どこからが計算で、どこからが素なのか分からない。 Phantom Magician、110 嗚呼、心の底から昇天しそう。 美しい人々を前に、あたしはただただ無言で心を震わせていた。 リーマスの視線はすでにこちらを見ていなかったが、あたしを無視してはいない。 肌で感じる空気がそう教えてくれていた。 なんて素晴らしい世界だろう、とここに来て何度目になるか分からない感嘆が漏れる。 優しくはなくとも、この世界はどうやら非情でもなかったらしい。 よく見る漫画などでは、異分子はさっさと排除されるか困難の連続を味わうか大歓迎されるかのどれかだったが、 あたしはどうやら、そのどれでもなかったようだ。 ごく普通に誰かに好かれて、嫌われて。 どこにでもある人間関係を、どこまでも平凡に送っている。 ただ、それだけのことだった。 まぁ、創作と現実は違う、とでも言うのがステレオタイプでも事実なのだろう。 「…………」 『…………』 「…………」 『…………』 「…………?」 と、ここでいつもなら『そりゃあ、そうだよ。だって君は主人公じゃないんだからね』 とでものたまうであろう声がせず、あたしは疑問符たっぷりに床を見る。 そういえば、さっきから凄く静かだ。 ああ、いや。 周囲の様子で言えば、ハロウィンに大盛り上がりで寧ろいつも以上に煩い位の大広間なのだが。 つっこみの達人であるはずのスティアが、どういうワケだかずっと沈黙していた。 最初は空気を読んでいた、で通じるが、いつもであればそろそろ来るはずである。 がしかし、視線の先にスティアはいなかった。 あれ?いつの間に……?? どこかに行くにしてもなにかを言っていくスティアにしては珍しいことに、 奴は目に入る範囲のどこにもいなかった。 がしかし、そう思ったのはどうも杞憂だったらしく、とん、と軽い音と共に肩に慣れ親しんだ重みがかかる。 「あ、スティア。なんだいたん……?」 ほっとしながら、そう声を掛けようとしたあたしだったが、彼の様子がおかしいことに声が尻つぼみになる。 スティアは明らかにあたしのことが眼中にないようだった。 っていうか、目が落っこちそうだった。 『…………』 「…………す、スティア?」 正直、初めてみるその姿に思わず声が上擦る。 目を見開いている、それはまだ良い。 体がぷるぷる震えている、それもまだ許容範囲だ。 が、周囲も憚らず顎を愕然と開きっぱなし、というのは如何になんでもこの案内人には不似合い極まりなかった。 そう、この時スティアは驚愕のあまり思考停止、という世にも珍しい状態だったのである。 茫然自失とはどんな様子か、を表したらまさしくこうなるであろうというお手本のようだった。 はっきり言ってもの凄く不気味だ。 あの俺様ナルシーが、こんな間抜けな姿を晒して、しかも呼びかけにも応えないだなんて尋常ではない。 がしかし、今のスティアにいつものふざけた調子で臨むのは、幾らあたしでもできなかった。 よって、あたしにできるのは精々がスティアの視線の先を辿るくらいのことだった。 といっても、あたしには特殊技能があるワケではないので、 リーマスを見ている、というその程度のことしか分からないのだが。 ん?でも、普通リーマスを見るなら顔を見るよなぁ。 スティアの顔の角度からいくと、上の方っていうより寧ろ下の方を見てるみたいなんだけど。 なんだろう、見たこともないほどキャワイイにゃんこでも見つけたのだろうか? いや、うん。冗談だけれども。 色恋沙汰でこんな表情になるだなんてスティアのプライドがまず許さないだろう、とも思うので、 自分で自分の考えを却下しながら首を捻る。 と、今まで散々無言だったスティアの口がわなわなと動いた。 『…………い』 「うん?な、なに??」 『…………』 「す、スティアさん?オーイ」 『 信 っ じ ら れ な い っ !』 「!!」 絶叫だった。 そのあまりの剣幕と声に思わず耳を塞いでしまったが、 黒猫はそんなあたしを忘れてしまったかのようにマシンガントークを開始する。 『馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたけどなんだってここまで馬鹿なんだ! あり得ない!普通考えたってそんなことやらないのに!! あの爺、生徒の監督もできないのか!?っていうか、これに気づいていないとか言わないだろうな! いや、流石にそれはないと思うけど、寧ろ面白がって見逃してそうな気がするからやっぱり最悪だ!』 「〜〜〜〜〜〜〜っ」 煩ぇええぇぇぇっぇぇえぇぇー!! 一気に至近距離でワケの分からないことをまくし立てられて、あたしは必死に耳を塞いだ。 が、スティアの言葉はなにしろ脳みそに直接響いてくる仕様なので、あまり意味がない。 ただ、鬱陶しいことは間違いないので、あたしは無言でスティアを自分の肩から払い落とそうとした。 がしかし、本来ならべしゃっと地面に落ちるか文句を言うはずのスティアは、 やはりいつも通りでないらしく、そのことには全く構わずにリーマスの方へ飛んでいった。 うん。文字通り飛んでった。 そう、奴はあたしの肩を踏み台に大ジャンプを敢行し、 あっと言う間もなく、リーマスの腰に引っかかっていた剣帯をその鋭い爪で切り裂いていたのである。 「わっ!?」 ごとっと大層重そうな音を立てて本格的な剣が床に落ちる。 それがスティアのあの表情の原因だと遅まきながら気づいたあたしは、 スティアがそれを引ったくっていなくなるまでの僅かな時間に、それを目にした。 豪華、というにもあまりある美しい装飾。 一体幾らするんだろうと疑問になる卵大の美しいルビー。 そして、極めつけが僅かに鞘から出ていた刀身に見えた『G』の文字……。 「〜〜〜〜〜〜〜!!」 スティアがあれだけ驚いていた理由に思い当たり、あたしも全く同じ表情になってしまった。 がしかし、その重大事に気づいていないらしいリーマスは呑気に首を傾げている。 「猫のくせに剣が欲しかったのかな?」 そして、その一言があたしに火を付けた。 くわっと目を見開くと、へらへらと笑っている諸悪の根源の襟元をひっつかむ。 「ぐぇ!ちょ……っ!?」 「手前ぇ……リーマスにグリフィンドールの剣持たせるとかなに考えてやがんだこのボケェ!!」 がくがくと、慌てるジェームズにはまるで構わず、力の限りその首を締め上げた。 正規の手段で手に入れたと言うのであればあたしはなにも言わない。 がしかし!ぜっっっっっっったい、そんなことないから!! 文化財指定されかねないような代物を、幾ら面白大好き校長であるダンブルドアであっても貸さないだろう。 多分。おそらく……きっと? まぁ、仮にダンブルドアが貸そうとしても他の校長ズ(in額縁)が必死に止めてくれるに違いない。 流石にそれらの意見を頭から無視するような人間じゃないはずだ。 (っていうか、そんな人間が校長だったら嫌すぎる) となれば、だ。 「あの剣、盗品じゃねぇかぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁー!」 「!」 いきなりジェームズを締め上げ始めたあたしに最初目を白黒させていたリーマスだが、 その言葉に一気に彼を取り巻く空気が変わった。 「……へぇ。盗品、ね」 「「!!」」 体感温度が一気に5度くらい下がる。 あたしはまったくちっとも悪くなどないのだけれど、何故だろう。 激しく隣の人を見るのが怖い。 生存本能が全力で逃げろと叫んでいる! 思わずジェームズと二人、ブリキ人形のようなぎこちなさで声の主を見た。 「詳しい話を聞かせてもらわなきゃいけないね?ジェームズ」 「〜〜〜〜〜〜〜」 そこにいたのは魔王であるとだけ言っておこう。 その後、ジェームズの悲鳴をBGMにどうにか大広間を抜け出したあたしは、 グリフィンドールの剣を奪って逃走したスティアを探すべく城内をうろうろと彷徨った。 (いや、だって、このままだとあたし全然悪くないのに共犯にされかねない) 幸い、今日は一限目がないので授業まではまだ余裕があるのだ。 がしかし、とりあえず自分の部屋に戻ったり、猫の集会が行われる中庭に行ってみたりはしたものの、 剣を咥えたドラ猫さんは影も形も見当たらなかった。 やっぱり裸足で駆けなければいけなかったのだろうか。 いや、でもそれ全然本人愉快じゃねぇよな。周りに笑われてるし。 流石にそんな恥を晒すのは嫌だったので、案内人の名前を連呼しながら闇雲に探しまくる。 「スティアー?スティアさーん。スーティーアー!」 「……なにかお探しかな?」 と、びっくりするくらい唐突に、できれば二度と聞きたくなかった声が耳に飛び込んできた。 「私でよければ力になろうか?」 「〜〜〜〜〜〜〜っ」 すみませんごめんなさい結構です! 反射的にそう言えればどれほど楽だっただろう、そう思う。 見たくなかった。 できれば二度とこんな近くで見たくなかったよ、その麗しのデコは!! 今まさに曲がろうとしていた角から現れ、 うっそりと微笑みを浮かべて声を掛けてきた相手――ルシウス=マルフォイに、 あたしの体は実に正直に反応した。 ようは硬直である。 ぶわぁっと背中には冷や汗が伝ったが、それ以外は指一本動かせなくなってしまった。 いやいやいやいや、なんでいんだよ。 お前ホグワーツ卒業してんじゃん!もはや部外者じゃん! なんだってそんなナチュラルに出没してんの!? そして何故あたしにわざわざ声をかける!? 偶然?偶然ですまして良いの!?っていうかそんな偶然嫌すぎる! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこいつ超怖い! あまりの嫌悪感にあたしの視線はつい数十分前同様、もはやたった一人しか映さなくなっていた。 もっとも今の気分はリーマスの時とは真逆のそれだったけれど。 嗚呼、ごめんさっきの前言、力いっぱい訂正する! この世界、優しくもない上に非情だよ! ここには神もいないのか……! 思わず天を仰いで世の無情に叫びたくなったが、こいつから目を離すなんて自殺行為ができるはずもなく。 蛇に睨まれた蛙宜しく、ろくな反応もできずに固まっていると、 なんとも意外なところから救いの手は伸ばされた。 「……先輩?」 「なんだ。知り合いか?レギュラス」 「いえ、そういうワケではありませんが。彼は有名人ですから」 さらり、と自分関係ありません発言をかましつつもあたしの硬直を解いてくれたのは、レギュラス(?)だった。 マルチの影に隠れるようにしていたためよく見えなかったが、どうもさっきからいたらしい。 おかげで、マルチの値踏みするような視線(呪縛)から逃れることができたあたしは、 そこでようやく自分を立て直してさりげに二歩ほど彼らと距離を取った。 「ええと、その……どちら様で?」 これがただの部外者であればレギュラスに尋ねることもできたのだが、相手は第一級危険人物である。 しかも純血主義。 しかも、あたしはグリフィンドール。 レギュラスもとっさの判断であたしのことを見知らぬ他人にしてくれたのだから、 ここはどう考えても全力で他人のフリをし通す必要がありそうだと判断し、断腸の思いで本人にそう尋ねてみる。 「ほう?」 と、あたしのその言葉が意外だったのか、マルチは器用にも片眉を上げた。 その唇は愉快そうにつり上がっているが、間違ってもその瞳は笑ってなどいない。 「私が誰だか分かったから驚いていたのではないのかね?」 「……いやぁー」 少なくとも十数秒は絶句していた自覚があるので、これは頭から否定できない。 かといって、そのまま肯定するのも気が引けたので、 あたしは目の前の人間の格好を理由に言い逃れをすることにした。 「吸血鬼って初めて逢ったんで、血を吸われたらどうしようって思いまして」 「…………」 その言葉にさしものマルチも言葉を失った。 今日はハロウィン――化け物の日(違)である。 そんな日に、プラチナブロンドの髪した見知らぬ冷血人間見てみ? しかも、お貴族様なせいか、普通あんまり着ない正装である。 その上、古式ゆかしき裏地真っ赤のマント着用……。 絶対間違うって。 まぁ、あたしは目の前にいるのが如何に気持ち悪い奴だろうが、 実際に逢ったことがあるので人間だと分かっているのだけれど。 一応、向こうに嬉々とした様子がないことから、あたしがあの珊璞とは気づかれていないはずである。 案の定、あたしのことに全く気づかなかったらしいマルチは、それは不愉快そうに表情を顰めた。 「フン。グリフィンドール生は吸血鬼と人間の区別もつかないようだな」 「え、人間だったんですか?すみません、あまりに人間味を感じなかったもんで」 吸血鬼の皆様ごめんなさい。 心の底から善良なる人々に謝りながらも、あたしはしれっと言い放ち、 如何にしてこの場を乗り切るか頭をフル回転させていた。 とりあえず、一番避けなければいけないのは、前に逢ったことがある彼女だと気づかれることである。 そうなったらヤバイ。 なにがヤバイって、目の色を変えて追いかけて来そうだからである。 なにしろ、あたしはスティア曰くマルチの嗜虐心を悉く刺激しちゃったらしいのだから。 まぁ、闇の帝王の記憶を渡しちゃった人間を見失ったら、それでなくとも血眼で探すだろう。 「…………ハッ」 と、そこであたしは目の前の人間がここにいる理由に思い当たり、 凄まじく嫌な予感に襲われた。 フラッシュバックするのは、マルチからリドルの日記を巻き上げたあの日のことである。 確か。 確かあたし、あの時自分のこと。 『ホグワーツに通ってる純血の女の子』って言ってなかったっけ? うああぁぁぁぁあああぁあぁあぁぁぁぁぁぁーと、一気に頭を抱えたくなった。 間違いない。こいつあたしのこと探しに来たんだよっ!! きっと、いもしないあたしを捜して、でも見つからなくて、痺れ切らして来たんじゃね!? ホラ、今日ってハロウィンだし! 普段より外部の人来てても目立たないし!! やっべぇ、リドルの日記GETのために仕方がなかったとはいえ、なんてこと言っちまったんだ過去のあたし! 「…………」 なにがなんでも見知らぬ他人に成りきる必要性が出て来てしまった。 一応性別も違うし、あの時は必死にキャラ作ってたので大丈夫だと思うが、万が一ということもある。 あたしはできるだけ早くこの場を去れるよう、どこぞの眼鏡男子をお手本にそれは爽やかーな笑みを浮かべた。 ちなみに掲げる標語は胡散臭さ世界一!である。 「最高に似合ってますよ、その仮装! きっとダンブルドア校長も太鼓判押してくれるんじゃないですかね? あ、でも血糊とか牙とかディテールに拘るともっと良いと思います。 友達でそういうのにやたらと詳しい人がいるんで良かったら紹介を……」 「――失礼。あまりに低次元の会話をしているとこちらまでそう思われかねないのでね。 大変興味深い話ではあるがここで失礼するよ。 詳しいことはそこのレギュラスにでも話してやってくれたまえ」 ばさっと、それこそ吸血鬼のようにマントを翻し、 マルチは人の台詞を聞き終わらないう内に、憤然とその場をあとにした。 カカカカカッ と、石畳に響く足音までも不機嫌さが滲んでいるとは、見事と言うほかない。 おおぅ。効果は抜群だったようだ。 流石、スリザリン気質に悉く嫌われる人物の筆頭である。 その物言いを意識しただけで、あっちからいなくなってくれるとは予想以上だった。 「……知り合いですか?」 「いや、生理的に無理だっただけ(きぱっ)」 おまけに、レギュラスも残していってくれるとは僥倖である。 マルチと話すのは嫌だが、レギュラスは数少ないあたしの癒しスポットである。 ちょっとでも話す機会があるのであれば、それを逃す手はない。 ……それに、レギュラスには是非訊きたいことがあったのだ。 具体的にはその奇天烈な格好とか格好とか格好とか。 すっと、失礼とは重々承知の上であたしはレギュラスを指さす。 「珍しいね。レギュラスが仮装参加してるなんて。 ……で、その衣装の出所はどこ?」 それなんの仮装?ではなく、その衣装の出所どこ?である。 ぶっちゃけ訊かれた方にしてみれば奇妙な問いかけだったに違いないが、 それに対してレギュラスの答えはあっさりしたものだった。 「さぁ?でも、恐らくポッター先輩なんじゃないかと思いますよ」 「さぁって……」 お姉さん、レギュラスの素直なところが好きだけど、ちょっと心配。 流石に呆れたような視線を送らざるをえなかったが、しかし、彼の予想は多分当たっているのだろう。 何故ならば、レギュラスが着ていたのは『ハート○国のアリス』で帽子屋が着ていた、 奇妙な乗馬服もどきだったのだから。 白いジャケットやら帽子やら、単体で見る分にはトランプマークが散ったそれは別に悪くない。 まぁ、若干派手と言えば派手かもしれないが、個性的ね、で済む話だ。 がしかし、そのフルセットは頂けない! イカレ帽子屋だから仕方がないのかもしれないけど、うん、最悪下半身は見ない方が精神衛生上大変宜しそうだ。 っていうか、そのズボンとブーツの組み合わせは犯罪だと思う。 普段きちんとした格好をしているレギュラスを見慣れている身としては、無残、この一言に尽きる。 いや、似合わなくはない。似合わなくはないんだけど! 元々がイカレた格好だから、どんなにそれを着てるのが美形でも漂う残念臭というか! こんなもん着せられたレギュラスが不憫すぎるっていうか! 普通の格好してれば間違いなく文句なしの美形だっていうのに、これはないだろジェームズ!!嫌がらせか! 「……無理矢理着せられたの?」 恐る恐る、多大な同情を滲ませて問いかける。 あの馬鹿、よりにもよってレギュラスに悪戯仕掛けやがったのか、そう思っての問いだった。 がしかし、それに対して返ってきたのは非常に予想外の一言だった。 「?いいえ。自分で着ましたよ」 「え!?」 なんで!? 心からの疑問の叫びに、レギュラスも流石に苦笑した。 で、その綺麗な指が指し示したのは、なにを隠そうこのあたしである。 「?」 「僕も差出人不明という時点で迷ったんですが。 おまけにこんな滑稽な服でしたし。でも……」 滑稽だと思いながら着たのか。 案外根性あるな、レギュラス。 と、変な所で感心してしまっていたその次の瞬間、 レギュラスから飛び出した一言にあたしは本日何度目になるか分からない渇望を覚えた。 「これを着ると貴方が元気になる、と書いてありましたので」 …………。 ……………………。 ……………………りぴーと あふたー みー? GIVE ME デジカメぇぇぇぇぇぇえええぇー!!! はい、皆さんご一緒に!! GIVE ME デジカメぇぇぇぇぇぇえええぇー!!! うあぁああぁああぁ、なんでホグワーツは電子機器使用不可なんだよ!? マジふざけんなし! 今の超絶可愛いレギュラスのデレが記録できないとかナメてんのか!? ああもう可愛い可愛い可愛い。なにこの弟! 兄と違って超可愛い!!お持ち帰りぃいいいぃー! 「……あたしのためにわざわざそんな格好してくれたの?」 内心の悶えようを見たら多分十メートルは距離を取られるだろうな、と思いつつ、 あたしは必死に緩む頬を抑えながら首を傾げる。 いや、あの、『ミネコ』としたらレギュラスと仲良くなったけど、 『先輩』としたら、まだそんなフレンドリーな関係じゃないよ?あたしたち。 知り合い以上友達未満的な? なのにそんな恥をかいてまで喜ばせようとしてくれるなんて。 嬉しいけど!すっごい嬉しいけど変だ。 すると、その当然とも言える問いに、レギュラスはちょっと困ったように眉根を寄せた。 「貴方が元気がないとミネコさんも元気がなくなるんです」 「ゴフッ!」 ……そりゃあ、本人ですから! 「まぁ、最近はそうでもないみたいですけれど。 でも、一応、貴方が寝込む原因を作ったのはシリウスのようですし。 所謂、尻ぬぐいって奴ですよ」 どうしよう。 つっこみたいけどつっこめない。拷問だ。 「……ええと、それって弟がやるもん?」 「遺憾ながら。それと……」 と、彼はその奇妙な上着から、一通の封筒を取り出した。 特になんの変哲もないが、上質な紙でできたそれは、この数ヶ月ですっかり見慣れたものだ。 おそらく、ひっくり返せば「ミネコ=フジ様」とそれは綺麗で几帳面な字が並んでいるのだろう。 「便宜を図って貰おうという打算もあります」 「…………あは」 僅かに口の端を歪めて笑う年下の彼に、 あたしはただ苦笑して唯々諾々と封筒を受け取ることしかできなかった。 まぁ、どっちでも良いや! ......to be continued
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