(三蔵)
―――鼓動リズム―――



あたしと三蔵は付き合っている。
例え他のカップルみたいにイチャついたり、ベタベタと甘い言葉を囁きあっていなくても、付き合っている。
相手のコトをどついてけなして喧嘩しない日がほとんどなくても、別れないんだからしょうがない。

今、あたし達は三蔵の部屋でなんとなく過ごしている。
デェトなんて、二人とも人ごみが嫌いだから滅多に行かない。
ただベッドの上に背中合わせで本を読むのが、あたしは一番好き。

トクン。    トクン。    トクン。

別にしゃべったりするのが嫌いって訳じゃないけど、特に話す必要もないし。
三蔵の心臓の音が背中越しに聞こえてくるのも安心するし。

「……さーんぞ」
「……何だ」
「あたしが突然『激☆乙女』になったらどうする?」
「湧いてんのか手前ェ」
「……うわ」

ふとした疑問を口にしたら、返ってきたのはおよそ彼女に対するモノとは思えないセリフ。
まぁいきなり、八戒みたいに、悟浄みたいに、もしくは悟空みたいに。
あたしを労わる三蔵なんて気持ち悪いから良いか。

「もしもの話だよ、もしも。そうなったら三蔵はどうする?」

どうしてくれる?

「……とりあえずハリセンだろ」
「ハァっ!?」
「壊れたもんは叩きゃ直るだろうが」
「……や、治んないから」

ありえない回答に思わず背後の三蔵を振り返った。
三蔵はといえば、相変わらず分厚いハードカバーの本に目を落としている。
なんとなくムカついて、その本を後ろから奪い取った。

「オイ」
「ヒトが真面目に訊いてんのに」
「……真面目だったか?」
「今は真面目」

ようやくこっちを見た紫暗の瞳に、自分が映る。
少し不機嫌な表情カオをしたあたしが、君色に染まる。
そして、密やかな溜息と共に三蔵は一言。

「知らん」

にべもない。 そのコトに文句を言おうと開きかけた口は、しかし、三蔵に目で制された。

「例え手前ェが壊れようがどうしようが、生憎先のコトに興味はないんでな」

そう言いながら、三蔵はあたしの後頭部に手を添えた。
加えられた軽い力。
ポスン、と広い胸に抵抗するコトなく顔をうずめる形になった自分。



「今ここにこれがいりゃ充分だ」



彼女を『これ』よばわりかよ、とか。
結局あたしの質問に答えてないじゃんか、とか。
思うコトはたくさんあったけど。

トクン。 トクン。 トクン。

いつもより少し早い三蔵の鼓動を聞いたら、どうでも良くなった。

「さんぞー」
「何だ」
「ひょっとして照れてる?」
「黙れ。口塞がれてぇか」
「……遠慮シマス」




あたしも目の前の仏頂面が今ここにいりゃ充分、かな?





―――作者のざれごと♪―――
なんとなく思いついたお話。拍手にするか普通にあげるか迷いましたー。個人的には気に入ってます。

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