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課題を挙げよう。でないと、対策も立てられない。





Phantom Magician、76





「と、いう訳で、そろそろリドルにお出まし願おうと思います!」
『なにがという訳なのか、さっぱり分からんわっ!』


べしっと、美しい挙手をして宣誓していた颯の頭にパンチを繰り出す。
「あいたっ!」とかなんとか、颯が呻いているが、それは無視である。

満月の次の日の朝、ベッドの上でぬくぬくと丸まっていた僕の首根っこを掴んで、颯はいきなりそう言った。
もちろん、僕がそのとき気持ちよく寝ていた、とか熟睡していた、なんて事情はあろうがなかろうが関係なしな態度である。
まぁ、そんな風に僕を慮るだけの余裕が今ないと考えれば、大目にみてあげないこともないけれども。
普通に、僕をもう少し労われ、と思ったのは当然の要求だと思う。


『で?いきなりなんな訳?』


厳しい声で颯をベッドの上に正座させた。
気分は、腕組みして仁王立ちである。(猫の姿だからできないが)
すると、颯はポッターたちと違い正座に対して特に抵抗もないらしく、 表情だけは神妙にしながら、おずおずと口を開いた。


「や、あの。だから、リドルを復活リボーンさせたいなーと思いまして」
『よし、その寝ぼけた頭をすっきりさせるためにも一人で箒乗ってこようか』
「っ!や、ごめんなさいすみません、復活とか嘘です嘘!
復活リボーンとか、ただ語感だけで言っちゃいました!!」


ふざけたことを言い出した颯に呆れ果てたような視線だけは送っておく。
リドル復活、だなんて冗談でも言って良いことと悪いことがあるだろう。
それをノリだけで口に出されては困る。
(っていうか、アレには死ぬ気なんてものは欠片もないので蘇りは不可能である)


「えーと、うん。復活っていうか、寧ろ退治?したいなーと思ったんだよ」
『なんで急に?』


すでに答えは予想できているが、一応確かめるために尋ねてみる。
すると、颯はあははは、と乾いた笑いをしながら、言葉を濁した。


「いや、あの、考えてみれば、リドルなんていう第一級危険物を所持してたなーと思って?
うん。ホラ、ホグワーツを危険に晒したりなんかしたら、色んな人敵に回しちゃうし?
寧ろ遅かったくらいだけど、早めに退治しとくに越したことはないのかなーと、ね?」
『…………』


遅かったくらい、っていうか遅すぎだと思うが。
つまりアレだよね。ケーに言われて、ようやく自分の行動を省みたんだよね。
それでもって、忘れてたこと思い出したんだよね。
人に言われたことで、ようやくリドル思い出したとか、世のお嬢さん方を敵に回している。
これが小説だったとしたら、 「あたしのリドルの存在忘れるとか何様のつもりじゃゴラァっ!」と鉄拳が飛んできそうなものである。
おかしいな、颯って確かリドルも好みのタイプだったはずだけど。
ああ、まぁ、実際の危険があるワケだから、寧ろ意識的に忘却したのか。


「ぶっちゃけ、黒髪赤瞳の美少年に逢いたい気はすっごくするんだけどね……」


そこから先は、言葉にするのが憚られたのか、彼女は口を噤んだ。
まぁ、そこから先は皆まで言わなくても、彼女の心が読めてしまう僕には簡単に伝わるのだが。

ようは、颯は、怖いのだ。
リドルの存在が、ではなく、リドルに愛着を持ってしまう自分が。
リドルは、颯が必ず破壊しなければいけない対象だ。
そうでなければ、闇の帝王を彼女が倒すことはできなくなってしまう。

けれど、どうだろう。
ただの日記帳ならともかく。
誰かを傷つけたというのならともかく。
今はまだ、なにもしていない、人間に近い存在を殺すことが、彼女にできるだろうか。


『…………』


答えは考えるまでもない。

否、だ。

なまじ夢小説などを読み漁っていたせいで、颯はリドルが更生するという可能性を知ってしまっている。
もちろん、これは小説などではないので、その可能性が著しく低いことも、 ご都合主義がまかりとおらないことも分かっているだろう。
散々ご都合主義だと言っておきながら、この世界がままならないことを彼女はすでに体験している。
それでも。
可能性が低くとも。
彼女は多分、一度でも会話をしてしまえば、 リドルがなにかしでかさない限り、手を出すことはなくなるだろう。
リドルを殺さずにすむように、しかし、ヴォルデモートを倒す方法を探すだろう。
それこそが、彼女が彼女である所以の、甘さだ。

その恐ろしく面倒で。
恐ろしく、他人任せな未来を、彼女は回避したいのだろう。

けれど。


『じゃあ、逢っちゃえば良いんじゃない?』


ぶっちゃけ、そこまで君が色々考えてるのって、気持ち悪いんだよね。


あっさりと。
彼女からすれば常識外れの台詞を言い放った僕に、
颯は大きく目を見開いた後、苛立たしげに僕の頭をしばいた。
丁度、僕がよく彼女にそうするように。


『痛っ!なにするのさ!』
「それはこっちのセリフだっつの!
おっ前、人の心が読めるくせに、なんでわざわざそういう悪魔の誘い的なのしてくるかな!?
逢えるワケないだろ!逢ったらどうなるか分かりきってるのに!」


憤慨する颯。
まぁ、彼女なりに色々考えた末の、言いたくもない言葉だったのだから、当然の反応だが。
それでも、


『馬鹿は馬鹿らしく、ごちゃごちゃ考えるなって言ってんだよ』
「ばっ……!!?」


僕はそれを承服しかねる。
してたまるものか。


『今まで散々人に頼って縋って生きてきたのに、
今更、他人に頼りたくないとか、なに舐めたこと言ってんの?』


だって颯。
少しも納得した表情カオしてないんだから。


「~~~~~~っ」
『魔法も使えない。魔法の知識もない。
そんな君が、一体全体どこの誰になにを吹き込まれたかは知らないけど。
なにがあって、なにができなくて、無力感に打ちひしがれているのか知らないフリをしてあげるけれど!』





――いっちょ前に、気なんか使うなよ。





「…………っ」
『この僕に。君の心が読める僕に。嘘言ってどうするんだよ。
やりたいことはとりあえずやりたいって言いなよ』


似合わないから。


『できるかできないかは、君が決めることじゃない。僕が決めることだ。
後のことは他人に任せて、言うだけ言えば良いじゃないか』


前にも言ったはずだ。
頼って良い。
縋っても良い。
依存さえしなければ、僕を利用して良いのだと。

そう言外に含めた言葉に、颯は張り詰めていた空気を弛緩させた。
今にも破裂しそうな空気を、消し去った。
そして、彼女は真っ直ぐ自分を見上げる僕に手を伸ばし、 彼女にしては至極丁寧な仕草で抱き寄せた。


「……さっき、リリーにも似たこと言われた」
『そりゃあ、君が必要もないところで気を使ってるからでしょ』


小さな子どもが甘えるように擦り寄ってきた彼女に、 僕も殊更柔らかな声で、答えを促す。


『それで、どうしたいの?なにがしたいの?』


すると、颯はどこかほっとしたように表情を綻ばせ己の望みを唇に乗せた。


「とりあえず、CoC○壱のカレーが食べたい」
『伏字になってねぇよっ!』


べしっ


「痛っ!」


……気恥ずかしいって気持ちは分からないでもないんだけど。
今すぐ読解力を買ってこい。空気のな。







『はい、というワケでギャグパートは終わりです。のーせんきゅーです。異論は認めない』
「スティアさん、心のそこから頭が痛いです。しばきすぎです」
『そうですか、僕の心はそれ以上にダメージを負いました。しばき足りないくらいです』
「……っ!!さぁ、じゃあ、まずはリドルさん召喚してみようか!ね!」


無駄に爽やかな笑顔で目線を逸らした颯。
それに対してこれみよがしに溜息を吐く僕。
まぁ、どっちもどっちだよね、って話?

と、僕がこの現状に人知れず苦笑していると、颯は先ほどと打って変わって真剣な瞳で僕を見た。

「……本っっ当ーに!良いんだね?」
『くどいなぁ。良いってのに。
……まぁ、正当な理由が欲しいのなら、仕方がない。
基本的なことから確認しようか』
「今更?」
『そう、今更』


自分の気持ちだけで、リドルを生かすことになるかもしれないことに、 彼女が躊躇する気持ちは分からないでもない。
なので、僕は己の尻尾で空中に文字を描いた。
現状確認は僕としても望むところである。


『僕たちが過去にきた目的は、ヴォルデモート、ひいては“分霊箱ホークラックスの破壊”だ。それは良い?』
「?うん」
『そして、この時代、分霊箱ホークラックスは5つ。
リドルの日記にヘルガのカップ、ロウェナのティアラ、サラザールのロケット、蘇りの石。
そして、この内2つはすでに手に入れてあり、2つは場所も分かっている』


空中に、今挙げた五つの名前が浮かぶ。
と、それを素直に見ていた颯は、あれ?と怪訝そうに眉根を寄せた。


分霊箱ホークラックスって、7つじゃなかったっけ?なんか、あたし逆ラッキーセブンだなって覚えてたんだけど」
『それは、ある意味正しくて、ある意味間違いだ。
正確には、分霊箱ホークラックスが7つ、なのではなく、魂を7つに分けることにヴォルデモートは価値を見出した』


ハリー=ポッターも原作で間違えていたことであるが、 魂を魔法数字で最も力の強い7つに分けるためには、6つの分霊箱ホークラックスがあれば良いのである。
なにしろ、最後のひとつは己の肉体に留まっているのだから。
もっとも、あの男はまったく意図せずに、 ハリー=ポッターを幻の7つめの分霊箱ホークラックス(順番的には6番目だ)にしてしまっていたが。

そのことを指摘すると、颯はああ、と納得したように頷いた。


「?でもさ、それでも、分霊箱ホークラックス5つってさっき言わなかった??」
『この時代、って言っただろう?今は、まだあの男は不死への挑戦途中なんだよ。
最後のひとつ、ナギニを分霊箱ホークラックスにするのは、ハリーに敗れた後、自分の体を再生してからだ』
「え?そうだっけ??」
『そう。哀れなバーサ=ジョーキンズを犠牲にしてね』
「…………」


僕の言葉に、颯は不快そうな表情カオをした。
話している僕だって、別に愉快ではないので、そんな表情を向けられても困る。
分霊箱ホークラックスは、人の死の上に生み出される、なんて。
快楽殺人者じゃないのだから、気分が悪くなるに決まっている。


「で?その話がリドルを生かすことにどう繋がるワケ?」


やがて、颯はこの話題はここまでだ、というように話を元の軌道へ戻した。
別段、それに抗う必要性もないので、僕は軽く肩を竦めてそれに応じる。


『問題は、所在の分からない分霊箱ホークラックスだよ』
「?えーと。日記とカップは持ってて、ティアラはホグワーツで、
ロケットは洞窟で、あと石はリドル祖父の家じゃなかったっけ?
全部場所分かってると思うんだけど」
『いいや、ロケットは分からない』
「?なんで??」
『いいかい?リドルが幼少期に遊びに行った洞窟、そこまでは良い。
でも、そこが具体的にどこなのか、君、知ってるの?』
「っ!」


まくしたてるように告げられる言葉の数々に、颯の頭が目まぐるしく回転を開始する。
といっても、彼女はあの狼男が関わるところ以外は斜め読みになっていた節があるので、 幾ら記憶の中を探っても、出てくる情報は大したものではないのだが。

そして、彼女はひとしきり眉根を寄せた後、観念したように僕を見た。


「…………知らない」
『だろう?ちなみに、僕も知らない。何故なら、原作でその場所はダンブルドアしか知らなかったからだ。
まぁ、リドルのいた孤児院の人間なら分かるかもしれない。
でも、そもそも、リドルのいた孤児院の場所が、僕たちには分からない』
「!」


その言葉に、ようやく颯は僕の言いたいことを悟ったらしい。


「つまり、あたしはリドルからそのどちらかの情報を聞き出せば良いってこと?」
『その通り。あとは、リドルが更生するなら生かせば良いし、なにか仕出かせば始末すれば良い』
「…………。で、聞き出したら、それを探しに行けば良いんだね?」


生かす、始末、という言葉に、颯の瞳が細められたが、それは無視して僕は首を振った。


『いいや。今、ロケットはその場所にない。忘れたのかい?
それをヴォルデモートが隠した時、彼は侵入者防止の魔法を試すために、一体誰を使った?』
「……あ」


そこまで言われて、颯はようやく僕の言いたいことを汲み取ったらしい。
途端、彼女の表情は、ただでさえ朗らかと言い難かったというのに、凄まじいまでのしかめっ面になっていた。

平和で、長閑な田舎町で幸せに育った彼女からすれば、
他者を利用し、その命すら蔑ろにするヴォルデモートの行動は不可解で不愉快極まりないのだろう。
そして、それを直前まで放置しなければならない・・・・・・・・・・・・・・・・・・という、己の現状も。

そう。
ヴォルデモートは利用した。
手下であるレギュラス=ブラックが、己の主に差し出した、哀れな屋敷しもべ妖精を。
それはつまり、ロケットを分霊箱ホークラックスとし隠すのは、レギュラスが手下となった後、 少なくとも、3年後であるということだ。
それまでの所在、つまり現時点での所在は……不明。
僕の予想としては、奴はロケットを自分で隠し持っている可能性が高い。
なにしろ、奴が傾倒し、崇拝に近い想いを抱いている、サラザール=スリザリン縁の品だ。
そうすぐに自分の手元から離さないだろう。
僕としては、理解できないししたいとも思わないが。

そして、肝心なのは奴がロケットを隠すその時。
颯は決して、クリーチャーを助けてはいけない・・・・・・・・・・・・・・・、ということ。
大禍なく事を運ぶには、なによりも機密性が重んじられる現状、 おそらくは最後のひとつとなるであろう分霊箱ホークラックスを無事破壊するには、それが一番良い。
けれど。
甘い彼女は、それを仕方のないことだと思う、それ自体を厭うている。


「……うん。なるほど。分かった」


ただ、彼女は決してそれを口にすることはなかった。
エゴを通すには、彼女にはあまりにも余裕がなかったから。
リドルと違い、颯が何かをしなくてもクリーチャーは死なない。
死なないクリーチャーに対して妙な仏心を出した結果、 レギュラスが死んでしまったら、どうする?
一瞬の間に、それらのことを考えたのだろう、颯はどこか疲れた風に苦笑する。


「本当は頭でもなんでも引っ叩いて、あっちに行かせたくなかったんだけど、無理なんだね」
『まぁ、そうだね。セブルスはともかくとして。
レギュラスはあちらの陣営にいた方が自然で、ブラック家は安全だ。彼が考える通り・・・・・・・
「レギュラス、マジ良い子すぎなんですけど。
セブはなぁ……多分、リリーと決裂さえしなけりゃ大丈夫な気がするんだけど」
『どうかな。ちょっと闇に傾倒しすぎだよ、彼』


颯が地味に努力している結果、セブルス=スネイプには改善の兆しが見られる……ように見える。
少なくとも、外見は陰気で根暗で陰険の塊、みたいなものから劇的に変わった。
けれど、内面は、どうだろう。
颯に構われることを多少は許容するようになったものの、奴の内面は昏く澱んだままだ。
まぁ、ほとんどの原因は件の悪戯仕掛け人どものせいだが。
その無駄な情熱の起因となっているのは、リリーだ。
リリーと決裂したら、奴が闇の魔術に傾倒するのは想像に難くないが、 かといって、上手くいっていたらいたで、 彼女に認められるために!と阿呆なことを考えて闇に身をやつしそうな気もする。

と、そのような内容を彼女に告げたところ、彼女は渋柿でも食べたかのような微妙な表情カオをした。


「ねぇ、一言言って良い?」
「……どうぞ」
「問題山積みすぎじゃね?」
「……それこそ、今更だよ」





……うんざりするけどね。





......to be continued