―――『Good night』―――
「申し訳ございません。ペットは持ち込み不可なんです」
言葉通り、とても申し訳なさそうな様子で宿屋の女性は私達に告げた。
もう日が落ちてしまった時点で宿を取ろうとしていたので、そう言われては困る。
しかし、規則を進んで破るような真似を、まさか三蔵一行にさせるワケにも行かず、私は八戒さんと顔を見交わした。
「……困りましたね、八戒さん」
「ええ。今夜は少し寒いので、中が良かったんですが……」
二人で気の毒そうな表情を悟空の肩に止まっているペットと見なされた彼――ジープに向ける。
いつも三蔵一行の足として、一生懸命頑張ってくれているジープにこそ休んで欲しいのだが、何を言っても宿は了承してくれなかった。
結局、全員でジープに労わりの言葉を掛け、彼には外で夜を明かして貰うコトとなった。
「すみませんね、ジープ」
「キュー」
「明日美味いモン食わしてやるからな!」
後ろ髪を引かれる思いで、私達は車型のジープに就寝の挨拶を述べた。
そして、ソレから少しして、私はあてがわれた部屋の窓から外を覗き込んだ。
まさか、あのまま素直にジープを外に置き去りにするような気はなかったからである。
それに私から見ても、ジープは三蔵様達より宿のヒトに掛ける面倒はない。
先ほどの夕食中の銃乱射はどう考えてもジープを宿屋にいれるコトより、損害も迷惑も酷かったし。
キョロキョロと辺りを見回してヒトの気配がないコトを確認すると、私はこっそりと口を開いた。
「ジープ。ジープ…!」
すると、しばらく呼んでいると、今まで寝ていたのだろうか、少し眠たげな彼の声が聞こえてきた。
「キュ……?」
「ジープ、ちょっと竜の姿になってこっちに来てくれる?」
「キュー?」
パタパタと可愛らしい羽音と共に、ジープは不思議そうな様子で首を傾げて飛んできてくれた。
紅いはずが暗がりのせいで漆黒になったつぶらな瞳が私に「何の用?」と尋ねているようだ。
そんな様子に無意識に柔らかく微笑んで、私は小さな声で彼に話し掛ける。
「突然起こしちゃってごめんね」
「キュー」
「ところで、ジープ。約束してくれるかな」
「キュ?」
「まァ、絶対ないと思うんだけど。
例えば大きな声出したりとか、部屋の中にあるモノにイタズラしたり壊したりしないとか」
「キュ〜??」
「できる?」
部屋の中を指差して問えば、此処でようやく私の言いたいコトが伝わったらしい。
ジープはさっきの私と同じように辺りを見回し、少し困ったような声をしていたが、私が笑顔を見せるとやがて。
「キュ!」
了解と言うかのように私の肩に止まった。
「怖い夢を見たら、起こしてくれるかな?」
「キュー!」
「二人だけの秘密だねv」
「キュキュキュ〜♪」
二人で機嫌良く笑うと、私はジープと一緒にベッドに入った。
擦り寄って素直に甘えてきてくれる彼をそっと撫でながら、私は夢の帳を下ろしていく……。
二人揃って見た夢は一人で見るのとは全く違うモノだった。
どうか明日はいい天気になりますように……。
オ ヤ ス ミ ナ サ イ 。
そして、その次の日。
朝の一服をしに外に出た悟浄さんがジープがいないのを見て、ちょっとした騒ぎに発展したのはまた次の機会にでも……。
―――作者のざれごと♪―――
コレは新ジャンル。ジープ夢でございます!ええ、ジープ夢!!
本当は短編にでもしたかったんですが、あまりの短さとお相手がジープだというコトで拍手になりました。
良いなー。ジープの添い寝……。
気付いたらなんか浮かんでて、書きたくなったお話です。
ちなみに、三蔵一行で最も手が掛からない常識人は彼だと、静流は確信しております(笑)
拍手して下さって本当にありがとうございます。
メッセージのお返事は、出来れば日記辺りでしますので、覗いてみて下さいね。