情報交換?違うね。僕がするのは情報収集さ。





Phantom Magician、89





『えー、であるからしてぇー、だからー……』


ガヤガヤガヤガヤ


『そのぅ…………良いから話を聞けって言ってんでしょうがっ!!』


ガヤガヤガヤガヤ


『…………はぁ』


リリーがを叩き起こしつつブレイクタイムを取ろうとしていたので、 ではと一人の時間を満喫しようと思い立ったある日の朝のこと。
気づけば何故だかこの喧しい場所にいて。
何故だか、まとまりのない様子を見せられて。
こういう不毛な時にいつも思う。
僕、なんでこんなところにいるんだろうって。


『あーもう!新人だからって馬鹿にしてっ!っていうか、なんで帰ろうとしてるのよ、そこっ!?
定例猫会議は始まったばかりじゃないのよぉおぉおおぉおおおぉー!!』
『あー……煩い』


キーキー……もといニャーニャーと甲高い喚き声を立てる年若い猫。
そして、その飼い主によって満腹になったためにとっとと帰ろうとしている猫。
今まさに転寝を始めようとしている猫。
たまたま通りかかっただけなのに会議とか言われて鬱陶しそうにしている猫。
猫。
猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫――…。
目の前をホグワーツ中の猫が埋め尽くす光景はなんていうか、うん。凄いね。
が喜びそう。


『で、僕も帰って良いかな』
『良いワケないでしょっ!?なにしに来たのよ!?』
『だってさぁ、誰もアンタの話なんて聞いちゃいないよ?』
『そ、それは……っ』


僕の言葉にミセス ノリスは耳としっぽをへにょん、と垂らした。
見るからに落ち込んでいる。
未来の世界の彼女はホグワーツの猫を掌握し、それこそ女王のようだったのだが、 その姿は見る影もない。


『……はぁ』


定例猫会議、なんて馬鹿げたものは目の前の彼女の提案である。
僕も未来ではなかなかに有意義な話が聞けたので参加してみたのだが、
よくよく考えてみれば、年若い猫の戯言に、気ままな猫連中が集まるはずもない。


『あー、もう!なんで集まるくせにいつも言うこと聞いてくんないのかしら』
『集まったのはアンタの飼い主……っていうか、それ持参のおやつのせいだろうね』


実をいえば、彼女が猫を集めようとしたのは今日だけではない。
で、たまたま巻き込まれた猫から、行けば良いものもらえるぞ、と広まったワケだ。
つまり、目の前の連中にとって、メインイベントはとっくに終了してしまっているのである。
話なんぞ聞くワケがなかった。
で、それでも話を聞いてもらおうとするのはなんとも不毛。


『あー……あ〜〜〜〜〜っ帰っちゃう』


ガヤガヤガヤガヤ


隣から、なんとも情けない、悲痛な呟きが聞こえてくる……。


『………仕方がない』


まったく。
何を考えているんだか。
こういう時はさ。


isa


実力行使が基本だろ?


しん、とその場が静まり返る。
僕の放った魔法によって。
全身の動きを奪われているので、まぁ、さもありなん。
唯一動く幾つもの目玉が、その行為を成した者を探そうと彷徨っていた。


『アンタ……』
『……ふぅ。僕もさ、忙しいんだよ』
『『『!!』』』


ならば、その眼前に身を晒すだけである。


『良いか?これは、ホグワーツでここ最近変わったこと、気になったこと、それを報告する場だ。
餌を貰うための場じゃない。分かったら口を開く許可をくれてやろう』


YES or NO ?
言って分からない奴には、やっぱり体で覚えてもらわないと。ねぇ?







その後、つつがなく会議は進行していった。
硬直を解いた途端に飛びかかられたり文句を言われたりもしたけど、 そこは殺気と魔法で丁重にお相手してあげた。
僕って本当に親切だよね。
こんな馬鹿げたことにも付き合ってあげるんだからさ。
気が付けば、ミセス ノリスじゃなくて僕が主催者っぽくなって司会進行しちゃってるけど、 まぁ、それも今日限りだし。

確実に僕の影響でその後のミセス ノリスが形成されるのだが、 そんなことも露知らず、僕は猫たちの会話に耳を傾ける。


『変わったことって言われてもねえ?』
『ご主人に彼氏ができたことかしら?』
『ああ、あの乱暴な?』
『そうよー。私のことを足蹴にするんですもの。早く破局させなくちゃ』
『ご主人のパートナーは重要だよな』
『ああ、まったく。そうだ、新入りのご主人みたいのだと良いな』
『確かに。どっちも猫に優しい』
『この前、僕ツナ缶貰ったんだー』
『良いわねぇ。でも私はまたたびクッキー貰ったわ』
『『良いなぁっ!』』

『……で?』

『『!』』
『え、えーとぉ、でも具体的になに話したら良いのかなぁ、なんて……』
『そうそう、変わったことなんて抽象的なことじゃなくて具体的なことをさ』


猫たちは恐る恐る、しかし、言うことはきちんと言う。
犬と違ってしなやかでかつ器用、ついでに言えば気ままなことが彼らの身上である。
これをまとめていた、未来のミセスは凄い。
まぁ、僕でもできるけどね。


『……はぁ。さっきみたいに人間関係、新しく来たものなんかの話だよ』


こういうのは、下手にまとめるより、好き勝手に話させて、自分の欲しい話を拾うに限る。
下手に反発されても面倒だし。
あ。ただし、脱線しまくったら戻すのを忘れずに。


『人間関係?んー、でも人間たちってコロコロ付き合う相手を変えるしなぁ』
『そうそう。特にスリザリンはその傾向が強いのぅ』
『失礼ね。わたくしのご主人はそんなことはないわ』
『そりゃあ、そうだ。だってそもそも意中の相手と付き合っていない』
『まぁね。ご主人気難しいから』
『相手ってあれだろう?この間小鳥に服従の呪文をかけた?』
『なにを言ってる?我々にもかけたんだぞ??』

『……そいつの名前は?』

『マルシベール。確かそんな名前だ』
『エイブリーじゃなかったか?あれ?セブルス?』
『いいえ。マルシベールであってるわ。他の二人はその同室者』
『おや?セブルスは新入りのご主人とリリーの友人だったか?』
『まぁね。マルシベール……アズカバン行きの奴か。接触は避けた方が無難だな
『最近、スリザリンの近くを通るのは怖いからね。寮から出ないのが一番安全』
『といっても、日中以外は煩くてかなわない』
『違いない!』
『あら、でもスリザリンだけじゃなくてグリフィンドールも――…』


その後、猫たちは楽しげにまたもや話を脱線させ始めたので、 僕はその場をミセス ノリスに押し付け任せ、その場を後にする。

サクサクと、枯れかけの芝生が乾いた音を立てる。
日当たりの良い中庭の一角で行われた会合だったので、足が汚れてしまった。
こっそりと悪戯仕掛け人の布団ででも拭いてやろうか、とそんなことを考えながら歩いていると、


――きたんだよ!ぼ、僕もようやく!!」
「わお!流石僕の親友!だから言ったじゃないか。ピーターにもできるって!」
「うん!」
「まぁ、ちょーっと時間はかかったけどな」
「う。ご、ごめんよ……」
「まったく。シリウスも褒めるんだったらもっと手放しでやらなきゃ!
でも、これでようやく3人ともだね。決行はいつにしようか・・・・・・・・・・?」
「やっぱり次の満月・・・・じゃないか?」


タイミングが良いというかなんというか、丁度その彼ら(狼男除く)が廊下の向こうからこちらへ向かって来ていた。
このまま行くと間違いなく鉢合わせする。
がしかし、かといって遠回りするのも面倒だ。


『っていうか、僕が道を譲る必要が?』


ないよね。基本。
うんうん。なんとなくこの先の展開が読める気がしなくもないけど、しょうがないよね。
例え、この先奴らがトラウマを覚えようとも?
僕から手を出すことはないからね?
そう、僕からは。
つまりは正当防衛で、僕のせいじゃない、と。
ゆえに、僕は悠々と歩いていて良いんだ。うん。


「オイ、あれの猫じゃないか?」
「ん?ああ、そうかもね。猫の区別も中々つかないけれど」
「で、でも、あんな風に真っ黒なのは、あんまり見ない、よね?」
「っていうか、あの偉っそうな態度とかそっくりじゃねぇか」


と、僕が彼らを全く気にするそぶりもなく向かってくることに気づいたのだろう、 シリウスが失礼にも僕を指さしてきた。


「この間、アイツ俺が餌くれてやろうとしたら引っ掻きやがったんだぜ?」
「……それは君が食べさせようとしていたのが、歯接着ガムだったからじゃないかな?
っていうか、シリウスがの猫に親切にするとか普通に怪しいから!
そりゃあ警戒するさ。ねぇ、ピーター?」
「えっ!?あ、う、うん」
「違ぇよ。最初は普通の餌で餌付けして、最後に食わせるつもりだったんだ」


動物虐待の話を、それは自信満々に言っている奴に一言良いだろうか。
喰 わ ね ぇ よ 。
普通の猫だって野生の勘、匂い、その他諸々で気づくから。
引っかかるのは余程の間抜けだ。

付き合ってられない、とばかりに足を速め、さっさと彼らとすれ違う。
と、その瞬間、


「……思い出したら苛々してきた」


危険をはらんだ低い呟きが耳朶を打った。
面倒だが、隙なく構えてゆっくりと振り向く。


「……止めなよ。シリウス。幾らが気に入らなくてもペットに罪はないさ」
「いや、云々を抜きにしても、気に入らねぇんだよな。こいつ」
「な、なまいきだもんね。猫なのに」

『…………』


ピーターの言葉で僕の心は決まる。
このまま見逃してあげようかと思ったけど。うん、無理。
えーと、確かこの廊下にはぁ〜……。


「だろ?あ、じゃあ、こういうのはどうだ?
怪我をさせるとかじゃなくて、ド派手な色に変えちまうとか?」
「うーん。それもそれでストレスは溜まりそうだけど。
でも、その位なら良いんじゃないかい?面白そうだ!」
「う、うん!流石シリウス!!僕じゃそんなの思いつかないよ」
「何色が良いかなぁ?ピンクとか?」
「良いねぇ。じゃあ、俺はそこに緑を足して斑にしてやるよ」


どうやら話がまとまったらしく、シリウスを筆頭に杖を掲げようとした悪戯仕掛け人。
がしかし。


『ポチっとな』


それよりも、僕が廊下の仕掛けを動かす方が断然早かった。


「なっ!?」「うぉあ!?」「ひぃっ!!」


そして、一瞬にしてその場から消える一同。
僕は彼らが先ほどまでいた場所の手前までトコトコと近づき、 今まさに悪戯仕掛け人が落ちて行った落とし穴を覗き込んだ。


「いっててててて……」
「くっそ、あの野郎っ!!」


ふむ。ピーターが潰されている他は大した怪我はなさそうだな。
まぁ、侵入者の捕獲用だから、そんなものか。
ホグワーツは依然廃墟だったものを直して使われたためか、 あちらこちらにこういった仕掛けが存在する。
正直、僕もなんだこれ?って思うのもあるんだけど。
知っていて損はないなぁ、とも思うワケだ。
まぁ、自力での脱出は中々難しいとは思うけど、彼らならなんとかするだろう。
えーと、愛と勇気と希望の名の元に?(笑)

間違いなくこれでと彼らの仲良くなる時期が遠退いたのを感じながら、 僕はしっぽを威風堂々と振りながら歩き去った。







『どうやら、ようやく動物もどきアニメ―ガスが成功したみたいだね。
にかまけていて遅れていたからどうなるかと思っていたけれど。
果たしてそれが吉と出るか凶と出るか……。
どこかの誰かさんもどうやら動き出したようだし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、さて、どうなるかな?
……まぁ、僕のやることは変わらないんだけど』





くれてやるものなんて何もない。





......to be continued