僕は、一体なんなのだろう。 Phantom Magician、79 =について、僕が知っていることはとても少ない。 魔法の腕が良いこと。 女子に人気があること。 リーマスがスキなゲイだってこと。 シリウスやジェームズと仲が悪いこと。 エバンズとスネイプと仲が良い(?)こと。 でも、僕がなによりも最初に理解したのは。 が、僕のことをとてつもなく嫌いだっていうこと。 その日の魔法史の授業、僕は今日提出するはずの宿題を寮に忘れてきて、 急いで取りに戻ったせいで、一番前の席に座らざるをえなかった。 そこは一番生徒から人気のない席だから、残っていて当然だとは思う。 だから、慌ててその席に着いた僕は、一息吐いてから隣に座るのが誰かを知って、酷く驚いた。 そう。相席になったのは、どういうワケだかだった。 「っ!」 何度だって言うけれど、ここは、彼のような人間が座る場所じゃない。 大体、僕みたいに遅刻寸前に教室に入ってきた、とか、嫌われ者だとか。 そういう人間がよく座っている、席だ。 間違っても、シリウスやジェームズ、のように周囲から人気のある人間が座る席じゃない。 大体、ああいう人たちは一緒にいる人が決まってくるので、席を取ってあったりするものなのだ。 ちなみに、今日はシリウスが授業をサボっているせいで、僕がいつも座るリーマスの隣はジェームズで埋まっている。 特に彼はエバンズが隣に座ることが多い。 彼女なら、間違いなくのために席を取っておくことだろう。 慌てて周囲に視線を巡らせれば、ここから少し離れた席にエバンズはいた。 どこか心配そうな面持ちでこちらを見つつ、しかし、彼女はそつなく隣で話しかけてくる女子に応対している。 あれは確か、占い学に傾倒しきっている子だ。 あの手のタイプはあまりすげない態度を取ると、陰湿な悪口やらなにやらをするのだったか。 あの様子を見ると、どうやらエバンズは見事に捕まってしまったらしい。 なんとなく、エバンズとが気の毒になって、すぐ隣に視線を送る。 と、その瞬間、不機嫌そうに目を細めたとばっちり目が合った。 「…………」 「…………」 「……なに見てんだよ」 「いいい、いや!なんでもっ」 なんの理由もなく睨み付けられ、それに怯えながらもどうにか答を返す。 すると、彼はフン、と嫌そうにこっちを睥睨した後、教科書に目を落とした。 そして、その後、授業中に彼の視線が僕を捉えることは、終になかった。 そのことに安心しつつ、しかし、その端整な横顔が歪んでいる様は、少し残念だと思う。 僕が隣でなければ、もう少し和やかな表情をしていただろう。 その事実が酷く残念で、同時に理不尽だ。 について、僕が知ることは少ない。 でも、それでも、彼が僕を嫌っていることは、すごくよく分かった。 彼に応えないリーマスではなく。 彼で遊ぼうとするジェームズではなく。 彼に攻撃するシリウスでさえなく。 基本的に彼と関わろうとしない僕を。 彼は嫌っている。 直接そう言われたワケではもちろんないのだけれど。 (だって、まともな会話ですら僕たちはしたことがない) でも、分かる。 だって、彼が僕を見る時、その瞳は「大嫌いだ」と言葉よりも雄弁に語るのだ。 理由は、よく分からない。 でも、出会ったその瞬間、まだ僕が一言も話していないその時から、彼は僕を睨んでいた。 まるで、親の敵に出会ったように。 まるで、宿敵を見つけたように。 そのことが、さらにシリウスたちの不興を買ったのだが、それすらも構わずに。 だから、僕はが苦手だ。 というか、自分を嫌う人間に対して、簡単に好意が抱ける人間がそうそういるのだろうか。 (あ、でも、はその数少ない人間かも?) できるだけ係わり合いになりたくないし、こうして隣の席になるなど以ての外。 シリウスたちが傍にいるならともかく、単体でなにか(話すことさえも)する気は起きない。 そのため、僕は彼がこれ以上不機嫌にならないように、できるだけ肩身を狭くして、 拷問のようなこの魔法史の授業が終わることを願った。 そして、授業時間の三分の二程度が終わった頃だろうか。 僕は極度の緊張のせいか、ようやくうつらうつらとしだした意識の中で、それに気付いた。 「…………っ」 がわき腹を押さえて、一瞬だけ表情を歪めていた。 まるで、痛みに耐えるかのように、ぐっと。 そういえば、彼は僕がこの教室に入った時から、ずっと同じ位置に手を当てていたような気もする。 胃でも痛いのかな……。 そうであれば、僕と同じで、なんだか少し可笑しい。 結構前から、の弱みを握りたがっているシリウスたちに教えたら、褒められるだろうか。 嗚呼、でも間違いで怒られたりしたら嫌だしな。 とりとめのない思考でそんなことを思いながら、僕の意識はもう一度まどろみの中に沈んでいった。 そして。 「……ぅっ」 そんな僕の意識をもう一度浮上させたのは、の僅かな呻き声だった。 「?」 その声に視線を上げ、僕が見たのは苦渋に満ちた、の横顔だった。 「……くっそ。月いちでこれじゃ死ぬっての」 「!」 いつもであれば余裕のあるそれが、僕の視線にすら気付かないほど切羽詰っているように見える。 顔色は悪く、脂汗のようなものもうっすらと滲んでいた。 白くなるほどにわき腹を掴んだ手は、かすかに震えている。 明らかに体調が悪そうだ。 そのことに驚き、思わず自身の腕時計を見てみる。 授業は……もうあと数分で終了だ。 ビンズ先生はいつも授業時間をきっちりかっきり守る人(ゴースト?)なので、 は我慢することを選んだんだろう。 自分のすぐ横で倒れるんじゃないか、というさっきとは別種の緊張感に、はらはらしながら授業の終わりを願う。 ああ、まったく。 よりにもよって、なにも僕が隣の時に具合を悪くしなくても良いのに。 この様子なら、八つ当たりをしてくる元気は到底ないだろうが、 それでも、機嫌が極悪なのは確実。 できる限り近寄りたくない。 だから、びくびくとビンズ先生を見つめていた僕は、彼の口が「今日の講義は以上です」と形作った時、 冗談でもなんでもなく安堵で泣きたくなった。 急いで荷物をまとめ、ジェームズたちのところへ行こう。 のことについては、言うだけ言って、後はジェームズたちに任せれば良い。 弱ってる彼を攻撃するんでも、医務室に連れて行くんでも、どちらでも僕は構わないのだから。 そう思って、席を離れる直前、僕は様子を窺おうと隣を見た。 丁度は席を立ち、荷物をまとめているところだったが……、 「っ!?」 その彼が先ほどまで座っていた席を見た瞬間、自分の血の気が一気に失せたのを感じた。 「……ちっ」 そして、彼は僕がなにに動転したのか視線から悟ったのだろう、 心底苛立たしげに舌打ちをし、僕の胸倉を掴んで自身の方へ引き寄せた。 「良いか。このことは誰にも言うな」 「で、で、でも!、血が……っ!君、怪我をっ?」 「……別に大したことじゃない」 ぶっきらぼうに言い放っただったが、その顔はすでに蒼白だった。 それもそのはず、彼が座っていたその席は、赤黒い血で、わずかに濡れていた。 癒者でもない僕にその手の知識があまりあるワケではないのだが、 確か、怪我というものはしっかり押さえてさえいれば、何分かで止まるものであったはずだ。 は確かに、しっかりとわき腹を押さえていた。 授業が始まってから、終わるまで。ずっと。 それなのに、椅子についた血は真新しく。 ということは、彼はいまだに出血し続けている、ということである。 幾らシリウスたちが嫌っているとしても、流石に大怪我をしている人間を放っておくことはできない。 僕は慌ててリーマスかエバンズに助けを求めようと視線を彷徨わせる。 というか、こんな殺伐とした雰囲気に陥っている僕たちに、なんで誰も気付かないんだ? まぁ、その答えは簡単で、皆起きぬけだったり、終わっていない板書に必死だったりするからだけれど。 と、僕の縋るような視線に気付いたのか、リーマスが訝しげにこちらを見た。 が、その意図に気付いたは再度、有無を言わせない力で僕を自分と向き合わせ、視線を外させる。 「言うな!言ったら……お前を殺してやるっ」 「ひっ!」 血の気のない顔の中、漆黒の瞳が残虐に、激しく煌めく。 けれど、何故だろう。 言葉も瞳も圧倒的な暴力に満ち溢れていたのに。 「絶対に、言うなっ!」 その声は、泣きそうに聞こえた。 「…………っ」 そして、僕が必死にその言葉に頷いたのを確認すると、 は突き放すようにその手を離した。 と、呆然とする僕の前で、椅子をさっと魔法でぬぐって、駆けるように部屋を出て行く。 その俊敏さは、怪我人とは到底思えないほどのものだったけれど。 でも、僕は確かに見てしまった。 彼が必死に耐えていた、その証を。 頭が真っ白で、だから僕は自分がこの後なにをしようとしたのか、まるで覚えていない。 ただ、何故だか僕は思ってしまったのだ。 追いかけなくちゃって。 だってきっとは。 医務室とか、そういう場所に行かない。 きっと、誰も頼らない。 いつだって、たった一人でシリウスたちに立ち向かうように。 「!」 いつもであれば考えられないほどの積極さで、僕は荷物を放り出して彼が出て行った扉へと向かう。 彼がどっちへ行ったか、なんて分かるはずもないのだが、適当にあたりをつけて僕は走った。 我ながら、どうして、と思う。 のことは苦手で。 怖くて。 でも、シリウスたちにまるで尻込みしないその姿は、妬ましさを覚えると同時に、憧れでもあった。 それに、は僕を見ていた。 シリウスたちの添え物でもなく。 お荷物でもなく。 ピーター=ぺティグリュー本人を。 もちろん、そうされるように過ごしてきたのは僕だ。 そんなこと誰よりも分かっている。 けれど、が僕を睨み付けてきたあの時、 僕が感じた中には確かに、恐怖以外のなにかもあって。 だって、まるで対等な相手のように、彼は僕を見たんだ。 向けられる感情は決して良いものじゃないけど。それでも。 そのことが、ほんの少し、嬉しかった。 理由といえば、それが理由なのかも、しれない。 と、一向に彼の姿を見つけられず、もしや反対だったかと青くなりかけたその時、 僕は廊下にぽつり、と小さな血痕が落ちているのを見つけた。 「!」 新しい管理人のフィルチが張り切っている、廊下だ。 そうそう、血なんてものが落ちているはずはない。 僕は慌てて周囲の空き教室に目をやり、そして。 どさっという、なにか大きなものが床に倒れた音を聞いた。 「!?」 それが彼が倒れた音にしか聞こえなかった僕は、 なにを確認することもなく、音がしたと思われる教室へと飛び込んだ。 そして、予想通りが腹部を押さえて床に倒れこんでいるのを視界に納め、 そして。 そして。 「麻痺せよ」 僕目掛けて飛んできた赤い閃光に、意識を失った。 「よりによって、君が来るとはね。ペティグリュー」 「本当だったら、が嫌がるだろうから、君の記憶を消しておくところだが」 「ポッターたちが来る」 「……まぁ、こいつなら大丈夫か」 「所詮……小物だ」 その後、頭上で誰かがなにかを言っていたような気配がしたけれど、 結局僕は、それを理解することもないまま、その場に倒れていた。 「――ター?ピーター!」 「……僕がやるよ。蘇生せよ!」 そして、次に僕が目を開けた瞬間、視界に広がっていたのは黒と鳶色だった。 「……じぇ、むず?リーマスも……」 「やぁ。気分はどうだい?ピーター」 「あ、だ、大丈夫」 「いきなり二人して走り出したから驚いたよ。一体、どうしたんだい……?」 ぼんやり濁る意識の中で、その色を持つ友人の名前を呼べば、 いつもと変わりない軽やかな声が振ってくる。 そのことに安堵しながら、やけに軋む体をゆっくりと起こす。 「ここは……」 「君が倒れてた空き教室だよ。ところで……ここで何があったんだい?」 ジェームズの昨日の夕飯はなんだった?とでも訊くような気軽な口調に、 僕は痛む頭を押さえつつ口を開こうとした。 けれど。 「っ!」 ゾクリ。 「?どうしたんだい、ピーター?やっぱりどこか痛いのかい?」 「額じゃないかな。打ち付けたのか、赤くなってるみたいだよ」 「……ああ、本当だ」 「まったく。冗談じゃないよね。ね?ピーター」 「う、あ……」 目が合った、彼の。 ジェームズの瞳が、表情とは裏腹に全く笑っていなかったことに、息を呑んだ。 これは、一度見たことがある。 確か。確かまだ僕たちが二年生の頃で。 「それで……」 スリザリンの上級生に、僕と、僕を庇ったリーマスが呪いを受けた時だ。 「ここで、となにがあったんだい?」 「〜〜〜〜〜っ!」 あの時から僕はチビで、弱くて。 おどおどとした様子から、いつもスリザリン生には馬鹿にされて。 あれは確か、クィディッチの試合の次の日だった。 グリフィンドールにスリザリンがこてんぱんに負かされて、連中は虫の居所が悪かったんだ。 それなのに、僕はたった一人で連中と出会ってしまって。 散々、追い掛け回されて。 もう駄目だって時に、リーマスが助けてくれて。 でも、すぐに二人とも呪いをかけられて。 痛くて苦しくて、惨めで情けなくて、もう駄目だと思ったその時。 『やぁ、先輩方。随分楽しそうなことしてますね』 今とまるで同じ表情で、ジェームズは彼らにふくれ薬の入ったフラスコを投げつけたのだ。 心の底から楽しそうに唇を歪めて。 でも、少しも笑っていない、冷たい瞳で。 その後も、その先輩たちを見かけるたび、悪戯っていうには度を越した呪いをかけ続けていた。 つまりこの表情の時は、彼が酷く怒っている、ということ。 「あ、あ、あの、そ、その……」 「うん?」 その怒気に、早く言葉を発しなきゃと思うけれど、 縺れた舌はまるで思い通りにならず、僕は意味不明の声しかもらすことができない。 そう、早く、ジェームズの誤解を解かなきゃと、思うのに。 違う。違うよ、ジェームズ。 じゃない。 僕を気絶させたのは、じゃない。 だって、彼は倒れてた。 僕が、この教室に飛び込んだ時には、もう。 「!あ、そういえば、、は……っ!?」 「……僕たちがここに来た時には、もういなかったよ」 「そ、んな……!」 その言葉に、自分で顔色が変わったのがはっきり分かった。 あの怪我で? 自分で歩いていなくなった? そんなことは、ありえない。 なら。 なら、は……? もともと、そんなに回転の速くない頭なので、 こういう時どうしたら良いのかがさっぱり分からない。 だから、僕にできたのは、見たまま、ありのままに全てを語ることだけだった。 ごくり、と覚悟を決めるように、一度大きく唾を飲み込む。 「、は……」 「うん」 「右のわき腹に、怪我してたみたいで」 「……怪我?」 「うん……。ずっと授業中押さえてて、血が、ついてたんだ。 それで、ぼ、僕、そのこと皆に教えようとしたんだけど。が、絶対言うなって」 「…………」 「でも、やっぱり僕、怖くて。 を説得しようとしたんだけど、けど、 倒れてるを見たら、なんでか気を失っちゃって。 目の前が赤かった気もするんだけど、よく……」 怪我、という言葉に、ジェームズは一度だけリーマスの方を見た。 リーマスはその視線に気付いていなかったみたいだけど、妙に意味ありげだった気がする。 ただ、それも一瞬のことで、ジェームズはすぐに僕の顔を穴が開くほど見つめた後、 「……貧血って奴かな。まぁ、なにもなかったんなら、良いんだけど」 そう言って、今度こそ朗らかに笑った。 その表情に、さっき感じた怒気は微塵もない。 まるで、最初から怒ったりなんかしなかったみたいに。 あまりに唐突なその切り替えに、僕としては目を白黒とさせる他なかった。 「ジェームズ……?」 ではリーマスはというと、明晰な彼の頭脳でも、ジェームズの変わり身が分からなかったらしく、 酷く怪訝そうに彼を見ていた。 ジェームズは、しかし、そんな僕たちの様子にまるで構わずに言葉を続ける。 「とにかく、は倒れてたんだね?怪我をして?」 「う、うん。多分、そうだとは……思うんだけど」 「ふむ。なら、彼の所在をはっきりさせた方が良さそうだね。 ピーターが倒れてから、ここに僕たちが来るまでは僅かな時間しかなかったはずだ。 そんな短時間で、が自力で教室からいなくなったとは考えにくい。 ということは、彼をここから連れ出した第三者がいるはずだ」 「?で、でも、誰かいたのなら、その人に任せれば良い、んじゃ?」 いまいち、ジェームズの言葉が分からず首を傾げる。 僕がを追いかけたのは、ひとえに、彼が助けを求める人間が一人もいないと思ったからだ。 そのことに気付いていながら、彼を放置して大事になったら? そのことを、に恨まれたら? よくよく考えれば、そんなことがあるはずはないのだが、そう、怯えたからである。 誰か傷ついた彼を介抱してくれれば、万々歳ではないだろうか。 と、詳しい説明を求めるように視線を向けた先で、リーマスは微かに目を見開いていた。 「まさか……?」 そこにあったのは、驚愕と、紛れもない嫌悪だ。 どうしてそんな表情になるのかが分からず、僕の混乱はどんどん深まる。 すると、ジェームズはようやく僕にその答えをくれた。 「そう。察しの通りだよ、リーマス。 彼はなにしろ可愛い顔をしているからね。弱った所に付け込まない奴がいないとも限らない」 「?…………っ!」 それは、それは、誰かがになにかをする、ということ? そんなこと……考えただけで、最低な気分だった。 普段であれば、彼は強い。僕なんかと違って。 でも、魔法を使えるような状態じゃなかったら? 同じ歳でも、一回り小柄で、華奢な彼。 杖さえ奪ってしまえば、2、3年生でさえたやすく押さえ込めてしまうかもしれない……。 一気に雰囲気の重くなった空き教室で、 しかし、それを断ち切るように「僕とピーターは寮を。リーマスはまず医務室を見てこようか」と言ったジェームズに、 異論を唱える人間は一人もいなかった。 「でも、どうして寮なの?」 「ん?」 いつになく真剣な表情で先を走っているジェームズに、 僕は、余計なことと知りつつ疑問を投げかけた。 「こういう場合って、あの、さっきの部屋に近いところから、探すんじゃないかなって、思って」 すると、ジェームズは振り返ることも足を緩めることもせず、ひた走りながら口を開く。 「うーん。そこらにいる可能性は低いと思うよ」 「え?」 「だってその人間はピーターの姿も見ているんだろう? なら、まずはその場から離れようとするはずさ」 「ああ、な、なるほど……」 「あとは、まぁ、まずないとは思うけど、が無事だって可能性の否定だね。 僕たちが必死になって探している時に、優雅に紅茶でも飲まれてたら嫌だろう?」 「いや、まぁ、それは、そうだけど……」 ジェームズの中でのイメージはどうなっているのだろう。 こんな時になんだけど、ちょっと気になる僕である。 「で、ついでに今頃部屋でレポートを仕上げてのんびりしているであろう我が友人を、 サボりの代償と称して、探しに巻き込んじゃおうと思ってね。 えーと、なんだっけ。の国の言葉で、確か『雨降って地面ぬかるむ』? もしくは『ドキドキ吊り橋効果』?」 「???」 「つまり、二人の最悪な仲を、事件っていうイベントを利用して修復しようってことさ」 「…………」 結構深刻な話だった気がするのだが、それすらも『イベント』と表すジェームズに何も言えなくなる。 間違いなく、エバンズがこの言葉を聞いたら眉を吊り上げて激怒しそうだ。 けれど、きっとジェームズはそのことに露とも気付かず、怒る彼女に戸惑うのだろう。 そういう傲慢さが、選ばれた人間の特権のようで、僕などは距離を感じてしまう。 でも、それでも、その後ろはあまりに居心地が良いから。 僕はただ、「良いね」と一言だけ言葉を返した。 君のように、添え物以外のなにかに、なれたら良い。 ......to be continued
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