誰かが幸せをこの僕に運んでくれるなんて、信じていなかった。





Phantom Magician、94





チュンチュン、と小鳥の鳴く声がする。
いつもであれば気怠い朝。
だが、今日はそこまでの気鬱を感じることなく、僕はぼんやりと目を覚ました。
音を立てずに体を起こし、見慣れたベッドカーテンの染みを見つめること約5秒。
そこで、僕は今の気分の悪くなさに首を傾げた。

そう、気分は良くもないが、決して悪くもなかった。
今日は忌まわしい満月の日だというのに、だ。
否応なく自身の醜さと罪深さを突きつけられ、なによりも孤独でなければいけない日。
そんな日に、こんなにいつも通りの目覚めをすることができた。できてしまった。


「……日付は、間違っていないよね」


自分で言っておきながら、まずそれはないな、と首を振る。
他のなにを間違えても、それだけは間違えないと断言できた。
昨日だって、とうとうまた来たか、と思いながら目を閉じたのだから。


「でも……悪くない」


さて、校内でなにかもっと良いことはあっただろうかとも考えるが、特に思い当たる節はなかった。
というか、人狼になることを帳消しにできるレベルの良いことが早々起こるはずはない。
かといって、仲間たちが計画している悪戯も別にそこまで楽しみなものはなく。
と、そこで考えるともなしに捻っていた頭に、ぽっと理由らしきものが思い浮かんだ。
瞼の裏に描いたのは、見たこともないほど美しい群青。


「……ああ、そうか」


あの鳥と約束をしたせいだろうか。
あの鳥が、僕とは違う人狼の話をすると言ったから。
なにしろ鳥頭なので、一ヶ月前の約束など忘れている方がよっぽど確率として高いが、 それでも、僕はほんの少しだけ、今夜の邂逅が楽しみだった。
と、体を起こしたままぼんやりと過ごしていると、ベッドのカーテンの向こうに気配を感じた。


「リーマス?起きた……?」
「うん。すぐ用意するよ。ピーター」


(特に満月の日に)寝起きが悪い僕をおもんばかってかけられた躊躇いがちな声に、 ほのかな笑みを苦笑へと変え、僕はようやく起きあがった。







「「おはよう」」
「「おはよう」」


いつも通りおどおどとしているピーターを引き連れ降りていった談話室には、もはや人はほとんどいなかった。
がしかし、そこは流石親友とでも言うべきなのか、 トラブルメーカー二人はいまだ一番居心地の良い暖炉前のソファにどっかと腰を落ち着けていた。
そして、ようやくやってきた僕ら二人に気づいたジェームズは、いつも通りニヤニヤと人を喰った笑みを浮かべる。


「なかなかゆっくりなお目覚めだねぇ、我が友よ。
見てご覧。勤勉かつ万年欠食児童な朋輩は誰一人残っていない!」


大仰な言葉は僕を責めているふりをしつつも、その実、かなりの適当さで発されていた。
ようは腹ぺこな育ち盛りの子どもは、こんなところに長々と居座っていない、ってことだろう?
最近特に食べる量が増えてきた僕らの同級生などは、いの一番に広間を目指したに違いない。
まぁ、天高く馬肥ゆる秋とも言うしね。
僕も、普段だったらもっとたくさん食べるし、食欲あるよ。

がしかし、今現在それほど食事を摂りたい気分でもなかったので、 あまり量を食べなくても違和感のないように、こっそりと釘指しておく。


「ごめんごめん、ちょっと体調が悪くてさ」
「だ、だいじょうぶ?」
「もちろん。いつものことだしね」


満月の周辺でだけ具合が悪いのもおかしいので、最近では度々体調を崩すフリを続けている僕。
それはひとえにこの鋭い友人たちを誤魔化すために行っていることだった。
ただでさえ頭が良い上に、四六時中一緒の部屋で生活しているのだ。
そうでもしないと、いつか僕の正体に気づかれてしまうだろう。
もっとも、それに協力してくれるマダム=ポンフリーはかなりの渋面だったけれど。

だから、その言葉は説得力のあるものだったのだろう、ピーターは納得したように一つ頷いた。
がしかし、そんな言い訳には誤魔化されない、とばかりにシリウスが笑い混じりに僕の所行を指摘する。


「とかなんとか言って、実は本の読み過ぎで寝不足なんじゃないのか?リーマス」


確信に満ちた物言い。
それを否定するのは得策ではないと判断した僕は、とっさに笑ってその言葉を認めた。
まぁ、実際その通りだったしね。


「あはは。よく分かったね、シリウス」
「まぁな。遅くまでライト付けてただろ?」
「……ああ、なるほど」


僕は友達すら欺く嘘つきだけれど、必要のない嘘まで吐きたい訳じゃあ、ないんだ。


「じゃあ、もっと明かりを漏らさない工夫がいるね。 もしくは、僕にしか見えない明かりとか」
「あ、確か、闇のアイテムでそんなのあったんじゃないかい?
えーとホラ!コソドロとかが使う奴でさ」
「あー、なんだっけか。しなびた手だよな?」
「そうそう。うわー、思い出せない!こういうのが一番気持ち悪いんだよねぇ。んー……!」


と、僕の放った言葉が思わぬ方向へ転び、ジェームズとシリウスがうんうんと唸っていたその時、


「『導きの手』?」
「「!」」


軽やかな声がそれに応じた。


「あ、そうそう!それそれ、それだよ!流石!!」
「だっろー?ふふん。これからは僕のことは大先生さまとお呼び☆」
「ははー。仰せのままに?大先生サマ?」
「……ノリ良いけど馬鹿にしてんな?お前馬鹿にしてんな?それ」


気がつけば、いつの間にやってきたのか、ごくごく自然にが壁に寄りかかって立っていた。
それに対して疑問符を浮かべるでもなく即座に対応するジェームズ……って不自然すぎるんだけど。
彼と極力会わないために、彼の行動する時間や範囲はある程度分かっている。
そして、この時間、彼はすでに食事を済ませているはずだった。
そのはず、なんだけど……。


「なんでオネエ口調……っていうか、なんでいんだよ、お前は!!」
「ええー?自分の寮の談話室にいて何か問題でも?」


所在に問題はないけれど、彼自身に問題があると言ったら怒るだろうか。
もはや条件反射の勢いでさっと寮に身を引き返そうとした僕だったが、 後ろから聞こえてきた彼らの会話に思わず足が止まる。


「だ、だって、、朝ご飯は……?」
「あ?」
「ひっ!」
「そうピーターを睨まないでやってくれよ、
ホラ、今この時間君は食堂でご飯食べているだろう?」
「お前らは僕のストーカーか」

「……!」


ストーカー?
誰が?
ジェームズ?シリウス?ピーター?
いや、でも、彼らがタケイのことを調べたのは、僕のためで。
だったら、ストーカーは……





僕?





あまりの衝撃の一言に、その後のシリウスの抗議もよく聞こえなかった。


「馬鹿言うな!ストーカーにストーカー呼ばわりれる覚えはねぇよ!
「はぁ?寝言は寝て言え、スケコマシ。
僕の一体どこがストーカーだ、ボケ」
「リーマスの後追っかけてばっかだろうが!
「僕は堂々と追いかけてるし、しつこくはしてねぇっつの!
良いか?ストーカーってのは自分が相手に好かれてるって思ってる勘違い野郎で、
かつ、相手のことをこそこそと嗅ぎ回ったり調べ回ったりする奴を言うんだゾ?


確かに、その定義で言えばはストーカーではないだろう。
だけど、僕がストーカー?
彼が僕を好きだと思ってるのは、思い込みでもなんでもなく、本人が公言していて。
勘違いでもなんでもなくて。
確かにのことは調べたけれど、生い立ちとか、そういうものじゃなくて、 基本的には行動範囲が中心で。
でも確かに本人に訊いたのかと言えばそうではなく、嗅ぎ回ったと言えなくもなくて。
でも、違う。
ちがう。
チガウ。


つまり、ジェームズのがよっぽどだろうが!!
……あー
いや、そこは否定してよ、シリウス!?
っていうか、なんでそこで僕が出てくるんだい!?

……いや、悪い。世の中には否定しづらい言葉って奴もあるんだな
〜〜〜〜〜っ!?酷いや!


違う。
僕はただ、彼と会いたくないだけなんだ。
僕と違って、多くの人に素の自分を見せて、それでも好かれている彼に。
いつの間にか、僕の大切にしているなにかが浸食されていきそうで。
困惑と、戸惑いと、恐怖。
持っているのは、好意とはほど遠いその感情。
その、はずだ。
だから、僕は。


「あ、リーマスっ!?どこに……」
「…………」


ふと、自分たちに背を向けている僕に気づいたのだろう、 ピーターがそれは素っ頓狂な声を上げた。


「気分が未だかつてないくらい悪くなった・・・から、部屋に戻ってるよ」
「!」


一瞬、と目が合う。
彼は、その言葉の意味を正確に受け取って、酷く悲しげに瞳を揺らしていた。
そのことに、心臓が嫌な音を立てて軋んだが、そうさせるためにああ言ったのだ。
僕が傷つくのも罪悪感を抱くのも、まるでお門違い。
僕はまるで無感動に、彼から視線を外して足を進めた。

君のストーカーだなんて、冗談じゃない。







結局、その日一日はのせいで気分が悪いということにして、僕は部屋に引きこもっていた。
食事は、僕が寝ているとでも思ったのだろうか、ジェームズたちが部屋の扉にくくりつけていてくれたので、 わざわざ食べに出て行く必要もなかった。
そして、その日最後の授業中にようやく部屋を出て、 僕は結局朝以来誰とも会うことのないまま医務室のお世話となり、 誰もが寝静まった頃に、暗い暗いあの道を一人歩いていった。


「…………」


前の時と同じように歌が聞こえないかと、耳をすましてみるものの、聞こえるのは風が抜ける音くらい。
徐々に屋敷に近づいているのに、全くあの鳥の気配が感じられず、 僕は思った以上に落ち込む羽目に陥った。
まぁ、そうだよね。
期待するだけ無駄だった、かな。

何度も言うが、鳥頭なのだ。
覚えていろ、という方が酷なのだろう。この場合はきっと。
はぁっと大きな溜息を一つして、僕は緩慢な動作で扉を押し開ける。
すると、


『えいっ』


甲高いかけ声と共に、パラパラと、頭上からなにかが降ってきた。
思わず目を丸くしていると、僕の目の前の床に、目の覚めるような群青が舞い降りた。


『こんばんは!なかなか来ないから、待ちくたびれちゃったよ』
「……こんばんは」


くりくり、と漆黒の瞳を興味深そうに動かす彼。
すでに半ば以上諦めていたから、大して気の利いたことも言えず、 僕は馬鹿みたいに彼を見つめ返すことしかできなかった。


『?出てこないの?』
「え、あ、うん。いや、出るよ」


よいしょっとかけ声をあげて、中途半端な位置にあった扉を完全に開ける。
そして、扉が床に触れた瞬間、先ほど僕に降りかかったなにかが風を受けてふわりと浮いた。
それは、多分、日の光の下で見ればとても綺麗な緑色で……。


「これは……クローバー?」
『うん、そう四つ葉の!君にあげようと思って』


十や二十できかない数のクローバーが、僕の周りには散っていた。
それも、彼の言う通り、全てが希少とされる四つ葉で。
褒めてほめて、と言わんばかりに胸を張る鳥に、なんといって良いか分からない気持ちになる。


「どう、して、これを僕に?」
『人間の世界では幸運を呼ぶって言われてるんでしょう?だからだよ』
「こんなに、たくさん?」
『頑張ったでしょ?最初全然見つからなくて大変だったんだけど、
手伝ってもらったりして見つけたんだよ』
「……そんなに僕は不幸そうに、見えるのかな」
『え!?違うよ、違う!』


僕の自嘲気味の言葉に、彼は酷く驚いたのかバタバタと羽を動かしながら、必死に否定をしていた。
それを受けて、綺麗な羽毛がふわふわとあたりに舞う。


『僕、ただ君に幸せになって欲しいだけなんだ』
「っ!」


彼は鳥で。
人間と違って、僕と違って、嘘なんてつけないから。
その言葉が心からのものに思えて、声が出ない。
だって、一つだって探すのが大変なのに、こんなに見つける、なんて。
しかも、時間が経って色が変色しているものなんて一つもない。
それはつまり、傷まないように短時間でこれだけ集めたことを示している。
僕の、ためだけに。

目の前の彼が首を傾げたり、
四つ葉でないことに落胆しながらクローバー畑をちょこちょこと探し回る姿は、想像するだけで微笑ましく。
僕は気がつけば、彼を膝に乗せて、その滑らかな羽を丁寧に撫でていた。


『!』
「ありがとう、凄く、嬉しいよ」


僕と違う人狼の話を聞かせてくれるから、会いたいのだと思っていた。
けれど、本当はそうではなく。
この子は、僕を独りにしないでくれるから。
だから、唯、会いたかった。
そのことを今、自覚する。







それからしばらく、彼の暖かな体と心地よい重みに、そっと心をゆだねていると、


『あ……』
「?」


彼はふと顔を上げ、首を傾げる僕の膝からばさりと舞い上がった。


「どうかしたのかい?」
『……あーあ、来ちゃった』
「え?来たって……なにが?」


心の底から残念そうな声を上げている彼の言葉がいまいち理解できない。
ここは、僕が満月の夜に利用しはじめて以来、なにかが来た、などということはない。
まぁ、たまに打ち付けてあるはずの窓の板が外されていたり、 泥のついた足跡があったりしたこともあったから、肝試しかなにかで利用されたことはあったようだが。
まさか、その類が来たのだろうか。
だとすれば、それはとてつもなく危険だ。
僕もそうだが、なにより、その相手が。

だが、そこまで考えて焦る僕とは違い、彼はどこか落ち着いていて、 一度僕の肩に身を寄せると、大きく翼を広げて遙か天井の方へと羽ばたいていく。


『大丈夫。怖いものじゃないから。きっと、すっごく嬉しいよ。泣いちゃうくらい』
「怖いものじゃないって……」





『僕を信じて。信じられないかもしれないけど、僕を信じて』





そう言って、彼が棚の陰に隠れてしまったその瞬間、床の扉から、にゅっと白い腕が伸びてきた。


「!!!!!」


そして、次いで現れたのはくしゃくしゃの黒髪と。 端正な顔立ちと。 どこか小動物を思わせる小柄な体躯……。


「はっくしょん!うわあ、予想以上に埃っぽい!」
「うわ、ジェームズ!唾を飛ばすんじゃない!」
「しょうがないじゃないか。生理現象なんだから」
「だからって大口開けてすんな!口元を手で覆うとかハンカチで覆うとか色々あるだろ!?」
「咳エチケットって奴だね。でも、残念。僕そこまで育ちが良くなくってさー。
初めて知ったよ。次からは気をつけるね」
「初めて知った奴が名称なんて知ってるはずあるか!」
「……二人とも、早くの、のぼってくれないかな」


狭いその扉をひしめくように上がってきたのは、誰よりも、なによりもこの場にいてはいけない人たちだった。
そのことに、先ほどまでの妙な幸福感は形をひそめ、血の気が一気に引く。

わなわな、と唇が震え、早く、早くなにか言わなければ、と思う。
この場にいることへの言い訳?
探させてしまったことへの謝罪?
ここまで来てしまった彼らへの怒り?
いいや、それよりも、なによりも。


「……げ、て」


恐ろしい化け物ぼくから、彼らを逃がさなければ!


「逃げてくれ……!」
「リーマス?」
「どうして、こんな所に来てしまったんだ!もう、もう時間がない!
早く、早く戻って!君たちはこんなところにいちゃいけない!!」


自分でも情けなく思うほどにガクガクと震える体を、 こちらへと寄ってこようとする彼らとは反対に、必死に後ろへとずらす。

嫌だ。
いやだ。
イヤナンダヨ。
折角、友達ができたのに。
君たちと友達になれたのに。
こんな形でそれを失うだなんて。
もう、この部屋に月が満ちるまでに時間なんてないのに。
僕の醜い姿を見る前に。
僕が君たちを傷つける前に。
出て行って。
出て行って。





もう二度と、誰かと一緒にいたいなんて、願わないから。





「……つれないねぇ、リーマス」


がしかし、そんな風に怯える僕を、彼らが置いてなどいくはずもなく。


「大丈夫。僕たちは全部分かって来てるんだよ」
「そうそう。俺たちがまさかなんの対策もなしに狼男の住処に来るとでも思ったのか?」
「っ!」
「……ジ、ジェームズ!は、早くしないと!!」
「おっと、そうだね。まぁ、話は後からでもできるし」
「だな」

「君たちは一体なにを……っ!!?」


そして、いつもと同じ力強い瞳と、頼りがいのある余裕の笑みを浮かべた彼らは、
瞬く間に、その場から姿を消した。
……いや、正確に言えば、姿を変えた。


「……動物アニメーもどきガス?」


僕の目の前には、なんだか丸眼鏡のような変な模様がある牡鹿と。
どこかの誰かさんのように艶やかな黒い毛並みをした、馬鹿みたいに大きい犬と。
彼らの陰に隠れるように、かなり目立たない様子でこちらを伺う、小さな鼠がいた。

一瞬で誰が誰だか分かってしまうことに、こんな状況だが、笑ってしまいそうになる。
だが、とてもじゃないけれど、笑えるような心境になく、僕は気づけば詰問するように、 特に牡鹿と黒犬へと鋭い視線を向けていた。


「……登録、はしてる訳ないよね。
未登録の動物もどきアニメ―ガスは違法のはずだ」
『あはは!そんなこと気にするもんか!』
『凄いな、リーマス。話、分かるのか』
『ううううん!す、すごい!』


僕の怒気に気づいているのかいないのか、 まるで見当違いのことを感心している馬鹿犬たちの頭を殴りたい衝動に駆られる。
だがしかし、言葉が分かるほど獣に近づいている僕が殴ったりしたら、 下手をすると頭蓋骨が陥没しかねないので、そこはぐっと堪えた。


「君たちは、自分たちがなにをしているのか本当に分かってるのか?
動物もどきアニメ―ガスは成人の魔法使いでさえ習得できない人間が大多数の難しい魔法だ。
中途半端に動物に変身して元に戻れなくなってしまったり、
自我を失ったり、最悪の場合は命を落とすケースだってある。
それなのに、君たちは……っ!」


ぐつぐつと沸騰する怒りで、目の前が真っ白になりそうだった。
彼らの考えが、その姿を見た瞬間に分かってしまったから。
僕はこんなこと望んでいなかった。
友達を犯罪者にしてまで、学校に通うつもりなんてなかったのに……!


「こ、んな……っ!」


自分自身の愚かさが招いた事態に、恐怖ばかりがわき上がる。
こんなことを、ダンブルドアに知られてしまったら。
僕を、こんな人狼の僕を、色々心を砕いて入学させてくれたのに。
僕が、彼らをこんな引き返せないところに引きずり込んでしまった。
どうしたら良い。
どうしたら、この罪を贖える……?

と、僕が一向に怒りを抑えるつもりがないことを悟ったのだろう、 彼らは顔を見合わせて口々に言い募った。


『オイオイ、リーマス。ここは文句を言う場面じゃないだろ?』
『ふ、ふたりが、変身すれば危なくないって言うから……だ、大丈夫なんだよね?』
『人間じゃないからね。ホラ、こうやって上手くいったんだから良いじゃないか』


調子の良い言葉。
そんなのは結果論だ。
確かに、シリウスやジェームズなら、できなくもなかったかもしれない。
でも、どちらかと言えば魔法の苦手なピーターまで。

彼らがこの魔法を習得するために費やした年月や労力を考えても、 嬉しさより腹立たしさが先に立つ。
せめて、僕に事前に相談してくれたら良かったんだ。
そうしたら、僕はそれを全力で止められたのに。

自分でもらしくないと思いながらも、荒げる声が止まらなかった。


「〜〜〜〜〜っ!上手くいかなかったらどうするつもりだったんだ!」
『その時はその時さ』
『そうそう。とにかく、これでお前と満月でも一緒だ』

「!」


でも、それでも彼らは。
手を差し伸べるんだ。
こんな風に、さらっと。なんでもないことのように。


『皆を騙して、狼と遊ぶ……悪戯仕掛け人冥利に尽きるだろ?』
『詩人だねぇ、シリウス。大丈夫。ようは、ばれなきゃ良いのさ』
『だ、だからね?リーマス』

『君はただ“馬鹿だなぁ”って言って、いつもみたいに笑ってれば良いんだよ』


いつも通りのどこか巫山戯た物言い。
だけど、それはどこまでも優しくて。


「……み、んな……馬鹿、だ、なぁ……」


ボロボロと、小さな子どものように涙を流した。

青い鳥が運んできた幸運のお守りは、素晴らしい友情を僕にもたらした。
その後、彼らにあの鳥を紹介しようと思ったけれど、 彼はこの屋敷のどこにもおらず。
たくさんのクローバーと、一枚の大きな羽だけがそこには残されているだけだった。





それでも君は、僕にとっての the blue bird of happiness





......to be continued