付き合いの長さは折り紙付き! Butterfly Effect、17 親友たちと無事?再会し、今まで我が身に起こったことを説明し終えた後、 親友の反応は概ね予想通りのそれだった。 「……ぐりさんのヒロイン力っ!!」 サイドボードに突っ伏すさん。 (うん、やっぱり注目ポイントがおかしい) 「遅くなってすまなかった……」 眉をしかめながら、さっきまでシリウスさんの頭があった位置(私の首筋)を、 がっしがしと汚い物でもぬぐうように袖でこするサラ。 (変なところ過保護なんだよ、この人) でも、その予想通りな姿に私は酷く安心してしまい、頬が緩むのを止められなかった。 で、私がへらりと笑うと、さんも嬉しそうに笑みを浮かべる。 その場に、なんとも和やかな空気が流れた。 「…………」 いや、実はそこに死体と化したシリウスさんがいるんだけれども。 さんに遠慮容赦なく頭を攻撃されたシリウスさんは、床に長い手足を放り出してぐったりと伸びていた。 多分に、さっき誤解が生じる体勢だったのが原因である。 謝罪以外の他意はきっとなかったのだろうけれど、距離感を誤ったがために、 さんから激しい折檻を受けてしまったのだ。 こ、ここまでしなくてもいい気がするんだけど、どうなんだろう……? が、私がちろり、と一応心配して視線を向けたのに気づいた彼女の言葉は、にべもない。 「ああ、いつものことだから。ぐりさんは気にしなくて大丈夫!」 「……これが日常ってあたりは大いに気にした方が良い気がするけど。 う、うん。分かった」 触らぬ仏になんとやらですね?わかります。 と、かなりぞんざいな扱いを受けたことを肌で感じたのだろう、 がばっと! いい笑顔で親指を立てていたさんに、復活したシリウスさんが詰め寄る。 「!お前、本気でいい加減にしろよっ!? 毎度毎度、俺ばっかり脈絡なく攻撃してきやがって!!」 「脈絡ない訳ないだろ。毎度毎度シリウスが悪いんだよ」 「ふざけるなっ!」 が、推定10歳前後の美少女が、大柄な男の人に恫喝される姿は、 はっきり言って心臓に悪い。 私がはらはらと二人を見比べ、どうなることかと成り行きを見守っていると、 不意に、扉をノックする音が聞こえた。 コンコンコンッ 「「ああ!?」」 鍵なら空いているはず、と思いながら見た扉には、鳶色の髪。 そして、ヤクザよろしく睨みを飛ばした二人は、 そこににっこりとした満面の笑顔を見つけて、仲良くピシッと石化した。 「君たち、人の部屋でなにを喧嘩しているんだい?」 救世主がそこにいた。 どうやら、さんたちのただならぬ様子を目撃したトムさんが、 大慌てで煙突飛行ネットワークを駆使して、ルーピン先生を召喚してくれたらしい。 まぁ、そうですよね。大事な自分のお城を破壊でもされたら困りますよね。 (すでに、軽く一部損壊しているけれど) 流石トムさん。素晴らしい判断力です。 で、ルーピン先生は、シリウスさんを回収するのが現状の最適解だと考えたらしく、 魔法でシリウスさんを宙づりにして、爽やかな笑顔と共に去っていった。 もちろん、さんに一言二言、なにやら耳打ちした後に、だが。 (耳打ちされた方は赤くなったり青くなったりと、死にそうな感じの表情をしていた) 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「……えっと、とにかく、会えて良かった!」 多分、ここは触れてあげないことが友情だろうと解釈し、 私は殊更、再会の喜びを表した。 すると、その思惑を察したようで、サラもにこやかに笑みを浮かべて相槌を打つ。 「ああ。少しばかりトラブルはあったようだが、無事でなによりだ」 「……含むところがありそうだね?」 だから、さっきのシリウスさんのあれこれは、特に他意はないんだってば! いい加減もうしつこいんですけど、と非難を込めて見つめる私。 がしかし、サラが言っているのはどうやらそのことではなかったらしく、 「それはあるとも」と至極心外そうな表情を浮かべた。 「少なくとも、魔力を暴走させるレベルのなにかがあっただろう?それも、1回どころか2回も、だ」 「?魔力を暴走??」 そんな大層なことをやった覚えはないのだけれど。 全く、私がピンときていないことが分かったらしく、サラは噛んで含めるように、 今までのあらましの中で、私が魔法を使っていた(らしい)ポイントを教えてくれた。 まず、夜の闇横丁で謎の集団に囲まれた時(?)に軽く1回。 で、シリウスさんとスネイプ先生のガチバトルの最後に1回。 正直、その時、体調最悪だったので、分からないと言えば分からないのだが、 どうも、使っている……らしい。 普通、魔法って奴は使ったら光が出るとかなんとか、アクションがあるものじゃないのか、と思うのだが、 効果のほども定かじゃないものの、使っているのは間違いないとのことだった。 だからこその体調不良だ、と言われてしまえば黙るしかない。 と、そこでふと、 『やっぱり、お前魔女なんだな?』 シリウスさんが私のことを魔法使い扱いして譲らなかった場面を思い出した。 あの時はこの人なに言ってるんだ頭おかしいじゃないのか、などと失礼なことを思ってしまったが、 魔法を使ったのを間近で見たのなら、それは寧ろ当然の反応だ。 なるほど、だから、あんな風に私が魔法使いなのにそれを無駄に隠していると勘違いして怒っていたのか。 おかげで、他にもスネイプ先生の態度だとか、色々、軽く引っかかっていた部分が腑に落ちる。 未だに魔法使いの自覚はないけれど、 親友に断言されると、不思議なもので「そうか、自分は魔女なのか」と納得できた。 「暴走、でニュアンスが違うとすればそうだな……。故意に暴発させた、か? もしくは、無意識に高出力の魔力を放出した、でも良いな」 「……その二つはニアリーイコール(≒)ですらない気がするけど」 とにかく、サラによると、私は気づかぬ内に魔法を放っており、 それが原因で魔力が漏れ出してしまった、とのことだった。 「で、その解決策で一番良いのは、ホグワーツに編入?」 「だろうな。何度も緩んだタガはもう、元々の密閉力がない。 となると、魔力がほぼない元の世界なら問題ないが、この世界では魔法を使い続けた方が良い」 「……え、元の世界なら問題ないんなら、戻れば良いんじゃないの…って、アタ!」 と、二人で話していると、ようやく衝撃から立ち直ったのか、 さんが会話に混ざってきた。 がしかし、すかさずに、肩に乗っていた黒猫さんから、猫パンチで頭を叩かれる。 おお!にゃんこの仁王立ち(しかも肩の上)なんて、珍しいもの見ました! 『だから、“世界の架け橋”はしばらく復旧工事中だって言ったでしょ』 「はぁ?聞いてないし!」 『言ったよ。言ったけど、君が頭に入れてないだけだよ』 にゃごにゃご、と黒猫さんがなにかを言っているけれど、 まぁ、態度からすると呆れているようだ。 なんていうか、これぞファンタジー!っていう素敵すぎる絵面である。 良いなぁ、さん。 にゃんこ触りたい……。いや、でも触ろうとした瞬間に手を叩き落とされそう。 もふもふ……。 良いなぁ。黒にゃんこ可愛いなぁ……。 確か、サラの分身……?の、スティア君……だっけ? まじまじと見てみるが、どうも性格がサラとはかなり違いそうだ。 (サラなら、間違ってもさんの頭を叩いたりしない) 子猫というには大きく、成猫というには小さい黒猫さんは、 どうやら、さんから事前に聞いていた通り、ツンデレなようである。 と、私の不躾な視線を感じたのだろう、にゃんこさんはさんに何かを言って、私へ注意を向けさせる。 『ホラ。君が阿呆なことばっかり言ってるから、が呆れているよ』 「ふふん。ぐりさんはそんなことしないんだぜ。そもそも諦めてるからね!」 『……いや、それどうなの?』 ……一体なにを話しているのか、非常に気になる。 がしかし、今はそれどころじゃない、と気を取り直して、もふもふの誘惑から逃れる。 「えっと、黒猫くんから突っ込みがあったってことは、元の世界には戻れないんだよね?」 とりあえず、さんの反応から考えても、あの白い不思議空間は多分、今使えない状態なのだろう。 (正直、軽くトラウマなので、ちょっとありがたい) でなければ、この変なところ過保護なサラが、私を連れ戻さない訳もないし。 サラに視線を向けると、目線で頷かれた。 「出来るだけ急いで直すが、それでも、一朝一夕という訳にはいかない。 時間がかかる分、拠点があった方が良いだろう」 「まぁ、ホグワーツにいけば、衣食住は確保できるし、魔法も使えるしね。 ……ぐりさんの魔女っ娘姿っ!ヤバイ!カメラ!!」 『暴走しないでね。頼むから』 「あははははははは」 少し離れていた分、さんの愛が重いのは気のせいだろうか。 嬉しい反面、そこまで心配をさせていたと考えると申し訳ない気持ちになる。 まぁ、そのことを口に出すと、サラからは「そもそも巻き込んでいるのがなのだから気にするな」と言われた。 ……うん。まぁ、一理ある。 聞けば、あの不思議空間には人数制限があったらしいし。 私のキャミソール姿をサラに見せようとして、あの事故につながった、とかいうし。 ……いや、意味が分からなすぎて、逆に怒れなかったわ。 さんの行動は偶に、意図が不明になるんですよね。 ので、変に恐縮するのは止めて、とりあえず、さんの気がすむまで好きにさせることにした。 (人はそれを放置と呼ぶ) 「私もも……ああ、あともう一人もホグワーツに通う予定だ。 だから、だけ寂しい思いをさせるつもりはないので、安心してほしい」 「あと一人?」 「そう。サプライズゲストだな」 持ち上げられた口の端が、妙に悪そうに見えるのは、私の偏見だろうか。 「は?サプライズゲストってなに??あたし聞いてないんだけど……。 あ、ひょっとしてケー?」 「聞いてないんじゃなくて、覚えていないの間違いだろう。 すぐにそれどころじゃなくなったしな」 さんは、どうやらなにか心当たりがあるらしい。 が、「K」さん? それは、自分の心当たりにはまったく当てはまらない。 私の想像する人だったとするならば、「T」もしくは「R」さんである。 で、ちらりと横目でサラの表情を確認し、 さんを見つめるその瞳に、からかいの色があることに気づいた私。 これは……うん。少なくとも「K」さんでないことは確かですね。 何故だか、教えてくれないもう一人の仲間??に軽く首を捻りつつも、 まぁ、サプライズというからには流石に悪いことにはならないだろう、と納得する。 後から、やっぱり予想が的中し、もっと心の準備をすべきだった!と頭を抱えることになるけれど、 それはまぁ、別のお話だった。 その後、ルーピン先生との家に帰ると明日の朝日が拝めなくなりそうだ、というさんが私の部屋に泊まり、 サラは事前にやることが増えた、と言って、漏れ鍋をあとにした。 その夜、こまごまとしたホグワーツの話だとか、今後のこととか、話をして私たちは過ごした。 色々あったけれど、そうして話していると、離れている間にあったことが、まるで幻のようだった。 とりあえず、今、自分が無事にハリポタの世界にいて。 そのことをフォローしてくれる親友たちがいて。 どうやら、純粋に魔法世界を楽しめそう、という期待に、私はようやく今の今まで入りっぱなしだった肩の力を抜くのだった。 「さん?」 「うん?なに??」 「本当に、ありがとうね」 「……〜〜〜〜〜っ!ぐりさん、あたしの嫁になろう!!」 「あはははは」 『のスルースキルに感動するよ、僕は』 ただの慣れって奴ですね。 ......to be continued
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