―――『すきすきだいすきあいしてる』―――
「悟浄。スキすき大好き愛してる。これ以上ないくらいに、悟浄がスキ!」
「……その心は?」
「こんなに悟浄のこと愛しちゃってる私に500円を寄越せ☆」
驚くほどに良い笑顔で手を突き出してくる少女。
何を隠そう俺の彼女さまである。
……カツアゲじゃねぇか。
「彼氏にいきなり何で金銭要求してきてんのヨ?」
「何でって、あそこに見える『わたしとコンビに』であんまん食べたい。
でも私は今日100円しか持ってない」
「そんで?」
「そんでって、鈍い男ねぇ。カンパしてくれって言ってんのよ」
寄越せとばかりに掌が開いたり閉じたりする。
こんな風に強制的にされるのは、断じてカンパではない。
カンパではないが、しかし。
「へーへー」
何で俺は大人しく財布を取り出しているんだろうか。
「まいどあり〜」
そして、彼女は俺からぶんどった五百円玉を子どものように握りしめて、
それは嬉しそうにコンビニの自動ドアに吸い込まれていった。
その背を見送って、おれは歩道の脇の塀に寄り掛かる。
「はぁ」
そこまで求められれば、男冥利に尽きるというものである。
もっとも、求められたのは俺ではなく、あんまんだという辺りが切ないが。
あ〜、なんで俺、あんな自己中わがまま女の彼氏やってんだろ。
ちょっかいかければ、「ウザイ」とか言うし。
反対に構わなければ、「この薄情者」とかキレるし。
ちょっとイイ女に目移りすれば、その場で張り手だ。
可愛さ余って憎さ百倍って言葉がこの上なく似合う女。
まったく……。
俺にどうしろって言うのか。
「はい、お待たせー」
こんな、可愛い笑顔を見せつけてくれちゃって。
「……なぁ」
「うん?なぁに、悟浄」
「これ、何?」
「は?あんまんに決まってんでしょ?」
「いや、俺が言いたいのはそういうことでなくて……」
「?」
「自分の、買いに行ったじゃねぇの?」
差し出された物体に戸惑ってそう言えば、彼女は心底不思議そうに首を傾げた。
「買ったけど?」
確かに、彼女の手にはもうひとつの包み紙。
だけど、言いたいのはそういうことじゃなくて。
あ〜!上手く言えねぇっ!
「んで、俺の分?」
「?うん。そりゃそうでしょ?」
「だから、何で?」
「はぁ?」
「何で俺の分まで買ってんのかって言ってんの」
苦心して、どうにかそう言葉にする。
別に俺は欲しいなんざ言ってもいない。
あんまんが特別好きなワケでもなんでもない。
だけど。
「なによ、あたしと半分こvなんて寒いことやりたかったの?」
「や。言ってねぇし」
「んじゃ何。なにワケ分かんないこと言ってるわけ?」
「ワケ分かんないって……」
「二人いたら二つ買うでしょ。普通」
嬉しい、と思った。
きっと、これは自分が心底嫌いなものを差し出されても、同じことを思ったと思う。
嗚呼、そうか。
100円じゃ足りないって、そういう意味か。
確かに、二つも買えば足りないだろう。
「普通?」
「そう。普通」
そして、それは幸せそうにあんまんを頬張る彼女に、俺は笑いかける。
自分の分を譲るワケじゃなく。
自分の分を分けるワケでもない。
ただ、当然のように俺にまであんまんを買ってきてくれる君が。
「なぁ」
「ふぁいふぁい。……今度は何?」
「俺さー……」
―――すきすき大好き愛してる。―――
―――作者のざれごと♪―――
ぶっちゃけ、最初の一行が書きたかっただけだったり。
拍手して下さって本当にありがとうございます。
メッセージのお返事は、出来れば日記辺りでしますので、覗いてみて下さいね。