所属で人を判断していた。
それは、ある意味では間違っていないと思う。





Butterfly Effect、27





「……っ……う……」


何度目になるか分からない、冷たい床の感触に、思わずうめき声が漏れる。
咄嗟に顔を背けたので、鼻が地面に直撃、とはならなかったが、 受け身も取れずにぶつけた頬は、ずきずきと痛みを訴えていた。

全く自由にならない足に、魔法使いになっても不自由は感じるんだな、とぼんやりと思う。
いや、でもこの今の状況は、魔法使いになったからこそ、なのかもしれないが。

アルジー大叔父さんに落とされなかったら。
魔法に目覚めさえしなければ。
マルフォイと出会うこともなかったんだから。

数十分前まで自分を嘲笑っていた、細身の少年を思い浮かべる。
今の自分の姿を見れば、彼はきっと、さも面白いとばかりに笑い転げるのだろう。
そう考えると、魔力の目覚めを両手離しで喜んでくれた家族には悪いが、スクイブのままだった方が良い気さえしてくる。

今日は、夕食を食べた後、転んだ拍子にペットのトレバーが逃げ出してしまったので、 それを探していたところで、マルフォイ達三人組と出会ってしまった。
もちろん、たった一人で、だ。
自分はなにしろ行動が遅いので、教室を移動する時など、気が付けば一人取り残されていることが多い。
ハリーとロンのように、いつも一緒にいる相手がいれば別なのだろうが、 ぐずぐずしている自分に付き合ってくれるような子供は、生憎どこにもいなかった。


「おや。奇遇じゃないか、ロングボトム。こんなところでなにをしているんだい?
地面に這いつくばっているところを見ると、またあのばあさんが寄こした馬鹿玉でも落としたのか?」
「…………っ」


ツンと尖った顎をこちらに向けて、あざける様にマルフォイは笑った。
馬鹿玉、というのは持ち主が忘れていることがあると赤く光って教えてくれる『思い出し玉』のことだ。
前にそれでマルフォイも痛い目を見たはずなのに、そんなことは忘れてしまったらしい。

家族がくれた物でもあるのに、それを馬鹿にしてくるマルフォイに、 僕は自分の顔が怒りで真っ赤になったことを悟った。
だがしかし、ハリーやロンのように、僕は咄嗟に言い返すことができない。
言いたいことはもちろんある。
でも、それが形に出来るかは、また別の問題で。
必死に言いつのろうとすればするほど、喉の奥で言葉が絡まって出てこなくなる。


「ははっ!真っ赤になってるぜ」
「腹でも壊したんじゃないのか!」


クラッブとゴイルも、僕と大して変わらないくらい口が回らないくせに、 マルフォイの勢いに便乗して、ゲラゲラと僕を指さして笑いだす。
自分たちより弱い僕を、貶したくて仕方がないのだ。

本当は、こんな連中放っておけばいい、好きに言わせておけばいいとわかっているけれど。
でも。


「家族そろってぶくぶく肥えてるからなぁ?
腹を壊すとしたら、食べ過ぎが原因なんじゃないか?」


家族を悪く言われて、黙ってなんかいられないっ


「そ、そういうそっちはっ!」
「うん?」
「や、痩せギスじゃないかっどうせ、好き嫌いばっかりなんだろうっ!?」


本当は贅沢で我がままで――…ということも言ってしまいたかったけれど、 僕の口から出てきたのは、精々その十分の一くらいのものだ。
だが、僕が反論してきたのが余程気に入らなかったのだろう、 マルフォイは不愉快そうに表情を歪め、僕の方に杖を向けた。


「僕が好き嫌い?はっ、馬鹿馬鹿しい。
僕がそんな子供っぽいことをするはずが――…」

「ドラコの嫌いな物っていうとあれか?」
「ああ、キノコだよな。最近食べなくなったもんな。なんでだ?」
「確か、がドラコ見て『キノコ』って呟いたからじゃなかったか?」
「へぇー。なんで、キノコって呼ばれたらキノコを食べなくなるんだ?」
「俺が知るかよ!」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」


マルフォイがキノコ……?
キノコって、あのキノコだよね……。
僕の知る限り、マルフォイにキノコ要素はまるでないんだけど、 なんではマルフォイをキノコなんて呼ぶんだろう?白いから??
っていうか、そのせいで食べられなくなるとか、マルフォイ繊細すぎじゃない??

思わず、色白の彼をじっと凝視してしまったのは、不可効力だと思う。
がしかし、当然見られた方はといえば、そんな視線は不愉快以外の何物でもなく。
「そういえば、新しい呪いを覚えたんだったっ!!」ととても苦しい言い訳をしつつ、 マルフォイは僕を呪って動けなくし、逃げるようにその場をあとにしたのだった。







取り残された僕には、誰かに見つけてもらうか、呪いが解けるのを待つか、 それとも自力でどうにかするか、の三択しかなかった。
正直、呪いが解けるのを待つのは望み薄なので、実質二択なのだけれど。
ただ、この誰もいない廊下で、来るか分からない助けを待つ、なんていうのは、 僕のような怖がりには中々難しい。
フィルチやらスネイプ先生やらに見つかったら、と思うと、 軽くパニックを起こしそうな気さえする。
(え、普通怒られるならマルフォイだろうって??)
(そうだよね。魔法禁止の廊下で他の生徒に呪いかけて放置しているんだから、普通はそう思うよね)
(でも、フィルチとスネイプ先生にそんな『普通』が通じるワケないじゃないか)


なので、僕は不自由な体を駆使して、寮の談話室に向かってぴょんぴょんと向かっていた。
当然、運動神経が良くもないこともあり、今のように何度も転んでいるけれど。
こんな調子じゃ、辿り着く頃には、消灯時間になっちゃいそうだ。

と、そんな風に冷たい床の上で頭を巡らせていたその時、


「!」


廊下の一番奥を、誰かが横切るのが見えた。


「待っ……!待って!」


ほとんど無我夢中で、その人影の消えていった先に声を張り上げる。
ただ、咄嗟のことだったので、しんと静まり返った廊下でも、聞き取れるかどうかという微妙な声だった。
相手は自分に気づかなかったくらいなので、もしかしたら、空耳とでも思うかもしれない。

それでも、談話室に戻りたい一心で、再度声を上げようとした時、 ひょこっと、小さな人影が戻って来てくれたのが視界に入る。
その人影は、僕の姿を認めると、パタパタと小走りでこっちに近づいてきてくれた。


「どうしましたかっ?」


そして、僕を案じるかのような声をかけてきたその女の子のタイの色を見て、 お礼を言おうとした舌がしびれたように動かなくなった。


「大丈夫ですか?」


ついで、その子の肌が少し珍しい色合いだったことで、 僕は彼女の素性に気づいた。


スリザリンの編入生。


「う、あ……っ」


咄嗟に、マルフォイを連想してしまい、顔が青ざめる。
の友人である彼女が、マルフォイのような性格だとは思っていない。
思っていないが、それでも親しそうにしていたのも事実で。
マルフォイの奴が純血の名家だから、スリザリンの連中は皆マルフォイに迎合する雰囲気もあって。
僕は、なんて相手に助けを求めたんだろう、と自分の迂闊さを呪いたくなった。

が、僕がまともな返答をしないことで、は気分を害したらしい。
眉根を寄せて、少し不機嫌そうに「しゃべれないんですか?」と呟く。
非難されている気がして、僕は慌てて首を横に振るが、 何しろ床に転がっているので、なんだか芋虫が体をくねらせるみたいになってしまった。


「…………」


それに対して彼女はすっと目を細める。

嗚呼、どうしよう!
見苦しい!とか言われるかなっ!?
それとも、マルフォイみたいに笑われるっ!?

男子に笑われるのももちろんダメージは受けるが、 可愛らしい女の子に笑われたり、貶されたりするのも、中々辛いものがある。
僕は、もうどうしたら良いかわからなくて、 「ごめんなさいっごめんなさいっ」と涙声で少女に謝った。
もちろん、そんな風に謝られた方が「私ってそんなに怖い?」とショックを受けていることなんて気づかずに。

やがて、怯える僕に、呆れたような溜息を吐きながら、 彼女は思わぬ行動を取った。


「よいしょっと!」
「うわっ!?」


その華奢な体で、反動をつけながら、僕を仰向けにひっくり返したのである。


「ふー……さて、目があったところでもう一度聞きますけど、大丈夫ですか?」
「う、え?あ、う。うん……」
「ああ、ちょっと頬っぺたが赤くなってますね。床にぶつけたんですか?」
「う、うん……」
「念のために訊きますけど、立てます?」
「ううん……」


僕が目を白黒させている間に、彼女はまるで医者のように矢継ぎ早の質問を浴びせてくる。
なので、僕はほとんど反射的にそれに答える羽目に陥っていた。
そして、僕の不自然な姿に、彼女は「足縛りの呪いですか?」と尋ねてくる。
その言葉に、確かマルフォイが言っていたのはそんなものだった気がするな、と思ったので、頷いた。


……あったなー。そんなイベント
「え?」
「いえ、こっちの話です。それで、申し訳ないんですけど、私、その呪いどうにもできないんですよ」
「っっ!!」


助けてくれるのかと思いきや、見捨てるような言葉をかけられ、 目の前が真っ暗になる。
希望を与えて、叩き落すなんて、マルフォイ以上にタチが悪い。
悔しくて、悔しくて、僕は目に涙が浮かんでくるのをぐっとこらえて、口を開いた。


「き、みはっ……」
「え?」
「君は、スリザリン、だから……っ」


だから、マルフォイの不興を買わない。
だから、困っている人を見捨てられる。
だから、僕を助けてなんかくれない。

そんな、言葉にならない非難が、溢れそうになる。

そして、そんな僕に。


「…………ふぅ」


彼女は、悲しそうに溜息を吐いた。


さて……どうしたものかな。っていうか、想像以上に面倒くさい。
投げ出したい。力の限りスルーしたい……



ぶつぶつ、と小柄な少女は小さな声で何事か呟くと、 おもむろに僕の傍にストン、としゃがみ込む。


「ひっ!」
「……流石に、そこまで怯えられると傷つくんですが」


困ったように眉根を寄せながら、しかし、その実、全く困っていなさそうな軽い調子で、 少女は口を開いた。


「質問です」
「……は?」
「難しいことはありません。『はい』か『いいえ』で素直に答えればいいだけです」


まるで雑談のように問いかけた彼女の言葉は、 しかし、見えない棘のようにその後も僕の心に刺さり続けた。


「私は貴方と二人で話したことががありますか?」
「え?」
「私は貴方と二人で話したことががありますか?と訊いています」
「う、な、ないよ……」


朝食の時に近くの席になったことはある。
だから、挨拶くらいはしたことがあるし、二言三言なら、話したこともあるかもしれない。
でも、二人で話した、となると、寮も違う彼女とはないと思う。

おずおずと、自信なさげに答えた僕に、彼女はこっくりと「そうですね」と頷いた。


「じゃあ、私は貴方を叩いたことがありますか?」
「!?な、なに言って……」
「私は貴方を叩いたことがありますか?」
「な、ない……」
「私は貴方を蹴ったことがありますか?」
「ないよっ」
「それなら、私は貴方に悪口を言ったことがあるんでしょうか?」
「そんなの、知らないよ……っ」


意図の読めない質問に、僕の困惑は深まるばかりだ。
けれど、彼女は当たり前のような表情カオをして、こう続けた。



「だったら、どうして、貴方は私が貴方を助けないことを当然だと思っているんです?」
「っ!」
「私がスリザリンだから?」



妙に胸が痛い。
それは多分、彼女の言葉が本当のことだから。
本当で、でもそれは彼女に失礼だと、分かってしまっているから。

でも、僕はその痛みを誤魔化したくて「でもっ」と声を上げる。


「で、でもっ、君、どうにもできないって……っ」
「ええ。私にはどうにもできませんよ。そんな呪いの解き方、習ってませんから。
でも、助けないなんて言っていません」
「!?」


「まぁ、『助けて』とも言われていませんけどね」と、肩を竦める
そのことに、僕も虚を突かれた気分になる。

そうだ。
僕は、彼女が僕を助けるふりをして助けないと思った。
彼女がスリザリンだから。
当然、僕を助けたりしないだろうって。
だから、助けを求められなかった。

でも、彼女にしてみれば、それは酷い話だ。

彼女は、僕の声にここまで来てくれたのに。
僕を案じて、声をかけてくれたのに。
お願いもしないで、助けてもらおうなんて。
しかも、助けなかったら恨まれるなんて。
そんなの、理不尽以外のなにものでもない。


「たすけて……くれるの?」
「助けてほしいんですか?」


淡々と、彼女は怒っているでも悲しんでいるのでもなく、僕に問う。


「……ぼ、ぼく」


僕は、コミュニケーションが下手くそだ。
元々、一人っ子な上に、周囲を大人に囲まれていたため、 自分がどもろうが、つっかえようが、大人は根気よく話を聞いてくれたから気づかなかったが、 子供同士ではそうもいかない。
口ごもれば、「何を言っているのか分からない」と言われ。
行動が遅れれば「遅い」と怒鳴られ。
気づけば僕は、自分の考えを話すことが苦手になっていた。

でも、目の前の彼女は、僕に問う。
僕の考えを、自分の口で言わせようとする。
僕は、結局散々視線を彷徨わせ、口ごもりながら。
数分後、蚊の鳴くような声で、彼女に謝っていた。


「ごめん……。助けて、ください」


すると、彼女はそれはそれは優しく、可愛らしく、それでいて晴れやかに笑った。


「はい。良いですよ」







話を聞いてみれば、は僕のために魔法の紙のような物を飛ばそうとしてくれていたらしい。
魔法の紙とは、魔法省の中で使われているフクロウ代わりの存在で、 その紙にメッセージを書いて宛先を指定すると、そこまで飛んで行ってくれる、という物だそうだ。
(まぁ、建物の中をフクロウが飛び回っているって、普通に迷惑だもんね)


「な、なんで、そんなの、持っているの?」
「それはもちろん、寮の違う友達と連絡を取るためですよ」


サラサラと現在地と、僕が動けないでいるので助けてほしい、という旨を紙に書くと、 彼女はそれを折って、三角形のような形にした。


「そんなに飛ぶタイプの紙飛行機は折れませんけど。まぁ、これで十分でしょう」


そして、ひょいっとそれを放ると、折られた紙(紙飛行機って奴?)は、 ふわりと風もないのに飛んで行った。


「もうグリフィンドールの談話室はそんなに遠くないですし、その内助けに来てくれますよ」


座り込んでいたため、少し汚れた服を払い、彼女は立ち上がった。
いかにもそのままいなくなってしまいそうな彼女に、慌てて声をかける。


「え、あ、待って……!」
「はい?」
「あの、一緒にいて……くれない?」


できるだけ低姿勢で(とはいっても、もうこれ以上低い姿勢は取れないけど)、 縋るようににお願いをする。
と、彼女はほんの少し考えた後、緩やかに首を振ってそれを拒否した。


「心細いのは分かりますけど、私、いじめの犯人にされたくないですから」
「っ!そ、そんなの……っぼく、話すよっっ」
「話す時間があれば良いですけどね。問答無用で来られたら困ります」
「〜〜〜〜っ」


冷静な彼女の言葉に、上手く否定はできそうになかった。
なにしろ、グリフィンドールの人達って喧嘩っ早いし。
僕だって、彼女がスリザリンってだけで、悪者だと決めつけていたんだから。
グリフィンドールとスリザリンは、犬猿の仲だ。

嗚呼、でも。
じゃあ、どうして君は僕を助けてくれたんだろう?


「それじゃあ、もう戻りますね」


そう言って、今度こそ、は僕に背を向けた。
僕は上手くそっちが見れない体にもどかしさを感じながら、 思わず、といった調子で問いかける。


「なんで、僕を助けてくれたの?」


答えはないかもしれないと思っていた。
声をかけられたから。
目に入ったから。
なんとなく。
そんな風に、本当だったら、明確な理由がある方が珍しい。

でも、予想に反して、彼女は振り向いてくれる。


「私、何人かで寄ってたかっていじめるのとか、大嫌いなんですよ。
スリザリンだろうが、スリザリンじゃなかろうが、ね?」


その凛とした声は、それほど大きかった訳でもないのに、 静かな城には、よく響いた。

やがて、パタパタと軽い足音が、僕から遠ざかっていく。
もうすぐ消灯時間だ。
が無事に寮の談話室に間に合えば良いと願う。
もしこれで、僕も彼女も減点の対象になったりしたら、 彼女には申し訳がなさすぎる。

と、彼女の方にばかり気を取られていた僕は、 足元に近づく人影があったことに、最初気づかなかった。


「……終われフィニート
「!?」


ぼそり、と。
酷く低い声の持ち主が、僕に向かって杖を向けた。
すると、ぱっと周囲が明るくなった途端、 身体がぐったりと弛緩する。

どうやら、無理に固められていた体は、呪文が解かれたことで一気に脱力したらしい。
急に取り戻した自由に、目を白黒させながら、 僕を助けてくれた恩人を見て。


「ひっ」


僕は引きつるような声を上げてしまった。


「…………」


一瞬、あまりに悪い顔色に、スネイプ先生を連想した。
けれど、違くて。
立場を考えれば、ここにいても何の問題もない人だった。

ただ、前に見た時と、あまりに印象が違うので、 僕は恐る恐る、その人に声をかける。


「えっと、シリウス……さん?」
「…………」


ホグワーツの警護をしている、闇払いの美青年。
いつだって、誰より堂々と、快活に、豪快に写真に写っていた人だ。
逢ったことこそなかったけれど、お母さんが命の恩人だとずっとずっと感謝していた相手。
それが、このシリウス=ブラックという人だ。
僕がホグワーツに入学したその年に、警護の目的で同じくやってきた彼に、 心から驚き、喜んだのは、ほんの少し前のこと。
その自信に溢れた姿は、父と同じく憧れでもあった。

でも、今の彼にトレードマークの笑みはない。

それはまるで、気づいてはいけない真実に気づいてしまったかのような。
それでいて、絶望的な状況にいることを知ってしまったような。
そんな悲壮な、顔色だった。

いやでも、もしかしたら体調が良くないのかもしれない。
そうならマダム ポンフリーを呼んでこないと、と、焦る僕だったが、 彼が無言で突き出してきた手の中を見たら、一瞬、そのことが吹き飛んでしまう。


「トレバー!?」
「…………」
「良かった!心配したんだぞ!……あ、シリウスさんが、見つけてくれたんですか?」
「ああ……」


こっちの心配なんて分からないっていう、ぼんやりした目で、トレバーが僕を見上げていた。
僕の大切な相棒は、放浪癖があるらしく、こうしていなくなることがしょっちゅうだ。
(というか、この寒い時期に平気で活動するとか、蛙として間違っていると思う)

城内は猫がいっぱいいるし、こうして無事に手元に戻って来てくれると、 毎度安堵のあまり泣きたい気分になってしまう。
僕は心から喜び、わざわざ届けてくれたシリウスさんに、どもりながらもお礼を言った。







その後、結局、唸る様に「早く寮に戻れ」と言われた僕は、 まろぶようにそこから駆け出し、のメッセージを見て来てくれたハリー達と合流する。
ハリーもロンも僕をとても心配してくれたけれど、 同時に、そのメッセージの送り主がマルフォイで罠だったんじゃないかと疑っていたので、 僕は、全然関係のない子が助けてくれたと、一生懸命説明した。
は名前を書かなかったし、僕に名乗りもしなかったから、 どこの誰かは、暗くてよく分からなかったと、誤魔化しながら。


「ほんと、マルフォイはロクなことしないよな」
「マクゴナガル先生に言うかい?付き添うよ」
「……これ以上面倒はイヤだ」


快く僕に付き合ってくれようとした二人だが、 そうすると、のことも話さなきゃいけなくなりそうなので、 僕は咄嗟に口を噤んだ。
ただ、それはロンからするととんでもない意気地なしに見えてしまったらしい。
勇気を出して、マルフォイを告発をすべきだと声高に話す。

ただ、僕は関わりたくなんかなさそうなのに、僕を助けてくれようとした少女の意が組みたかった。
たとえ、それでグリフィンドールに似合わないと言われても。
ただ、口ごもる僕が、あまりに情けなく見えたらしく、 ハリーは僕を慰めるように蛙チョコを手渡しながら、肩を叩いてきた。


「マルフォイが十人束になったって君には及ばないよ。
組分け帽子に選ばれて君はグリフィンドールに入ったんだろう?」
「そうそう。マルフォイはどうだい!?腐れスリザリンに入れられたよ」
「……腐れスリザリン」
「そうだよ。君の方がずっと凄いさ」
「……そう、かな」


酷いのはマルフォイであって、スリザリンじゃないかもしれない。
その一言は、勇気が足りなくて、どうしても言えなかった。





ある意味では間違っていることも、今日知った。





......to be continued