エマージェンシーコール!エマージェンシーコール!!
スティアさん、マジ応答して下さい!






Phantom Magician、116





『残念なお知らせです』
「は?」
『もう老け薬の材料がありません』


……ぱーどぅん?

ハロウィン明けの休日、朝起きたあたしがそろそろ老け薬を調合しなきゃだなーと思っていると、 おもむろにそんな言葉を告げられて、その日は始まった。

今のあたしは、そりゃあもう動きやすい十代半ばのピチピチ(死語)バディだが、 基本の姿は、十歳前後だったりする。
ハリーと同い年で暮らす、という最初の設定(?)縛りがあるようで、 それは過去に来た時も変わらなかった。
がしかし、そんな姿では愛しのリーマスとお近づきになれない!
ということで、ひとまず老け薬を毎日飲むことによって今の状態を維持しているのである。
(え、実年齢?女の子に歳訊くとか馬鹿なの?死ぬの?)

だから、休みの度にしっかりとそれだけは調合してきたのだが。


「言われてみれば、最近禁じられた森行ってない……?」


それもこれも、先日がっつり体調を崩したせいだ。
最近は補修やらセブセブの愛ある鞭という名のスパルタ授業で、休日が潰れていた。
当然、調合はまだしも、遠出なんてできるはずもなく。


「マジでか」
『マジだね』


あちゃーとばかりにスティアを見ると、奴も珍しく神妙に頷いていた。


『通販で買える物は良いんだよ。まだ在庫あるから。 でも、やっぱり保存の難しいものとかは森に取りに行く必要があるだろうね』
「……今日を逃すと、しばらくまた行けないよね?」
『当然だね』


頭に浮かんだのは、クィディッチシーズンの到来だ。
来週からは間違いなく、休日はクィディッチの試合やらなにやらで潰れていくこと請け合いである。
きっと、リリーのことだから、悪戯仕掛け人と微妙に和解したあたしのことを知れば、 それはもう楽しそうに会場まで連れて行ってくれることだろう。


『まぁ、彼女が回復すれば、だけどねぇ……』
「不吉なこと言うなよ!」


昨日見た、土気色をした女友達の姿を思い出して、表情カオを顰める。
折角のハロウィンなのに彼女と逢えないな、どうしたのかなと思っていたら、 同じ寮の女の子たちが息せき切ってマダム ポンフリーを呼びに走っている姿に出くわしたのだ。
慌てて一緒に様子を見に行って、しかし、 女子寮なのでここにいろとか言われてやきもきしながら見た、あの酷い顔色。
一も二もなくリリーを負ぶって医務室に向かったが、本当に、今まで見たこともないくらい、彼女は弱っていた。
いつもきらきらと輝いていた深緑の瞳は瞼に隠され、 青くなった唇から零れた吐息は嫌になるほどか細く。
そのあまりに急激な変化に、冷や汗が伝ったのを覚えている。

マダムは、どういう訳だか、リリーが衰弱しきっていると言っていた。
魔力が枯渇しかかっている、とも。
なにか闇の魔術に失敗したのではないか、だとかいう恐ろしいことまで言い出す始末だ。
が、あたしは知っている。
リリーが決してそんなものに手を出す人ではないことを。
寧ろ、それだったら、リリーよりとっくの昔にセブルスがくたばっていなければおかしいだろう。
(とりあえず、マダムには猛然と抗議しておいた)


「リリーは大丈夫!お前、昨日自分が言ったことも覚えてないの?」


そう、どうしようどうしようとパニクっていたあたしを見るに見かねたのか、 医務室にこっそり行って様子を見てきたスティアは「大丈夫」と断言したのだ。
だからこそ、あたしは同じくパニクっていたジェームズとセブルスにそのことを伝えたのである。
あれが嘘だったりしたら、実力行使も辞さないよ、あたし。


『覚えているとも。あれは、安静にしていれば治るものだよ。 もっとも、どのくらい掛かるかはその人次第だけれどね』
「……なんか魔法薬作るとか、できるかな」


少しでも早く回復して欲しくて、あたしはそんなことを提案してみる。
がしかし、黒猫さんはそれに対して、ゆっくりと首を横に振って見せた。


『マダム ポンフリー以上のことは僕たちにはできないよ』
「……そっか」


どうやら、彼女のことは専門家に任せるのが最善らしい。
(そういえば、前にこいつ癒術は専門じゃないとかなんとかそんなことを言っていた気もする)


「……うー。しょうがない。とにかく、あたしはまず材料取って来なきゃだね」
『うん。でないとリリーの代わりに授業に出ることもできなくなるからね』


残念ながら必要な材料は昼間に摘んではいけない花などが含まれているので、 あたしはじりじりしながら、夕暮れを待つことにした。







やがて、なんだか一日うじうじしていたらしいジェームズやらセブルスやらに、 渇を入れたりしている内に辺りは薄暗くなり、あたしは慎重にハグリッドを避けながら禁じられた森に来ていた。
夜中に来るのが一番人目につかないのだが、幾ら先導する形でスティアが付いていてくれるといっても、 流石に魔法生物(=怪物)が活発に活動する夜なんぞにここに足を踏み入れる度胸はあたしにはない。
本音を言えば、ユニコーンとかユニコーンとかユニコーンとか見たくて仕方がないんだけど。


『まぁ、まず無理じゃない?ユニコーンなんて頭良いのはこんな端に来てくれないよ』
「だよねぇ。かといって奥深くはデカ蜘蛛の巣窟でしょ?ありえねぇわ」


それにケンタウロスとかも、あたし好かれる自信ないし。
学校で禁止されているのはそれなりの理由があるからである。
基本優等生なあたしが好きこのんでその規則を破るとでも?


『思わない思わない。じゃあ、ちゃっちゃと用事済ませようか』
「はいよ」


以前にも何度か来たことのある、花が群生しているポイントに辿り着き、 あたしはせっせと持参したクマのバッグにそれらを詰め込んでいく。
他にも必要なものはあるのだが、あたしが花を摘んでいる間にスティアがいつも集めてきてくれるので、 周囲にちょっと警戒しつつも、あたしはこの作業に集中していれば良いのだ。
黙々と、時間が過ぎる。

そして、とりあえず、当面必要な量を摘み終わり、手持ちぶさただったあたしがその花で花冠を作っていたその時、 何かの生き物の毛だのなんだのと他の材料を取ってきたスティアが茂みからひょっこり姿を現した。


『あれ?なにやってるの、君?』
「んー。ジェームズとの約束果たそうかと」


リリーにお見舞いで花持って行くって言っちゃったんだよねぇ。
そう言うと、スティアは納得したのか、おとなしくその作業を眺めていた。
がしかし、


『!!!!』


奴は突然息を呑んだかと思えば、さっき出て来た茂みに逆戻りした。


、こっち!!』
「は?」
『急いで隠れて!』
「!」


緊迫したその様子に、慌ててもうすぐできあがりという花冠を投げ捨て、 あたしはスティアの後を追って茂みの中に飛び込んだ。
で、追いかけた先ではスティアは死んだふり宜しく、ぐったりと地面に横たわっていたりする。
ちょっ、え、なになになになに?なんかいるの!?


『超特大の厄介ごとがね。良い?僕は今からなにがあっても一切反応なんてしない。 君もそのつもりで対応すること!グリフィンドールの剣は出しといてあげるから!』


怖ぇよ……!え、本気でなに?なんなの?
熊?ひょっとして熊出んの?ここ!?
っていうか、グリフィンドールの剣ってお前、この前校長室に返したって言ってたんじゃなかったっけ!?


『あれは模造品!良いから早く死んだふり!大丈夫、は動かないものを食べる習性ないから!』
「へ…………っ!?」


 蛇 ぃ っ !?

ハリポタ世界で蛇って言うと、そりゃあもうヤバイものしか思いつかないんですけど!
ナギニとかバジリスクとかバジリスクとかバジリスクとか!
と、その言葉に言われたように寝っ転がってぎしっと動きを止めると、 途端に、なんだろう、しゅるしゅるというか、ずるずるというか。
ひたすらなにかデカイものを引きずるような物音に気づく。

…………。
……………………。
……………………………………ヤバイヤバイヤバイやばいっ!

どわっと一気に体中から冷や汗が吹き出る。
仮にバジリスクだとしたら、だ。
目を見ただけで致命傷、The endだ。
がしかし、必死に目をつぶると、聴覚がいやに発達してしまい、 蛇腹が移動する音が滅茶苦茶大きく聞こえてくる。
ぶっちゃけ、超怖い。
いつの間にやら目の前にあったグリフィンドールの剣を抱き寄せても、安心感なんて皆無である。
スティア、お前マジで信じてるからな!?
目をつぶってたら、ぱっくんされても逃げらんないんだからなっ!!?

ガタガタ震え出す体を必死になって抑えようとするが、意識すればするほど震えは大きくなる。
というか、まず息もできない。
あたし、今までどうやって息してたっけ?
駄目だと思っても、自分の呼吸音が酷く耳に触る。

早くどこかに行ってくれと心から願うが、しかし、その願いとは裏腹に、 枝を潰すような音などが段々大きくなっているような気がした。
最初は気のせいかと思ったけれど、いつまでもなくならないそれに、間違いなく奴が近づいていることを知る。


「〜〜〜〜〜〜〜っ」


スティア!スティア、どうしたら良いの、これ!?
死んだふりなんかでどうにかなるの!!?ねぇ!

半狂乱の状態で内心叫ぶ。
がしかし、頼れるはずの案内人はひたすらに沈黙したままだった。
あたしと違って、奴は気配すら消している。
自分の心臓の音がここまで煩いと思ったことはなく、 祈るような思いでそれでもスティアに心の中で話しかけ続ける。
すると、


「そこまでだよ。バジリスク」
「!」
貴方、様は……


苦笑するように、柔らかい美声がその場に響いた。
そして、続くシューシューという空気が漏れるような音。


何故、こんな所まで出て来た?お前の縄張りは本来城の中だけのはずだろう
貴方様の存在を感じて、何故じっとしてなどいられましょう
……まいったな。最近少し大きな魔法を使いすぎたか
いいえ。魔力ではございませぬ。私が感じましたのは、貴方様の持つ威圧感とも呼ぶべき物。 それを幾度か感じ、その度に貴方様がその場所におられました。 半信半疑ではございましたが、こうして眼前に致しましては、間違えるはずもございません
なるほど。リドルのせいだな
リドル?
そう、お前にとっては最後の主、と言った方が分かりやすいか。 今回お前がこうして現れたのも、奴の差し金かと思ったんだがな
!……あの方は、城を去りました
いいや、いる。正確には紛い物が



目は開けられない。
けれど、そんなあたしにも分かることがある。
こいつら――ケーとバジリスクは蛇語で話している……。


僕と同じ、紛い物だ
貴方様を紛い物だなどと、誰が言うものでしょう
いいや。他ならぬ僕がそれを知っている。見れば分かったと思うが、僕はお前の主じゃあない
いいえ。間違いなく、貴方様は我が主。……お待ち申し上げておりました
……なんとなくそう言われる気がしてたんだがな。別人だろう?魔力も違うはずだ
確かに。記憶にある主方とは魔力も姿も話し方まで同一とは申しませぬ
なら、分かってくれるだろう?僕は、お前の主じゃない。ここに奴はいないよ



さっきとは違う意味で頭がぐるぐるとめまぐるしく回転する。


それでも、貴方様に忠誠を誓うことに些かの迷いもございませぬ

迷えよ

…………
そもそも、お前にスリザリンの血統に従え、なんてことを言った人間はいないはずだ。 それなのに、唯々諾々とあのポンコツの言うことをきいて生徒を一人殺すなどと愚の骨頂だな。 人に使われることがお前の望みだったのか?違うだろう
お怒りでございますか
別に怒っている訳じゃない。呆れただけだ
……従え、と言われた訳では確かにございません。 ですが、お嬢様の、最後の願いだったのでございます
…………
必ず主はお戻りになる。その時まで、子孫を助けて欲しいと。 命令でなく、たっての願いでございました
……やっぱり、最終的に元凶は奴なのか



蛇語話せるのって、かなり珍しいんじゃなかったっけ?
いや、うん。でも、一番有名なのがサラザール=スリザリンなだけで、 その血筋以外にも話せる人っているんだよね……?確か。
学習でも話せるようになるって、ダンブルドアがそれだって、どこかで見た気がするし。
なので、蛇語=闇の魔法使い、って構図はまぁ、ただの先入観だと分かってはいるのだけれど。


『アバダケダブラ』


一度耳にした、彼の死の呪文が、耳の奥で再生される。
ケーは、決して公明正大な、聖人じゃあない。
その事実に、血の気が引いていく。
よりにもよってバジリスクとの密会現場に遭遇するなんて。
今まで、彼はあたしに対して一度だって害意を向けたことはない。
でも。
今見つかったら?
彼は、優しい笑みを二度とあたしには向けてくれないんじゃないか。
寧ろ殺意を向けられるんじゃないか。

と、戦々恐々としていたが、次の瞬間。


、出ておいでよ」


優しい優しい死神の声があたしを呼んだ。







ガタガタといよいよ盛大に震えながら、薄目を開けて自分の横にいるはずの案内人に救いを求める。
がしかし、奴は有言実行とばかりに、ぐったりとまるで動く気配がなかった。
どころか、息すら殺しているらしく、その体が上下することはない。
猫に擬死ができるとはしらなかったが、どこから見ても立派な死体である。
と、あたしがなおもどうして良いか分からず、その場に転がっていると、


「……困ったな」
「ひっ!」


真上から、ケーも涼しげな声が聞こえた。
もう、死んだふりなんて完全にばれている。
が、それでも、素直に立ち上がってバジリスクとご対面☆なんてできるはずがないので、 必死に目をつぶったまま沈黙する。
すると、「よっと」と、場にそぐわない気軽なかけ声と共に、あたしの体を浮遊感が襲った。


「!?!?」
「ちょっと彼に紹介したいからさ。怖ければそのまま目をつぶってても良いよ」


耳元で囁かれた美声に、普段であればうっとりと聞き惚れるところだ。
がしかし、そのありえなさすぎる言葉に、あたしの耳は着信拒否を起こしていた。
彼に?なにをするって??
ついでにいえば、何度目かの姫抱っこもこの緊迫感を拭うには至らない。


「バジリスク。実は君に逢わせたい人がいるんだ」
一体、その御仁はどなたでしょう?


シューシュー言ってる。シューシュー言ってるよ!超至近距離で!!


「御仁、じゃないよ。奇跡をくれた女の子だ。という」
!!!!では、そのお方が?
「そう」
なんと……。随分と、小さいお方だったのですね
「確かに。かなり想定外だったかな」
では。では、我が主は……?
「笑ってた。それは確か」
…………


ごめんごめんごめん、お前らなに言ってんの!?
っていうか、バジリスクなに言ってんの!?
あれ、蛇語以外でも会話って成立するもんなの!?なんで?どうして!?

ケーの腕の中でこれ以上ないくらい縮こまったが、どうやら、危害は加えられないようだ。
気配でそう察するものの、妙な圧迫感が眼前にあるのを感じてしまえば、目なんて開けられない。


「ふふ。そんなに怯えなくても。バジリスクが君に危害を加えることなんてありえないよ」
その通りにございます。小さき人
「まぁ、確かに目が合った時に出る魔力は無差別だけどさ。第二の瞼を下ろしている状態なら大丈夫なんだよ? それだと、綺麗な瞳は見れないからね」
主。小さきお人は私に怯えておられるのですか
「そう落ち込むな、バジリスク。彼女はなにしろ唯人なんだ」
……私は退散致しましょう
「〜〜〜〜〜シューシュー言われてもあたしには分かんないから!」


なんだかバジリスクが落ち込むだとかいう恐ろしい言葉が聞こえたので、 散々葛藤した末に、そろそろと瞳を開ける。
すると、


「ぎゃっ!!」
「……ぎゃっ!は流石に傷つくかな。ついでに言うと、剣危ないよ」


すると、50cm程度しか離れていないところに、巨大な蛇の鼻面(?)があった。
あの、よく舌がちろちろ出るあれである。
思わず、ガバッと目の前の麗しい青年に力の限り抱きついて視線を外す。
苦笑いしているケーには悪いが、いやいやいや、これで叫ばないなんてありえない!
うっかり手にしたままだったグリフィンドールの剣がケーの背中にガスガス当たるが、 そんなのは些細な問題である。


「少しも些細ではないんだけど」
「うううううぅ、なに!?なんなのこの状況!」


なにがどうしてどうなったら、ケーに姫抱きされてバジリスクとご対面になるの!?
とりあえず、幸いにして一瞬でお陀仏ということはなかったらしい。
がしかし、だからと言って安心して目の前の第一級危険指定生物に対峙できるかと言えば、 まぁ、ほぼ100人が100人無理!と叫ぶだろう。


「言ったじゃないか。大切な人を彼に紹介したいんだって」
「紹介!?なんで!?どうしてその必要が!? あたし一般ピープルですよ!食べてもおいしくないから!!」
「……注目して欲しいのはそこじゃないんだけどなぁ」


くすくすくす、と、慌てふためくあたしを見て、楽しそうな笑い声が聞こえる。
この凄まじく性悪そうな表情カオは、うん。やっぱり闇の魔法使いかもしれない。


「いや、下手げに彼と出会って、うっかり殺されたりしたら困るから。 顔合わせは必要だろう?」
「〜〜〜〜〜っ!さらっと恐ろしいこと言ってる!!」


そうだよね!リドルの命令受けてなんかすげぇ血に飢えた感じの声出してたもんね、バジリスク!?
よく夢小説なんかだと、すげぇ良い子になってたりショタになってたりしたんだけど、 現実はそう甘くないですよね!?


主。小さき人が怯えておられます
「ああ、面白いだろう?」
女人にその表現は如何なものかと
「面白いって何!?」


ぎゃーぎゃーといつもの調子を少し取り戻し、サドっ気全開のケーに突っ込みを入れる。
と、それが面白くなかったのか、ケーは次の瞬間くるりと180度その場で回転した。


「っ!」


で、その不意打ちに今度こそ、あたしはバジリスクの全貌を間近で見てしまった。
コブラのように上体を反らしたその姿は、なるほど蛇の王という名がまさに相応しい堂々とした体躯だ。
その額に、白い王冠模様があるのも、実に様になっている。
ヒキガエルの下で孵化した鶏の卵だかなんだかから生まれる不思議生物とはとても思えない。
唯一の鶏の名残は、その頭頂部に見える赤い羽毛のようなものだろうか。
遠目に見る限りにはとさかっぽく見えないこともない。
が、なによりもここで大切なのは見るものに死をもたらすというその瞳である。
ところが、そこにあったのは予想外のそれだった。


「……白目?」
「ああ。第二の瞼だよ。本当は綺麗な黄金の瞳なんだけどね」


本来、ぎらぎらと瞳が輝いているはずのそこには、白っぽい膜のようなものが張っていた。
……ぶっちゃけ、ちょっと不気味である。

がしかし、バジリスクを見ても死なない、という事実はそれなりの力になったようで、 あたしは、びくびくしながらも、恐る恐るその巨大な姿を見つめる。
と、そんなあたしの姿に満足したのか、ケーは極上の笑みとともに、口を開いた。


「そんなことより、綺麗な鱗だろう?」


言われた言葉にそこに注目してみると、暮れなずむ日の光に照らされて、それは虹色に輝いていた。
基本の色は金を基調としているが、緑、赤、青など、バジリスクが身動きする度に、艶やかに光りが反射する。
どこか金属的な色は、今まで見たことのないものだった。


「……本当だ」


実を言えば、友人がは虫類好きなこともあって、 あたし自身は蛇に対してそこまでの忌避感はない。
素直に、その姿は綺麗だと思った。
思わず手がそっと伸びるが、しかし、それに気づいて慌てて引っ込める。
と、ケーが微笑ましそうに首を傾げた。


「……触りたい?」
「う、うん。まぁ……」


こっくりと頷くが、いやそれは無理だろうと思う。
気位の高い魔法生物をそう簡単には触れないということを知っているからだが、 その言葉を聞くや否や、バジリスクはこともなげにさっきのように頭を低くした。


お好きになさってください。小さき人
「!」


どうぞと言わんばかりに近づいてきた頭に、思わずケーを見るが、彼はにっこり笑うだけだった。
良いの?良いの?
マジで?え、なにこのボーナスステージ??
蛇寮好きのお姉様方が見たら目の色変えるイベントだよ、ちょっと。

そろそろと、おっかなびっくり目の前のそれに手を伸ばす。
ええいままよ!とばかりに思い切って触れたそれは、ひんやりと冷たく、 普通の蛇よりもちょっとぼこぼこした手触りだった。







その後、とっくりとその二目と見られない大蛇を撫で、 暴れないことを確信したケーに姫抱っこを止めて貰い、 (その際、いつの間に拾い上げておまけに完成させたのか、頭にさっきまで作っていた花冠を載せられた)
良いなぁ、あたしも蛇語習いたいなぁなんて、思える位にリラックスしたその時、


「あ、不味いね。……来る」
「はい?」


ケーは見るからに物騒な笑みを浮かべた。


バジリスク、目はそのままの状態で今から来る人間を軽く襲ってくれるかい
承知致しました
ちなみに、を大層苦しめた連中だから
……それは殺してはいけないのですか?
うん。まぁ、死なない程度に脅してよ



で、あたしにしっかりとグリフィンドールの剣を持たせると、 その意味深な笑顔と「上手に使ってね」という台詞を残して、ふっとその場からいなくなってしまった。
残されたのは、あたしとシュルシュル舌を出すバジリスクの二人だけ。
なんだなんだ何事だ、とぽかんとしていると、遠くからがさがさと藪をかき分けるような音がした。

あれ、嫌な予感しかしないよ?





畜生、こういう時に使えやしない!





......to be continued