世界が二人を別つまで、共にあることを誓いますか?





Phantom Magician、エピローグ





むかしむかし。
とはいっても、そんなにむかしではありませんが、あるところに一人の女の子がいました。
女の子は読書が好きで、たくさんの本を読みます。
そして、ある本の中にひとりぼっちの狼を見つけました。
不器用なほど優しいその狼を、女の子は一目で好きになりました。

けれど、本の住人である狼と女の子はお話もできません。
女の子はとても悲しくなりました。
そんなある日、そんな女の子を見ていた友達の魔法使いが、 魔法で女の子を本の世界に送り出してくれました。
女の子はなにしろか弱かったので、それを助けてくれる黒猫をお供に付けて。
無事に本の世界に辿り着いた女の子は、それから狼と一緒に楽しい毎日を送りました。

けれどある日のことです。
女の子は、この本の中のお話が、自分の知っているものと違うことに気付きました。
本当はある男の子が倒してくれるはずの悪者を、 すでに他の人が倒してしまったのだと聞いたのです。
女の子は喜びはしたものの、一体、どこの誰がそんなことをしてくれたのだろう、と不思議になりました。

その誰かは写真もなく、名前も分からない人でした。
そして、その誰かに皆が感謝をしていました。だって、悪者を退治してくれたのですから。
ところが、女の子の大好きな狼は、その誰かのお話になると、とっても暗いお顔になるのです。
そう、その狼と誰かはとっても仲良しだったのに、 誰かは悪者の呪いで、いなくなってしまったというのです。
女の子は狼が暗いお顔になると、すごく悲しい気持ちになります。
そして、同時に、そんなお顔にしてしまう誰かが羨ましくてたまらなくなりました。
そう、女の子は狼を独り占めしたいくらい好きになっていたのです。

そんなある日のこと。
悪者がもしかしたら退治されてないかもしれない、という噂を女の子は聞きました。
物語では、狼は悪者のせいでとても辛い想いをしていましたので、 女の子は慌ててそれを確かめるために、魔法の鏡のところに行きました。
ところが、魔法の鏡は悪者のことではなく、いなくなってしまった誰かのことを教えてくれたのです。
女の子は本当に驚きました。
その誰かとは、なんと女の子自身のことだったのですから。
でも、女の子には悪者を退治した覚えなんてありません。
女の子は悩んで悩んで、とうとう過去に飛んでいく魔法に思い当たりました。

女の子は狼のことが本当に好きでした。
独り占めしたいと思う位、好きでした。
でも、本当は、狼が幸せならそれだけで幸せになれる位、大好きだったのです。
本で読んだ時と違って、女の子がやってきた時、狼は寂しそうではあっても、とても幸せそうでした。
女の子はそれが本当に嬉しかったのです。

だから、女の子は。
狼を助けるために、過去の世界に行くことにしました。

過去の世界で、女の子は一生懸命悪者を退治しようと頑張ります。
最初は、不思議な少女に対して警戒していた人たちも、そんな女の子の姿を見て、 女の子のことが好きになっていきました。
たくさんの友達に囲まれて、女の子はとても幸せでした。

そして、数年が経ち、
大変なことも辛いこともありましたが、女の子はとうとう、悪者を一度退治します。
でも、そこで女の子の心は壊れてしまいました。
とても優しい女の子でしたので、悪者とはいえ、誰かを倒したことに心が悲鳴を上げたのです。
このままでは、その命の重さに耐え切れなくなることに気付いたお供の猫は、 女の子が完全に壊れてしまう前に、本の外の世界に女の子を帰します。

女の子は元の生活に戻り、寂しくても頑張ろうと心に決めました。
けれど、それからというもの、女の子の世界には色がありませんでした。
楽しいことをしても楽しくありません。
嬉しいことをされても嬉しくありません。
女の子は狼に会いたくて会いたくて、泣くことしかできなくなってしまったのです。
涙は冷たくて、女の子の心は凍えてしまいました。



ただし、この話には続きがあるのです――…







「リーマス、リーマス」
「なんだい、?」
「んっと、こんなこと言うの恥ずかしいんだけど……」
「うん?」
「トイレ行くんで離してくださいお願いします……っ」
「却下」
「却下!?嘘だろ、オイ!」
「却下って言ったら却下」
「だって、リーマス!あたしリーマスに抱っこされてるから、 ずっとトイレ行ってないんだよ……!」
「だーめ」
「くっ!そんな可愛く言ってももう騙されないんだからな……!
無理です無理。もう限界です。破裂寸前です」
「大丈夫。破裂したらちゃんと魔法で綺麗にしてあげるから」
「愛が重い……!!」


「あ!リーマス、あたし今度、郵便局行きたいんだけど」
「誰かに手紙でも出すの?」
「うん。皆には心配かけちゃったから、帰還報告的な?」
「……皆って?」
「えっとね、まずは愛しのリリーでしょ?セブルスでしょ?
ジェームズはリリーから連絡行くだろうけど、シリウスがなー。
闇払いって連絡中々つかないんだよね、確か。
ハー子さんとかハリーも別れたままクリスマス休暇入っちゃったから、一言謝りたいし。
それとそれと、レギュにも送らなきゃ!自分責めてそうだもんね。
あ、ついでにクィレル先輩にもあの変わりようについて是非問い質したい」
「…………」
「……リーマス?」
「うん。まぁ、君が人気者なのは分かったけど、それはもっと後にしようか」
「え!?でも……」
「しばらくは私の独り占め。当然でしょ?」
「〜〜〜〜〜〜うぁい!」


「リーマスー」
「はいはい。今度はなに?」
「んー……呼んでみただけ」
「くす。そうなんだ?……
「はーい?」
「私も呼んでみただけだよ」
「あは!」



「リーマス、大好きだよ。世界を救っちゃうくらいにね」
「私も君を愛しているよ。世界を愛しく思えるくらい」







女の子は元の生活に戻り、寂しくても頑張ろうと心に決めました。
けれど、それからというもの、女の子の世界には色がありませんでした。
楽しいことをしても楽しくありません。
嬉しいことをされても嬉しくありません。
女の子は狼に会いたくて会いたくて、泣くことしかできなくなってしまったのです。
涙は冷たくて、女の子の心は凍えてしまいました。

けれど、そんな姿を見ていた、友達の魔法使いは、 ある日泣いて泣いて止まらない女の子に対して、こう言いました。

「自分を呪うのはもうお止め」

そう、悪者を倒した女の子を呪っていたのは、 悪者ではなく、女の子自身だったのです。
そのことに気付いた魔法使いは、女の子が望めば呪いは解けるということを教えてくれたのでした。
女の子はさっそく、お供の黒猫と一緒に狼のところへ戻ります。
すると、狼は女の子がいなくなってしまったので、同じように泣いて暮らしていました。
涙は冷たくて、狼の心は凍えてしまっていました。
それを見て、女の子は、また泣いてしまいます。
でも、その涙はもう冷たいものではありません。
とても温かくて、優しい涙でした。

女の子が流した涙は、やがて狼の心を溶かして春を呼びます。
そして、二人分の涙を吸ったその地面は。
やがて、見たこともないくらい、美しい花を咲かせましたとさ。



「これで、このお話はおしまいだ。感想は?」
「まぁ、とにかく、さんはルーピン先生にまた会えるんだよね?」
「ああ。そのはずだ」
「だったら良かった……けど」 「けど?」 「さんは気づいてない・・・・・・?」
「まぁ、気づいてないだろう」


「だから、私もホグワーツへ行く」
「……さんをよろしくね?」
「ああ」





誓います。
まぁ、もっとも、世界ごときに別けられる気はないけどね。






......Story of “Phantom Magician” is now over.
However, they continued their story.