天才は理解されにくいものなんだよねぇ。 Phantom Magician、95 記念すべき動物もどきお披露目の晩が明け、 朝一で医務室へ行かなくてはいけないリーマス以外の面々がベッドで短い睡眠を謳歌していたその時、 僕は一人ベッドで思案に明け暮れていた。 いや、僕だって寝たいのは山々なんだよ? でもねぇ、今後のことを考えると、じっとしてはいられないんだよね。 僕たちの予想通り、人狼になったリーマスは動物の姿であれば和やか(?)に接することが可能だった。 心配していたピーターの動物もどきもどうにか上手くいったので、 これで、これから満月の晩もリーマスと一緒にいることができるだろう。 まったく。リーマスも僕たちを見くびらないで欲しいよ。 確かに人狼は恐ろしいけど、それで僕らが友達を止めるだなんて、そんなことある訳がないじゃないか。 さっさと暴露してくれれば、人狼にならない薬を開発するとか、 人狼になってもコミュニケーションが取れるようにする方法を一緒に考えるとか色々できたのにさ。 もちろん、人狼の人々の置かれている立場、偏見、差別など諸々の事情を鑑みるに、 人に教えたくなかったという気持ちは分からないでもない。 分からないでもないが、それでも言って欲しかったというのが本音だ。 リーマスの怪しい挙動を探る内になんとなく察してしまった事実に衝撃を受けなかったと言えば嘘になる。 でも、僕たちは親友だろう? 性格からしても無理だって分かっていても、リーマスの口から聞きたかったんだよ。 ……まぁ、無理なら無理で、言わざるをえない状況を作ろうとした結果、行き着いたのが動物もどきなんだけど。 「あー、それにしてもここまでくるの長かったなぁ」 僕とシリウスだけだったら3年生の時点で動物もどきの理論も分かってたし、多分できたんだよね。 足並み揃えたいのにピーターがどうしても理解できなかったから、しばらく手は出さなかったけど。 あの頃は苛々したシリウスを宥めるのが大変だった、本当に。 昨日、上手くいって良かったよ。あの苦労が報われた気がするね。 そう、叫びの屋敷でリーマスと過ごすことは問題ない。 仮に暴れ出しても、僕の角かシリウスの牙で抑え込めそうだったし。 「問題なのは……その前と後の段階なんだよね」 つまり、毎月毎月満月の晩に無事に抜け出して戻ってこられるとは、流石に楽観的な僕でも思えないということだった。 来月までに一分、一秒でも早く対策を考え、実行に移す必要がある。 実は今日……嗚呼、いや、もう昨日なんだけど、昨日も抜け出す時フィルチと一悶着あったのだ。 それに、やっぱり就寝時間を過ぎると、先生方の警戒網も厳しくなる。 先祖代々受け継いでる透明マントを使うのも良いんだけど……。 「そろそろ、体格的になぁ……」 流石に5年生(15歳)の男子×3が全員すっぽりって訳にはいかないよね。 っていうか、踝どころかふくらはぎまで見えるし。3人で被ると。 かといって交代で行くのも、リーマスが暴れちゃった時に心許ない。 「動物の姿になってからマント……もないなぁ」 確実に途中でマントがずり落ちる。 そして、上手にもう一度着れなくて THE END だ。 「あー……先生方がどこにいるか分かるような悪戯道具があれば」 いや、悪戯道具じゃなかったら、似たようなものがあるのは知ってるのだ。 それも結構身近な場所――このホグワーツ内に。 僕も実物を見たことがある訳ではないけれど、そう、それは校長室に存在している。 その名も「入学者名簿」。 一度、ロウェナ=レイブンクローの自動筆記羽ペンでそこに名前を書かれた人間は、 在学中はずっとその所在を示されることになるのだそうだ。 まぁ、僕が知りたいのは別に生徒の居場所なんかじゃないので、 校長室に失敬しに行くなんて無駄なことはしないが。 「それに、いちいち名簿の居場所の欄を確認するなんて面倒だし。 やっぱり、すぐ分かるようなものじゃないと」 例えば先生が近づいたら、生徒にしか聞こえない音を出すアラーム……うーん。 悪くはない考えだけど、それいつも持ち歩けないよねぇ。 授業中に鳴ってたら煩すぎるし。スイッチオン・オフつけても入れ忘れたら意味ないし。 「っていうか、僕も今取りかかってるものがあるから、 そんなにたくさん悪戯グッズ作ってるほど暇じゃな……」 あ。 「あああああああああああぁあああぁあぁー!!」 「煩ぇぞ!ジェームズっ!!」 と、突然上がった僕の叫び声に、寝不足で不機嫌丸出しのシリウスが怒鳴り散らす。 「君の方がよっぽど煩いよ、普段」とでもいつもの僕であれば言うところだが、 今頭に浮かんだアイディアをまとめるのに精一杯だった僕は、彼を完全に無視することにした。 (ごめんね、シリウス!) 「オイ、ジェームズ?」 「…………」 「ジェームズ??」 「…………」 「…………」 「…………」 「……まさか、寝てるのか?」 「…………」 「嘘だろ?今の寝言……?」 「…………」 「それとも、俺の夢……か???」 「…………」 「…………」 「…………」 「……寝るか」 僕の反応がないのと、 ピーターが起きていない(多分熟睡してたせい)ことに、自分の判断に自信が持てなくなったらしく、 シリウスはそれはもうやるせなさそうにぶつぶつと呟いた後、ボスっとベッドに逆戻りした。 本当にそれに悪いとは思ったけど、でもごめん、今それどころじゃなくて。 嗚呼、前々から分かってたことだけど、僕って天才かもしれない! 「ということでしばらく君のストーカーさせてもらうけど良いよね?」 「一から十までなにひとつ意味が分からないっ!」 リリーが花摘み(ようはトイレ)に行っている間にどうにかを捕まえ、それはもう折り目正しく頭を下げた僕。 それに対し、彼はすっかりと頭を抱えてしまった。 あれ?なら言わなくても分かると思ってたんだけどな?? 「え、一から十まで説明しないと駄目なのかい?君、頭悪くないだろう??」 「なんだその上から目線!?頭悪くなくたって情報ゼロの状態で考える余地がどこにあるんだよ! 自分が分かってることが他人も皆分かると思うなよ!? っていうか、開口一番、正面切って犯罪宣言される覚えはないわ!」 最近は割と穏やかに会話できていたというのに、今日のはツンケンとしていた。 なんだろう、カルシウム不足だろうか。 「……まぁ、良いや」 「……今、なんか凄い色々考えるべきことを放棄しなかった?」 「うん?あー、しないしない。 えっと、つまり僕は理由を言わなきゃいけないってことで良いのかな?」 「……もう良いよ、それで」 何故だか短期間の内にすっかりと憔悴してしまった。 まぁ、なにか言う度につっかかってこられても面倒なので、僕はそのまま説明をすることにした。 「ようは、新しい悪戯道具を作りたいから、に協力して欲しいんだよ」 実はが来てから、僕は自分の力不足を実感していたのだ。 というのも、4年間ホグワーツで過ごしてきて、 その隠し部屋も隠し通路も、誰よりも詳しい自信があったというのに、 来てほんの少ししか経っていないが、僕の知らない通路をさも当然の表情をして使っていたことが発端である。 (あれには流石の僕も敗北を意識した) だから、それ以来、丁寧に城の内部を見るようにしていたのだが、 驚くことに、ホグワーツには僕も知らない秘密がまだまだありそうなのだ。 だから、ここ最近の僕は城の地図を作ることに大部分の時間を費やしていた。 それでも、まだ地図の半分もできていないのである。 この上、先生の位置を知るための道具を作っている暇なんてない……。 が、ないならないで、どうにかしてしまうのが僕が僕たる所以である。 「……ちなみにどんな奴?」 「ホグワーツの地図さ。隠し部屋はおろか、現在いる人間の位置まで分かる、ね? えーと、ホラ、マグルで言うところのグローバルなんとかって奴?」 「グローバル??」 今作っている地図を思い浮かべる時、同時にの顔が浮かび。 の故郷を調べている際に、調べたアレコレが芋づる式に思い出され。 最終的にたどり着いたのが、GPS――グローバル・ポジショニング・システムとかいう代物である。 詳しいことは難しいマグルの単語が多くていまいち分からなかったが、 なんでも精密機械によって、自分や他人の位置が特定できるシステムらしい。 「車とかについている奴らしいけど。分からない? 日本って精密機械が売りなんだろう??」 「精密……ああ、ひょっとしてナビのこと? あれってアメリカとかロシアの衛星が元じゃないっけか?」 「いや、まぁ、それはどっちでも良いんだけど。 とにかくそんなのを作りたいなぁと思ってるんだよ」 「……忍びの地図キタ―――(゚∀゚)――― !!」 「え?今なにか言った??」 「いや?気の迷いじゃない?」 それを言うなら気のせいじゃないだろうか。 が、の謎の発言は今更という気もしたので、「どう?協力してくれるかい?」と返答を促してみる。 すると、は一瞬ぴくぴくと口の端を歪めそうになったが、 すぐに気を引き締めるかのようにわざわざ口をへの字にした。 「うぉっほん。あー……協力ってなにしろっての?地図に魔法かけるの手伝えって?」 「いや、それもやってくれると助かるけど、その前にまず土台の地図を作らないと。 で、君かなり隠し部屋とか隠し通路詳しいだろう? 神出鬼没っていうか、いつも探検してるし」 「……うんそう。(迷子という名の)旅が僕を呼んでるんだよ。騎士のごとく」 「だから、君の後を尾行させてもらえないかと思って」 「はぁ。それでストーカー、ね」 「その通り」 やうやく通じた話にほっと安堵していると、しかし、は納得がいなかいらしく、 小首を傾げて僕を見た。 「それ、普通に隠し部屋とか教えるだけじゃ駄目なの?」 「……うーん」 当然の疑問に、今度渋面になるのは僕の番だった。 いや、それじゃあ面白くないじゃないか、っていう個人的な思いもあるんだけど、なにより。 「僕一人なら良いんだけどねぇ」 「……あー、なるほど」 ある程度見通しが立つまでは、と思って今のところ地図に関して知っているのは僕だけだ。 しかし、最終的には僕だけでなく悪戯仕掛け人皆でその地図を使いたいし、 現実問題、幾ら僕が天才であっても、正確な魔法の地図を作るのは一人では難しいだろう。 となると、そろそろ、そのアイディアを披露して一緒に作り始めたい頃合いで。 (ほとんど出来上がった状態で見せたりなんかした日にはシリウスはもちろん、 下手するとリーマスにまで臍を曲げられかねない) がしかし、悪戯仕掛け人一丸で地図を作ろうとしたら、に協力なんて言える訳もなく。 「シリウスはキレそうだし、リーマスはひたすら無言になりそうだねぇ。 ……自分で言ってて悲しすぎるが」 「だろう?でも、の協力はやっぱり欲しいんだよ。 となると、それとは分からないように、隠し部屋とか教えてもらうしかないかなぁ、と」 「……えーと、じゃあ、僕は後尾けられてるのに気づいてないふりしてあちこち行けば良いの?」 「そうそう、そういうこと。駄目かな?」 一通りの説明が終わると、「駄目っていうかねぇ……」と、あまり気乗りしないというか、 いまいち納得しかねているように、彼は腕組みをして唸りだした。 ぶつぶつ聞こえてくる言葉から察するに、協力は良いけれど“隠れて”というのが気に入らないらしい。 が、そこは納得してもらわないと僕が困るので、畳み掛けるべくが心惹かれそうな言葉を言い募る。 「地図を作ってる内に『あいつはこんなことも知ってるのか』ってちょっとは株が上がるかもしれないし、 仲良くなるきっかけの一つになるかもしれないだろう? それにこの地図はリーマスのためにもなる物だと思うんだよ。 だから、ここは一つ、ちょっと協力してさ……」 「……分かってるよ。そんなこと」 『リーマスのため』。 その言葉に、の表情が一瞬ぴくりと動く。 そして、彼は大きな溜息を吐いた後、「縁の下ってことで、まぁ、分かったよ。やるやる」と、 投げやりともとれる様子でこっくりと頷いた。 「なんだか適当だなぁ」 「うっさい」 「折角、リーマスの隠し撮りベストショットを報酬であげようと思ってたのに」 「誠心誠意頑張りマス!(ビシッ)」 …………。 ……………………。 君のそういうころっと態度変える正直なところ、嫌いじゃないよ。うん。 「もうすぐ――も近いしね」 「……いや、お前それどこ情報だよ」 「僕に分からないことはないのさ☆ ……って言いたいところだけど、写真と同じ出所だよ」 「恐るべし写真サークル……」 まぁ、そんな雑談も交えつつ、了承も得られたので。 じゃあ、と具体的な話をしようとした僕だったが、その直後、 廊下の向こうから美しい赤毛が翻り、ひったくるようにしての腕を取って走って行ってしまったので、 結局、詳しいことは後でということになった。 「……分かってる、ね」 その言葉がなにを指すのか。 どこまでを指すのか。 判然としないまま、しかし、僕は愛すべき仲間達を計画にひっぱり込むべく、その場をあとにした。 君はどこまで理解っているのかな? ......to be continued
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