奥に消え去った。
「
――あ、あ、あ……」
「……ああ、驚かせてすまないね。呼んでも聞いていないようだったから」
「リーマス!ごごごご、ごめんなさっ!」
土下座をせんばかりの勢いで頭を下げる。
自己紹介もしていない相手を怒鳴りつけるなんて!
しかもよりにもよって愛しのリーマス。第一印象最悪!最低!
ありえない速度で思考がネガティブな方に転がり落ちていき、かなり泣きたい気分になってきた。
すると、そんなあたしに努めて優しい声をリーマスはかけてきてくれた。
「……気にしていないよ。けれど、年上の人を呼び捨てにするのはいけないね」
「ごめんなさい……」
「分かってくれれば良いんだ」
ああ、でも若干言葉に棘がある気がする……。泣きてぇ。
「ところで、君は誰と話していたんだい?」
コミュニケーションを続けようとしてくれるリーマスの声に思わず顔を上げる。
彼はにこやかとまではいかないものの、口元に笑みを湛えていた。
その姿にほっと安堵の息が漏れる。
「いや、その、スティア……じゃなかった。この猫と」
「……へぇ。君の猫かい?」
一瞬、スティアを見るリーマスの眼が鋭く細められた。
な、なんかリーマスが怖い雰囲気を纏ってるのは気のせいだろうか。
スティアがあんまり生意気だから?
ああ、それとも同居人
――シリウスとのことを考えてるとか?
少なくともこの猫と彼は相性悪いだろう。確実に。
「あー、はい。多分。……猫嫌いなんですか?」
「いや、そういうワケじゃないよ」
『ねぇ、。僕はのものじゃないんだけど』
「アンタは黙ってるの!」
いちいちしゃしゃり出てくるスティアをぴしゃりと一喝する。
と、リーマスはその様子を酷く興味深そうに見つめていた。
何度かあたし達を交互に見て曰く、
「君はその猫が何を言っているのか分かるのかい?」
「は?いや、普通にしゃべってますけど」
何を言っているんだ、という気分でリーマスを見る。
すると、それを受けて彼は首を横に振った。
「……私には君が独り言を言っているように見えたよ」
複雑そうなリーマスの言葉に驚いて足元を見やる。
その視線に、生意気な猫はこうのたまった。
『僕の高尚な言葉を簡単に人に聞かせるワケないじゃないか』
……コイツ可愛らしい黒猫の姿じゃなかったら殴ってる。
ということはあれか。あたしは一人で怒ってつっこんで頭抱えてた変人に見えてたってことか。
どーりでリーマスの態度がずっと余所余所しいワケだよ。
『……それだけじゃないけどね』
ぷっつんと。
溜め息と共にそう言ったスティアに、あたしの中で何かが切れた。
所謂、堪忍袋の緒って奴が。
乱暴に首根っこを捕まえて、あたしは一路大きな窓へと向かった。
スティアは抵抗するかと思ったが、予想外にも大人しくされるがままになっている。
そして、あたしは何の容赦もなしにスティアを外に放り出した。
猫はひらりと体勢を変えて、軽やかに地面に着地した後、窓を見上げる。
『ちょっと。追い出すことはないんじゃないの?』
「うっさい!話の邪魔だからそこにいな」
『ふぅ。は短気だね、まったく』
呆れたように言うスティアの前で勢い良く窓を閉め、あたしは深呼吸をした。
「……もう、良いのかな?」
少し笑いを含んだ声が聞こえ、あたしは落ち着けと念じながらリーマスと向き直る。
これ以上印象を悪くするのは得策じゃないし、何よりあたしが嫌だ。
とりあえず、今までの失礼な態度を謝ることにした。
「……あの、すみませんでした。色々お騒がせして」
「大丈夫だよ。騒がしいのには……慣れているから」
若干の間を置いて、リーマスはあたしに椅子に座るように促した。
多少高い椅子にどうにか座って、あたしはリーマスと向かい合う。
……ああ、格好良い。
背の違いからどうしても見上げる形になってしまうが、態度からきちんと対等に話そうという意思が感じられた。
どうしよう。あたし今凄く幸せなんだけど。
「えーと、じゃあ改めて。
私はリーマス=J=ルーピン。これからは君の保護者、ということになるのかな?」
「ええと、その、あの、よ、宜しくお願いします!
じゃなかった、=です!本日はお日柄もよく……っ」
「はは。そんなに緊張しなくて良いよ」
朗らかに言うリーマス。
けれど、その雰囲気というかなんというかに、壁を感じる気がする。
……よくよく考えてみれば当然の反応かもしれない。
リーマスの性格上、行く当てのない女の子を恩師から預けられたら断るワケがない。
でも、自分は人狼で。
万が一に傷つけたりしたらと思うと……遠ざけてしまいそうだ。
この距離感はきっとそういうことなのだろう。
「さて、さっきの話を聞いていたとは思うんだけど、この家にはもう一人同居人がいてね。
『シリウス=ブラック』という人だ。
少し気難しいところがあるから、君に最初辛く当たるかもしれない。
絶対にさっきみたいに呼び捨てになんかしてはいけないよ。良いね?」
その言葉に黙って首肯する。
大歓迎とはいかないまでも、彼の中ではすでに一緒に住むことが決定しているらしい。
かなり喜ばしいことだけど、もしシリウスをダンブルドアが説得できなかったらどうするつもりなんだろう。
……いや、あのじいさんに限ってないか。
「この家のことで分からないことがあったら私に訊くといい。
部屋は……そうだな。二階に物置にしている部屋があるから、そこを片付けて使おう」
さくさくと物事を決めていくリーマスの強引さに内心首を傾げながら、あたしは相槌を打ち続ける。
こんな風に話す人だったっけ?
いや、あたしの印象なんて本を読んで映画を観たくらいだから、間違っているのかもしれないけど。
「細々としたものは明日買いに行くとして、服はどうしようか」
「へ?」
「流石にその格好で外には出たくないだろう?
それに寝る時に着るものもいるね……」
まじまじと見られて、顔がかっと熱くなった。
リーマスからすればただの十歳程度の女の子かもしれないが、中身は成人した立派な乙女だ。
いくらなんでもこんな扱いは恥ずかしすぎる。
おのれ、ダンブルドアめ。
「うーん。私達の服は大きすぎるけど、一応貸して……」
「ああ、あの!あたし、とりあえず明日までこのままで良いですから!」
「え?いや、そういうワケには……」
この人絶対天然だ。
あたしがリーマスやシリウスの服なんか借りたらワンピース状態でとても見られたものじゃない。
なのに、どうしてそんな不可解そうな
表情するんだ!
「でも、部屋を用意していたら服が汚れてしまうよ?
普段あまり使わないからほこりだらけだろうし……」
言いながら、リーマスは考え込むように口元に手を当てた。
そして、一分ほど考えた後、
「仕方がないから掃除は今度にして、しばらくは来客用の寝室を使ってもらおうか」と言った。
…最初からそう言ってほしい。
そんな風に少し脱力していたあたし。
がしかし、次の瞬間耳に入ってきた言葉に、自分の聴覚を疑いたくなった。
「服は仕方がないから、私とシリウスで買ってくるしかないね。
さっそく今日行ってくるかな」
リーマスと…シリウス!?
いや、あのさ。こう言っちゃなんだけど。
どう考えても女の子(しかもちっちゃい)の服を美形な三十男二人で買いに行く図ってどうよ?
怪しっ!
しかもしかも、リーマスってば爽やかな
表情のまま下着とかレジ持ってっちゃうんだ。
そうだそうに違いない!
シリウスがすっごく恥ずかしそうにしてるの尻目に!
しかも、それをあたしに着けろと?
一体あたしにどういうリアクションを求めてるんだっ!?
『そういう風に思考のいくが怪しいよ』
かなりつっこんだところまで悩んでいるあたしに対して、
他人事でしかないスティアはそう嘆いた。
でも、かなり重要だろこれ!
え、重要じゃない?
いや、かなり重要だろこれ!!(大事なことなので2回言いました)
『二回も言わなくて良いんだけど。あー、女の子って面倒臭い』
本気で面倒臭そうな口調のスティアを本気で殴ってやろうかと思う。
そこは察しろよ。
あたしは女だ!乙女だ!!ヲトメなんだ!!!
『いや、最後なんか違う……。ある意味凄く正しいけど』
いちいちつっこんでくるスティア。
……付き合い良いなーコイツ。とか色々思ったが、ここでふと疑問がわきあがる。
「オイ、待て」
『何?』「……何だい?」
「ああ、いや、リ……ルーピンさんじゃなくて」
畜生、どうでもいいけどルーピンさんってめっさ言いにくい!
いや、決してどうでもよくなんかないんだけど!!
『脱線してるよ、』
「誰のせいだ!」
『うん?のせい』
OMAE の SEY だ YO !
あたしこいつ窓の外に追い出したよね?ね?
何でそれなのにいつの間にやらあたしの膝の上に乗ってごろごろ喉鳴らしてんだよ!
手触り良いなこの野郎!!
『もの凄い勢いでセクハラしておいてよく言うよ。
……いや、僕がつっこまないと収集つかなさそうだったからさ。
ほら。僕って親切だし』
親切なら頼む。
あたしを放っておいてくれっ!
『はいはい』
……うん。それで良いんだよ。
『はい』は一回で良いけどな。
ふぅ。これでようやく静かになった。
……ん?
…………あれ??
何か忘れてる気がする。何だろう。
と、内心首を捻りつつ、黒猫の毛をもふもふいじっていると、前方から密やかな溜め息が。
「……ふぅ。これはあれかな?私は放っておかれてるのかい??」
「○γ×△※Σ◎▽〜っ!!?」
どうすんだよ、この悪印象!
......to be continued