他人の不幸は蜜の味とか言った人に文句を言いたい。 Butterfly Effect、22 「…………」 なんてことをやらかしてくれているんだ、この人たちは。 その私の心からの嘆きは、多分一般人には大いに共感が得られることと思う。 騒然としている大広間を、それとなく見回して、 私は心の中で盛大な溜息を吐いていた。 大体、この挨拶の順番がまずおかしいと思う。 シリウスさんに始まり、サラときて、リドル君である。 超絶美形3連発で、闇払いに創始者本人に創始者の末裔? いやいやいや。ないないない。 その大トリが私っていうのは、もはやいじめではないでしょうか? せめて、サラの後だったら良かったのにっ 一応、表向きは唯の編入生(人外の美貌)になっているサラの後であれば、 きっと、地味ーに組み分けになり、誰も大した関心は寄せなかったに違いない。 だが、今まで超ド級のインパクトのある面子の後では、妙な期待が高まってしまうじゃないか。 ただでさえ、何故全校生の前で組み分けする必要が!? と、遠い目になってしまったというのに、この状況では頭がくらくらしてしまう。 せめて、視力がもっと悪ければ、もう少し気分が楽だったのだが、 あいにく、若返った私の視力はAと言わないまでも、そこそこのクリアさになっていた。 すぐに視力調節ができる眼鏡が恋しくて溜まらない。 変な汗は噴き出るし、 指先など、氷もかくやという冷たさだった。 が、今更この状況をどうにもできず、私はまな板の上の鯉の気分で、 マクゴナガル先生に名前を読み上げられるがままに、大きなとんがり帽子を被るのだった。 「…………」 視界が、一瞬にして暗くなる。 早く終われと願う反面、この帽子に頭の中を覗き込まれるのは嫌だな、とも思う。 いやだって、頭の中を覗かれるんですよ? どう考えてもプライバシーの侵害じゃない?? 記憶を読まれるのかなんなのか、魔法に詳しくはないので、なんとも言えないけれど。 流石に今考えていることだけで適性を判断したりは難しいだろう。 (それだったら、初期のネビルがグリフィンドールなのはおかしい) それに、ウィーズリー家の様子からいって、血筋も多少なりとも関係するみたいだし。 頭に触れるか触れないか、というところで判断された子もいる、とのことだったので、 帽子が何をどう判断しているのか謎すぎる……。 が、少なくとも恥ずかしい過去の記憶のあれこれを覗かれるのは、 普通に気分が悪い。 例え清廉潔白な聖女様でも、生きている以上、恥ずかしい過去の一つや二つはあるはずだ。 それが、私のような人間であれば、もう黒歴史の山である。 そんなものを知られた日には、流石に私も心穏やかではいられない。 簡潔に言えば、口封じをしたくなると思う。 と、我ながら、危険思想も甚だしいことをつらつら考えていたが、 帽子は、一向にうんともすんとも言ってはくれなかった。 「?」 あれ?ハリーの時は被ったとたんにペラペラとよくしゃべってた気がするんだけど。 なんで沈黙? いや、頭の中に声が響くとか、冷静に想像すると凄く怖いんですけど。 なにもないと、それはそれで怖いというか。 悩んでいる時だって、「難しい難しい」とかなんか言ってなかったでしょうか? すると、傍目には帽子がただひたすらに悩んでいる状態だったようで、 騒がしかった大広間の人々が、徐々に口を閉ざしていく感じがした。 えっ、そ、そんな、しーんとされると、緊張感が恐ろしいことになるんですけど! 完全に周囲が待ちの姿勢になる前に、帽子さん、さっさと決めてください!! と、私の願いが届いたのか、 『ふーむ……』 ようやく、だんまりを決め込んでいた帽子が口を開いた。 『珍しい。実に、珍しい』 (どうでも良いけど、ガリレオみたいなしゃべり方だなと思った) えっと、異世界人?だからでしょうか? 『おや。ようやく話す気になったようだね。 もちろん、それも珍しいが、私が言ってるのは君のその特性だよ』 はい?特性?? サラたちと違って、私にチート能力はないはずだけれど、 この帽子さんは一体なにを言ってるのだろう。 それとも、私には隠された能力があるとか!? ……ごめんなさい、自分で言ってて「ないわー」ってなりました。 思わずノリ突っ込みをしてしまう私だったが、 そんな私に対して、帽子さんは特になんということもなく、 「君に特別な能力がある訳ではない」とあっさり言った。 ……分かってましたよ?ええ。 心で軽く泣いたのは、気のせいです。きっと。 『君に、特別な能力があるわけではないが……特別な性格はしている』 どこにでもいる唯の根暗ですが? 『いいや、特別だ。ここまで心を閉ざした者は、そうそう見ることがない』 「……はい?」 思わず、声が出る。 『今も、君が話しかけるからこそ、会話が成立しているが、君の心はなにも見えないのだよ。 珍しい。実に珍しい。だが、それほどの秘密主義ならば、向かう先は決まっている』 そして、帽子は叫ぶ。 まだ、今日一度も呼ばれていない、その寮の名前を。 「スリザリン!」 その瞬間、聞こえてきた舌打ちがスネイプ先生の物でないことを祈ることしか、私にはできなかった。 えぇー……。 そっと帽子を頭からどかし、思わず、そのくたびれ果てた姿を見つめる。 グリフィンドールとお願いする間もなく、寮が決定してしまった。 しかも、闇の魔法使いの名門、性格悪い連中の巣窟であるスリザリンに。 一応ずっと浮かべていた笑顔も引きつろうというものである。 思わず、旧知の少女の方を見つめてしまうが、 彼女が私以上に愕然とした表情をして、隣の赤毛少年の首をがっくんがっくん揺すっていることに気づき、 とりあえず、頭が冷静になった。(あれはきっとロンだろう) 最善であるさんと同じ寮にはなれなかった。 スリザリンに行くしかない。 となれば、ここで残念そうなそぶりを見せるのは下策である。 スリザリン生の反感など買っては、この先の生活が危うい。 が、だったらここで得意そうな表情を作るべきかというと、そんなこともない。 そうなれば、逆にグリフィンドール生の反感を買うからだ。 ……面倒くさいな、ここの人たち。 瞬時にそう判断し、私は爽やかな0円スマイルで、 可もなく不可もない平常心を装って、まばらな拍手の中、ささっと壇上から撤収する。 幸い、上に寮の旗がはためいているので、スリザリンのテーブルはすぐに分かった。 事前にマクゴナガル先生に言われていた通り、スリザリンの席の最前列には、 いつの間にか空席が出来ており、私はそこに「失礼します」と冷や汗だらだらのまま座る。 万雷の拍手、という歓迎はされなかったものの、それでも拒絶されていないので良しとしよう。 もちろん、隣にプラチナブロンドの少年が座っていることは、もはや予定調和である。 (うふふふふ、と我ながら胡散臭く微笑んでおいた) と、静かーに着席したこちらと違って、 グリフィンドールの席はきっとお祭り騒ぎだろうと思っていた私だったが、 予想に反して、ざわざわはしているものの、どんちゃん!とはなっていなかった。 多分、リドル君のネームバリューと、サラの冷たい無表情のせいだろう。 まぁ、宿敵のスリザリンの末裔?的な存在が、スリザリンじゃなくて自分たちのところに来るだなんて、 夢にも思わないですよね。 後ろからはリドル君の表情が見えなかったのだが、まぁ、キレていたと思う。 だからこその、タライだろう。きっと。 どこの8時だ〇全員集合!かと思ったけれど。 あ、ちなみに、さっき不気味なマリオネットのごとく吊られていたリドル君は、 そのままの状態でグリフィンドールの席に運ばれて、椅子の上に来た段階で魔法を解除されていた。 (あれ、妙な静けさの原因ってそれかしら?) ぐったり腰かけていた彼に、蘇生呪文をかけたのはきっとサラかさんだろう。 今では元気そうに、さんをがっくんがっくん揺さぶっている。 因果応報って奴だろうか……。 そして、私たちが無事に席にたどり着いたのを見届けた後、 ダンブルドア先生は、まるで何事もなかったかのようにグラスを掲げ、会食を始めるのだった。 「……強心臓すぎるー」 なんて羨ましいんだ。 小市民な私は、すでにHP半分以下ですよ? がしかし、会食が始まったからといって、ゲームのように回復が図れるわけではない。 どころか、 「ちょっと良いか?」 隣のプラチナブロンド君から、許可を取っているようでいて、まるで取っていない問いかけをされ、 私はまだ強制イベントが終わっていないことを嘆いた。 もちろん、内心なんておくびにも出さずに、「はい?」と行儀よくそちらに向き直る。 「君は、あー……」 「=です。よろしくお願いします」 多分、私の名前を聞いていなかったか、覚えていなかったかのどちらかだろう、 どっからどう見てもマルフォイな少年に、私はあっさりと名乗ってあげた。 あの3人の後の私なんて霞んで当然なので、もちろん怒ったりなどしない。 で、ついでとばかりに私はよりよい学生生活を手に入れるため、先制攻撃を仕掛けることにした。 「そちらは、ドラコ=マルフォイ君ですね?初めまして」 これで違っていたら赤っ恥だが、 流石に主要メンバーが遥か後方にいることはないだろう、とあたりをつける。 すると、どうやらビンゴだったらしく、彼はその整った顔いっぱいに驚きを貼り付けた。 ちょっと可愛い。 「そうだが。どうして分かったんだ?君は純血なのか??」 と、絆されそうになったのもつかの間、 はい、スリザリンの予想設問第一位が来ましたー。 ええ。スリザリンに決まった瞬間に、聞かれるだろうと思っていましたよ? なので、私の答えはもちろん決まっている。 「え……マルフォイ家の方は、ご存じない?」 まるで予想外のことに直面したかのように大げさに目を丸くして、 どこか困ったような、儚い微苦笑を浮かべた私。 意識するのは、完全なる被害者、である。 そして、ここが使い時だろう、と私はここで唯一と言っていい切り札を切ることにした。 「そうですか……レギュラスさんはご存じだったんですが。 マルフォイ家では、東洋の魔法使いについてはあまり知られていないんですね」 「っ!!」 これは聞きようによっては、 「東洋の魔法使いを知っていれば、当然私が純血かどうか知っているはずなのに知らないのか。 ブラック家の次男は知っていたのになぁ、マルフォイ家ではどういう教育をされているんだろう」 となる。 というか、そういう風に聞こえるようにわざわざ言った。 となれば、山より高いプライドを持つ、若干11歳の台詞など、もはや聞くまでもない。 「も、もちろん知っているとも!聞きなれない音だったから、思い出すのに時間がかかったが。 家のご息女だな?もちろん、純血に決まっている。聞くまでもなかったな!」 私は、その言葉に満足げににっこりと無言で笑みを浮かべておいた。 ちなみに、家は代々続く名家でもなんでもない、ということをここに記しておく。 が、私は一切嘘は言っていない。 レギュラスさんが私を何故か逢う前に知っていたのは事実だし、 自分から純血だなどと嘯いた覚えもない。 勘違いした方が悪いのだ。 と、私が完全に開き直っていると、どうやら周囲は、 その笑みがマルフォイ君の言葉を肯定しているように思えたらしい。 一気に、どこか怪訝そうにしていた視線が、厚意寄りの物へと変わる。 しかも、「レギュラス様をご存じなの?」などと、少し高飛車そうな女子が話しかけてきたくらいに打ち解けた。 なので、私も無難に「ええ。実はご縁があって、後見をしていただいていまして」と答えておく。 そう、流石にさんの後見をしているルーピン先生に、 私までご厄介になるのはあれだなぁ、と思っていたら、 私がホグワーツに行くことをどうやってか知ったレギュラスさんが後見を申し出てくれたのである。 金銭的な負担をかける訳でもなく、ただ名義を貸すだけとはいっても、 眼鏡と違って幾らなんでもそれは……と思ったが、「シリウスがご迷惑をおかけしたお詫びです」と、 優しく言われてしまえば、受け入れる他なかった。 (それを聞いたさんと一通りきゃーきゃー騒いでおいた。レギュラスさん、マジイケメン) (ちなみに、サラとリドル君の後見人はダンブルドア先生である。リドル君、よく受け入れたね) あの時のレギュラスさんも素敵だったなぁ、と思い出していると、 周囲の女子も彼を思い浮かべたのか、「羨ましいわ!」と頬を染めていた。 ……このくらいならいいけれど、自慢げにしようものならいじめられそうだ。自重しよう。 色恋沙汰に巻き込まれると、本当に大変なんですよねぇ……。 サラの時も面倒だったし、その前も――……。 と、思い出したくもないことを思い出しそうになっていた私だったが、 トラブルというものは過去よりも現在に重きを置くべきである。 隣のマルフォイ君がレギュラスさんに実は憧れているだのなんだのと話すのを、 適当に相槌を打って相手にしていると、不意に「あぁら?」と耳障りな声が聞こえた。 「貴女、純血なのに食事のマナーも知らないの?」 完全に戦闘モードなお声である。 その声の主は、マルフォイ君を挟んで、私の反対側に座って、大袈裟に口元に手を当てた同学年と思しき少女だった。 見るからに気が強そうな少女で、クラスのヒエラルキーでトップを独走しそうな感じ。 これは、あれだ。ハリポタ界の悪役令嬢――パンジー=パーキンソンちゃんに違いない! 背筋も正していたし、正式なカテラリーのセットの仕方も最初からされていない。 この状態で、そこまで逸脱した行為を取った覚えはないが、 私は魔法界どころか、イギリスのマナーもよく分かっていない女である。 一般常識くらいなら持ち合わせがあるが、ここでマナーを持ち出されると痛い。 がしかし、彼女が私を攻撃しようとしたのは、恐らく隣のマルフォイ少年のせいである。 マナー云々は、言いがかりだろう、きっと。 なので、私は「失礼しました。まだこちらに慣れていないものでして」と適当に謝りつつ、 「まぁ……!」 大袈裟に感心したような声を上げた。 「サラサラで素敵な髪の毛ですね。マルフォイ君と並ぶと、なんだかお似合いです」 「っ、そ、そうかしら?」 「そうですよ。マルフォイ君も素敵だと思いませんか?」 「ん?ああ、そうだな。パンジーはいつも身だしなみと整えていて良いと思う」 「〜〜〜〜〜っ」 確かな手ごたえに、私は人知れずガッツポーズをとった。 もちろん、ここに大人げない、などと野暮なことを言う常識人はいない。 さて、そんなこんなで、入寮初めのピンチを乗り越え、 マルフォイ君、パンジーちゃんという協力者をゲットした私は、 和やかに食事を終えることができた。 (基本、パンジーちゃんのような気の強い系の女子とは相性最悪なのだが。 彼女は御すポイントが分かりやすいので助かった) 前評判通り、ホグワーツの食事はおいしかったので、これがぼっち飯にならなくてよかったと思う。 さんはどこか心配そうにこっちを見てきてくれたが、 アイコンタクトで大丈夫と伝えると、ほっとした表情で食事を再開していた。 今日はこのまま寮に行くだろうから、彼女たちと話せるのはきっと明日になるだろう。 少し……いや大分心細いが、こればかりは仕方がない。 一挙に外に出ると廊下が大渋滞するので、グリフィンドールから順に、大広間を後にする。 スリザリンは一番最後だったので、このまま流れに乗っていけば寮にたどり着くだろう。 まぁ、部屋とか知らないんだけど。 きっと、そこは監督生が面倒を見てくれるのだろう、と納得し、 私は席の関係上、スリザリンの最後尾――つまり生徒の最後尾をてくてくと付いていく。 なにしろ大所帯なので、見失う心配はないし、人込みでもみくちゃにされることもない快適ゾーンである。 気づけば、マルフォイ君がクラッブとゴイルと思しき大柄な少年に腕を引っ張られて先に進んでしまったり、 パンジーちゃんはそれを追いかけて行ってしまったりと取り残された感はあるが、 先頭でぎゃーぎゃー言っているグリフィンドールよりも、適度な距離感でよろしいと思う。 よくよく考えてみれば、グリフィンドールは陽気だけど煩いだろうし、 レイブンクローは、そこまで立派な頭をしていないので、きっと辛い。 (というか、寮に入るためのなぞなぞに、そもそも答えられない気がする) 一番平和なのはハッフルパフだっただろうけれど、周りに善人しかいないとか、 自分の性根の悪さを見せつけられるような環境では、逆にストレスがたまりそうだ。 そう考えると、性格の悪さからいっても、普段の生活はスリザリンで良かったのかもしれない。 彼らと違って、別に卒業までいる訳じゃないんだし……と思いながら、 大広間を出て、幾つかの角を曲がった、その時だった。 「っ!?」 ぱっと、脇に置いてあった鎧の陰から、大きな手が伸びてきて私の口をふさぐ。 突然のことに悲鳴も上げられないでいたが、 「騒ぐなよ?」と聞き覚えのある声が聞こえたので、逃走手段を模索し始めた頭は沈黙した。 他のスリザリン生は、背後のことなど気にしていないようで、 私が大柄な彼に掴まっていることに気づかずに、そのまま通路の先へと消えてしまった。 「????」 頭を疑問符が駆け巡るが、その手の持ち主はスリザリン生と離れたところで、 ようやく私のことを解放してくれた。 流石に心臓に悪かったので、私は軽い非難を込めて、その相手と向き直る。 「……いきなり、なんですか?シリウスさん」 これを普通の路上でやっていたら、完全に通報案件である。 心臓がきゅっと嫌な収縮をしたし、冷や汗も噴き出てしまったじゃないか。どうしてくれる。 だが、彼は悪びれる様子もなく、寧ろ私に対して苦々し気な視線を寄こしてきた。 「どうして、スリザリンなんだ」 「…………」 帽子さんに訊いてください、お願いします。 どうして、と言われても、それは私こそ問いたい。 心を閉ざしているだのなんだの、結構散々なことを言われたのだ。 私だって、受け入れはしたものの、納得したわけではない。 がしかし、目の前の思い込みが激しい系イケメンは、不機嫌さを隠そうともせずに私に詰め寄ってくる。 「わざわざ、あんな陰険な寮になんで入った?」 「いや、別に私が入れてと頼んだわけじゃ……」 「……スネイプがいるからか?」 「……はい?」 不穏な気配に、脳内で警鐘が鳴り響く。 シリウスさんもスネイプ先生も、普段はそうでもないのだが、 お互いが関わると、危険人物になってしまう。 スネイプ先生の「ス」の字も言っていないのにそう繋げられてしまうと、 こちらとしてはどうしたら良いのか分からない。 というか、唯でさえ威圧感抜群なご尊顔が、目の前にドアップとか、普通に怖い。 私、今、幼気?な11歳なんですよ。 それがアラサーに詰め寄られているとか、恐怖映像以外の何物でもない。 まぁ、かと言って、体が大きかったら大きかったで、また別種の不安が出てきてしまうのだけれど。 散々お世話になっているくせに、相手をシティー〇ンター扱いする私だった。 でも。日頃の行い的には妥当な扱いだとも思う。 流石にこの姿でなにかされるとは思わないけれど、 この圧迫感には閉口した。 と、私の反応が全く芳しくなかったことで、シリウスさんは痺れを切らしたらしく、 がしっと私の肩を両手で掴んできた。 「どうなんだ!?」 「どう……と言われましても。違いますよ?」 「嘘を吐くな!」 「…………」 一切嘘偽りのない答えだったのだが、食い気味にその答えは却下された。 聞く耳を持たない相手の説得って無理じゃないですか? 今すぐこの場にしゃがみこんだら逃げられないだろうか?とシミュレーションをしてみて、 自分の鈍足では逃走は不可能だろうな、とその考えをゴミ箱に投げ入れる。 とりあえず、冷静になってもらうにはどうしたら良いんだろう? いっそ魔王様の名前でも出してみるか、と最終手段に近いそれに手を出しそうになったその時だった。 「ブラック。私の寮の生徒になにをしているのかね?」 それはもう刺々しい声が、私たちに突き刺さる。 助けてもらえるのは素直に嬉しかったけれど、多分一番この場に来ちゃいけない人物だった。 うわー、と思わず遠い目になってしまうが、 シリウスさんはフクロウのようにぐるっと勢いよく背後を振り返ったので、 そんな私の様子に気づく人は誰もいなかった。 「スネイプ……っ」 それはもう、憎々し気な声だった。 なにをどうしたら、こんな攻撃的な声が出るんだろうってくらい、恐ろしい声だ。 思わずそれには体がビクリっと反応してしまう。 すると、そんな怯える私に気づいてしまったのか、スネイプ先生の眉間の皺が倍増した。 「私の生徒になにをしているのか、と訊いているのだが? いつからそんな年端もいかない少女に手を出すようになったのかね。 今すぐ離れなければ、このことは校長に伝えさせてもらうが」 「フン……!ロリコン教授に言われる筋合いはないな」 「なんだと……?」 なんとも酷い誹謗中傷に、スネイプ先生の眼差しに険が募る。 本当になんて酷い悪口なんだ。 特に、自分に対してブーメランで返ってくることに気づいていないあたり! 多分、スネイプ先生が私のお世話をしてくれていたことを指しての言葉なのだろうが、 今、壁際に追い詰めている貴方の姿の方がよっぽどヤバイ、ということにどうして気づいてくれないのか。 中身はそうじゃなくても、見た目は子供なんですよ、私。 そして、世間では見た目ってかなり大事なんですよ。 間違いなくその恩恵に与っているであろうイケメンに、 なんでこんな今更なことを思わなければいけないのだろう。 一触即発な空気に、私はもう色々と投げ出したい気分になってきた。 だが、多分ここで私が投げ出すと、城が破壊されるか、けが人が出るかのどちらかな気もする。 余計な被害を出さないためにも、ここはふんばりどころなのだろう。 えっと……泣いていいですか? 結局、この後、優し気に笑みを浮かべる髪の毛ふさふさなクィレル先生が通りかかるまで、 私は必死に二人を落ち着かせようと、あの手この手で奮闘する羽目になるのだった。 そして、へとへとになってようやくたどり着いた自室には、 何故だか先にさんがやって来ていて。 「陰険むっつりツンデレ教授と、オープンスケベなテライケメンだったら、ぐりさんはどっちが好み?」 と、それはそれは嫌な感じにニヤニヤと質問をされたりする。 なので私も、 「そうだね。さわやか笑顔の腹黒魔王様かな?」 と極上の笑みと共に答えてあげた。 半泣きで謝られた。 当然、嘘である。 こっちは笑いごとじゃないの。わかってる? ......to be continued
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