面倒くさがりなので、面倒ごとは苦手です。





Butterfly Effect、20





「ぐりぐり!絶対グリフィンドールだからね!ハッフルパフに行っちゃ駄目だよ!!」
「あはははは、うん。頑張るー……」


今生の別れの如く、しっかりと手を握るさんに、私としては苦笑を禁じ得なかった。
ホグズミードの駅にたどり着き、在校生と転入生組は分かれることになっている。
が、セストラルの引く馬車に乗りたくないのもあるのだろう、いつまでも熱烈な挨拶が続いていた。
(確かに、ちょーっと見た目がおどろおどろしいので、乗車に不安があるのは無理もない)

別に、ちょっと別れて後から大広間に行くだけのことだ。
言われなくてもグリフィンドール以外に行くつもりはないので、多分すぐ再会できるのではないだろうか。
がしかし、あまりに真剣な彼女の様子にそれを言うのは憚られる。
そんなに別れを惜しんでくれれば親友冥利に尽きるというものだ。多分。


「……、僕にはエールを送ってくれないのかい?」


……リドル君の恨めしげな視線さえなければ、だけど。
うわぁ、爽やかに笑ってるけど、見るからにドス黒いオーラ放ってるよ、この人。
ごめんごめん、さん大好きなのは分かったから、私にまで対抗心燃やさないでくれるかな!?

同じコンパートメントにいる間も、散々睨まれていたので、私の心は多大なダメージを負っていた。

半生を友達で過ごしてる同性の女の子と同列になんかなれる訳ないでしょうに。
しかもこの人無自覚っぽいから性質悪いっ!
早く自覚して、私を寧ろ味方につけようとするくらいの気概を見せてくれません?


「あ、うん。リドルも頑張れ〜!」
「……っ!」
「……で、いつまで私達はこの茶番を見ていれば良いんだろうな?」
「ああ、うん。さんの気が済むまでじゃない?」


と、そんなこんな話をしていると、 いつの間にか、近くでタイミングを見計らっていたと思しき栗色のふわふわ髪の美少女が、


「いつまでやっているのよ、!遅刻しちゃうわ!!」
「……ひぎゃっ!?」


さんの襟首を問答無用でひっつかみ、 有無を言わさずに馬車の中に押し込んだ。


「…………」
「…………」
「…………」



あまりに見事な誘拐劇に、転入生組はそれをあっさりを見守ってしまう。
押し込まれた先の馬車は
「よくやった!ハーマイオニー!!」だの、
……説明してくれるよね?」だの、
「狭いんだから暴れないで頂戴!!」だのと、まぁ、騒々しい。
とりあえず、さんの悲鳴は聞こえてこないので、私はサラとアイコンタクトをした結果、 被害届を出さない方向で行くことにした。

本当は心の底から一緒に行きたかったのだが、残念ながら転入生組は一度校長室へ行かねばならないらしい。
その途方もなく気が重い事実を根性で無視して、私は他の二人に声を掛けた。


「……ええと、じゃあ、行きましょうか?」
「……僕に話しかけるな」


無言で佇むのもあれなので、とりあえず先に促してみたが、いきなり問題発生。
リドル君、超可愛くない。

…………。
……………………。
…………え、ごめんごめん。話しかけるのすらダメなの?
明らかにただ誘っただけだよね?行けや!とか言ってないよね??
……えぇー?

あからさまな拒絶っぷりに、どうしたものかと表情がひきつる。
そんなに、私がさんとサラに終始構われていたのが気に入らないんだろうか??
それとも、生まれも育ちもマグルだから?(リドル君に言った覚えはないけれど)
まともに会話もしていないので、他に思い当たる節がなさすぎる。


「…………」


少し考えはしたが、まぁ、拒否られるのはもう仕方がないと気持ちを切り替えることにした。
吐き捨てるように「マグルなんかと話すかっ」とか言われないだけマシだろう。

間違いなく沸点の低い人間(シリウスさんとか)であればブチ切れ間違いなしな台詞だけど、 大人な私は会話を諦め、この場を乗り切ることに決定。
正直、こんな対人能力低い坊ちゃんをまともに相手にしてたら疲れてしょうがない。

確か、大分性格が丸くなった、とかいう話だった気がするのだが、 リドル君は、私の方を見ることすらせずに距離を取ろうとしている。
その態度は、嫌う、というよりは苦手、の方が近い感じだった。
別に女子が苦手だとか、子供が苦手だとかいう設定はないはずなんですけどねぇ?
もちろん、子供なんかは得意じゃなさそうだけれど。

うーん?と首をひねりつつ、一応彼の保護者?になっているサラへと視線を送る。

話しかけるなって言われたんだけど、どうしたら良いの?これ?

すると、察しの良いチート男は、微妙に苦笑しつつ、 「校門前に迎えが来ているはずだ。飛べるか?」とリドル君へ問いかけてくれた。


「……問題ない」
「そうか。なら、は私と飛ぼう。腕に掴まっておいてくれ」
「え、飛ぶって??」
「姿くらましをするんだ。は掴まっているだけで大丈夫」
「あれ?未成年ってそれやったら掴まるんじゃなかったっけ??」


ん?でも私達、向こうの世界では成人してるな……。
でも、魔法は勉強できてないし……。特に私。
……っていうか、そもそもリドル君の歳って、魔法の判定的にどうなるの??

元々の見た目は、10代半ば。
今の見た目は、10歳そこそこ。
ヴォルデモート卿の御年は、アラ還で?
本人の体が出来たのは、つい先日。
……ダメだ。考えれば考えるほどドツボにハマる気がするっ!

と、しかし、私の疑問に、サラは「法律の抜け穴なんて幾らでもあるさ」と闇の魔法使いのようなセリフを宣った。
まぁ、犯罪にならないのであれば、なんの問題もない。
私は言われた通り、サラの腕にコアラのように抱き着き、一緒に姿くらましをしてもらった。

さんに前情報で、景色がぐんにゃりと曲がるのが見てて気持ち悪い、と教えてもらっていたので、 三半規管が敏感な私は、しっかりと目をつぶり、衝撃に備える。
そして、サラの合図の後に、お腹を内側に引っ張られるような、なんとも微妙な感覚がした。

見ていなくても気持ちの悪い感覚だったので、 目を開けていたらどうなっていたか、考えると恐ろしいの一言だった。

しかも、失敗すると『バラける』んでしょう?
怖い怖い。
流血沙汰、ダメ。ゼッタイ。

サラなら大丈夫だろう、と思いつつも、初めてのことなので恐怖心が抑えられない。
しかも、気持ちの悪い感覚がなくなった後も、中々OKサインは出されなかった。

さて、いつまで私は目をつぶって、サラの腕をぎゅっと引っ掴んでいれば良いのでしょう?

流石に心の中で10秒経っても何のアクションもなかったので、 私は恐る恐る自分の命綱へと声をかける。


「……サラ?」
「…………」
「サラさん?」
「…………」
「ねぇ、いつまでこうしてれば良いの?」
「……ああ、もう大丈夫だ」


何故だか、大変間が空いたが、お許しが出たのでそっと目を開けてみる。
と、


「っ!」


飛び込んできたのは、銀髪美少年のとびっきりの笑みだった。
もう、目がチカチカしかねない神々スマイルである。


「?どうした?
「いや、うん……近いよ、サラ」
「そうか?そうでもないと思うが、気をつけよう」


なんていうか、魔除け?魔除け効果ありそうだよね、これ写真撮ったら。
いい加減慣れたとはいえ、未だに不意撃ち受けると軽く引くんだけど。
素でやってるもんだから、注意もしづらいし。嗚呼、面倒臭い、この人。

と、無駄に人の心臓に負荷をかけてくる男にうんざりしていた私の視界に、 同じく「うわぁ……」と苦虫を噛みつぶしたような表情をしてるリドル君を発見する。

サラザール=スリザリンに幻想を抱いていたであろう彼には、軽く同情を禁じ得ない。
そうだよね。一般的なサラザールのイメージとサラって、 特に懐に入れた人間の傍だとギャップありすぎるよね。
多分、例えていうなら憧れの格好いい芸能人がペットの犬に赤ちゃん言葉で話しかけるような物だろう。
いや、まぁ、各々の趣味嗜好は、他人が口出しできるものでもないけれど。
イメージって大切だとは思う。

すると、私の視線を感じ取ったのだろう、 リドル君は、その綺麗な瞳をようやくこちらに向けると、
寧ろ逆に、私に対して憐みに似た感情を寄こしてきた。


「…………」


あっれ?私、ひょっとして、このサラの親友であることを同情されてません??
恨みがましい目よりは、こっちの方が害がないけれど、 闇の帝王の前身に憐れまれるって、なんか色々衝撃的な体験じゃない??ねぇ?

と、私がリドル君と無言でやり取りをしていたことに気づいたのか、 サラは「リドルがどうかしたか?」と尋ねてきた。

特になんてことのないような口調と態度で、いつもと同じなのだが、 何故だろう?
私の第六感が、全力でさっきまでの考えを誤魔化せ、と告げてくる。
ので、「いや、やっぱりリドル君とサラの瞳の色がよく似てるなぁと思って」と、当たり障りのない答えを返しておく。
(ええ、適当な嘘は得意中の得意ですが、なにか?)


「瞳の色?」
「うん。綺麗な赤だよね。うさぎさんみたい」


よくよく見ていると若干怖いところまで含めてそっくりである。







とりあえず、辿り着いた校門(裏門らしい)のところで待つこと数分。
私はその荘厳な門の先から、見慣れた人物が歩いて来るのを目にした。

かつかつかつ、と、神経質そうな早足。
何がそんなに気に喰わないのかってくらい気難しげな表情。
見るも不吉な、全身くまなく黒い、その姿。
がしかし、私は明らかに闇オーラ全開のその人物が見えた瞬間、 条件反射のように、内心安堵の息を吐いた。


「あ、スネイプ先生!」


リドル君がいるために、若干いつも通りといかない空気だったため、 思わず声が弾んで、喜色満面になってしまう。
が、この場合は仕方がないと思う。
迎えが来ることは知っていたが、それが顔見知りだったというのも、安堵の一因だ。

普通ならマクゴナガル先生とかが来そうな気もするけれど、 そこは顔見知りということできっと押しつけ……ゲフンゲフン。任されたのだろう。
元創設者に闇の帝王の記憶、しかも得体の知れない異世界人の相手となればまぁ、うん。
押しつけたくなる気持ちも分からなくない。
っていうか、私だったら全力で拒否したい。

すると、声をかけられたためだろう、競歩のごとき素晴らしい速さで、あっという間に先生は私の前までやってきた。


「転入生は3人と聞いていたが……揃っているようだな」
「はい。よろしくお願いします」
「……ミス か?」
「?はい」
「……よかろう。ついてきたまえ」


何度も会っているはずなのに、どこか怪訝そうな目を向けられ、首を傾げる。

先生の難しそうな表情が気になり、とりあえず、その横を小走りについていくが、 先生の眉間の皺はちっとも取れる気配がない。
うん?ここは笑顔とは言わないまでも、そんな表情をされる場面ではないはずだけど……。
何だ?何に引っかかってるんだ、この人は。

思い返してみるに、そんなに奇天烈なやり取りではなかったはずだし、 日本人的には、失礼な態度も取っていないはずだ。
となると、最後に補習をしてくれた時になにかあっただろうか?

漏れ鍋で、最後の学習をしていた時のことを思い浮かべてはみたものの、 今までと変わりなく、分かりやすく授業をしてくれた覚えしかない。
まぁ、さんが来てくれたので、改めて紹介してもらったり、 二人の気易いやりとりを見せてもらったりはしたけれど。

嗚呼。
あとはサラに言語通訳機を作ってもらって、 前回はようやくきちんとお話ができるようになったんだった。

チャリ、と自分の首から下がるロザリオを思わず握りしめる。

なんだか、私はこの世界に来るにあたってのトラブルで、 本来なら自動的にかかるように設定されていた魔法が、 中途半端にかかった状態になってしまっていたらしい。
だから、『聞く』のは大丈夫なのに、『話す』のは無理という、残念仕様だったのだ。
で、中途半端な魔法なので、解除もややこしくなったし、重ね掛けも難しい、とのこと。
あの『世界の架け橋』とやらが無事なら、そこでどうにかなったらしいが、今は利用不可の状態。
となると、外的要因で解決するしかない、ということだった。

魔法の詳しいルールなんてものは分からないのだが、まぁ、創設者さまがそう言うならそうなのだろう。

ということで、外的要因――ロザリオ型の翻訳機をサラがDIYしてくれた、と。
もちろん、ホグワーツではマグル製品は使用できないので、魔石だのなんだのを用いたマジックアイテムである。


『これを首から下げていれば、言葉が自動変換されるようにしておいた。貰ってくれるか?
『ありがとう!え、すごい、綺麗!普通のネックレスにしか見えないよ!?』
『うわぁ、良かったねー、ぐり!着けて着けて!』


大ぶりな銀のロザリオは中心に赤い宝石がはまっており、 優美な唐草模様が彫りこまれていた。
十字の先の部分が若干鋭角で、服に引っかけないかが不安な他は、熟練の職人が作ったかのようである。
こんなものをポンっと作れてしまう辺り、本当に能力値が高すぎる男だ。


『万が一外れないように、本人以外は着脱不可だ』
『凄い!ハイテク(?)!似合うよ、ぐりさん』
『そうかなぁ?本当にありがとう、サラ!』
『気に入ってもらえたなら良かった。嗚呼、ついでに言うと、 小鬼ゴブリンの製法で作ってあるし、バジリスクの毒も染みこませてあるから、腐食も破壊もほぼ不可能だ。 安心して使って欲しい』
『寧ろ、貴重すぎて安心できない気がするんですけど!?』
『お前何者なんだよ!?いや、マジで!』


余計なことまで思い出してしまったので、ぷるぷると頭を振って、思考を切り替える。
今は、あのハイスペック男子について考えている場合ではない。

ただ、話せるようになっても、スネイプ先生に別に変なことを言った覚えはやっぱりない訳で。
なんとも落ち着かない気分で歩いている内に、気が付けば私達は石造りの城の内部にたどり着いていた。

日本ではテーマパークぐらいでしかお目にかからない西洋風のお城は、 外から見ても大きかったが、中に入っても、その広大さがひしひしと感じられた。
しかも、前を見ても横を見ても、パッと見は同じ造りのようだ。
周りを取り囲む石壁に、これは厄介そうだなぁ、と心の中でひとりごちる。

予想はしていたことだけれど、どこもかしこも似たような廊下であることは間違いなさそうだ。
別に方向音痴でもなんでもないが、しばらくは迷いそうである。
さんはハーマイオニーという友達をGETしてその危機を乗り切ったらしいので、 私もせいぜいさんとサラに助けてもらうことにしよう。
いざとなったら、そこら辺の絵に助けを求めるのもありだろうし。

というワケで、せいぜい外面の良さを発揮して、こっちを興味深げに見てくる絵の住人達にぺこぺこと頭を下げて回る。
すると、そんな私の奇妙な行動に気付いたのだろう、あまり私の方を見てくれなかったスネイプ先生が、 流石に看過できないとばかりに、こっちに意識を向けてきた。


「何をしているのかね、ミス
「え?あ、ええと、絵の皆様にご挨拶を……」
「そんなことはしなくてもよろしい。早くついてきたまえ」


うわぁ、挨拶を『そんなこと』とか言いきっちゃいましたよ、この人。
何事も第一印象が大事って言葉を知らないに違いない。
案の定、その台詞を聞いた絵の中の方々はスネイプ先生に不満げな声を浴びせていたが、彼はそれに取り合わなかった。

ある意味、その姿勢は尊敬に値するな。
サラとかもそうなんだけど、自分が気に入った人間とか価値を認めた人以外の意見は右から左っていうか……。
ん?あれ、そういえばマルフォイやらリドル君やらもそんな感じだね。
……スリザリン気質ってこと??

ちらり、と後ろで並んで歩いているであろう二人を振り返りたい気分になったが、 目が合ったら気まずくなりそうなので、ぐっとこらえる。
と、変なところで彼らの共通点を認識していると、スネイプ先生に「まだかね」と先を促された。
……まずいまずい。変なこと考えてる場合じゃなかったよ、私。
慌てて、若干開いてしまった距離を詰めるべく小走りになる。

私が隣に来たことを確認したスネイプ先生は、さきほどよりもゆっくりと歩きだした。
(どうやら、ここに来てコンパスの違いにようやく気付いてくれたらしい)
そのことに、ちょっと嬉しくなって、にへらと笑みを浮かべていると、ふと視線を感じた。
ので、そっちを見ると、こっちを見ているスネイプ先生とがっつり目が合った。


「……何がそんなに楽しいのかね?」
「へ?ええと、いや、楽しいというかなんというか……」


貴方の気遣いに喜んでただけです、と言ったら間違いなく機嫌を損ねそうな気配がしたので言い淀む。
すると、そこまで気にしてはいなかったらしく、スネイプ先生は追及を止めた。


……そんな表情もできるのか
「はい?」
「いや、何でもない。ところで、その姿は魔法薬か何かかね。
最初に1年生に混ざると聞いた時は耳を疑ったものだが」


ぼそっと呟かれた一言があまりに低すぎていまいち分からなかったが、 続けられた言葉に、ようやく私は最初にスネイプ先生が怪訝な表情をしていた理由を悟った。
そういえば、このミニマム(11歳)バージョンで先生に会うのは始めてだ。
流石に5歳以上も幼くなってれば、色々気になるところだろう。


「あ、はい。流石に、魔法のことはあまり詳しくないので、いきなり6年生とか7年生には混ざれなくて。
知り合いもいることですし、とりあえず魔法で小さくなって初歩から学んだ方が良いということになりまして」


私はそこで、ロザリオと共に渡された指輪を先生の前に翳した。


「そこの友人が用意してくれたのですが、これで体を小さくしています。
魔法薬はその……もう、これ以上あまり飲みたくなくて」
「……だろうな」


薬を用意してくれた相手に言うのは、非常に抵抗があるのだが、 あのまっずい頭痛薬を毎日毎日飲まされた身としては、もう勘弁してほしい、という心境だ。
ただでさえ、お子様舌で薬系が苦手なのに、あの味はもはや軽くトラウマである。
なので、サラには早々に助けを求めた。
チート能力でなんとかしてくれると信じていましたよ。ええ。

一瞬、薬の後味を思い出してしまい、遠い目をしかけるが、まだ話は途中である。
とりあえず、まだできていなかった改めてのご挨拶をしておこうと、 気を取り直して、私はしっかり頭を下げた。


「また色々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、在学中よろしくお願いします」
「……心には留めておこう」


一応、礼儀正しい挨拶はスネイプ先生の許容範囲内だったようで、 先生は心持ち、表情を柔らかくして、鷹揚に頷いてくれる。
その後に「グリフィンドールでなければ、だがな」とか続いているかもしれないが。

まぁ、グリフィンドールでもハーマイオニーみたいに反骨精神むき出しにしなければ大丈夫だろう。多分。
さん曰く、原作よりも性格改善?されてるらしいし。
これまでの面倒見の良さから考えて、いきなり冷たくされる、だなんて展開はないと信じたい。

そして、話がひと段落した後、少し歩いた先に私は立派なガーゴイル像を発見した。
原作通りの格好いいガーゴイルに、軽くテンションが上がる。
がしかし、ここでいきなりテンションを高くしていると、 リドル君やらスネイプ先生に白い目を向けられそうな気もするので、ただただ熱心に見るだけに留める。


「???」


ところが、US〇のハリポタゾーンできゃいっきゃいしていたのを知っているサラとしては、 その大人しい様子が不可思議だったらしい。
声を掛けた私を上から下まで矯めつ眇めつした後、 少し眉根を寄せて「大丈夫か?」と尋ねながら、心底案じるように私の頬に手を伸ばしてきた。


「疲れたのか?」
「はい?」
「ここまで結構な距離があっただろう?足は大丈夫なのか?」
「……流石にこの距離で足痛めてたら、私ここに通えないんだけど?」


有り難すぎることに、サラの過保護に拍車が掛かりまくったのは気のせいではないだろう。
言外に大丈夫、と告げると、サラは自分でも過保護ぶりを自覚しているらしく、 「それもそうだな」と苦笑した。
が、スキンシップの好きなこの男は頬に当てていた手をさっと動かし、 こっちが拒絶する間もなくとっとと手を繋いでしまった。


「……サラ」


私は小さな子じゃないんですが?
呆れたような私の声に、しかし彼は手を離さない。
いや、離さないどころか、私の軽い抗議も全力ですっとぼけるのだった。


「うん?」
「……まぁ、良いか?(どうでも)」

「「いや、良くないだろう」」





面倒ごとはスルーするに限ります。





......to be continued