完璧な対応と言動をした。
それを君は信じて疑わない。






Phantom Magician、77





1、指輪と髪飾りの発見
2、ロケットの洞窟の在り処の聞き出し
3、指輪、髪飾り、カップ、(日記)の破壊
4、ロケット奪取と破壊
5、ヴォルデモートの撃破


『とりあえず、君がこの時代に取り組むべき課題はこんなところだね』


話のまとめとして、僕は空中に時系列順で課題を提示した。
簡単にまとまっているし、それに付随してやらないといけないことは、 今後ずんずん積み上がっていくだろうが、おおまかにはこんなところだろう。

と、しかし、作業を終えた僕が満足気にを振り返ると、彼女は逆に不満そうな表情カオだった。


「……どれもこれも難易度高すぎだろ」
『仕方がないじゃないか』


空中の文字を睨み付けている
これ以上その表情カオが続くと、そのまま固まってしまいそうだったので、 僕は尻尾を振ってその文字を消した。
そして、続けて、サラサラと別の文字を綴る。


・ポッター夫妻の死亡阻止
・レギュラスの死亡阻止
・リドルの更生
・セブルスの更生
・悪戯仕掛け人の深夜徘徊阻止
・セブルスへの悪戯阻止
・リリーとセブルスの決裂阻止


「!」


徐々に浮かび上がるそれの意味を察したのだろう、 の表情が驚愕に彩られ、ばっとこちらに視線が突き刺さった。


『君がやりたいこと。こんなところだろう?』
「……スティア!」


この話が始まってから、少しも上昇の兆しを見せなかった彼女の雰囲気がガラリと変わる。
と、彼女は嬉しそうに、その柔らかな腕で僕を抱きしめた。


『ぐぇっ』


抱き潰さんばかりの勢いだったが。
え、ちょ、本気で苦しいんだけど。
内臓飛び出そうなんだけど。
っていうか、段々呻き声すらでなくなってきたんだけどっ!


「ああ、もうスティア!嫌なこと散々言ったくせに、こういうことしちゃうとか!
なんだよなんだよ、やっぱツンデレだな、この野郎!?
『リーマスとラブラブ』とか『悪戯仕掛け人参加』って項目がないところにそこはかとない悪意は感じるけど!」
『うぐぐぐ……ちょっ、!リアルに気持ち悪い!』
「え、あたしが抱きつくのがそんなに嫌なの!?」
『物理的な問題だよ!』


と、こんな阿呆なやりとりをしていると、今が朝であるにも関わらず日が暮れるので。
僕はとりあえず、の腕から脱出し、息を整える。
もう一通り大切なことは確認し終わっただろう。
そう判断して、それとは別に、すっかり忘れていたことだけ口にした。


『げほ……っ。っていうか、君、もうそろそろご飯食べに行かなきゃいけないんじゃないの?
もう大広間閉まる時間な気がするんだけど』
「フッ、そんなの問題ナッシング!
ここに買い貯めてあったクッキーの山があります。
ついでに言えばバウムクーヘンとかラスクとかも隠してあるので朝昼晩オッケーです!」
『寧ろどこに問題がないのか訊きたいんだけど』


甘味を食事に代えるとか馬鹿じゃないだろうか。
絶対後でお腹空いただの、泣きそうだの言うくせに。
嗚呼、そういえばまだ厨房への行き方は教えてなかったっけか。
丁度良いから、今日案内でもして……。
……っていうか、あれ?


『朝昼晩って、君、授業は?』
「……サボタージュってポタージュっぽいよね☆」
『うん、それ多分気のせい』
「いやいや、そんな白けた瞳するなよ!
あたしは普通に授業出るつもりだったんだけど、リリーがリフレッシュしてきなさいって」


まさかのサボタージュ首謀者はリリーだった。
まぁ、今のは実を言えば寝不足の大変な表情カオになっている(完徹だし)ので、そう言われても仕方がないだろう。
ぶっちゃけ、目が充血してて怖い。
が、流石にそれを言ってしまうと可哀想なので、


『僕が引いたのは君のギャグセンスの無さだよ。サボりは別にどうでも良い』
「お前にだけは言われたくねぇよっ!」
『失礼な』


……また話が脱線した。
これってひょっとすると僕も悪い、のか?
まぁ良いや。(どうでも)

細かいことを気にしているとハゲるそうなので、僕はあっさりとその話題を打ち切り、 『時間あるんだったら、じゃあ、さっさとリドル出そうか』と軌道修正を図る。
ちなみに、その言葉に、一瞬が呆けた表情カオをしたのは見ない振りをしておいた。
(自分から言い出したくせに、色々話していてすっかり存在を忘れたらしい。なんて奴だ)

確か、リドルの日記はトム(Not マールヴォロ)を誘惑したので、クマの中に封神したはずだ。
と、僕が促す前に、流石にそれは覚えていたのか、が黒い背表紙の日記帳を手に取っていた。
あとは、適当に日記っぽい文章を書いて、リドルが話したのを受けて、うわぁ(笑)ってなれば良いわけで。
さて、はなにを書くんだろうと思って見ていると。


“はじめまして、こんにちわ。あたしはって言います☆”


『って阿呆かぁああぁぁあああぁー!!』


バッコーン!


「ぎゃっ!?」


思わず、ノリでの頭にタライを呼び寄せてしまった僕だった。
あまりの痛みに涙目で悶える
おそらく、今ので脳の細胞が数十万個ほど死滅しただろうけれど。


『いや、でもしょうがないよね?これは』
「〜〜〜〜なぁにがじゃ、この馬鹿猫がぁっ!!」


反撃とばかりに突き出された彼女の拳をひょいっと避け、『だってさぁ』と弁明(?)をしてみる。


『君がワケ分かんないこと書きやがるからだよ。どうすんの、ちょっと』
「だからなにがだよ!?自己紹介しただけだろうがっ!!」
『どこの世界に自己紹介から入る日記があるんだよ!?』
「だって、リドルあたしのこと知らないじゃん!
ハリーだって自己紹介から入ったじゃん!」
『ハリーの場合は、リドルがハリーと話したがってたし、ハリーは日記になにかあるって気付いてたんだよ!
っていうか、そもそも君はこの日記にリドルがいるなんて知らない設定だろうが!』


言われて初めてそこに思い至ったらしいは「あ」と間の抜けた声を出していた。

逆の立場になって考えてみてほしい。
日記が返事を返してくれると思っていなければ書けない文章を、いきなりピンポイントでされた立場に。
コソ泥みたいに日記帳なんてプライバシー空間に身を潜めているリドルにしてみれば、 いきなり肩を叩かれて「ヤッホー!こんにちわ!」と言われたようなものである。
めちゃくちゃ怪しいだろう。
何故ばれたし!?って思うだろう。
なんでそれに気付かないかなー、君って子は?


『見ろよ!そのせいで、本当だったらすぐさま返事するはずのリドルが、混乱のあまり沈黙しちゃってるじゃないか!』
「マジでか!?」


いや、嘘だけど。
シャーペンで書いたから、とか。
日本語をリドルが理解できるわけないじゃん、とか。
魔力を彼女から欠片も感じない・・・・・・・・・・・・・・せいだとか、色々な理由でリドルは警戒してるんだろう。
まぁ、しかし、彼女にはそう思っててもらった方が都合が良いので、それは真面目にを騙す僕だった。


『もうあれだ、“男もすなる日記といふもの〜”作戦しかないね!』
「ここで土佐日記!?え、どういうこと!?」
『つまりは、説明口調の前置きを書いたフリをして読者を騙すっていうね?』
「若干以上違うような気がするけど!?」


うん。ごめん、実は適当に言った。
が、は僕の言葉にどうやら、なにがしかの納得をしたらしく、 「ちょっと痛い子になる気がするけど、それっきゃないか?」とぶつぶつ呟いている。
僕は、そんな彼女にこれ以上直接書き込みをされないよう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、自動筆記羽ペンを差し出した。


『はい、これ』
「?なに、これ」
『書きたいことを言うだけで筆記してくれる“自動筆記羽ペンver.S”』
「へぇ、便利ー。……で、誰の?」
『いやだなぁ、君のに決まってるじゃないか☆』
「嘘くさいっ」
『良いから、ぐだぐだ言わないで使ってよね。
君が書いた文字変換するより、こっちの方が断然早いんだから』


これは今まで言わずもがな、のことだったが、 むすっと悔しそうに口を引き結んでいるが反論しないところをみると、思い当たる節がないでもないのだろう。

そう、の言語能力を補完しているのは、僕の魔法である。
それがあるおかげで、は外国語である英語をペラペラ話して、聞き取れているのだ。
翻訳○んにゃくを食べたワケでもあるまいし、母国語でないものをすぐに、 しかも完璧に読み書きするなど、よほどの言語センスがなければ不可能だ。
一瞬で理解できるようになる、なんて、まぁ、ありえない。
とりあえず、話す言葉、聴く言葉に関しては、 英語と日本語、どちらの言語も理解できる僕がリアルタイムで変換している状態である。
はもちろん、そんな意識はないだろうが、これはけっこう大変な作業なのだ。
聞き取りと言語能力、魔法を同時に駆使しなければならない。
その上で、文章になんて、気が回るはずがないのがお分かりだろうか。
なので、には今のところ、日本語で文章を書いてもらって、それを後ほど僕が訳すことにしている。
話し言葉の方が優先されるので、どうしたって、文章の変換はそれより遅くなるだろう。
本も、英語がずらずら並んだそれをがちゃんと理解できるはずもないので、 僕が訳して、日本語に見えるようにしてあげているワケだ。
本っっ当に、は理解してないけど!
『話す言葉も見る言葉も日本語以外の何物でもない』とか思ってるけど!
うん。だからね?
杖でぽんぽん叩きながら、「さっさと訳せ〜」って言うの、本当に止めてくれない?疲れるから。
嗚呼、これは要改善だなぁ……。


「むぅ。どうやって使ったら良いのさ」


やがて、しぶしぶといった様子で、は羽ペンを受け取った。
そんな彼女に、使い方を懇切丁寧に説明し(ペン先を吸う必要があると言った瞬間、は嫌そうな表情カオをした)、 僕は、リドルの日記帳を指し示す。


『で、日記帳の上にペン先を立てると準備完了。
ためしに、本日は晴天なりとでも言ってごらんよ』
「あー…『本日ハ晴天ナリ』?」


かなり半信半疑なの声だった。
がしかし、自動筆記羽ペンは流石に優秀だったらしく、 サラサラと滑るように
“今日の天気は快晴で気持ちの良い陽気だった”
と文字が躍った。


「って、なんか微妙に言い回し違うんですけど!?」
『自動筆記羽ペンってそんなものだよ?』
「なんだ、その便利機能!?」


と、こうしてが口を開くたびに、羽ペンは動き続け、 “初めて自動筆記羽ペンというものを使ったが、その便利さにとても驚いた”
と本当に日記らしい文章を綴る。
思惑通りである。


「ちょいちょいちょい!絶対これやばいって!
便利だけど!便利なんだけど、なんか意図してないこと書きそうなんだけど!?」
『書いても、すぐに消えるんだから良いじゃないか。リドルの日記だし』
「書く傍から文字が消えていく日記帳に、普通に文字書き続けてる時点で良くねぇよ!
怪しすぎるわ!」


“あまりに便利すぎる道具に、躊躇いを禁じえない。
しかし、この日記は書く傍から文字が消えていく。
このまま文字を書いて良いものだろうか。怪しすぎる”

(大胆すぎる要訳!?えええええ? 書いてあることは確かにそんなに変わんない気がするけど、大分意味合い変わってんじゃん!)

言葉を発すれば発するだけ羽ペンが文字を書くことに気付いたらしいは、
流石に、声を出すのを止めて、心の中でつっこみを入れていた。
が、が話したことをそのまま日記に書くより遥かにマシである。
ネタを大量に挟み、意味の分からない言動などされたら、リドルがドン引きになってしまうではないか。
ただの自動筆記羽ペンでも僕の目的は果たせる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のだが、 そういった理由から、僕は羽ペンにこっそり細工をしていたりする。
(『ver.S』の『S』は僕のイニシャルからとったSだ)

なので、僕はが(ワケ分かんないもの使わせやがってっ!)と心の中で文句を言ってくるのを華麗にスルーし、 日記帳をそ知らぬ表情カオで見つめる。
僕の予想が正しければ、使用者が日記を怪しみだしたこのタイミングで、奴は出てくるはずだった。
そして、その予想に違わず、日記帳に流麗な文字が躍りだした。


“待って下さい。この日記は怪しいものなどではありません。
僕の名前はトム=リドル。この日記の元の持ち主です”
「『…………』」


思わず無言になる僕とだった。

うん。なんていうか、こうして直接見ちゃうと……。
返事する日記なんて一から十まで怪しいよね。
「脳みそがどこにあるか見えないのに、一人で考えることがきるものは信用してはいけない」
まったく、その通りだよ。アーサー=ウィーズリー。
胡散臭すぎて、なんでジニーがこんなものに引っかかったか謎すぎる。

それにしても、すでにバレているとも知らず、 必死に優等生を演じてこっちを引きとめようとするリドルの姿はなんというか……


『憐れを通り越して、滑稽だな』
(ねぇねぇ、スティア。これってどう反応すべき? もう自己紹介しちゃったんだけどっ!)


自分の言葉がリドルにまるで届いていないことに気付いていないは、困ったような視線をこちらに送ってくる。
なので、僕はそれに乗っかって、殊更呆れたような口調を心がけながら口を開いた。


『だから、さっき言ったじゃないか。
まぁ、痛い子になるの前提で「あらためまして〜」ってもう一回自己紹介してみたら?』
「……あらためまして、あたしは です。君は何者ですか?」


“あらためまして、私はです。君は何ですか?ただの日記帳ではないのですか?”


(……増えとるやん)

もはや諦めたように死んだ瞳になるであった。
がしかし、やがて彼女も開き直ったらしい。

(こうなったら、猫被ったリドルで散々笑い倒してやる……っ!)

と、妙な決意を固めていた。
そして、リドルにとっては不幸なことに、彼女は久しぶりの生理痛を訴えて寝込んでしまうまで、 つまりはほぼ丸一日を使って、その並々ならぬ決意を実行に移すことになる。
……嗚呼、そういえば、この子なりきりチャットとかtwitter、好きだったなぁ。






“はじめまして、。僕はホグワーツに通っていた人間の記憶です。
君もホグワーツの生徒なのですか?”
“その通りです。何故、このような日記を?”
“僕は、ホグワーツの生徒を手助けするために、自分の記憶をインクよりずっと長持ちする方法で記録したのです。
……とは耳慣れない言葉の響きですね。貴女はもしかすると、東洋人ですか?”
“よくお分かりですね”
“やはりそうですか。慣れない異国で大変ではありませんか?それとも、は混血なのかな?”
“いいえ。私は純血です。確かに異国は慣れないことも多いですが、それよりも人間関係が大変で”
“友達と喧嘩でも?僕でなにか力になれることはないかい?
話してみるだけで随分と楽になるものだよ”
“ありがとう、リドル。でも、これは私の問題だから”
は随分遠慮深い性格なんだね。でも、一人で抱え込んでいるのは辛くないかい?
アドバイスくらいなら日記の僕にもできるかもしれない。話してご覧よ。君の力になりたいんだ”


「ぶふぅっ!!」


少し会話しただけでがリドルの態度に噴き出した。
もちろん、失礼とは分かった上で、だ。
まぁ、僕も似たり寄ったりの感想なので、とりあえず、今は彼女の好きにさせることにする。

(うわぁ、凄ぇ凄ぇ。こっちに取り入ろうと必死だよ、リドルっ!
そして、さり気に敬語止めて距離縮めにきたよ!超怖ぇ!)

……のために、リドルには精々犠牲になってもらうこととしよう。





騙されているのだと、いつ気付くかな?





......to be continued