ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる。 Phantom Magician Special 2 「――っていうね、そりゃあもう馬鹿げた事件があったんだよ」 「……それは大変だったね。女の子を無理矢理押し倒すなんて、男として最低だ」 整った柳眉を痛ましげに寄せた青年は、「大丈夫?」と優しくあたしを見つめた。 眼福である。 「ありがとう、ケー。いまだに思い出すと耳がざわざわするけど平気」 「……そう?でも、もし逢ったら、しっかりと指導しておこうかな」 「いやいやいや!シリウス死んじゃうからそれは止めてあげて下さいお願いします」 「くす。そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」 フリットウィック先生が生徒の魔法で昏倒し、そのせいでぽっかり予定の空いたうららかな午後。 あたしは、あの不思議部屋の謎を解くべくホグワーツ内を徘徊し、そこで麗しの美青年ケーに声をかけられた。 間違ってもナンパではないが、 自分の秘密(性別とか、迷子癖とか、まぁ色々)を知っている相手との会話はこっちも気が楽なので、 気づけば空き部屋で優雅なお茶会が開始されていた。 何度でも言うが、眼福である。 件のシリウスは……うん。美形なんだけどね。 なんていうか、迫力がありすぎる上に人として残念だから、遠くの方から見ていたい、みたいな? あんな至近距離で見たくはなかった。しかも押し倒された状態で! ……あたし、ちゃんと男に見えてるんだよねぇ? なんでアイツ男押し倒してんの? 生粋の女好きっていうかスケコマシだと思ってたんだけど。 条件反射?条件反射かオイ! 男でも女でもとりあえず押し倒しとけみたいな!? じ ん る い の て き っ ! 「……いや、条件反射は条件反射でも、 あれに男を押し倒す趣味はないと思うけど」 「?ケー、今なにか言った?」 「いや?風の音じゃないかな」 「??」 確かにケーのイケメンボイスが聞こえた気がしたのだが、本人がそう言うのならそうなのだろう。 と、そこで、ふと、ホグワーツの守護者だとかいう存在だったら、 あたしのようなホグワーツ新参者には分からない事件の発端が分かるのではないかと気付く。 だったら善は急げ、とばかりにその場で、質問をする子どもの如く挙手をした。 「はい!」 「では、さん、どうぞ?」 すると、にこやかに指された。 案外ノリの良いケーである。 「ケーだったら分かるかなーと思うんだけど」 「なにかな?」 「あの部屋ってなんなの?っていうか、どこにあるの??」 思いだすのは、隠し部屋に喰われた時と、吐き出された時のこと。 そう、文字通り、だ。 あの部屋は生き物のように唐突に、突然に、人様をぱっくり飲み込んでくれやがったのである。 最初は足元に落とし穴でもあったのかと思ったが、あれは違う。 周囲が突然暗くなり、シリウスに襲いかかったのだ。 まぁ、普通人間だったら手を差し伸べるよね、って状況だったと思う。 で、出る時も同じく唐突。 汚いものを吐き出すかのようにぞんざいにぺっと正面玄関に放り出されたのである。 そのせいでまたもやシリウスに押し倒され、おまけにその現場をリーマスに目撃されるというおまけつき。 ……あ、思い出したら頭くらくらしてきた。 未だかつて聞いたことのないひっくーい声で笑顔もなく、 『へぇ。シリウスもそういう趣味が』 って言ったあの表情! シリウスと二人で、音を立てて血の気が引いたね。 軽蔑じゃなくて侮蔑の視線って初めて見た、あたし。 あの後、シリウス、慌ててスタスタ去ってくリーマス追いかけてたけど、一体どうなったんだろう。 あんな風に不機嫌なリーマスの怒りに晒されるとか、想像するだけで怖いんだけど。 ……あれ? でも、リーマスの視線ずっとシリウスで、あたしの方は…… 「」 と、あたしの思考を遮るように美声が響く。 思わず、その声にいつの間にか俯いていた顔を上げると、蕩ける様な笑みが目の前にあった。 「あの部屋は特別製なんだよ」 人に質問しておいて、思考が遙か彼方に飛んで行ったあたしだったが、 どうも人の考えが読めるらしいケーはうんうん、と小さく頷いたり、へぇと感心して見せたりした後、 こんな風にあっさりと、話を軌道修正した。ツワモノである。 年を食うと、皆こんな風になるのだろうか。 ダンブルドアとかダンブルドアとかダンブルドアとかみたいに。 その言葉に、今まで考えていたことは綺麗さっぱり忘れて、ケーを見つめた。 (イケメンボイスって聞いてるだけで麻薬みたいに思考を麻痺させると思うの、あたし) そして、あたしが見ている目の前で、形の良い唇が弧を描く。 「特別製?」 「そう。あれはね、みたいに迷子になる子を助けるためにある部屋なんだ」 「……は?」 が、思いもよらない解答に、思わず目が点になった。 迷子になる子を助けるためにある部屋?? 「ってなに?」 「つまりね、ホグワーツはなにしろ広い上に、構造が入り組んでいる。 そのせいで、1年生なんかは迷子が続出したんだよ。 だから、移動する部屋を作った。 あの部屋は一定時間、生徒が目的地らしい場所に辿り着かなかった場合に現れて、 その生徒を正面玄関まで送り届けるためにあるんだ」 「……はぁっ!?なにそれ!?」 「つまりは、ホグワーツの親切設計、だね」 マジでか!? ああ、でも確かに結構長いこと彷徨ってたし、 その後シリウスとの追いかけっこでもそれなりの時間かかってたような……? と納得しようとしたあたしだったが。 「あれ?じゃあ、なんでシリウスが先に喰われたんだ??」 彷徨ってたのはあたしだけのはずで。 そうなったら、真っ先に喰われるのは、やっぱりあたしのはずで。 けれど、そんなあたしの言葉に、ケーは爽やかな笑みを見せた。 「それはね、君より先にどこかの部屋を出たブラックが、 君の姿を見つけて、糞爆弾を投げるべくストーカーをしていたからだよ」 「……それはつまり?」 「まぁ、の迷子のとばっちり、かな?」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「ということは」 「自業自得ってこと」 優雅なティータイム。 締めくくりは、美青年の艶やかな笑みと辛辣な言葉だった。 迷子にも同様です。 ―作者のつぶやき♪― はい、というワケで蛇足です。 蛇の足です。書かなくても良い、ってか書かない方が良かったな、という蛇足です。 でも、うん。あの部屋の秘密をね、颯さんに言われた後、そんな素敵設定明かさずしてどうする!? ってなっちゃったんですよ。 ちなみに、この後、さんの為だけに隠し部屋の設定が変わるそうです。 もう少し一定時間を長めに☆ 本当に、颯さん素敵過ぎ!癒しをありがとう!! Special Thanks 竹井 颯サマ ← |