チル散ル満チル、1 “○二○○ ポイントBにて兵器の回収を命ずる。 なお、回収が困難である場合においては、その完全なる抹消を行うものとする。” 「と、いう訳で、今回の任務は『組織』の秘密兵器の回収です」 ヒラヒラと指令書を翳して、八戒はいつも通りの笑みを浮かべた。 これからまさに、そのポイントB――敵地へ乗り込もうとしているというのに、その穏やかさは小揺るぎもしない。 なにしろ、涼しい表情をしながら、敵の殲滅を行える男だ。 A級難度程度では、別段焦りも戸惑いもしないのだろう。 そのことを再確認しながら、目の前でその笑みを見せ付けられた悟浄は、億劫そうに横たえていた身体を起こした。 「なぁ〜んで、オレらがンな回収班の尻拭いなんぞしなきゃなんねぇんだよ」 その瞳は言外に、面倒臭いという心情をよくよく表わしているものだった。 そう、本来であれば、敵アジトの殲滅戦を専門とする自分達がこのような任務に赴くことはない。 幾ら、それが危険な場所であったとしても、もっと他に適当な人員がいそうなものだ。 悟浄達が所属している『組織』とは、それほどに巨大で、全貌が知れない。そんなところだ。 それに対しては、特に反論もないらしく、爽やかな調子は崩さずに八戒は言った。 「確かに面倒ですけど、仕方がありません。僕ら以外じゃ無理だとかなんとか押し付けられちゃったんですから」 「だぁから。なんでオレらなんだっつーの。オレらバリッバリの精鋭部隊とかそういうのじゃなかったワケ? 兵器の回収とか、もっと地味〜な潜入班とかにもできそうじゃねぇか。何?そんなにその兵器ってデカイの?」 「いえ、大きさは精々、子ども一人くらいのものみたいですよ?」 「あぁ?ますます意味分かんねぇよ」 「詳しいことは僕も分かりませんが……。『回収しそこねた為に、厄介なことになった』、ということですよ?」 概要はこうだ。 組織有するところの『兵器』とやらを使って、とある組織の支部を一つ壊滅させるという任務があった。 兵器の搬入から作動、支部の機能の破壊、そこまでは順調だった。 本来なら任務終了を待ち、すぐに回収班が回収に入るところだ。 しかし、兵器の管理を任されている人間が、その操作を誤り、まだ敵組織の人間がいるにも関わらず兵器を停止させてしまった。 結果、兵器は重大なダメージを負い、更に、応援が呼ばれてしまった。 回収班は、支部入り口でその応援と一戦を交えたものの、回収に失敗。 兵器は敵組織の手に落ち、別の支部――ポイントBへと搬送されたとのことである。 本来であれば、放っておくのが定石だが。 よほどの機密事項でもあるのか、組織はその兵器の回収、もしくは完全なる破壊を行うよう指示を寄越してきた、ということである。 「なぁなぁ!結局『兵器』ってどんなん?オレ間違って叩き壊しそうなんだけど」 「叩き壊したら叩き壊したで良いと思いますよ?悟空」 「マジ?良かったー」 「そうそ。小猿ちゃんにそんなデリケートな任務ができるなんて、向こうも思っちゃいねぇよ」 「んだよ!?悟浄だって人のこと言えないくせに!」 「オレはお前と違ってちゃ〜んと考えて行動してんの。一緒にしないでくれる〜?」 「やんのか!?」 「お。受けて立つぜー?」 一応、重要任務のはずだが、緊張感のないメンバーの様子に八戒は苦笑を禁じえなかった。 と、そこで、いつもであれば怒号と共に弾丸を飛ばす人物が、眉間に皺を寄せながら黙っていることに気付く。 気付けば黙っていることもできず、八戒は自分達のリーダー――金髪の美丈夫に対して視線を移した。 「どうしました?三蔵。なにか気になることでも?」 「……気にいらねぇな」 「まぁ、確かに面倒ではありますけど。いつもと対して変わりませんよ?」 『兵器の完全なる抹消』とは『その存在を知りえた人物の殲滅』とイコールだ。 だから、変則的ではあるが、普段の任務とそこまでの差異はない。 寧ろ、難易度で言えば、普段のS級任務の方が断然高い。 そう考えての八戒の発言だったが、三蔵はそれに対して「だからだ」と短く告げた。 「任務の内容云々じゃねぇ。わざわざ特殊部隊であるところのオレ達がヘリで出張る必要性がねぇんだよ。 どっかの馬鹿が言ったように、外部との接触を絶ったところで潜入班がまるごと暗殺する方がよほど合理的だ。 支部ってくらいだから、それほどデカイ規模でもねぇんだろう」 「ええ。……まぁ、精々が百人規模でしょうね。確かに、そう考えると少し妙ですが……」 あくまで、それは『少し妙』程度で。 こんな風に、ワケも分からず任務に借り出されることの少なくない身としては、どうでも良いことではないだろうか、と思う。 自分達にとって大切なのは、『任務達成』。この一言に尽きる。 「ま、考えててもしょうがないっしょ?あんま考え込むとハゲんぞ、三蔵。あ、もうハゲてるか」 「……そうか。そんなに、いますぐ撃ち殺されてぇかっ!」 シリアスな雰囲気もなんのその、刹那的な笑いにその身を委ねて、彼等は飛ぶ。 目的地で待ち受けるものが、自分達の予想を遥かに超えるものだとは、思いもせずに。 ......to be continued
|