夢の中に君を描こう。
失くしたモノを拾い集める為に。
Life Is Wonderful?、9
あれはいつだったか。
細かい日にちなんざ覚えちゃいねぇが、確か夏ももう終わりだってのに蒸し暑い日だった。
それは、酷く平凡な出逢い。
わりかし軽めの男連中に八戒をプラスして、オレ達は隣の女子短大とカラオケで合コンを計画した。
アイツは乗り気じゃなかったんだが、連れて行くと他の連中に言っちまった手前、無理矢理連れてったんだよな、確か。
集まった連中のレベルはかなり高め。
そして、その中でもとびきりの美人がだった。
十人が十人振り返る位のインパクトを持った美女。
当然、野郎共――まぁ、八戒は別だが――の狙いは彼女一人に集中した。
つまり、の隣の席二つは水面下の争いで、常に狙われていたっつーコト。
しかし、普通であれば男女交互に座るはずの席順は、の強い希望によって変えられていた。
あの女は我侭にも自分の右隣に連れの少女を座らせたい、とか言いやがったワケだ。
その意見が通るあたり、分かっててやってたんだろ。アイツ。
で、その少女とは、もちろん。
とは同い年だがの場合、女性というよりは少女という方がしっくりくる。
どうやら、こういう場を避けようとする彼女をが引っ張って来たらしい。
歌を歌うコトもなく、ただ笑っては話を合わせていた。
その姿は目立たず、しかし、浮いていて。
絶対に場慣れしていないだろうに、彼女は周りに溶け込んでいた。
仕方なく付き合っている、ようには見せなかった。
そして、場の雰囲気を壊さないように努力しているそんな様子は、オレの目には奇妙なモノとして映った。
その時は、ちょっと毛色の違う子が紛れ込んでるな、程度には彼女のコトを認識していた。
おまけ、の認識だったが。
あくまでも意識していたのはであって、ではなかったのだから。
数年後では考えられないコトに。
程なくして、どうやってを落とそうかと思案していたオレの目に、鷭里に絡まれていたがふと映った。
笑顔を浮かべちゃあいるが、心持ち困っているように見えた。
鷭里が下世話な話をしまくってたからだっつーのは、多分そう外れちゃいないオレの予想。
助けてやろうと思ったのは、がの連れだったからだ。
『将を射んとすれば……』とか何とかって言うだろ?
適当にリモコンを操作して割り込み予約を入れ、前の奴が歌い終わる頃にオレは奴に向かって口を開いた。
「オイ、鷭里。お前の持ち歌入れといてやったゼ?」
「おー!気が利いてんじゃねぇか、悟浄」
図った通り、奴はご機嫌で立ち上がりマイクの方へ向かって行った。
自分の歌に驚くほど自信を持っている奴のコトだから、こうなるように仕向けるのは簡っっ単だった。
一瞬、がほっとしたような表情を浮かべたのを見たのは、多分オレだけだ。
そして、オレは鷭里がまた座れないように、開いたスペースにどっかりと腰を下ろす。
驚いてほんの少し眼を見開いた彼女を怯えさせないように気を遣いながら、オレは慎重に話しかけてみた。
「悪ぃな」
「……え?」
近くで見ると、は思っていたよりも可愛らしい少女だった。
派手な美人のとは対照的に。
「アイツ、人の気持ちとか細かい所に気ぃ配れねぇんだワ」
「……いえ、そんなコトありません。大丈夫です」
焦げ茶の瞳が浮かべたのは苦笑、だった。
その後、オレは彼女と他愛のない話をした。
内容なんざロクに覚えちゃいない。
ただ、相手に合わせて、軽すぎる話題は避けた気がする。
が会話に加わるコトを期待していた下心に、は気づいていたのかそうじゃないのか、未だに分からない。
「チャンってこういう場所初めてだろ?」
「あ、はい。そんなに分かりやすいですか?」
「んー、何つーか、そんな感じ?おーかた、チャンに連れてこられたんだろ」
「そんなところです」
「二人とも仲良いけど、高校同じだった?」
「いいえ、私の地元は此処じゃありませんから」
「んじゃ、チャンはこっち?」
「そうですよ。悟浄さんはどうなんですか?」
「ずっと同じ所住んでんぜ。あそこにいる、ホラ、八戒っつー眼鏡かけたのがいんだろ?
けっこー前からアイツ居候させてんだワ。俺ンち色々あって一軒家で一人暮らししてたし」
「そうなんですか。あ、じゃあ八戒さんの家賃とかはどうしてるんです?」
「取っちゃいねぇけど。アイツ来てから部屋は綺麗だし、料理は豪勢だから、まぁそれが家賃代わりって感じじゃねぇの?」
「八戒さんは家事が得意なんですね」
「結婚しても自分でやってそうだよなv」
「あはははは」
なんとなく、話しやすかった気がする。
他の女みたいに黄色い声を上げるコトもなく。
自分のコトをオレに逐一知らせる訳でもなく。
ただ、にっこり楽しそうに笑って話を聞いていてくれたから。
特に口をはさむこともしないで、傍らで相槌をくれたから。
でも、今思えばあれはきっと。
にとって『どうでも良い暇つぶし』と言ったら聞こえが悪ぃが、そんなもんだったんだろう。
右から左に素通りするような。
でなきゃ、次に逢った時に名前忘れてたりしねぇだろ?
はとばかり話せば、彼女も話しかけているオレも気を悪くするのを知っていた。
事実、彼女の連絡先をオレはその日訊かず。
彼女はもちろんオレの連絡先なんて訊くはずもなく。
オレ達は二度と意図して逢うことのない人間になった。
だから、次の出逢いは本当に偶然。
きっと、その前に街中ですれ違うコトや見かけるコトもあったはずだ。
けれど、お互い気づかないような二人だった。
そんな二人がまた逢うのなんか、幸運な偶然でしかねぇだろ?
「あ……」
とんでもなく格好悪い泥酔状態のオレを見て、が逃げなかったのなんざよ。
遠回りかもしれない。
けれど、君の姿を垣間見る夢が一番の早道に思えた。
......to be continued