知っていたし、分かっていた。
それでも、裏切られるなんて思わなかったんだ。






Phantom Magician、194





どこか後ろ髪を引かれるような表情の二人と別れを告げ、 その後、ちょっとした『しっちゃかめっちゃか』がありながらも、 あたし達は、ポッター家で夜を明かした。

え、『しっちゃかめっちゃか』って何かって?
それはだね。ジェームズの置き土産というかなんというかが大きく関わるのだよ。

奴は、家を出る寸前に、「ああ、そういえば」とかなんとか前置きして、 それ・・の存在をあたしに告げて行ったのである。


「クロースは置いていくから」
「……は?」


く、クロース、だと……っ?
思ってもみない名前が飛び出してきたせいで、頭が一瞬真っ白になる。


「紳士的な話し合いが終わったら、ダンブルドアにでも宛てて彼を飛ばしておくれよ?
あの人には事前に、君から手紙が来たら僕に知らせてくれるよう頼んでおくから」
「くれぐれも無茶しちゃ駄目よ?。それじゃあ、クロースをよろしくね?」
「ちょっ、待っ!!」


がしかし、止めようとしたあたしの目の前でポッター一家の姿は透明になり。
びゅん、と箒が風を切る音を残して、彼らは颯爽といなくなった。
空しく伸ばしたあたしの手は無視して。


「んー……まぁ、諦めなよ」
「……他人事だと思ってっ」


ポッター一家とハグしたりなんだりしている間、いつの間にか空気を読んで下がっていたスティアさん。
彼は人目がなくなったためか、ケーの姿になってあたしの肩を叩いた。
その口調が限りなく軽いのは、ご愛敬だ。

まぁ確かに、いつまでも虚空に腕を伸ばしておいても仕方がない。
あたしは恐る恐る背後をふり返り、件の彼を探す。

はっきり言って、忘れてる人も多いと思うので(っていうか、あたしも忘れていた)解説しておくが、 クロースとは、ポッター家の茶ふくろうさんである。
初対面で特攻をかまし、あたしを鳥恐怖症にしてくださった元凶だ。
お互い出会うと臨戦態勢に移行するので、出来るだけ接触しないように気をつけていたというのに。
……おのれ、ジェームズ!


「それ、向こうも同じこと考えてると思うけどね」
「は?なにそれ??」
「だって君、初対面でいきなり呪文ぶちかましたじゃん?
そりゃ嫌われるし、恐怖の対象だよね」
「は???」


いやいやいや!
あたし、あの時ホグワーツ生でもなんでもない幼気なガールだったんで!
杖も持ってなかったし、魔法ぶちかますとか、普通に無理ですけど?


「いや、それ君視点のお話ね?
忘れちゃいけないのは、『今』は君がこの世界に来た時から考えると過去だってことだよ」


スティアさん曰く。
あたしがクロースに襲われたのは、ハリー時代だから、1991年。
で、あたしがホグワーツに転入してクロースを襲ったのは、親世代のいる1975年。
つまりは、クロース視点で言えば、初対面は1975年の食堂での一幕なので……。


「あたし鬼畜っ!!?」
「はい、正解☆」


幾ら、シリウスがけしかけてきたとはいえ。
ただ、自分に向かってきただけのふくろうさんに失神呪文を浴びせてしまった。
(詳しくは87話参照)
どう考えても、動物好きにあるまじき行為である。


「うあああぁああぁーっ」
「そりゃあ、ホバリングして出会い頭に攻撃してくるようになるよね、うん」


頭を抱えるあたしに、数年来の衝撃の事実を告げるスティアさん。
完全に分かった上で黙ってただろ、お前!?

今更ながらに謝れば、関係が修復したりなんかしちゃったりしないだろうかと、 あたしはリビングにもダイニングにも……っていうか、一階のどこにもいないふくろうを探す。
一応、隅々まで見たが、物音もしない。二階だろうか?

えっと、ここはポッター夫妻の寝室……かな?
(なんか、人の私生活覗いてるみたいで、背徳感半端ないな、オイ)
で、隣が……うん。このファンシーな感じはあれだ。ハリーの部屋だ。
となると、後は奥の一つなんだけど……。

と、もう他に場所がないので恐る恐る扉を開けた瞬間である。


バサバサバサっ!


「「ぎゃあぁあぁー!!」」


威嚇するかのような羽ばたきの音がして、あたしは力いっぱい叫んだ。
ら、向こうも向こうであたしに驚いたのか、同じく力いっぱい叫んだ。
嬉しくないハモリだった。

見れば、そこは客用の寝室で。
クロースは恨みがましーい表情をしながら、鳥かごの中にいた。
鳥かごがベッドの上にある辺り、ジェームズの嫌がらせとしか思えない。


「え、えっと……今までごめんね?」


カチカチカチ


「あの、仲良くしない??」


カチカチカチカチ


「あたし達、お互いを知らなすぎると思うの!」


カチカチカチカチカチ!


「……………」


前かがみになり、鳥かご一杯に翼を大きく広げているクロース。
それは、少しでも体をふくらませて見せようという仕草で。
彼の口からは、嘴を鳴らす音しか聞こえてこない……。


「…… 威 嚇 さ れ て い る っ」


完全に関係は修復不可だった。







とりあえず、クロースさんはスティアに宥めながら子ども部屋に移動して貰い、 あたし達はその日の寝床を確保。
いまいち勝手の分からないポッター家を荒らすのも本意ではないので、 基本リビングで過ごすことにした。
ボスン、とふっかふかのソファに体を沈める。


「あー……なんか疲れた」
「君、特に何もしてないでしょうが」
「箒でアッシー君はしたもん!それに、気分的に疲れたの!」


くつろごうにも、他人の家は基本落ち着くものじゃないので、 どうしても視線が彷徨っちゃうし。
あ、あれ前にあたしがあげたクッションだ……使って良いかな?


「良いんじゃない?使っても」
「んー」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」


…………。
…………………………。
ち、沈黙が辛い。

いつもなら、そんなことは全然ないのに、 見知らぬ場所で暇を潰せる物もなく二人きりって、辛い。
朝の和やかさ(?)は何処行った?

何か話さなきゃ、という気分になりながらも、 中々良い感じの話題を見つけられずに内心、うんうんと唸る。
すると、あたしのそんな葛藤につき合うのが嫌になったのか、 スティアは苦笑しながら、こっちにテディベアから取り出したポテチの袋を差し出してきた。


「……そんなに緊張するところなんだ?ここ」
「そりゃ、するでしょ。他人の家だぞ、ここ」
「いや、そういう意味じゃなくて……んー、場所っていうよりタイミングの話?
まぁ、確かに。待ちに待った日が『明日』だけどね」
「!」


待ちに待った日。
嗚呼、確かにその通りだ。
……別に、この日に来て欲しかったのでは、全くないけれど。

目を閉じれば、この数年が走馬灯のように駆け巡る。

嬉しかったことも。
悲しかったことも。
穏やかな日々も。
激動の日々も。
全部ぜんぶ、覚えている。


「……長かったね」
「そうだね」
「んで……短かった」


あまりに濃い毎日だったから、実際の期間より長く感じられて。
でも。
もっともっと続いて欲しかったから、
ゴールがもうすぐだなんて、信じられない。

ぱりっと、手にしたポテチに噛り付くと、 なんだかいつもよりずっとしょっぱいような気がした。


「……そうだね」


と、スティアは、あたしの言葉に、心の底から同意するかのように頷いた。
普段あまりない、彼のしみじみとした表情に、なんだか泣きたくなってくる。
本当に。
もう、明日なんだ、って。


「別に泣いて良いよ?ここには僕しかいないんだし」
「……ヤダ。ブサくなるからヤダ」
「あはは、今更〜」


カラカラと軽やかに笑うスティアは、しかし、こちらを見ないでくれた。
多分、声の震えたあたしに気づいたからだろう。

そして、鼻をぐすぐす言わせているあたしに、 スティアはポツリ、と。
まるで、ずっとずっと言うタイミングを計っていたかのように。
問いかけた。



狼人間リーマスに、逢わなくて良かったの?」



「!」


そう、あたしはここに来るまでに。
シリウスとも。
ジェームズとも。
リリーとも。
セブセブはもちろん、レギュとも、クィレル先輩とも、 漏れ鍋のトムさんにだって、勝手にお別れをしてきたけれど。
リーマスにだけは、いつもと同じようにしか、接しなかった。

不死鳥の騎士団の任務の合間に来てくれた彼を、手料理でもてなして。
他愛のない話をして。
一緒に眠って。
なんでもない表情で、彼を見送った。
「行ってらっしゃい。頑張って」と。

もう二度と逢わないと、知っていたのに。


「良いんだ、もう」


だって。
お別れを、言いたくなかったから。
例え、どこかに引っ越すというその位の気軽さでも。
言いたく、なかったから。


「後悔しない?」
「…………」


もしかしたら、闇の帝王に殺されるかもしれない。
もしかしたら、闇の帝王と相討ちになるかもしれない。

だから、勇気は欲しい。
怯える心を奮い立たせるための、力が。
逢いたい。
リーマスに、逢いたいよ。

でも。
でもね。


「するけど……しない」


お別れするのは、同じだから。


「しないよ」


例え、闇の帝王に殺されなくても。
例え、闇の帝王と相討ちにならなくても。
あたしはもう、ここには、いられない。
リーマスの隣に、いられないの。

大好きだから。
本当の本当に、愛してしまったから。
だから、別れは避けられなくて。


「…………」
「リーマスは多分、絶対怒るけど。っていうか、未来で怒ってたけど」



――……私はね、。もうあんな風に自分に近しい人が何を考えているか分からないのは嫌なんだよ。
――やることなすこと破天荒というかハチャメチャというか、いっそ意味不明というべきか。
――色々と考えがあるのは分かるんだけど、勝手に独りで抱え込むからこっちとしては訳が分からない。




あの時は、我ながら検討外れのことを考えてたなぁ。
人狼になった時に離れていっちゃった人のことかな?とか。

あは。本当に、懐かしいや。


「今逢っちゃったら、勇気を貰うよりも、心がぐちゃぐちゃになりそうなんだ」


今でさえ、ぐちゃぐちゃなのに。
後悔も絶望も決意も涙も喜びも、混ざりに混ざって、判然としないのに。


「でもそれって、闇の帝王相手には致命的でしょ?」
「…………」


だから、逢わない。
そう、決めた。


「あたしにはスティアがいるしね」
「っ」


空元気で歯を見せて笑えば、 スティアは痛ましい物でも見るような、 辛くて苦しくて仕方がないような表情を一瞬だけして。
やがて、困ったように「そうだね。今は」と微笑んだ。


「最初に会った時は、なんだこの偉そうな猫もどき!と思ったんだけど」
「そんなこといったら僕は、なんだこの残念な子は!と思ったんだけど?」
「ひっどー!まぁ、確かに我ながら人としてどうかと思う態度だったけどさ。
でも、シリウスと比べたら可愛いもんじゃない?」
「まぁね。あの駄犬ときたら、残念さで他の追随を許さないよね」
「駄犬てw」


その後、あたし達は「あの時のリーマスは恰好良かった」だの。
の一喜一憂が面白かった」だの。
この世界に来てからの思い出を、まるで宝物を拾い上げるかのように話した。

小さなことから大きな事件まで、本当にキリがなくて。
それは、なによりも幸せな時間だった。
例え、同時になによりも辛い時間になったとしても。
それは、空が白むまで続いていった。







そして。
とうとう、その翌日の、夕方。


「じゃあ、確認するけど」
「うん?」


あたし達は、準備万端で闇の帝王を迎え討つ。


「スティアが闇の帝王の気を引いてる間に、あたしが呪文を浴びせるって流れね?」
「あー、うん。そう。で、避けられたら僕からもガンガン魔法を使う、と」


そう言って、杖を点検するのは、黒髪短髪の美丈夫。
正直なところ別人にもほどがあるが、ジェームズの扮装をしたスティアである。
彼はちらりと壁の時計を確認しながら、肩をすくめた。


「別人で悪かったね。ポリジュース薬は使いたくなかったんだって言っておいただろう?」
「いや、まぁ、そうなんだけど……」


なにしろ、ポッター家で待ち受けるので、 闇の帝王の気を引くにはジェームズっぽい方が良かろうという話になり。
でも、万全を期する為には、ポリジュース薬はちょっと……、
体調面やらなにやら、微妙なものに影響があるそうなので止め。
ぱっと見て分からなければ良いんじゃね?ということで、スティアさんは髪を黒くした、と。
(ホラ、我らが人識君だって、そんな感じで結構適当な変装でもマインドレンデルになってたじゃん!)

いつもと全然違うせいで、もの凄く変な感じがするのだが、本人はどこ吹く風といったところだ。


「それに、こうして髪を黒くすると、ちょっとリドルに似てるだろう?」
「あー……まぁ、ちょっとだけどね」


確かに、ジェームズよりはリドルの方が雰囲気的には近いかもしれない。
どちらもイケメンには違いがないのだが、 ジェームズを表す言葉が『快活』『精悍』などであるのに対して、 目の前の美青年には『妖艶』『美麗』の方が似合っている。
今は見慣れたのでそんなことは思わないが、 いつもの金髪美人と今の姿なら、今の姿の方がずっと普段の猫形態のスティアっぽい。
なんというか、どちらかというと影のある美人さんなのだ。

で、その見慣れぬ美人さんは、聞き覚えのある説明口調で話を続ける。


「つまり、スリザリンの血を継いでいる闇の帝王の昔の姿に似ている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・訳だ。
奴はそこに絶対の自信を持っているからね。自分を打倒する存在の父親として認めるだろう」
「……え、自分にほんのちょっぴり似ているだけで『強そう』認識すんの!?
闇の帝王、 阿 呆 の 子 じゃん!それ」


我ながら酷い暴言だと思うが、しかし、スティアはそれに対して、


「阿呆の子だから、『闇の帝王』なんて厨二病な名前名乗ってるんだよ?」


と、にべもない。


「……確かに!」
「で、その手下が『死喰い人デスイーター』だよ?死を喰べちゃうんだよ??ヤバいよねー」
「その発想はなかったわー」


さっきまで間違いなくシリアスに緊張していたあたしは、 しかし、この気の抜けた会話にちょっぴり笑った。


「そんな阿呆の子に、あたし達が負けるはずないね」


ぎゅっと自分の杖を握りしめて、そう言えば。


「当たり前だろう?」


と、不敵な案内人が笑った。
そして、彼はまた、壁の時計に目を向ける。
時刻はもうすぐ、七時を刺そうかというところだ。
その、そわそわと落ち着かない姿は、普段の彼らしくない態度である。

そのことに、ほんの少しの違和感を覚えながら、 しかし、彼も緊張しているのだろう、とあたしは解釈し、 逆にここはあたしがスティアを落ち着かせてあげるべきなのでは!?と口を開く。


「スティア、めっちゃ時間気にしてるね?」
「ん?あー……そう?」
「してるしてる。なに?闇の帝王来る時間分かってるの??」


そこまで細かい描写、原作にあったかな?
なにしろサラと違ってそこまで読み込んでいないあたしである。
夜中などではないのは分かっていたが、 そんなに細かい数字を覚えていられるだけの頭脳は所有していない。

と、そんなあたしに対し、スティアは「まぁ、そんなところ?」と気のない返事だ。
目線は、合わない。


「スティア?」


ドクン、と。
なんだろう、嫌な予感がした。

だが、それが何を意味するか、あたしが気づくその前に、その時は来た。


「……チッ。最悪だな」
「え?」


一瞬にして険しくなった彼の視線が捉えるのは、窓の外。


「!!!」


そこに、感慨深げに一人佇む、長身の人影が見えた。
血の気がないかのように、白い顔。
いっそ、優美と言っていいような均整のとれた肢体にローブがまとわりつき、 緩やかに風に揺れる。
その瞳はきっと、血よりも尚濃い深紅に染まっているのだろう。

と、ヴォルデモート卿が不意にこちらに視線を移し、目線が合う。


「っ!」


ざわり、と全身の産毛が逆立つ気がした。
その、人から逸脱しかけている姿が、素直に気持ち悪く、怖い。

と、怖気づくあたしに、スティアは「大丈夫、こっちは見えていない」と告げる。
リリーと初めて会った時に使ったマジックミラーのような魔法を窓にはかけてあった。
でも。
それでも、その視線は恐ろしくて。
あたしは、一度きつく目を閉じて、己の心を叱咤する。

怖い。
こわい。
そんなの、前から分かってる。


「それでも」


それでも、逃げないって決めた。

と、そんな風に覚悟を決めるあたしに、スティアは早口で透明になるよう魔法をかけ、 ソファの裏に隠れるように指示する。
ないとは思うが、万が一魔法の乱打戦になった場合は、それを盾にするように言われていた。

悪戯仕掛け人とのじゃれ合いを除けば、争い事には縁のないあたしだ。
スティアの言葉を信じて、杖を握りしめながら、言われた通り身を潜める。
囮を演じてくれるスティアの為にも、絶対に失敗する訳にはいかない。

そして、扉が開かれる。
その瞬間、スティアはまるでジェームズのように声を張り上げる。


「リリー、ハリーを連れて逃げろ!やつだ!行け!逃げろ!
私が奴を食い止める……っ」


まるで、ここにリリーがいるかのように。
すると、その声に驚いたのだろう、二階でクロースが暴れた音が、かすかに聞こえた。
おそらく、ヴォルデモートにしてみれば、 リリーが慌てて二階に逃げたかのように聞こえただろう。
上手くいくか、説明を聞いている時は半信半疑だったが、流石スティアである。

と、感心などしている場合ではない。
油断なくスティアが杖を向けた先、柱の陰にヴォルデモートの姿が一部見えた。
彼は、焦燥も露わなスティアの様子に、嗜虐的な笑みを浮かべている。


「ほぅ?この私を食い止める?面白い。やれるものならやってみるが良い」


ゆったりとヴォルデモートは歩を進める。
あたしはそれを確認して、確実に魔法を当てるために、心の中でカウントを開始した。
柱と奴が離れるまで、あと五歩、四歩……――



「おっと。それ以上進むのは止めておいた方が良いな」



!!?

がしかし、それを邪魔するものがあった。
打ち合わせとまるで違う台詞。
さっきまでとは別人のような、余裕のある笑み。


「なに?」
「マグル出身のお前であれば、もちろん存在は知っているはずだ。
僅かな荷重がかかるだけで、辺り一帯を吹き飛ばすことの出来る近代兵器の存在を、ね?」
「っ!?」


ヴォルデモートの油断を誘う、そのはずだった。
それなのに、今の一言でヴォルデモートは一気にスティアを見る目を、警戒のそれに変える。

だが、そのことを分かっていながらも、スティアは淡々と口を開き続ける。
何のために?


「魔法使いって奴は、科学の恩恵に与かっていながらも、 どうしてもマグルの技術を軽視していけない。そうは思わないかい?
だからね。魔法使いに対する一番の対策は、魔法でもなんでもない。
マグルの技術が一番なのさ。
幾ら魔法でドンパチ出来てもね。ミサイルの一つも落とされればちっぽけな人間は死ぬだけだ」
「…………」


分からない。
ワカラナイ。
スティアの考えが、まるで。

あたしはびっしょりを冷や汗をかきながら、 じりじりと静かにソファの後ろから移動をする。
こんな心臓に悪いやり取りを見ているだけなんて、冗談じゃない。

スティアにはスティアの考えがあるのだろうが、 今、ヴォルデモートの意識がスティアに集中しているなら、
そこを狙うべきなのは確かなのだ。

と、あと少しで魔法を当てられるところまで行った、その時だった。


ボーン
ボーン、と。

少し古めかしい、振り子時計が時間を告げ。


「「!!?」」


あたしのすぐ右手で、目もくらむような青白い閃光がその場を貫いた。
そして、感じたのは不快感。
急に臍の裏側をグイッと前方に引っ張られたかのような感覚がして、 足の裏になにもなくなる。
それは、一瞬の出来事だった。
目の前がぐにゃりと曲がって、ポッター家のリビングが、遠ざかる。


「なっ」


その、遠ざかった景色の中で。


「ごめん、


優しい漆黒の瞳が、微笑んでいた。





嘘つき!





......to be continued