持ちつ持たれつって知ってるよね? Butterfly Effect、30 なんて切ない結果なんだ。 ……ああ、いや。グリフィンドールが勝ったというのは、個人的には嬉しいことなんだけれども。 ハリーの大活躍によって、初のクィディッチ観戦が、観に行ったにも関わらずできなかった、ということで、 私は先生方と離れた後、平常心を装いながらも、内心結構凹んでいた。 それもこれも、全てはクィレル先生のせいなのだけれど。 なんで、あんな風に変な探りを入れられなければならないのか。 私が一体なにをしたっていうんですか?ちょっと。 まぁ、この場合はもしかしたら、さんに対する興味関心の飛び火、という可能性が一番ありそうだけれども。 「何やったんだろう……さん」 そこはかとなく、親友が過去ホグワーツにいた時のことが心配になっていると、 噂をすればなんとやらで、 「?呼んだ??」 「!」 背後から黒髪の美少女が話しかけてきた。 しかも、その後ろには、これまた目がチカチカしそうなほどの麗しい美青年を伴って。 「こんにちは。ミス 」 「ご無沙汰しています。レギュラスさん」 優雅な挨拶に、咄嗟の営業スマイルで応じると、にこり、とレギュラスさんは微笑んだ。 幼い姿になったことで、視力が大幅に向上している私に対して、 非常に有効的な破壊力である。 (さらり、と肩にかかった襟足まで優美ってどういうこと?) まさかの人物のご登場に、私は説明を求めるべく、親友へ視線を向ける。 すると、彼女曰く、クィディッチは数少ない外部の人間が入れる日で、 レギュラスさんはわざわざ被後見人である私の様子を見に来てくれた、ということらしい。 で、慌ててお礼を言うと、 「後見人としては、当然のことですよ。 もちろん、この学校の理事でなければ、少し難しかったかもしれませんが」 と、なんでもないことのようにあっさりと返された。 だが、どう考えても理事なんてものまでやってる、 この有能感あふれる人が、暇をしているわけはない。 つまりは、私のために寸暇を惜しんでわざわざ来てくださった、ということで。 嬉しい反面、ひたすらに恐縮するしかない。 と、私がくよくよ気に病んでいるのが分かったのだろう、 そこでレギュラスさんはそっと私の耳元に口を寄せると、 「……というのは建前で、これにかこつけて先輩とお茶をしたい、というのもあります」 と、真面目な調子で軽い茶目っ気を覗かせた。 外見どころか、中身もイケメンすぎるんだけど、どうしよう。 レギュラスファンクラブ作るべき?いや、なんかすでにありそうな気もするけど。 とりあえず、目の前のイケメンの希望を叶えるべく、 私はにこやかに親友を捕獲するのだった。 そして、クィディッチ競技場の裏手。 生徒が城に向かう群れも、外部の人が校門へ向かう群れもスルーし、 私たちは森にほど近い場所でお茶をすることにした。 で、私が見ている前で、二人は軽やかに杖をふるい、 さっきまで微妙に土に汚れた雪やら、枯れた草やらしかなかった場所には、 今、青々とした素敵な芝生と瀟洒なテーブルセット、 香しい香り漂うティーセットが出現していた。 しかも、私たちの周囲だけ凍えるような寒さのない、快適空間になっている。 なんていうか、これぞ魔法!って感じで、羨ましい限りです。はい。 で、三人でテーブルを囲んで和やか?にお茶が始まった。 繊細なカップを手に取って、それぞれが豊かな香りを楽しむ。 一口、縁に口をつけたさんが、テーブルの上を見て、ふわんと目尻を緩ませた。 「わぁー!これあたしが好きだった奴!レギュ覚えててくれたの!?」 「ええ。もちろんです」 「これ、オレンジピールが入ってて美味しいんだよー。ぐりも食べて食べて!」 「あ、うん。ありがとう……」 正直、自分のお邪魔虫感が凄かったけれども。 レギュラスさんのさんを見る、優し気な表情といったら! なんていうか、仲の良かった先輩後輩って感じじゃないんだけど。 あらゆることを許容してくれそうな雰囲気ですよ?レギュラスさん。 見た目もそうだけど、あれ?どっちが年上?? 「学校には慣れましたか?寮は地下の割には過ごしやすかったはずですが」 「はい、おかげさまで、なんとか過ごせています」 「ぐりさんはねー。スリザリン生に超可愛がられてるんだよ! その髪だって、あれでしょ?パンジーちゃんでしょ??超可愛い!」 「あはは、ありがとう。でも、今日のはパンジーちゃんじゃなくて、 ザビニ君作だよ?」 「ザビニ君?……残念ながら、知らない家の子ですね。 お二人と同じ学年には確か……マルフォイ家、グリーングラス家、ノット家の子もいましたか。 どの子もそれぞれ優秀だったかと思いますよ」 「え、なに?レギュってば、スリザリン生そんなに把握してるの?」 「まさか。ただ、純血の家の子は、大方親戚ですからね。その関係です」 「なるほど、純血の名家だっけ?なんかどこも金持ちそうな感じー」 「現金が多いかはなんとも言えませんが、どの家も大体別荘や土地を余らせている方ですね。 管理のためにわざわざ泊まりに行ったり、人を雇ったりしているはずですよ」 「そうなんだ?大変だねぇ。名家っていうのも。ね、ぐりさん?」 「そうだね。本当に」 「いえ。それほどでもありませんし、やりがいはありますよ?」 穏やかかつ和やかな空気が二人の間に満ちる……。 しかし、ちょいちょい二人が私に気をつかって話しかけてくれるのが、また居たたまれないな。 絶対二人だけの方が会話が弾む奴だ、これ。 これはあれだろう。ちょいちょいと近況報告をした後は、空気を読んで退席すべき案件だ。 優しい二人のことなので、用事を思い出した、とでも言っておけば、 そこまで強く引き留めないだろう。 ついでに、後は若いお二人で〜風にお茶会の続行を促すだけで良い。 よし、それが良い。そうしよう! とりあえずの方針を固めて、私は空気が悪くならないよう会話を続けながら、 引き際を一生懸命探る。 がしかし、である。 もちろん、世の中には想定外の乱入者という者はいるわけで。 「なにしてるんだ?お前ら」 どういう訳だか、人気がない場所を選んだにも関わらず、そこにブラック(兄)が登場した。 なるほど、こうして見比べてみれば確かに似ている兄弟かもしれない。 醸し出す雰囲気が違いすぎるので、なんだか間違い探しみたいだ。 二人ともイケメンには違いないんだけど。 「見ての通りお茶だけど?」 「シリウスこそ、こんなところで何してんの?あ、分かった。サボり?」 「阿呆。立派にホグワーツの警備を、今まさにしてるんだろうが」 聞けば、競技場の警備をした後、周辺をパトロールしていたのだそうな。 なるほど、立派なお仕事である。 さんの呟きに内心すごく納得したのが申し訳ない。 「で?不審者か不審物でもあったのかい?」 「いいや。敢えて言うなら、変な場所でくつろいでるお前らだけだな」 まさか、パトロールしているところで身内に遭遇するとは思っていなかったのだろう、 シリウスさんの口調や表情は呆れの色が強い。 仕事の邪魔をしたのなら謝らないといけないだろうか、と腰を浮かせかけた私だったが、 次の瞬間、自分の行動を深く後悔する羽目になる。 というのも、 「美味そうだな。少し混ぜろ」 と、傍若無人そのものな台詞を言いながら、シリウスさんは私から椅子を奪うと、 ひょいっと、まるで猫でも扱っているような気軽さで、 そのまま私を膝に乗せてしまったからだ。 「「!」」 「〜〜〜〜〜〜っ!!?」 で、そのまま何事もないかのように、シリウスさんは目の前のアフタヌーンセットから、 サンドイッチやらなにやらをパクつきだす。 私はといえば、同じぱくぱくでも、と金魚のように声もなく口を開閉するばかりだ。 いや、貴方なにしてくれてるんですか!? 確かに、ちびっ子なら、膝に乗せるのもありでしょう。 他に席もないし!ファミレスでよく見る奴だし! が、見た目はちびっ子でも、中身は大人な、年齢詐称女としては、 こんなことをされると羞恥で顔面が大変なことになってしまうのですが! が、抗議の声は突然すぎて出てこず。 驚愕の眼差しをすぐ上のご尊顔に向けることしかできなかった。 「うん?なんだ、これ食べたかったのか??」 ち が う っ! が、あまりの至近距離でぺろりと自分の指を舐めるシリウスさんを直視してしまい、 私は思わず、無言でばっと顔を背けてしまった。 かぁあああああぁあぁっ!と全身の血液が顔に集中した気がする。 「うっわ……えっろ……流石、歩く18禁指定生物」 「我が兄ながら、いちいち仕草が下品ですね……」 「ぐりさんがあんなに赤面するの、滅多にないわ……」 「大変可愛らしいですけどね……」 近い近い近い近い近い!! 幾らイケメンに耐性があろうと、こんな近距離で見つめ合える訳がない! 私のパーソナルスペースはどこに!? ソーシャルなディスタンスを保ちたいんですけど! 思わず、縋るような表情で親友に助けを求めた私だったが、 なんと、あっちはあっちで大変な光景が繰り広げられていた。 「……先輩もこちらに来てみますか?」 「……レギュの膝抱っこだと?断るという選択肢があるだろうか。いやない!」 いや、なんで嬉々としてレギュラスさんの膝の上に乗ってるかな!? 待って待って!この歳で恥ずかしいだとか、見た目が犯罪だとか、 言おうと思ってた文句がそれでほぼ封殺されちゃうんですけど!? 美しい壮年の男性と可愛らしい美少女の組み合わせは、見ていて眼福ですけれども! 多分、見た目ちびっ子でも、やっていいことと悪いことがあると思うんですよ、私! 「先輩、これ召し上がりますか?美味しいですよ」 「食べる食べる!あーん☆なんちゃっ……ふぇ!?」 「如何ですか?」 「ふぉいはえふ、ふぁいほうへふっ(とりあえず、最高ですっ)」 どうしよう、蜜月かな?ってくらい親友が後見人とイチャイチャしだした……っ 如何にもマナー完璧そうなレギュラスさんが手ずから餌付けしてるとか、 ギャップが凄くて、キュンキュンするっ! さんはさんで、にこにこでレギュラスさんにお返しのクッキー差し出すとか、天使かな? めちゃくちゃ可愛いっていうか、これだけでCM作れそうなんですけど。 衝撃映像に、思考が完全に現実逃避をし始めたが、 しかし忘れてはいけないのは、自分の現在位置である。 間抜けのようにぼけっと二人を見つめていたのが悪かったようで、 『あれ』がやりたいのかと勘違いしたシリウスさんが、おもむろに口元にクッキーを寄こしてきた。 「!!!」 「ほら」 いや、『ほら』じゃないし! 食べろと!?シリウスさんがつまんで差し出してるこのチョコチップクッキーを、 さんみたいに『あーん☆』しろと!? 無理無理無理無理無理! どこのバカップルなんですか!?絶対やりませんよ、そんな恥ずかしいこと! 拒否を口にしたら、それこそクッキーをねじ込まれそうなので、無言で首を振る。 が、あからさまな拒絶にシリウスさんは気分を害したらしく、 眉間に皺を寄せると、私の唇にクッキーを押しつけ出した。 「っっっ!」 口に入っていないとはいえ、そんなところに触れたものをトレーに戻すわけにはいかない。 私は結局、飢えた子供のように、そのクッキーをシリウスさんからひったくった。 「シリ……っ!」 「ほら」 だが、シリウスさんはめげない。 変なところで負けず嫌いが発動したらしく、もう一度クッキーを押しつけてくる。 で、それを奪う私、またクッキーを口元に運ぶシリウスさん……と、 なんとも馬鹿馬鹿しい攻防が繰り返される。 (なにやってんの、この人!?) 私もいい加減止めたいのだが、なにしろ腰はシリウスさんの手に抑えられているし、 その手を外そうにも、両手はクッキーで塞がれているしで、 どうにもこうにも身動きが取れなかったのだ。 そして、そんなことを繰り返していれば、当然、 ただでさえ幼児化のせいでちんちくりんな私の手は、 すぐにクッキーでいっぱいになり。 もう1枚だって乗らないという状態になってしまった。 「ほら、いい加減観念しろ?」 勝ち誇ったような満面の笑みのイケメンが、トドメとばかりにクッキーを掴んだ! と、そこに。 「なにをしているのかな……?そこの二人」 圧倒的な負のオーラを放つ硬い声が聞こえた。 「「っっっっ!?」」 油の切れたブリキ人形のように、シリウスさんは声の主の方へと顔を向ける。 そこには、本来であれば穏やかな光を湛えているであろう、鳶色の瞳が一対。 「り、リーマス……ななな、なんでここにっ!?」 「待て、リーマス誤解だっ俺はただ、ちょっと甘いもんを食わせてやろうと……!」 心に疚しいところのある二人が、必死に口を開くが、 応じるルーピン先生は笑顔どころか、まさかの無表情である。 私の目が節穴でなければ、なんとブリザードを背負っていらっしゃった。 未だかつて見たことがないほどのマジ怒りである。 「私が先に質問をしていたはずだけれど?」 「「!!」」 サク、サク、と雪を踏みしめる音が、まるで処刑までのカウントダウンであるかのように、 シリウスさんとさんが真っ青な顔で震えだす。 私はなにしろそのシリウスさんの膝にいるので、 振動がもろに来て、危うくクッキーを落とすところだった。 人間、自分以上に取り乱す人間がいれば、不思議と冷静になるもので、 私はそーっと、クッキーを自分の皿に避難させ、 さらにそぉおぉーっと、膝から降りることに成功する。 で、じりじりとその恐ろしい空間から距離を取ろうとしていたら、 震える親友と目が合った。 「…………」 「…………」 「…………」 「……へるぷ」 「……そーりー」 私は、苦笑するレギュラスさんの膝から、速やかに彼女が回収されたのを見届けると、 一目散にその場に背を向けて走り出した。 心の中では、彼女の今後を悟り、それはもう厳かに合掌する。 残念ながら、耳を塞ぐのが間に合わずに、その場を満たした複数の悲鳴は、 いつまでも私の頭の中に反響するのだった。 助けてくれなかったのに、助けてもらえると思っちゃダメだよ? ......to be continued
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