身近な物に囲まれれば、気分が良くなるんじゃないかと思った。
がしかし。






Butterfly Effect、11





「…………チッ」


明らかに最初と比べて意気消沈した少女の様子に、思わず舌打ちが漏れる。
オリバンダーの店に行ったのは失敗だったか、と後悔してももう遅い。
この様子では、自分がやっぱり魔女だった、などということは、頭の片隅にもないに違いない。

まぁ、それも仕方がないことだろう。
突然、闇を引き寄せるだのなんだのと、不吉なことを言われた挙句、 最終的には『敵も味方も作りやすいから気を付けろ』と忠告紛いの言葉まで貰ったのだから。

本来、杖を作るというのは酷く喜ばしいことだというのに。
からは、喜びの欠片も感じ取ることができなかった。
もちろん、表情がない、だとか、不機嫌そうな表情カオということはない。
ごく普通の表情だ。
話しかければ微笑んで応じるし、感心すれば、声を上げもする。
がしかし、表情は普通でも、生気という物がコイツからはまるで感じられなかった。

リーマスも、そのことは気にかかっているようで、 しきりとあちこちの店の説明と称して話しかけている。
ただ、を浮上させるところまでは至らないらしく、奇妙な緊張感が俺たちを包む。

前回怒鳴った侘びもかねて、少しでも気分を持ち上げてやろうと思っただけだったのに。
どうして、こんなことになっているんだ……!

今日のメインイベントというか、本来の目的地が近くなるにつれ、 俺の中で焦りは大きくなっていく。
まずい。もう少しで着いてしまうっ
前座でこんな状態になってたら、買い物本番でなんて楽しめるはずないだろう!

どうにか遠回りをして、そこに着くのを少しでも遅らせようかと考えだした俺だったが、 しかし、それを実行する前にかけられた陽気な声によって、計画は全て破たんさせられるのだった。







「やぁ!集合場所より前で逢うなんて奇遇だね!その子がの友達かい!?」
「!」
「ああ、ジェームズ。そうなんだよ」


とりあえず、今その能天気そうな表情は見たくなかったな、と失礼なことを思いつつ、 声のした方を見れば、そこには慣れ親しんだクシャクシャ頭が二つと赤い頭が見えた。

言わずもがな、ポッター一家である。
実は今回、少女の服を見立てるとあって、事情を説明した上でリリーへ参加を頼んだところ、 「クリスマス前の買い出しがしたいの友人が見たい見たい見たい!」というおまけまでくっついてきたのだ。
で、もちろんハリーを独り、家に残して行くはずもなく。
気付けば総勢6名の大所帯になっていた。

見るからに仲良し家族、という彼らの登場に、流石のもきょとん、と目を丸くしている。


「こんにちは、リリー、ハリー」
「こんにちは、リーマス。いつもハリーがお世話になってるわね。
シリウスもお久しぶり。ハロウィン以来かしら?」
「ああ、そんなところだろうな」
「こんにちは、リーマス、シリウス。えっと……」


恐らく、父親が強行したのであろう、お揃いの服を来たハリーは、 まるでジェームズのミニチュアのようだった。
そして、少女に挨拶をしようとして、名前を知らないことに気付いたらしく、 少しだけ言い淀む。

すると、


My name is 。Nice to meet you. と言います。よろしくね)」
「「「!」」」


ふわり、と。
少女は、年下の少年を気遣うように、それは優しい声と表情でそれをフォローした。

そこに、さっきまでどこか沈んでいた姿など、どこにも見られない。
にこにこと、目線を合わせるように屈んだ彼女に、憂いなどなにもないかのように。
さっきの姿こそが、間違いだとでもいうように。
ごくごく自然に、嘘をついた。

がしかし、今さっき顔を合わせたポッター一家にそのことが分かるはずもなく、 彼らはごく普通にお互いを紹介し始める。


「あ、僕はハリー=ポッターって言うんだ。隣にいるのが、母さん」
「こんにちは、のお友達なら大歓迎だわ。
私のことはリリーって呼んで頂戴」
Nice to meet you.(よろしくお願いします)」
「ねぇ、の故郷から来た友達なんでしょう?
実は僕もとは仲良くしてるんだけど。ただ、あの、って――……」
――おぉっと。歳が一番近いのは認めるけど、ゲストを独り占めはマナー違反だよ、ハリー。
こんにちは、可愛らしいお嬢さん。僕はジェームズ。
見ての通り、リリーのハズバンドで、ハリーのダディ且つ、の悪友さ!」


まぁ、若干カオスな自己紹介だったが。
っていうか、ジェームズが割り込んできたせいでカオスになったが。

案の定、困惑を顔一杯に広げたハリーは、内緒話でもするかのように声を潜めた。


「……って、父さんも母さんもの友達だとか言い出したんだけど、僕、意味が分からなくて。
君、がどこにいるか知ってる?」
Sorry.I don't know.(ごめんなさい。知らないの)」
「そうか」


まぁ、同級生の――しかも、好きな女子が、 急に両親とも友達なんだとか言い出されたら、それは意味が分からないだろう。
これで、更に名づけ親はもちろん、教師までそうだと言ったら、どうなることか。
ハリーの微妙な立場に思い至り、後でちゃんと説明してやろう、と決意する。
(ジェームズのことだ。間違いなく説明なんてしていないだろう)

まぁ、俺たちの親友だった奴が、ハリーの代のホグワーツに体を縮めて入学した、とでも言えば良いか。
あんまり姿が違ったから会った時には分からなかった、ってことにすれば、 最初に紹介しなかった理由にもなるだろうし。
(本当は、奴が記憶を消したせいなのだが、そこに触れるとややこしいので割愛しよう)

と、うっかりハリーの恋心をぶち壊しかねないことを考えつつ、 いつまでも往来で話し込んでいる訳にも行かないので、 俺は先頭を切って目的地へ向かって歩き始めた。
すると、リリーにを取られたのか、ハリーがそっと俺の隣に並ぶ。

利発な子なので、話しているだけで心が和む。
こういう点だけは、本当にジェームズに似なくて良かった、と思うな。


「今日はの服を買いに来たんだよね?どこに行くの?」
「ああ、俺が行き着けにしている服屋だ。あと五分も歩けば着く」
「この辺りに服屋なんかあったっけ?」
「入り組んだところにあるんだ。俺も、教えてもらわなければ気づかなかったよ」
「あ、誰かのお勧めだったんだ?」
「ああ。弟が『布で出来ている物ならなんでも揃う店・・・・・・・・・・・・・・・・・だ』って教えてくれてな。
店主は変わってるんだが、商品は安い物から高い物、マグルの洋服まで揃ってる」


と、そんな風に話している内にも、噂の店が視界に入ってきた。
まるでペンションのような、牧歌的な雰囲気の外装に、「OPEN」と書かれた木製の看板。
これで可愛らしい若夫婦が経営していれば完璧だったんだが……。

再度、ハリーに「店主は変だが、害はない」ということを伝える。
もちろん、その厳重な念押しに、ハリーが微妙な表情カオになったのは言うまでもない。


「……えっと、そんなに、変な人なの?」
「いや、変な人というか――……」

「あらん?」


と、俺が言い終わるより前に、野太い声が耳朶を掠めた。
次いで、視界に入ったのは、真っ赤なエナメルのピンヒールと筋肉質な足。
そして、なによりもそれが生えるでかくて丸い、ピンク色の体だか頭だか分からない、濃い顔。

俺の背後で、何人かの息を飲む音が聞こえた。
がしかし、そんな些細なことは洋服店の店主の眼中に入らないらしく、 彼(彼女??)は喜色満面で、俺の膝の辺りに抱き着いた。
(身長の関係で、そこが一番抱き着きやすい場所らしい)


「いやん、シリウスじゃないのぉ〜!お・ひ・さ・し・ぶ・り☆
今日はいっぱいお客さんを連れてきてくれたのねん!」
「ああ、騒がしくて悪いな」
「やっだぁ!あっくんとシリウスの仲じゃない!だ・い・か・ん・げ・い!」


ばっさばさの睫毛に縁どられた目が、ウィンクをしてくるに至って、 ようやく石化が解けたらしいハリーが、恐怖にかられた声を絞り出した。


「し、シリウス……っそ、その人??って……!」
「ああ。見ての通り、人じゃない」
「キャッサバヘルパーのぉ、あっくんって言います☆よろしくぅ」


どこまでも女らしく差し出された、どこまでも男らしい手に、 良い子のハリーはそれはもう困っていた。
目で助けを求められるが、そっとアイコンタクトで無理だということを伝える。
長い付き合いになるが、押しの強さは天下一品だ。
抗おうとすればするほど詰め寄ってくるという、怖いタイプなのである。

と、流石に愛息子のピンチを察したのか、 それとも、希少な魔法生物の出現にテンションが上がったのか、
殿を務めていたはずのジェームズがその差し出された手を取っていた。


「よろしく、あっくん。僕はジェームズ」
「あらぁ、シリウスと違った良い男ねぇ?いやん、悪戯っぽい顔w」
「おっと、惚れられると困っちゃうな。僕は奥さん一筋だからね!」
「ま!お熱いのねぇ〜!!」


…………。
……………………お前の適応力、本気で凄いな。

そのコミュニケーション能力の高さで、 周囲から今現在、凄い勢いで妙な尊敬を勝ち得ているジェームズだった。
と、ひとしきり雑談した後、恐らく俺以外の皆が気になっているであろうことを、 ジェームズは代表して話題に上げる。


「ところで、キャッサバヘルパー族って凄い無口なんじゃなかったっけ?
あっくんが凄くフレンドリーで驚いたよ!」
「あら、そんなことないわよぉ?あっくん以外の子も〜、結構おしゃべりよん。
ただ、会話のバリエーションが『…………』しかないだけぇー」
「そうだったんだ。知らなかったなぁ」
「あっくんはー、最初はそれでも良かったんだけどー。
やっぱりこうしておしゃべりしたかったのぉ。だ・か・ら!頑張っちゃったw」
「頑張っちゃったのか!凄いね!」


いや、頑張っちゃったwじゃねぇよ。
明らかに別の生物になってるじゃないか、お前。

図鑑に載っていた他のキャッサバヘルパー族を思い浮かべながら、 俺は改めて、目の前の人間――いや、豆を見つめる。

そう、豆。
豆である。
目の前の生物が自称する通り『キャッサバヘルパー』であるならば、それは豆なのだ。
(ちなみにマグルのいう『キャッサバ』という芋との関連はない。毒があるのは同じだが)

キャッサバヘルパーと呼ばれるそれが観測されたのは、中世をすぎた頃だったか。
まず、それが動物なのか植物なのかで、その手の連中は大論争を起こしていたらしい。
豆なら明らかに植物なのだが、しかし、こいつらには自我があり、手足がある。
マンドレイクという例もあったので、最初は植物としていたらしいが、 今は魔法生物ということで落ち着いている。
なにしろ、こいつ等は露骨に好き勝手動くのだ。
おまけに、魔法薬の材料にでもしようものなら、無言且つ無表情で反撃してくる。
そんな植物があったら嫌だと、どこかのお偉いさんが思ったのだろう。多分。

嗚呼、いまいちどんな物か想像できない奴は、頭の中でこう思い描けばいい。
まず、真ん中に大きめの緑の丸を描いて、それにちょん、ちょん、と棒の手足を生やす。
そして、その真ん中にマグルのモアイ像のような無味乾燥な顔を描けば、できあがりだ。
偶に頭から双葉が生えているのもある。なにしろ豆だからな。

生態としては、さっきジェームズが言ったように基本しゃべらない。
ただ、偶にこっちを見て、2、3mm口の端を曲げることがある。
馬鹿にされてる気分になるかもしれないが、違うと信じることが大切だ。
もし、頭に来てボールのような体(顔?)を蹴ったが最後、棒のような手足で攻撃してくるから注意しろ。
見た目はただの棒のくせに、恐ろしく強靭だからな。あいつらの手足。

で、それを踏まえた上であっくんを見てみれば、その異常さに戦慄することだろう。
棒の手足は人間(それもムッキムキ)になっているし、体の色は緑どころかなんと薄ピンクだ。
あるかないか分からなかった目も、きらっきらの少女漫画のような物になっている。

いや、もう、これは別物だろう。
どう見たってキャッサバヘルパー族じゃねぇよ、お前。

がしかし、そう突っ込んで地獄を見た奴がいるらしいので、もちろんそんなことは口に出さない。
睫毛も、しゃべれるようになったと同時にばさばさ生えてきたとか言っているから、 なんていうか、進化?したんじゃないかと、常々俺は思っている……。

そして、和気藹々とジェームズとあっくんがしゃべっていると、 表に出たまま戻ってこない店主を心配したのか、店の中から人間が現れた。


「あぁ〜!店長!サボってるなんてずるいッスよ!」
「いやぁ〜ん!あっくんサボってなぁいぃ。
ちゃんと呼び込みしてたんじゃないのぉ」
「店長が呼び込んだら、まともな客なんて来なくなるじゃないすか!
前に超イケメン逃げちゃったの、覚えてないんですか!?」
「あっくん会ってないもぉーん。アンタの接客が悪かったんでしょお?」


すでに壮年に差し掛かっている割に酷く軽いノリの店員と、 オネェ口調の謎の生物……。
とりあえず、どっちもあまり接客には向いていないのは確かだろう。
なにしろ、俺たち客をほったらかしだし。

と、そこで俺はこの謎の生物を見にきたのではなく、服を買いに来たんだった、と、 ようやく本題を思いだした。
ので、


「……入るぞ」


未だじゃれ合っている店の連中はそのままに、 なりゆきを見ていた連れを店の中へと案内するのだった。


「なんていうか……君、よくこの店行きつけにしたね?シリウス」
「品揃えと店長の腕だけは確かなんだよ、ここ」
「は?腕?いや、そりゃあ、見事な上腕三頭筋だったけど」
「いや、裁縫の腕前。ここの服、全部奴の手縫いだぜ?」
「……それ、子ども達には言わないであげた方が良いよ。さっきから凄く怯えてるから」







そして、寝具等を置いている一階は素通りし、勝手知ったるなんとやらで、 俺達はさっさと三階に上がってきた。

二階には魔法使い向けの商品が並んでいるのだが、 ここには、さっきも言ったように、マグル出身者向けの商品が所狭しと陳列されているのである。
なにしろ魔法使いの格好と来たらダサいのばかりなのだが、 ここに来れば、大体上下セットで売っているために、間違いがないのだ。

最初にレギュラスに紹介された時は、本気で嫌がらせを受けたのか、 それとも弟が頭を打ったのではないかと心配したものだが、 商品の数々を見れば、常連になるだけの価値がここにはあった。

と、どうやらマグルの服ばかり、という光景が新鮮だったのだろう、 ハリーとジェームズ(!)が無邪気に歓声を上げた。


「うわぁ!すごいや!」
「うーん。なんだか、ハロウィンを思い出すねぇ」
……いや、確かに凄いですけど


がしかし、どうやら肝心のはお気に召さなかったらしい。
彼女は、なんとも微妙な苦笑を浮かべながら、服を見ていた。


……いや、確かに凄いですけど。うわぁ、プラグスーツきちゃった……。
こっちはあれだよね、世界をまたにかける大泥棒の真っ赤なスーツだよね……。
しかも、その間にはふわふわの可愛いシフォンスカートがあるとか。
コンセプトめちゃくちゃ……。
うっかり、ファッションモデルさんの衣装に、コスプレ衣装混じっちゃいました!な感じというか。
しょ○タンだったら喜んでくれそうな衣装ダンスの中っていうか……。
いや、あっちのあれはきゃりーちゃん……?原宿系なのかモード系なのかっ
さっきから突っ込みどころが多すぎて、一人じゃ捌き切れないです、さんっ



残念ながら、なにを呟いているのかは分からないが、 喜びに沸いている、という感じでは決してないその様子に、 自分の眉間に皺が寄ったのが分かった。

マグルであれば、ここは見慣れた服の数々に喜ぶところだと思ったのだが。
なにしろ、普通の店じゃ置いてないような色んな種類の服があるし。

寧ろ、その色んな種類があることこそが問題だったのだが、 しかし、そのことに気付かない俺にしてみれば、 どうもなにをやっても手ごたえのないこの少女とは、きっと心底合わないのだろうな、と思う。
いや、割と最初からその気配はあったのだが、再認識したというか。
でも。


――ありがとう、ございます。
――私は嫌ってません!



偶に見せる、その心が、どうしても嫌えなくて。


―― と言います。よろしくね。


笑った表情カオは、悪くない。
そう、思ったんだ。

と、俺がそんな風に取りとめなく考えていると、 ぽん、と細い手が俺の肩を叩いた。


「怖い表情カオね?シリウス」
「……リリー」
「駄目よ。そんな表情をしていたら、また怯えさせちゃうでしょう?」


手紙で、ある程度の事情は教えていたので、リリーは呆れたように苦笑した。


「大丈夫。多分、なんだか衣装みたいなのが多くて驚いているだけよ」
「は?衣装??」
「ええ。正直、私も最初に入った時、軽く……いえ、かなり引いたもの」


ぐるっと彼女が周囲を見るのに合わせて、自分も服を見てみるものの、 衣装とそうでない物の区別が、俺にはいまいちつきにくい。
だが、そういえば、リリーはマグル出身なのだ。
そうなれば、彼女の言はきっと的を射ているのだろう……。


「とりあえず、頼んで良いか?下手をすると、安物で済ませかねないからな」


なにしろ、体調が落ち着いた時に真っ先にしたのが、金銭面での心配だったらしい。
守銭奴という感じではないが、リーマスと同じで金に関してはきっちりしたいタイプなのだろう。
となると、自分のことは二の次、三の次にしかねなかい……。
ということで、今日の応援を頼んだのだった。

と、そんな風に俺が少女を案じる発言をしたのが、よほどおかしかったらしく、 ふふっと、リリーはそれは上品に笑い声を響かせた。


「ふふっ。シリウスが困っている女の子に洋服をプレゼントだなんて。
がデリカシーなし男って呼んでた頃から考えれば凄い進歩だわ」


待て。
あの馬鹿、自分のことは棚に上げて、人のことをそんな風に呼んでやがったのか!?

後で100倍にして返してやる……っと拳を握りながら、 俺は少女のことをリリーに任せ、ついでとばかりにハリーに服を買ってやるべく、 小柄な体を探すのだった。







そして、小一時間も経った頃だろうか、 ジェームズ、リーマス、俺で、ハリーに似合う服をあーだこーだ言いながら見立てるのも、 そろそろ限界が近づいていたくらいの時間で、 リリーと、いつの間にやってきたのか店長から、男連中に集合がかかった。


「うふふ。モデルが良いから、もう悩んじゃったわ」
「ねぇ?淡い茶色の髪に、透き通るような大理石の肌!
創作意欲がびんびんだわぁ!」


きゃっきゃと、年甲斐もなくはしゃいでいる様子は、 所謂女子会というものを髣髴とさせるノリだった。


「なんか微妙に仲良くなってるね、君の奥さん」
「流石僕のリリー!異形の物体でさえ、君の魅力にメロメロだなんて!」
「……いや、うん、そうだね」


まぁ、そんな異種間交流に関してはどうでも良いので。
とりあえず、期待せずに試着室から少女が出てくるのを待つ。

正直、こんなもったいぶった登場にしてしまうと、 妙な期待がかかって、残念感が増すと思うんだが。
確かに、綺麗な顔立ちはしてたけど、いいとこ中の上か上の下ってところだろう?
綺麗どころは幼い頃から見慣れているので、 どう着飾っても、少女が人目を引く存在になるとは思えなかった。

まぁ、余程ヤバくなければ、女の格好は褒め称えなければいけない、ということ位、 俺だって知っているので、その心の準備をして待つ。
そして。


……えっと


そろそろ、と。
遠慮がちに開かれたカーテンの先に立っていた彼女を見て。
俺は一瞬、用意していた言葉を飲み込んでしまった。


……どう、ですか?
「っ」


上は、白地に光沢のある白い糸で小花が全面にあしらわれたブラウスで、 袖のところがまるでスズランのようにふんわりとしたシルエットになっている。
そして、下は逆にその腰の細さを強調するかのような縦の細かいプリーツが入った、 淡いピンク色の膝丈のスカートが彩りを添えた。

全体的に清楚な印象の服でまとめられており、 健康的な美しさを誇るリリーやら、生き生きと輝くやらとはまた趣がまったく違う。
なんというか、咲き初めの小さな薔薇のようで……。
触れれば、壊れてしまうような、儚い美しさ。

さっきまでしていた準備を生かすことは、まるでできなかった。


「ああ、とてもよく似合うね。可愛いよ」
「でしょう?絶対、淡い色が似合うと思ったのよね」
「やっぱりリリーはセンスが良いね!見違えたよ!!」
「父さん、見違えたは言い方が悪いんじゃ……でも、うん。可愛いよ!
さんくす(ありがとう)」


絶賛の嵐に、がどこか遠慮がちにはにかむ。
と、俺がぼけっとしていることに気付いたのか、リリーは背後に回ると、 ずいっと押し出すようにして、俺を少女の眼前へと促した。


「実は、これはシリウスからのプレゼントなのよ?」
え?


そして、少女の子猫のような瞳が、俺を見る。
そこに、自分だけが映っているという事実に、めまいがした。


「シリウスさんが……?
「そう。追い掛け回したりして結果的に怪我もさせちゃったんでしょう?
だから、気にしていたみたいなの。悪いことは言わないから、貰ってあげてね」
「!オイっ!?」


待て!そんな言い方をされると、俺、かなり格好悪くないか!?
なんか、それだとリリーの口を通して謝ってるみたいだろうが!

おしゃべりな級友に、慌てて制止をかけるが、 すでに口から出た言葉を回収することなどできるはずもなく。
は、思いがけないことを言われた、とでもいうように、目を丸くしてこっちを見上げる。
そして、少し困ったように眉根が寄せられたが、
やがて。


Thank you very much.(本当にありがとうございます)」


控えめな笑顔が零れ落ちた。


「っ……別に、大したもんじゃない」


ぱっと、思春期の子どものように、顔を背ける俺の姿は酷く滑稽だ。
周囲でそれをにやにやと、意地悪く見ている面々がいることを考えると、 羞恥心で顔から火を噴きそうである。
照れてない。
俺は断じて、照れてなんかいないからな!

がしかし、の顔が直視できないのもまた確かだったので、 足早に進んだ会計で、俺はさっさと口座引き落としのところにサインをした。
室内ならともかく、室外でその格好は寒いだろうと、コートやらセーターやらを数着追加したので、 そこそこの値段になっていたが、そんなものは高給取りなので関係ない。
そんなこんなで、支払金額を大して確認しないままにオレの支払いは完了したわけだが。
……実は、その会計にハリーとリリーはおろか、 他2名の大人分の支払いも混ぜられていたことに気付いたのは、後日のことである。

……ふっ。
そうだな、今回は俺の我儘に付き合ってもらった形だし、 少しの出費位、許容範囲だ……――なんて言うと思ったか!? いつの間に自分の服選んだんだ!?
っていうか、払えよ、社会人!!





連れてくる人選を間違った気がする。





......to be continued




  





+ + + +

この『あっくん』という謎の生き物は、旧サイトに出現する予定だった妖精さんでした(笑)
サイトを訪れると、マウスポインタ―がそれになってしまうという呪い仕様です。
印象としては多分、みかん星人が近いですね。(気になった人は『みかん星人 デスクトップ』で検索☆)
現管理人が頑強に抵抗したため、お蔵入りになってしまったキャラなので、
ちょっとだけ(?)魔法生物になってお披露目です。