今日は2月14日。
日本ではある製菓会社の戦略によって『女性が男性にチョコレートと気持ちを渡す日』(八戒談)……。
よその国では男女どっちでも渡して良いらしい。別にどうでも良いけど。
どうしてそんな日があるのかはよく分かんねェけど、その日は大人も子供もちょっと変わる。
女の子は義理でも買ったり作ったりするし。
男はそわそわするし。
特に、スキな奴がいれば当然だろ?
だから、オレもちょっと、いやかなり……。
いや、ものすごーっく!期待してたんだ。

でも、でも!

孫 悟空16歳。
愛しの彼女にチョコが貰えませんでした……。






Guess who





「ンの、馬鹿猿!」


スパーンッ!


現在地、放課後の職員室。
オレは今、日誌を手渡して此処を出ようとした瞬間に、担任からハリセンをくらった。


「痛ェじゃん、三蔵!何すんだよイキナリ!?」


何だよ!三蔵までオレのコトイジメんのか!?


「『何すんだよ』じゃねェ!どこの世界に学級日誌に色ボケ話を書く奴がいる!!
「『今日の出来事』なんだから、何書いたって良いだろ!?」
「良くねェから言ってんだよ!」


つーか、色ボケ話じゃねェし!
今日一番ショックでかかったんだから、しょうがねェじゃんか……。

でも、ソレを言うとハリセンが増えそうだったから、心の中で呟いた。
三蔵もチョコを渡され(押し付けられ)たから、かなり機嫌が悪い。ムチャクチャ悪い。
後で八戒が老人ホームとかに持っていって配るらしいけど、大変だよなー。

仕方なく怒鳴りあいを止めると、三蔵は呆れたようにこコッチを見てきた。


「……大体、届けんのが遅ェんだよ。下校時間はとっくに過ぎてるだろうが」
「だってあちこち呼び出されたんだゼ?マジ疲れたー」


えーと、屋上だろ?
校舎裏だろ?
使われてない、社会科資料室に、音楽準備室。
あ!そうそう体育倉庫に来いってのもあった!
中こっそり覗いてみたら、女子が4、5人固まって怪しい呪文唱えてたから入るの止めたけど。

チョコくれんのは嬉しいけど、普通にくれりゃ良いのになー……。
『来てくれないと死ぬ』とか書いてあんのも、何個かあったしさー。
悟浄じゃないけど、今日オレ絶っっ対!運悪いと思う……。

すると、三蔵は何時の間にかハリセンをしまってこう言った。


「……フン。自業自得だな」
「ええーっ!呼び出しくらったの、オレのせいじゃねェし!!」
「ソッチじゃねェよ」


そして、三蔵は何が『ソッチ』なのかは教えてくれなくて、一応早く帰るように言いながら自分の机に戻っていった。
オレはまた仕方がないから帰るコトにして、荷物を取りに戻るコトにする。
もう流石に誰も追っかけて来ねェよな。







 『vおはよう!』
『あ、おはようv宿題ちゃんとやってきた?』
『……』
『……悟空?』
『……えーっと、何だっけ?』
『数学のプリント。駄目だよ、忘れちゃ』
だってよく忘れるじゃん!今日は、忘れてねェよな……?』
『うん。とりあえずやって……』
『じゃなくて!チョコ!!』
『チョコ……?バレンタインの??』
『おう!くれるよなv』


『え……。私、チョコなんて持ってないよ?』


『………………へ?』
『だって悟空、一杯チョコ貰ってるでしょ?
甘いモノは食べ過ぎたら駄目だと思って用意してなかったんだけど……』








なんとなく今日の朝の会話を思い出しながら、オレは教室に向かっていた。
あの後、は部活で忙しいらしくて相手にしてくれなかった。

オレの健康心配してくれるのは激嬉しいけど、でも、そうじゃなくて……。
確かに今日、色んな女子からチョコ貰ったけど、やっぱり、そうじゃなくて……。
未練がましいって言われたって全然良い。
全然良いから……。


 「のチョコ……」


ボソリと誰もいなくなった教室に入りながら、そう呟いた。
がっくし、って効果音がつきそうなほど肩が落ちてるのが、自分でもすっげぇ分かる。
周りに誰もいないから、見られることはないけど。
でも、情けないことには全っ然、変わらなかった。

そしてその時、オレの机の上に可愛らしくラッピングされたチョコが一袋置いてあったのに気がついた。
小さなカードと一緒に……。


「あーあ。またかよォ〜」


正直、今はチョコなんて見たくなかった。
でも、こんなトコに放っていたら勿体無いと思ったから、しぶしぶソレに手を伸ばす。

そして、手に取ったカードには名前も書いてなくて、あったのは……。



―――私を探してくれますか?



たった一言。
本当にそれだけしか書いてなかった。

でも、オレは知ってる。


「っ!」


オレは急いでチョコもカードも掴んで走り出した。

知ってる。
オレは知ってる。
コレをくれたのは他でもない……、



……っ!」



バンッと少し乱暴に開けた静かすぎる文芸部の部室。
其処に驚きに目を見開いたがいた……。







「コレ……、くれたのだろ?」


他の部員はもう帰ってたみたいで、は一人、本を読んでいた。
本当なら、だってとっくに帰ってる時間なのに。
外、凄ェ暗いし。
真冬だからマジ寒いのに、彼女は待っていてくれた……。

そして、今ではソレにしおりをはさんで、差し出されたチョコの袋とオレとを交互に見ている。
馬鹿みたいに緊張しながら、の一言を待つほんの数十秒が、長くて長くて仕方がなかった。
やがて、はほっとしたように微笑ワラった。


「大正解。やっぱり悟空は凄いね」
「オレがの字、間違えるワケねェじゃん」


でも、混乱はしていた。

持ってきてないって言ってただろ?
何であったのに、朝渡してくれなかったんだよ……。

すると、はオレに椅子を薦めて、口を開いた。


「『解かんない』って表情カオしてるよ?悟空」

「……そう、かな?」
「うん。あのさ、怒らないし呆れないって約束してくれたら教えるけど、どうする?」
「するする!絶対、怒らないし呆れない!!」


『じゃあ……』と言ってが話した内容ってのは、オレからしてみるとちょっと拍子抜けするモノだった。

簡単に言えば、他の女子に嫉妬したらしい。
最初はもくれる気だったらしいけど、オレがチョコ一杯貰ってる上に、嬉しそうだったから止めたんだそうだ。


「でも、折角作ったのに捨てちゃうのは勿体無いし、嫌だったんだよね。
だから、誰だか分からないように名前書かないで置いといたの……」


は段々と声を小さくしながら、俯いた。
でも、オレは耳がかなり良いから、ちゃんと最後まで聞こえた。

オレがそのまま持って帰ったら、オレが食べただけでも良いってコトで。
気付いて、しかも此処まで来るとは流石に思ってなかったみたいだ。

けど、そんなの予想をオレがブチ壊した。







「つーかさ、コレってオレが怒るコトでも、呆れるコトでもなくねェ?」


話が終わった後、思わずオレがそう言うと、は困った表情カオになった。


「だって、悟空は私のモノじゃないのに勝手に嫉妬したし。
悟空が……その……スキって言ってくれてるのに不安になっちゃったんだよ?」


少し落ち込んだ様子の彼女が……、


「……私だったら、嫌だもん」


途中で少し頬を染めるが……、


ってホント可愛いなァー」



―――やっぱり大スキだ。



「なっ!?」


ストレートすぎるオレの誉め言葉に、はさっきと比べモノにならない位真っ赤になった。


「な、何で……っ」
「だってさー。嫉妬するってコトはそんだけオレがスキってコトだろ?」
「っ!!……いや……その……あのぅ……」
「凄ェ嬉しい!!」

「……か、帰るっ!」


はまるで紅い頬を隠すように、纏まっていた荷物を取って部室を出た。
早足で歩く彼女が少し危なっかしかったから、追いかけるように横に並びながら話し掛けた。



「…………」
ー」
「…………」
!待てってば!」
「…………何?」


精一杯『不機嫌です』と書いた顔は、でも真っ赤で。
思わず笑いそうになって大変だった。


「オレの荷物教室置きっ放しなんだ。寄ってって良い?」
「良いよ」
「すっげぇ量多くてさ。にも見せるかんな!チョコ!」

「…………」


そう言った途端、すずの綺麗に整った眉が少し動いた。
見た感じ横顔は普通……だけど、普通じゃない。

ちょっと怒ってるような感じがしたけど、とりあえずソレは無視して話し続ける……。


「でも、重いんだよなー。まだ一個も食ってないからさー」


一言。
すると、突然は立ち止まって、信じられないって表情カオでオレの顔を凝視した。


「……食べて、ないの?」


?何でそんなに驚いてんだ??



「当たり前じゃん!オレがバレンタインに食うのはのだけ、って前から決めてたんだからな!!」



オレはチョコ、好きだし、くれるなら貰うけど……。
でも、『バレンタインチョコ』はのがあれば良い。

オレがそう主張すると、はちょっと俯いて小さな声を出した。


「……他に、もっと高いのだってきっとあるよ?」
「うん?」
「お料理上手な人のだってあるんだよ?」
「うん」
「ソレなのに、そんなので良いの……?」


まだ少し不安げな様子のは、恐る恐るオレがしっかりと手にしているチョコを指差した。



何て言えば伝わる?
何て言えば笑ってくれる?



少しの間、一番彼女を喜ばせられるような言葉を探したけど、ちっとも良いのが見つからなくて、 オレに言えるコトなんて今は一つしかないのに気が付いた。
つまり、素直に言うしかねェってコト。



「オレの一番はだから、のが良い!」



一番スキなのも君。
一番大切なのも君。

オレの気持ちを一番左右するのもだけだ。

バレンタインに気持ちを伝えるのは、女の子だけじゃなくて、男でも良いんじゃねェ?



―――とびっきりの笑顔と一緒に。











―作者のつぶやき♪―

旧サイトACKから、久しぶりにひっぱり出してきた悟空バレンタイン夢です。
確か、バレンタインフリー企画ということで、颯さんとか煌さんに代わって書いたものだったはず。
ゲロ甘を書け!と言われて見事に挫折した一品。

初のフリー配布だったので、相手は管理人贔屓の激しかった悟空に白羽の矢が立ちました。
ほのぼのちょっぴり青春風味?
悟空を相手にすると、どうしてもそういう感じになってしまいます。
うん。まぁ、静流がそういうの好きなだけなんですが(笑)
当時の空気を大切にしたいので、なるべく手を加えないように自重しました。ええ、なるべく。
行間は鬱陶しいので、大幅に削除しましたが。これでも。

期間限定(2/14〜2/21)でフリー配布です。
ご希望の方は、topメールフォーム又は拍手にてご一報下さると管理人小躍りします。

*現在、配布はしていません。
以上、バレンタインフリー夢『Guess who―誰だか判る?―』でした!