―――『HONEY BEAT』―――
僕には、誰よりも大切にしたい、幼馴染がいる。
その気持ちは、異性に対するそれで。
けれど、彼女が僕に抱くのは、友人や家族に対するそれで。
すれ違う気持ちに歯痒くなる。
何故、彼女は僕が向ける視線に気づかないのだろう、と。
その鈍さが可愛くもあり、憎くもなる。
けれど、告白をすることでこの関係が崩れてしまうのも怖くて。
僕はただ、彼女が僕の気持に気づいてくれる日を待っていた。
「八戒」
けれど、僕も最初は気づかなかった。
些細で、けれど大切な変化に。
「はい、何ですか?」
「えーと、呼んだだけなんだけど。なんだかぼんやりしてたよ?珍しいね」
「そうですか?」
「うん。珍しい」
君の視線。
君との距離。
それが、気づけば変わっていた。
「何か気になることでもあるの?」
「そうですねぇ。まぁ、それなりに」
「八戒、苦労症だもんね。大丈夫?」
「……ちょっと大丈夫じゃないかもしれません」
「え!?」
その一言でようやく視線が交わる。
最近、彼女は僕と目を合わせない。
けれど、僕が見ていない所では、彼女の視線を感じる。
一生懸命な彼女が、一生懸命に視線の交わりを避ける、その理由。
前は触れても全く態度の変わらなかった君が、僕との接触を避ける、その理由。
「本当に?私で力になれることある??」
「……そうですねぇ。あるといえばあるし、ないといえばない、ですかね」
「えー!何それ!?結局、あるの?ないの?」
そう言って、君は僕に詰め寄った。
その瞳には純粋に僕を心配する気持ちと、ほんの少しの熱が映っていた。
最近、僕に向けられる甘い熱。
それを見続けることに耐えられなくなって。
僕は車が来ると同時に、彼女を腕の中に閉じ込める。
「!!?はっかいっ!?」
「……気づいて、下さい」
その熱い視線に。
赤く染まった頬に。
激しく跳ねる、その甘い鼓動に。
「早く、気づいて……」
君の、気持ちに。
「〜〜〜〜〜〜〜っ八戒!耳元でしゃべらないで!くすぐったいっ」
「……すみません。でも、これはおしおきです」
「何で!?っていうか、何で抱きしめられてるの、私!?」
「車に気づいてなかったでしょう?もうちょっとで轢かれるところだったんですよ?」
「嘘っ!?」
「だから、おしおき、です」
僕はもう少し、待っているから。
―――作者のざれごと♪―――
久しぶりに八戒さん書きましたっ。もう別人28号だ!っていうか、拍手の新作が○年ぶりっ!
このお話は、珍しくタイトルが先に出てきて、お話が後から付いてきました。
悟浄さんでも良かったんですけど、策士っぽい感じと彼のお話が拍手になかったので。
拍手して下さって本当にありがとうございます。
メッセージのお返事は、出来れば日記辺りでしますので、覗いてみて下さいね。