本音をぶちまけるなんて、できないと思っていた。 Phantom Magician、140 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 誰の物かは分からないが、適当なトランクに座り込み、 (多分、その痛み具合から言ってジェームズだと思う) ぐすぐすと鼻もある程度収まってきた所で。 「……一体なにをしているんだろう」 あたしの自己嫌悪はいよいよピークに達した。 効果音を着けるならずーん、とかじゃなくズドーンとかどんどんどろどろである。 まぁ、つまりはドン底だ。 穴を掘ってでも入りたいと思ったことは多々あるが、今は穴なんかじゃ足りない。 核シェルターにでも籠もりたい……っ ここに来たばかりの時はもうちょいテンション高めだった。 気分的にはラフメイカーからの YAH YAH YAH だったのだ。 ふっつーに「今から一緒にこれから一緒に(シリウスを)殴りに行こうか♪」 ってリーマスを攫いに来たはずだったのに……。 さっき、というか割と現在進行形で晒している醜態に、頭を抱えることしかできない。 幾らリーマスの言葉にショック受けたからって、 何 故 泣 い た し 自分。 いや、まぁ、確かにラフメイカーもめっさ泣くけれども。 泣くつもりなんてこれっぽっちも無かったのにっ しかも、またぺろっと告白付きだよ。 いい加減自分が嫌になるよ。 正直、あたしがリーマスだったらこんな面倒臭い奴すぐさま追い出す。 っていうか、寧ろ部屋に入れない。 何故って鬱陶しいから。 改めて、今の状況が奇跡的なそれだと分かったものの、 じゃあ、それをどう有効利用したら良いのか、となるとこれまた気分が落ち込む。 さっきのリーマスの発言を聞いている限り、嫌われ度はMAXである。 無視、よりは良いのかもしれないが、でも大っ嫌いって。 大っ嫌いって……っ 「……うぅ……」 思い出したら、また涙が滲んできた。 いや、リーマスの性格上、あんなことがあったのだ。 あたしを拒絶するのなんか当然っていうか、寧ろそれがなきゃリーマスじゃなくない?位の気持ちで来たから、 ある程度は覚悟していたし、我慢だってできた。 だがしかし。 やっぱり面と向かって言われるのって、普通にきつい……っ いや、もう本当に。 うっかり死にたくなったじゃないか。 っていうか、あたし、結構な勢いで自己犠牲甚だしい悲壮な覚悟さえして過去に来たんだよ? それに対する仕打ちか、これ? もちろん、自分で決めたことなんだし、リーマスにしてみれば大きなお世話なのかもだけど! でもやっぱり、報われないのって心折れるよ、普通に。 あたし元が我が儘なんだからさ。 愛情注いだら、同じぐらい返して欲しくなるんだよ。 世の中には、滅私奉公やら、無私の心やらがあるらしいが。 そんなもの、結局は幻想の中にしかないのだと思う。 だから。 「……またそうやって泣く」 「だ、だってぇ……!」 あたしみたいなのは、些細なことで、心を支えているのだ。 今だって、リーマスから話しかけてくれたってことで、涙腺は決壊だ。 もう、テトラポッド並の防衛力もありはしない。 「……う、うぇ……だっ、りー、マスが、酷いこ、ばっかりっ」 「……僕のせいだって言うのかい?」 「…っほら、恐いカオ、するぅっ」 愛されるよりも愛したい? んな訳あるか! 愛したら愛されたいよ! 人によって比重が変わることはあるだろうさ。 でも、誰だって愛されたいんだよ! あたし以上に愛せとか無茶は言わないけど、同じ分だけ愛せってんだ! きれい事を省くと出てきたのは、そんな本音。 「……あ、たし、嫌い、で、も!あたしは、すき、なのに……!」 そして、そんな本音に対し、窓をぶち破るところまではやってくれたものの、 気を利かせてその後は部屋からいなくなった案内人はGOサインを出した。 どこぞの歌のように「ありのまま」で行け、と。 それ以外に、あたしはもう打開策を持っていなかった。 だからもう、やけくそだ。 取り繕うのなんか、もう止めた。 謎の東洋系美少女でも名も無き魔法使いでもない、素の として。 泣いて叫んで言いたいこと言ってやる! 「あたしの、きもち……うそ、とかっ、言、わないでっ!」 「…………」 リーマスはさっき怒ってないの?とあたしに訊いた。 そして、それに対するあたしの答えはこうだ。 当然。 怒 っ て る に 決 ま っ て る だ ろ う が ! リーマスにも怒ってるし、スティアにだって怒ってる。 もちろんとち狂ったシリウスなんか論外だし、リドルに対しては言わずもがな。 怒ってるかだと? ここで怒ってませんって言うのは聖人君子か? 「リーマスの、ばか……っ!!」 いや、聖人君子だってここは怒るところだろう。 「馬鹿……ね」 「そうだよ!リーマスは、馬鹿だっ!! ごちゃごちゃごちゃごちゃ!ねちねちねちねち!考えすぎなんだ! 普通に、『怪我させてごめん』で良いじゃん! 『もうこんなことしないから』って。 『僕も好きだよ』で良いじゃんか!」 「……さりげなく両思いになろうとしないでよ。というかなんだか性格違わない?君」 「うっさい!」 後から思えば、あたしこの時すげぇこと言ってたなーと思う。 でも、どうしてだろう? 本音中の本音で自己中心的な言葉を垂れ流したというのに、 リーマスは呆れたような表情を浮かべながらも、決してそれを聞き流そうとはしなかった。 その後も、あたしは今までの恨み辛みをひたすらに本人に対してぶつけ続ける。 (『ことある毎に引きこもるんじゃない』とか『無視されてた時リアルに嫌だった』とか) そして、再度あたしの涙が引っ込んできた辺りを見計らってだろう、 リーマスは彼にしては珍しくも気怠げに、こちらを見る。 「ねぇ、?」 「!」 いや、気怠げというか実際に怠いのだろう。 しばらく引きこもり生活をしていた、という彼は、元々の人狼として他より高いスペックを生かせていない。 食事だってロクに取っていなかったらしいし、多分、心身共に限界だ。 でも、それでも。 彼はあたしとの会話を止めようとはしなかった。 「君は、僕のどこが好きなんだい?」 「…………」 まぁ、正直すごくどうかと思う続け方だったけど! 「え……それ訊くの?マジで??」 付き合ってる女の子が「あたしのどこが好きなのよ!?」って詰め寄るとかは少女漫画の王道ですよ? でも、しかし、訊いてるのは男。 しかも、付き合っている訳でもなんでもない男。 ごめんごめん、訊いてくる意図が分からない! がしかし、あたしには意味不明でもリーマスにはれっきとした理由があるらしく、 その瞳には真剣な色があった。 「最初から僕が狼人間だって知ってたんだろう? よっぽどの理由がないと、そんな相手好きにならないよ。普通」 「……リーマスって本当にあたしの話、全部無視してたんだね」 あたし、最初に言ったじゃん。 一目見た時から決めてました!付き合って下さい!!って。 「…………」 「リーマスが狼人間なのは知ってたっつの。 それでも、一目見て大好きだってなったんだっつの。 よっぽどの理由ってなに?ねぇよ、んなもん。 ただひたすらにリーマスが好きで笑ってくれたら嬉しくて話したくて。 とにかく、どうしようもなくなったんだよ」 「!」 なんだこの羞恥プレイ。 どうしてあたしは好きな相手を前にして、その好きっぷりをアピールせにゃならんのだ。 さっきの告白ですでにあたしのHP0に近いんですけど。 なんかもう、すでにアンデッド状態なんですけど。 アンデッド=生きている死体。 つまり、あたしの目はすでに死んでいる。(チーン) がしかし、リーマスは死んだ人間にも鞭打つタイプであるらしく、 魂の抜けそうなあたしの状態はオールスルーで、「はつまり、生粋のマゾヒストなんだ」とあっさり言った。 って、 「異議ありぃいいぃい!!」 「うわっ。いきなり叫ばないでよ」 「確かにあたしは一部のサド野郎共に絶大な人気を誇っているけど、 違うよ!?あたし、身体的なMとか無理だから!精神的なMだから!!」 「……力強く訂正するところ、そこなんだ」 「だって、痛いのも苦しいのも辛いのも嫌なんだもん!!」 そこは譲らない!と、一気に上がったテンションと共に高らかに言い放つ。 すると、そこで今度はリーマスの方がどよん、と空気を重くさせた。 「……なら、やっぱり君はおかしいよ」 「えぇ!?そんなことないよ、精神的なMなんてごろごろいるよ!?」 ちなみに、一番身近な例としてはロンとかロンとかロンとか(あれ、ロンしかいない?) ジェームズはリリーにだけは完全なるドMになるが、基本Sだしな……。 と、別に思い出したくもないが、懐かしの赤髪(notシャンクス)を思い浮かべていると、 リーマスの視線があたしの顔ではなく、腕に移る。 ひたと当てられたその鳶色の瞳が痛ましげに細められた。 「っ」 その視線の意味に気づかないほど、流石にお気楽にはできていない。 あたしは、とっさに身をよじって左腕を後ろに回したけれど、 無理な体勢で走った痛みに、思わず表情が歪む。 そして、リーマスがそんなものを見逃すはずはなかった。 「……痛かっただろう?」 「いや……まぁ、痛くないって言ったら嘘だけど」 「だったら、そんなことをした人間は許せないって思うものなんじゃないのかな。 スキだったとしても……嫌いになる。 居場所なんて、どこにもなくなる。僕は、それが嫌だ」 「!」 どんどんと小さくなる音に、低くなる声色。 それを聞いて、あたしはあれれ?と首を傾げたくなった。 今の話し方を聞いていると……なんだか、あたしに嫌われたくないみたいだ。 え?あれ? あれだけ盛大に嫌いだなんだと言ってたのに。 なんだか、凄いことを考えてしまったために、あたしはどうしても堪えきれず、 俯いてしまっているリーマスの瞳を覗き込む。 「!……なんだい?」 「…………」 そこには、いつもの超然とした監督生さまはどこにもいなくて。 腹黒大魔王も、天使の微笑みもなくて。 「……なあんだ」 「?」 「そこに、いるじゃん。リーマス」 「!」 届かないと思っていた。 でも、手を伸ばせばすぐそこに、君はいた。 「あたし、嫌いになんてなってないよ。ジェームズ達と同じで」 「っ!!!!」 「あたしおかしいんでしょ?普通じゃないんでしょ? だったら大丈夫。普通は許せないって思うのかもしれないけど、あたしは許すよ。 世界中の皆がリーマスを嫌いになったって、あたしだけは大好きだって胸を張るよ」 だから。 だから、ねぇ。リーマス。 「笑って?」 「…………っ」 「リーマスが泣きたいのに泣けない時は、あたしが代わりに泣くよ。 だから、リーマスは馬鹿みたいに笑っていて。 もっともっと、ジェームズ達みたいに、くっだらないことをやろう? シリウスが阿呆なことしたら全力でぶん殴ってさ。 それで、先生達に怒られて。疲れたら天蓋付きのベッドで寝よう」 引きこもりたかったらそれでも良いだなんて、あたしは言わない。 だって、それじゃあ、あたしはリーマスに逢えないもん。 「大好きだよ。リーマス」 仕切り直し、とばかりに、あたしは精一杯の真心を込めて笑う。 まぁ、泣いた後で目は赤いし、涙の跡はあるしで、ぶっちゃけやばいと思うが。 「……君は……っ」 でも、リーマスのビックリお目々が見れただけ、良いんじゃないか。 そんな風に開き直った時点で、嗚呼、あたし終わってる。 そして、リーマスがあたしの真剣な告白に、なにかしらの答えを出そうというその瞬間、 「、全ての元凶連れてきてあげたよ」 「〜〜〜なんだ、お前!?放せっ!!」 金髪美青年が、黒髪美青年を部屋の中にぶん投げてきたので、話はそこまでとなった。 (相変わらず、タイミングが狙い澄ましたように正確だ。っていうか腕力どうなってるんだ) あたしは、しっかりと自分の杖をポケットにしまうと、にっこり笑顔で拳を握る。 「ふ、ふふ。ふふふふふふ」 「……?」 そう、幾らスティアに錯乱の魔法を解いてもらってピンチに駆けつけてくれようが、 肋骨折るくらい頑張ろうが、だ。 こいつ――シリウスがリドルの術中に嵌っていなければこんなことにはなっていない訳で。 「リーマス」 「……なんだい」 「わざわざ行く手間が省けたよ☆」 「は?」 「っ!?お前、なんでここ……ぼげぶらっ!?」 さぁ。 「これから一緒に殴っていこうか!」 「〜〜〜待て!あの件については、その、悪かっ……!!」 「悪いで済んだら警察はいらん!!」 「警察!?ああ、マグルの……って、待て!机はまずい!机は!! っていうか、お前すでに一回俺のこと殴ってるだろう!?」 「一回で済む訳あるかボケっ!ほら、リーマスも!」 「……うわぁ、メリケンサックとか君どこから出したの?」 「って言いながら、さっさと嵌めるなリーマス!!」 「え?いや、うん。ただ、確かに殴るのもありかな、と」 「あり!?そんなことでお前……ぐぎゃっ!!!」 「はい、よそ見しなーい」 「っていうか、あのスリザリン生誰だろう?の知り合い??」 「ああ、僕は今回最大の被害者だよ。ほんと、犬なんて死ねば良い」 「ふはははは!潰れたトマトにしてくれるわー!!」 「ぎぃやぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁ!!」 案外、やればできるもんだ。 lign=right>......to be continued
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