君はまだ気づいていない。 Phantom Magician、123 「君って本当に……お人好しだよねぇ」 「言うな……っ」 唸るは苦虫を100匹近く噛みつぶしたような、それはもう酷い表情だった。 一日の授業を消化した放課後、とりあえず、クィディッチの練習を見ておけということで、 は現在進行形で競技場の客席に座らされている。 さっきまでそんなこの子に華麗なテクニックを披露していた僕だが、 流石にその表情には様子を窺いに来ざるを得なかった。 ぷかぷかと目線を合わせるように箒で浮かび、それを恨めしげに見てくる相手に問いかける。 「で、見学してた感想は?」 「あー……最悪」 「そうかい?我がチームながら、そこそこまとまってると思うんだけど」 「ああ、いやチームの仕上がり具合じゃなくて。 あそこに混じんないといけないとか、普通に無理じゃね?って感じ」 はぁーっと、海より深く、岩より重い溜め息を吐く。 まぁ、この子の場合、上手い下手を抜きにしても、 あの奇想天外な飛びっぷりでは間違いなくチームに大混乱をきたすことだろう。 だから、僕も反対したんだけどさー。 派手好き、お祭り好きの寮生の前で、見応え抜群の飛び方をしてしまったのが運の尽きだった。 (え、その原因作ったの僕じゃないのかって?細かいこと気にしない気にしない☆) 今のところは、あの飛び方だと全体練習は危険、ということで、 キャプテンには僕から上手いこと言っているので。 は当日以外、ほぼ毎日こうして見学、という日程が組まれている。 (練習期間がそこそこあれば、全体練習は必須なんだけど。まぁ、試合今週だし) で、数の暴力に屈したは、ちょこんと座席に座ってその日程に従っていた。 明らかにしぶしぶ、仕方が無し、という空気は纏っていたが。 「…………」 そんなを見て、なんとはなしに思うことがある。 汗をかかなくて良いなぁ、と思う反面、 どうなんだろう? 練習に励む人たちをただ眺めているだけ、というのは苦痛ではないんだろうか。 自分では飛ぶこともなく。 ただただ、座席で僕らを見ているだけ。 試合なら、面白みもあるだろうが。 今しているのは、なにも特別なことのない練習だ。 それは考えるまでもなくつまらない退屈な時間だと思う。 少なくとも、僕だったら絶対に耐えられない。 箒が好きで。飛ぶことが好きで。クィディッチが好きな僕には。 嗚呼、でも、はそもそも、箒が好きじゃないんだっけ? それって、 「人生半分以上損してるよね……」 「あ?」 「いや、こっちの話」 だから、そんなやさぐれた瞳こっちに向けないでくれる? 折角の可愛らしい顔も、その表情のせいで色々台無しだった。 そして、は微妙な表情もそのままに、むすっと抗議めいたことを口にした。 「あのさー」 「うん?」 「絶対控えの人が入る方が良いと思うんだけど。 こういうのってチームプレイじゃん?チームの和とか雰囲気大事じゃん。 こんな、ぽっと出の人間入ったら絶対空気悪くなるって」 「でも、キャプテンが君に惚れ込んじゃってるからねぇ。 元々、は好感度高いから、チーム全体で歓迎ムードだよ」 余談だが、そのおかげで、反対している僕が完全に悪者状態だったりもする。 僕もチームのためなら、前に負けたことなんか水に流して賛成するってのにさ。 器が小さいだの、そんな奴だと思わなかっただの、散々な言い草なんだよ、みんな。 反対するのにはそれなりの理由があるっていうのに、そこんとこ誰も分かってくれない。 嫌がってる人間に無理にやらせたって、良いことなんか何もない。 っていうか、無理矢理やらせるとか、クィディッチに対して失礼だと思う訳だよ。 こんなに熱いスポーツなんだからさー。楽しくやりたいよね、ホント。 「っていうか、ジェームズは練習参加してなくて良いの?」 「ああ、うん。僕がいると寧ろ雰囲気が悪くなるっていうか」 「は?」 「ああ、いや、うん。これもこっちの話」 微妙にチームメイトから浮いている現状をに言っても、 無駄に心労を与えかねないので、僕は適当な台詞で誤魔化す。 ただでさえ、胃を抑えているような状態のこの子をこれ以上追い込むのは、 あまり宜しくないことだろう。(主にリリーの好感度とか好感度とか好感度とか) こうして見ると、人前に出るのがあまり得意じゃない、 という言葉も本当のような気がしてくるから不思議だ。 思えば、は結果的に凄まじく目立つことはあっても、 自分から、というのはほぼなかったかもしれない。 僕と箒で対決した時だって、そりゃあもう死にそうな顔色だったし。 (それでいて不敵な表情を浮かべるのだから、本当に変な子だ) と、そんなことを考えながら、うろうろと視線を彷徨わせていたその時、 僕は天啓を受けたかのように、はた、とあることに気づいた。 「そういえば……ってひょっとしてひょっとすると箒持ってなかったりするのかい?」 「え?あ、うん。ひょっとしなくても、ないねー」 思い出すのは、そう、一緒に箒に乗った時のこと。 あの時、が自分の箒がないなどと言ったために、僕たちは学校の箒で対決する羽目になったのだ。 自分の箒とはまるで違う、あの年代箒の頼りなさに何度歯がみしたことか。 やっぱり、箒は自分に合った物を一人ひとつは持つべきなんだ……って、 「そうだよっ!」 「へ?」 っていうか、なんで今まで僕はそんなことにも気づかなかったんだろう!? が今まで箒を好きじゃなかったのは、きっと自分に合う箒じゃなかったからだよ! 体格だって手の大きさだって色々あるんだから、自分にぴったり合うのさえ見つければ、 操作も格段に楽になるし、爽快感もあるしで、まるで違う!! 「ええと、やっぱり品揃えで行けばダイアゴン横町の高級クィディッチ用具店かな? でも、ロンドンまで行って戻るとなると、姿現しのできない僕たちにはちょっときついか? いや、でもどうせならきちんとした所で買わないと後々……」 「ちょいちょいちょーい待ち!」 と、今後の計画をめまぐるしく立てていたその時、制止の声が掛かる。 なんで止めるんだ、と若干不機嫌な表情でそちらを見れば、 が面白いくらいに目を真ん丸にして、僕を凝視していた。 「え、ちょ、なんの話?」 「なんの話って……おいおい、。君、まだこんなに明るいのに寝ていたのかい?」 「いや、突然、寝言言い出した男なら目の前にいるけども。 いきなり、品揃えだのロンドンだのって……」 見るからに困惑を露わにした表情で、 は眉根を寄せながら、恐る恐る口を開く。 「ひょっとして、箒買いに行くとか、そんな話じゃない……よね?」 …………。 …………………………はぁっ? 「えぇ!?寧ろそんな話以外のなにに聞こえるんだ!!」 「うえぇ?まさかのお買い物イベント発生!?」 「そうそう、まぁ、3日もあればギリギリ戻ってこれるから☆」 「すみません、その3日間もがっつり授業あるんですけど!?」 ざっと顔色を無くしたを問答無用で引っ掴み、チームメイトへ一言かけると、 僕は善は急げとばかりに競技場を後にした。 「……で、マジに来ちゃうあたり、パねぇわ」 「あはははははは!」 そして、それから数時間後。 宣言通り僕たちはダイアゴン横町に辿り着いていた。 え、それにしたら早過ぎやしないかって? それはだね、僕としてはホグワーツ特急に乗っていくつもりだったんだけど、 が姿現しができるとか言い出したからさ! なので、ホグワーツの敷地内からこっそりホグズミード方面に抜け出して、 後は、一緒に姿くらまし……ってコースだね。 「いやぁ、やっぱり持つべきものは優秀な友人だね」 「本気で3日間も授業サボらされそうになったら、知恵の一つ二つは絞るよね、うん」 『……で、この僕を巻き込んだ、と』 と、突然、にやぅぅううぅ、となんとも形容しがたい声で、の猫が鳴いた。 『自分じゃ無理だもんね。姿現しとかね』 「うううぅ、マジすみませんスティアさん」 『ふふ。良いんだよ?一体どんな見返りを要求しようとか楽しみが一杯さ』 「許して下さいっスティア様!!」 で、平謝りに謝りまくっているの図が出来上がる、と。 凄まじく不機嫌そうな猫と一緒にいる姿を見ると、不思議なことに保護者と子どもみたいだ。 ああ、まぁ、なんでもお目付役らしいから、ある意味間違っていないみたいだけど。 『は?猫も連れて行く??なにを馬鹿なことを』 『いや、実はちょっと家庭の事情であんまり離れちゃいけないんだよ』 『……どんな事情なんだい、それ?』 『うん、すげぇ複雑で聞くも涙、語るも涙なんだ』 『へぇ……で?』 『で?』 『聞いてあげるから言ってご覧よ』 『〜〜〜〜や!ごめん、これはちょっと個人情報関わってくるからっ』 『それじゃ、聞くことも語ることもできないじゃないか』 そういえば、箒で暴走気味だった時も、あの猫が来てから飛行がやたらと安定したんだよね。 いつもいつも絶妙なタイミングで現れるのといい、猫とは思えないあの鋭さといい……。 なんだか、本当にの安定剤というか、護衛というか。 魔法猫にしたって、なんだかできすぎな気がした。 自分の例があるので、まさかこの猫アニメーガスなんじゃ、なんて気もしてくる。 いや、だって妙に人間臭い時あるだろう?この猫くん。 で、そんなことを思うと、連想することは色々とあるもので。 僕の脳裏には、一人の青年の姿が鮮明に思い出された。 『……まったく。人の物には手を出すなって教わらなかったのかい? か弱い女の子を無理矢理手篭めにするなんて、最低だね』 目の前の猫やと同じ漆黒の髪で。 しかし、全く違う、冷酷で残虐な色を持った男。 遠い親戚だという彼は、あの時は偶々部屋を訪れていたというが、 果たして、それは本当のことだったのだろうか? に気を取られていたから、部屋の様子に気を配らなかったのは確かだ。 しかし、人ひとりを、そう簡単に見落とすだろうか? それも、3人もの人間が。 雁首を揃えて? 僕には寧ろ……彼はふってわいたように見えた。 今まで目立たないようにしていたものが、堪えきれずに姿を現したかのように。 そして、あの青年に向けられた冷たい視線。 僕にとって、その印象が、推測のほぼ全てを決定している。 あれは……時折、スネイプが僕たちに向けるのと同じ、殺気だった。 目の前の、この猫からも時折感じるのと同じ、殺気だったのだ。 「……となると、あんまり馬鹿な真似はできないってことになるのかな」 ぽつり、と思わず漏らした呟き。 それは、謝り続けるの耳には届かなかったものの、 それを受けて、一瞬だけ、黒猫がこちらを見たような気がした。 ぞわり、と。 背中が粟立つ。 がしかし、僕はその感覚を無理矢理に無視して、 意気を上げるためにも白亜の建物へ足を進めようとした。 「……さて、じゃあ、まぁ、できるだけ早く帰るためにも、まずはグリンゴッツに行こうか!」 「え、メンドイ(きぱっ)」 の一言に、あえなくずっこけたけれども。 ぷるぷると震えそうになる拳を必死に押さえつけ、 ありえない一言を言い放った奴を見る。 「……。君、そんなに手持ちのお金あるの?」 「んー?あるっちゃあるけど、そんなにはないかな?」 「へぇ……じゃあ、箒をどうやって買うつもりなのかな? まさか、箒が一山幾ら、とかそんな格安で買えるとか思ってないよね。まさかね?」 にこにこ、と傍目にはとてもにこやかに問いかける僕。 意識したのは、もちろん我らがリーマスなのだが、 生憎僕には彼ほどの(負の)オーラは出せなかったらしく、 は怯えることもなく不思議そうに首を傾げていた。 「いや、正直幾らくらいなのかは知らないけど。 でも、高額な商品って、口座引き落としで支払いできたよね?確か」 「…………」 『うん。これぞ社会人の知恵だね』 その発想はなかった。 「……ごほん。あー、口座にお金はあるの?」 「まぁ、そこそこはねー。一応あたしもバイト(??)してたし」 『バイトっていうか君の場合、賭けだよね』 なんとなく、気まずい雰囲気を咳払いで誤魔化し、突っ込んだことを聞く僕に対して、 の態度はごくごくサラッとしたものだった。 がしかし、紡がれた思いがけない言葉に隣を見る。 下の方にあるその横顔は、少しも得意げには見えなかった。 「…………」 この年にもなると、周囲に隠れてバイトをしたりなんだりで遊ぶ金を稼ぐ連中が出てくる。 そして、彼らは一様にして、得意げに、誇らしげにそのことをひけらかすものだ。 親の庇護からほんの少し出ただけのことでも、それは自分たちには大きなことだから。 でも、今のの言葉には、まるでそんな響きはなかった。 稼いだお金で物を買う。 そんなこと、ずっと前から当たり前だったかのように。 「バイトって?」 「え?あ、あー……うーんと、やったことあるのは家庭教師とか? あとは飲食業でレジ打ちしたりー。まぁ、色々だね」 こういう時、のことを本当に不思議な人間だと思う。 物腰やらなにやらを見ていると、シリウス、とまではいかないまでも、 そこそこ裕福な家の子なのだろうと思うのに。 奇妙なほど、所帯じみた気配を覗かせる時がある。 無邪気に笑ったかと思えば、妙に達観した瞳をしていたり。 「なんだか、と話していると、偶に同い年じゃないみたいな気がするね」 「…………っなな、な、そ、それじゃ、あたしがふけてるみたいじゃんかっ」 『実際、現時点でかなり年上だろ、君』 「あー、人生経験豊富って意味だよ?」 「嘘くさっ!」 ショックでも受けたのか、微妙に挙動不審気味の。 そんなこの子を見ていると、 なんだろう、そんなこと考えてる自分が酷く馬鹿馬鹿しくなってきた。 スニベルスなんかと共感するなんて真っ平ごめんだが、 でも、もしかしたら。 あの性格最悪の根暗陰険男が、を排除しようとしないのは、きっと同じ理由からだ。 「酷いなぁ。そんな風に言われたら幾ら僕でも傷ついちゃうよ」 「リリーからあれだけボロクソに言われても喜んでる奴がなにぬかす」 本当に、は見ていて飽きない。 そして、僕たちは無駄話もそこそこに、目的地である高級クィディッチ用具店に辿り着いていた。 その目映いばかりのお宝の山に、どうしたって僕の目は右に左にと彷徨ってしまったが、 ふっと、隣のが微妙なテンションで箒を眺めているのを発見し、ぐっと気を引き締める。 危ない危ない。 最高級箒磨きセットやら、クイーンスイープの最新モデルなんて見とれてる場合じゃなかった。 僕は、この子にぴったりの箒を見立てに来たんだから、自分のことは後だ。後。 (嗚呼、でもあそこのゴーグル凄く僕に似合いそう……後でじいちゃんに強請ろう) 「ええと、予算はどのくらいだい?」 まぁ、流石に自分で買う訳でもないので、最低限その位は把握しておこうとに声をかける。 すると、は「んー」と周囲の箒の値段を確認すると、それはもう豪気に「特になし」と言い放った。 って、特になし?え、聞き間違い?? 「……特に、なし?」 「うん。まぁ、この位なら特に問題なく買えると思うよ?」 それは……そこにある国際試合級の箒の値段(約500ガリオン)も見た上での言葉なのかい?。 それだけあったら、半年くらい下手をしたらなにもしないで暮らせるくらいなのだけれど。 ……なんだか、いよいよ私生活が恐ろしい子である。 と、妙な戦慄を僕に与えているとも知らないは、「どれも同じに見えるなー」などと、 箒好きにはとても信じられないことを言いながら、手近な一本を手に取った。 「ああ、それはコメット260だね。結構手軽な値段だし、パワーがあるよ」 「ふーん。でも、ちょっと重いかも?」 「そうかい?じゃあ、こっちのクイーンスイープ5号なんかはどうかな? コーナーリングに優れていて、君の乗り方にも結構合うと思う……って、 ううぅううぅぅーん。ちょっと柄が太い……かなぁ?」 「え、そう?こんなもんじゃないの??」 「いや、ちょっとだけど、手に余っちゃってるよ。 箒にも女の子用とか子ども用とか、もうちょっとバリエーションがあれば良いんだけど。 規格がどうしても統一されちゃうからなぁ」 むむむむ。 自分のならしっくりくる、こないで結構感覚的に決められるけど、 人のを選ぶとなるとそうもいかないから中々難しいな。 そして、僕はあーでもないこーでもないと、に取っ替え引っ替え様々な箒を持たせた。 遠目に見たり、箒自体を眼鏡を外して見てみたりしながら、それはもう真剣だ。 と、もう数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの数の箒を見たところで、 「……ぷっ。はは、あはははは!」 堪えきれない、とばかりに溢れた軽やかな笑い声が、僕の耳朶を打った。 慌てて振り返ると、そこには、息苦しさのせいか頬を染めて、 こちらを見ているの姿が。 「なに?なんで笑ってるんだい、」 がしかし、こっちには特に面白いことなどなにもない。 その笑いの理由が分からず、きょとんとするしかない僕に、 はその長い指を伸ばしてきた。 「あ、あははは、ごめ……ぷ、だって、ジェームズ、顔やばいんだもんっ」 「は?」 トン、と軽く突かれた眉間。 「目、細めすぎ」 「っ!」 そして、共犯者のように、どこか茶目っ気たっぷりに笑みを向けられる。 と、それを見た瞬間、一気に顔に血の気が上ったのを自覚した。 「〜〜〜〜〜〜っ」 今の自分はきっと、世にも情けない表情をしていることだろう。 ついこの間、自分たちの部屋でもそうだったように。 がしかし、そんなものを人様に晒すのは男の沽券にも関わる。 僕はとっさに、最後の最後まで悩んでいた箒の内の一本を乱暴に引っ掴み、 「これが良いと思う!」との背中をレジの方へ押しやった。 「あはは、照れてる照れてるー。 良いじゃん。好きなことに熱中できるって良いことだよー。 もう、ホント目がきらっきらしてたよ?」 「……っ君がリーマスに熱中してるほどじゃないと思うよっ」 「はいはい、そうですか♪」 僕の珍しい表情に、は鼻歌でも歌いかねない感じで、一気にご機嫌になった。 と、あの子が少し離れたところで、 「うあー……照れたのは照れたのでも、そっちじゃないよー、もー…」 僕は声にならない呻きと共に、座り込む。 すると、その姿になにか思うところでもあったのか、のお目付役が近寄ってきた。 僕は投げやりな気持ちで一杯になりながらも、しかし、そちらは見ないままに話しかけてみる。 「ねぇ、猫くん……。君は知ってるだろうから言うんだけどさ」 『……なに』 「あれ、結構な反則だよね?絶対そうだよね??」 『……なんとなく、言いたいことは分かる』 にゃーお、とおざなりにでも返事をしてくれる黒猫に気を良くし、 これ見よがしな溜め息を吐く。 「なんで、僕たちあの子のこと男に見えてたんだろう……」 『…………』 自己嫌悪だ。 「どっからどう見ても、もう女の子にしか見えない……。 シリウスなんか何度か押し倒してるくせに気づいてないとか、本当におかしくないかい? 手も身長も小さいし、目は大きいし、肌はきめ細かいし。 良い匂いはするし、胸は結構あるし……」 『ちょっと待て。今、色々凄い感想言ってなかったか、お前』 嗚呼、まずい。言ってたらちょっと思い出しちゃった。 「……どうしよう。もう本当に。 僕はリリー一筋なのに、押し倒した挙げ句に服めくって生肌見ちゃったよ」 『……あー』 違うんだ、リリー! 僕たち本当に気づいてなかったんだよ!? っていうか、本当に、この間鹿の姿の時に、 受け止めた重さが妙に軽いだとか、良い匂いだっただとか、 そんな風に疑問抱く前は男にしか見えなかったんだって!! でも、ちょっとおかしいなーと思って見てたら、その内、 自身の一人称も「あたし」になるし、なんだか全体的にフォルムが丸く見えてくるしで、 僕の方が説明して欲しいくらいだよっ! そのくせ、は困ってる僕にお構いなしにくっついてくるし、至近距離で人の顔覗き込んでくるしっ もちろん、リリー以外の人なんて興味ないよ? でも、僕だって、健全な男子学生なんだから、そういうことされると本当に困るんだよ!? なに?なにかの魔法?呪い?? っていうか、もはや罰ゲーム?? シリウスが押し倒した時は、胸なんかなかったし、男にしか見えなかったのに。 本当にどういうことなんだ!? 「しかも、笑ったらリリーほどとは言わないけど、可愛いし。 そりゃあね、リリーだって可愛がるに決まってるじゃないか。 なんか、やたらと仲良いのも納得だよ」 頭を掻きむしりたい衝動に襲われながらも、そのまま愚痴をぶつぶつ言い続ける僕。 と、そんな僕の背後から、パタパタと買い物を済ませた話題の人物が駆け寄ってきた。 「おまたせー。買ってきたよー……って、なんでしゃがんでんの?疲れた??」 「精神的にちょっとね」 「??あ、人の物選ぶの苦手だったとか? ごめん、気づかなくて……っ」 「いや、そういうことじゃなくて」 さっぱり男心が分かっていない(当然だ)らしいに苦笑を向ける。 「そういうことじゃないって?」 さっきまでのご機嫌な笑顔がすっかり萎縮して、 はどこか不安そうな瞳を揺らしていた。 嗚呼、もう。 またこの子は、そんな情けない表情して。 「……僕ってさ、ずっと子どものできなかった両親の待望の子どもだったわけ」 「?うん??」 「で、他に兄弟もいなかったし、この通り出来も良い子だったから、 親戚とかからもちやほやされて育ってきてね」 「はぁ??」 「だから、誰かを甘やかすのって、実は凄く新鮮なんだ」 「!」 知っている。 これは、リリーに抱くような恋心なんかじゃないことくらい。 でも、多分。 これは、リリーが抱く、への気持ちと似ている。 「だから、別に……」 それはきっと、ずっとずっと欲しかった、妹ができたような、そんな誇らしげなそれ。 女の子に不意打ちでクソ爆弾投げまくってたとか。 勝負一方的に仕掛けたくせに負けたとか……。 思い返せば思い返すほどに、地面にめり込みたくなるレベルの失態続きなんだけど。 でも。 「迷惑とか、そんなんじゃないんだよ」 君の前では、つま先立ちの自分でいたい。 そして、自分でも、驚くほど優しい笑みを向けると、 それに対して、はそれはそれは嬉しそうに、口元を緩めた。 「馬鹿だな。ジェームズは……。 いっつもそういう表情してれば、リリーだってイチコロなのに」 「心外だなぁ。いっつも僕は格好良いだろう?」 「そういう台詞はシリウスレベルのイケメンにしか許されないんだよ」 「それ、凄く条件厳しくないかい?」 ひょいっと彼女の手から、僕の選んだ箒「銀の矢」を奪い取り、 僕たちは家路を急ぐ。 途中はぐれそうだからと繋いだ手は、驚くほど温かくて。 他愛ない会話は、まるで本当の兄妹のようだった。 僕も相当、君のことが好きなんだって。 ......to be continued
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