第一印象といえば、これ以上インパクトのある登場をした奴を俺は知らない。 Phantom Magician、64 「何だ、アイツ?」 監督生の仕事があるというリーマスと別れ、 ホグワーツ特急から降り、真っ先に目に入った光景に、俺は自分の眉間に皺が寄るのを感じた。 すると、俺の言葉と同時にジェームズもそれに気づいたらしく、不気味に口元がつりあがる。 「本当だ。一体どこの誰だろうね?彼」 俺達の視線の先には、我らがスニベリーと見知らぬ少年。 (背が若干低いところを見ると、もしかしたら下級生かもしれない) 連中はこっちに気づいていないらしく、(一方的に)少年が愉しげにスニベリーと話をしていた。 ちらっとしか見えなかったが、それなりに整った容姿の東洋人のようだ。 人好きのする爽やか系の少年とスニベリーでは、どこから見ても釣り合っていないのだが、 本人たちにそれを気にした様子はない。 (というか、寧ろ、少年の方がスニベリーに構っているようで、奴は心底鬱陶しそうに時折表情をしかめている) あのスニベリーが他人といる状況と、自分たちに見覚えのない少年の姿に、二重の意味で驚きが募る。 「グ、グリフィンドール……じゃ、ない、よね?」 オドオドと顔色をうかがうピーターも、やはり訝しげだ。(少し自信がなさそうだが) 「あのスニベリーといるんだぜ?そんなワケあるか」 「っ!そ、そうだよね……っ!ご、ごめん!」 「察するところ、腐れスリザリンだとは思うんだが、どうだ、ジェームズ」 俺としてもあまり自信がなかったので、とりあえず、後ろを追いつつ、隣を歩くジェームズにも問いかけてみる。 「その見解には大いに賛同したいところだが友よ。そうできない重要な前提条件がある」 「あ?なんだよ、それ」 危険な笑みを引っ込め、一転、不意に真剣な表情をしたジェームズに少し面食らう。 が、続けられた一言に思わず噴き出した。 「そもそも、スニベルスにあんな笑顔で接する人間はスリザリン含めホグワーツにいるはずがないのさ!」 「ブハッ!た……たしかにっ!」 見た目も中身も陰険極まりない奴と好んで話たがる人間がいるか? 答えは否である。 色々腹に一物を潜ませていそうなマルフォイ家の跡取りでもないんだから、当然だ。 まぁ、心優しい俺達はあんな奴でも、可哀想だから構ってやってるワケなんだが。 「一応、ホグワーツの制服を着てはいるけど、寮のタイはない。 そこで、僕の明晰な頭脳が弾きだすところによると、彼は他校からの交流生ってところだね!」 「交流生?んなもんあったっけか??」 「三大魔法学校対抗試合なんてものが昔あった位なんだから、あるんじゃない?」 「ってそれ、100年近く前になくなったって奴じゃん」 「そ。全く持って残念なことにね。でも、かといって何も交流しないってワケにもいかないんじゃないかい?」 ジェームズの割とまともな意見に、ふむと少し考えを巡らせてみる。 確かに、この手の繋がりというものは、一度切れてしまうと結ぶのが中々に大変だ。 だから、細々と、あるかないかの繋がりを維持するのは特に珍しくも何ともない。 が、しかし。 「ダームストラングの校長は死喰い人の疑いがあるのに、か?」 例え繋がりが途切れようとも。 関わることのできない人間というものがいる。 が、しかし、その言葉にジェームズは寧ろ軽く笑った。 「ダームストラングじゃないかもしれない。 それに、仮にそうだとしたら、寧ろ僕は積極的に交流しようとするだろうね」 そのどこか不穏な言葉に、ピーターがひっと息を飲んだが、 俺は望むところだとでもいうように、にっと口の端を上げた。 「俺もだ」 「だろう?さて、じゃあ、まずはお近づきになるためにも、 お客人には親愛なるスニベリーの本当の姿をご覧になって頂こうか」 いつのまにやら凶暴な笑みに変化していたジェームズの手には毎度お馴染みの糞爆弾があった。 多少の被害が少年にも及ぶかもしれないが、そこはスニベリーなんかと関わった奴が悪いということで。 「助太刀しようか?」 「それには及ばないさ。ちょっと挨拶に行くだけだからね」 ニンマリと笑いながら(基本こいつは笑ってるが)、ジェームズは機嫌よく二人組に近づいていく。 そして、僅かに連中の周囲が空白になった瞬間、鮮やかなフォームと共に投擲を開始した。 もちろん狙いは寸分違わず、スニベリーの後頭部へ爆弾が吸い寄せられ―― 「……は?」 るはすだった。 がしかし、俺たちの見守る中、何故か爆弾はその手前で失速し、落下した。 もちろん、落下した衝撃で爆発、なんてこともない。完全なる不発である。 ベシャという音に思わず茫然とするジェームズ。 俺も自分の目が信じられない。 あれだけの勢いで飛ばしたものが、いきなり垂直に落ちる? ありえない。 「妨害の呪文か?」 思わずジェームズと二人で周囲を見回すが、こちらに杖を向けるそれらしい人物は見られない。 と、そうこうしている内に連中は人ごみにのまれ、視界から消え去った。 「 !」 次に少年の姿を見つけたのは、意外な場所だった。 てっきり教員席か何かに座っていて紹介されるものだとばかり思っていた奴は、 なんと新入生の一番最後に登場したのである。 いや、客なら最初だろ、普通。 明らかに新入生らしからぬその姿に周囲はざわめいた。 すると、そこでおもむろにダンブルドアが立ち上がり、ごく親しげに少年の肩を抱く。 (少年――は一瞬表情を顰めた) 「さて、ここで皆に一人紹介したい者がおる。遙か東の果て、日本からの留学生じゃ。 家庭の事情で急遽5年生に編入となる。共に大いに学び、大いに親交を深めて欲しい」 思いがけない言葉だった。 編入生なんて、聞いたこともない。 思わず少年を凝視すると、学校中の視線に緊張でもしたのか、は血の気の失せた顔をぺこりと下げた。 そして、ダンブルドアはそんなを一年生と同じように椅子に座らせ、 ご丁寧にも手ずから組み分け帽子を被せる。 すると、 『おや、君は……。 なんとなんと。懐かしくも目新しい魔力を感じると思ったら』 「「「…………」」」 周囲が固唾を呑んで見守る中、帽子は組み分けを悩みだした。 何しろ、決める時は一瞬で寮名を叫ぶ帽子である。 それが、と頭の中で長話でもしているのか、うんともすんとも言わない。 よっぽど奴に才能が溢れているんだろうか。そうは見えないが。 最初は息もつかずに組み分けを待っていた在校生も、その長さに徐々にざわざわと話しだした。 「うーん。これは興味深いね。ただでさえ注目が高いのにこれじゃ、否が応にも期待が高まってしまうよ」 「そうだね。留学生が入るっていったら、それだけでかなりのアドバンテージだ。どこの寮になるか楽しみだね」 監督生だから興味があるのだろう、リーマスがどこか愉快そうに目を細めた。 (まぁ、5年の男子で、グリフィンドールにでも入る事になったら、面倒を見るのはリーマスということになるだろう) その様子に、とりあえず無駄な期待をさせない為にも口を開く。 「さっき話してただろ?アイツ、スニベリーと一緒にいた奴だぜ?どうせスリザリンだろうよ」 「へぇ?そう。セブルスと話してたんだ。珍しいね」 「そう!おまけに糞爆弾の効かない特殊体質の持ち主!今から悪戯するのが楽しみでならないよ!」 ……さっきの襲撃失敗はジェームズの中で奴の仕業になっていた。何故だ。 「いや、それどんな体質だよ。ワケわかんねぇな」 「なに、至極簡単なことだよ。普段のスニベリーなら確実に糞まみれになっていた。 しかし、現実に彼は見事に逃げおおせている。それは何故か?普段と違う『何か』があったからだ。 その『何か』とはなにか!考えるまでもなく彼という存在だろう?」 「きっと彼は重力を操る力を持っているに違いない!」と力強く断言するジェームズ。 ……俺は偶にコイツが真性の馬鹿に見えるんだが、実際どうなのだろう。 馬鹿と天才は紙一重という奴だろうか。 そして、ジェームズが無駄に期待に溢れた熱い視線を送る中、ようやく帽子がピンと背筋を伸ばし(この表現で良いかは微妙だが、正にそんな感じ)、口を開いた。 「スリザ……っ!」 グシャ! 「「「「…………」」」」 が、その口は強制的に封じられた。 他ならぬ、自身の手によって。 奴はそれは爽やかに笑いながら、杖を帽子に突き付ける。 「あれ、ごめんごめんごめん。よく聞こえなかった。 え、スリなんちゃらとか言おうとしてないよね?まさかね? いやぁ、この僕には陰険の欠片もないし、狡猾さとか?そういう類のスキルがあるワケでもないし? そんな僕に対して高らかに蛇寮宣言とかマジないよね。空耳空耳。空耳アワーだよ。 さぁ、もう一度!今度は間違えないように、言ってみようか!」 「スリザリ――「ざけんな手前ぇえぇぇぇぇぇー!!」 「もぎゅっ!!」 穏やかそうな雰囲気が一変、タケイは帽子を力の限り床に叩きつけた。 一気に騒がしくなる壇上に一同唖然である。 そして、その大注目にまるで気づいていないようで、奴は帽子をガスガスと踏みつけだした。 「お前っ!マジふざけんなよ!!なんでよりによってスリザリン!? 悪戯仕掛け人誰一人としていねぇところチョイスすんなよ! 違うだろ!どう考えたって僕が行くべきはグリフィンなドールだろ!獅子寮だろ!! 散々人違いしといた挙句、そんな組み分けした日にゃあ、地獄の業火で焼き払うぞコラ!」 「おやめなさい!!!」 「だってティーチャー!コイツこの僕の言う事あっさり無視しやがったっ!」 「だからといって神聖な儀式を邪魔して良いということにはなりません!」 「いやいや、僕の人生かかってるから!ひいては色んな人の人生かかってるからっ! 帽子!邪王炎殺黒龍波とスィスティマドルキームとどっち喰らいてぇんだオイ!」 最終的にはよく分からない言葉で帽子を脅し始めた。 文字通り、伝統ある組み分けを踏み躙るという前代未聞の事態に、大広間は大混乱だ。 (あのジェームズでさえ一瞬固まっていた。今はきらきらしい笑顔だが) ちなみに、の瞳は本気である。 このままスリザリンなどと頑なに言い続ければ、帽子の焼却処分を躊躇うことなく実行に移すだろう。 ……成功するかは微妙なところだが、奴はやる。そんな気がする。 その事が帽子にも分かったのか、それはそれは不本意そうに組み分け帽子は奴の望み通りの寮名を口にする。 「……グリフィンドール」 「聞こえない。もう一度」 「グリフィンドール」 「いやいや、もっと広間全体に轟くような大声で言えや。 この僕の行く寮だからね?分かってんだろうね?……燃やすぞ」 『いや、脅すなよ。 ……まぁ、でも、そういうことだから』 「っグリフィンドォオオォオオール!」 「よし、よく言った!」 すると、途端に表情を明るくした少年はそんな帽子に労いの言葉をかける。 そして、何故だか汚れてしまったそれから丁寧に埃を払っていく。 その仕草は、先ほど床に帽子を叩きつけた人間と同一人物とは思えないほど優しく、 ニコニコと見惚れるほどに素晴らしい笑顔で、彼は再度帽子に囁いた。 「もし万が一またスリザリンとか言いやがったら、うん。次は燃やす☆」 「!!!!グリフィンドール!グリフィンドール!グリフィンドールって言ったらグリフィンドォオォール!!」 寧ろ、トドメの一撃だった。 憐れ、帽子はその後、マクゴナガルが慌てて回収するまで、必死にグリフィンドールと連呼していた。 そして、最初より1.5倍みすぼらしくなった帽子を捨て置き(酷ぇ)、 は軽い足取りでグリフィンドールのテーブルへやってくる。 「面白そうな子だね。ジェームズ」 「嗚呼、最高だ!!」 そう言うなり、ジェームズは席を立ち、ぶんぶんと手を振って奴に対してアピールを始める。 「やぁ、!5年生はこの辺りだよ!一緒に食べよう!!歓迎するよ!!」 その言葉にはこちらを見、一瞬目を見開くと、50mダッシュの勢いで走ってきた。 そして、声をかけてきたジェームズの前……ではなく、その隣の席に座っていたリーマスの前で緊急停止する。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」 「えっと……?」 何故か、凄まじい熱視線を浴びて困惑するリーマス。 そんなリーマスに、走ってきたせいか顔を真っ赤にした状態で話しかけようと口をパクパクしている。 と、そんなに遠くの方から「まさか、!?」だなんて制止の声がかけられたが。 「一目見た時から決めてました!付き合って下さい!!」 「…………」 空 気 が 凍 っ た 。 ……馬鹿だ。 ジェームズを超える、破滅的馬鹿がいる。 そして、固まる一同を尻目に、リーマスは心の底から優しげに微笑む。 「とりあえず、天文台の一番上から飛び降りてくれないかな? そうしたら、名前だけは覚えてあげるよ」 一言で言うならば、戦慄だ。 ......to be continued
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