基本曲者のくせに、根はやっぱり善良で。 Phantom Magician、173 や っ ち ゃ っ た ☆ もうなんだろう、それ以外の言葉が思い浮かばない。 一日の締めにあたる夕食の時間、悪戯仕掛け人(っていうかリーマス)と一緒に食べようと、 彼らの近くに向かったあたしは、リーマスが有無を言わさない笑顔で下級生を隣に座らせたのを見て、 それはもう盛大に顔が引きつるのを感じた。 今、絶対あたしが来たの分かってて席なくしたよね!? なんというあからさまな拒絶……っ 『蜜月期間終了だね。ご愁傷様』 いや、お前絶対、そんな風に思ってないだろ。 労わる気持ち皆無なのがビシバシ伝わってくるわ。 っていうか、あたしの蜜月って、この間までのリーマスに玩具にされてたあの時のことか?と、 無言で問いかけると、可愛らしい顔立ちの黒にゃんこは、全く可愛くない表情でにんまりと笑った(畜生) がしかし、如何に性格が悪そうでも、まさか大広間でにゃんこを蹴飛ばす訳にはいかず、 あたしは軽く舌打ちをしながら、グリフィンドールのテーブルで適当に空いている席へ座る。 「ごめん、ちょっとここ良い?」 「えっ!?あ、え、あ、はいっいくらでも!」 隣になった可愛らしい一年生に声をかけると、 それはもう大いなる困惑が溢れた返事が返ってくる。 そりゃあそうだ。いくら寮のテーブルはどこに座って良いと言っても、 おおかたの場合は、大体の席というものがおのずと決まってくるもの。 それなのに、ロンリー野郎なあたしが急にやって来たら、そりゃあ戸惑うってもんだろう。 ということで、驚きのあまり彼女のスプーンからスープがびちゃっと零れたのにはそっと目を瞑り、 あたしは近くの大皿から適当な食事を盛り付けると、もそもそと、ひたすらに食べることに集中する。 一人で食事することにあまり抵抗感のない自分でも、 流石にさっきの心理的ダメージが尾を引いているのか、あんまり美味しく感じられなかった。 『“さっきの”っていうより“最近の”が正しい気がするけど』 と、微妙な表情のあたしを流石に見かねたのか、スティアが思考に加わってくる。 『今日で避けられて何日目だっけ?4日?』 5日だよ、馬鹿野郎! まぁ、つまりはO.W.L試験が終わって5日経った、ということである。 数えるのも嫌になるが、その決して短くない期間、あたしは見事にリーマスに避けられていた。 スティアの言葉じゃないが、ようやくフレンドリー?に会話が出来るようになったと思ったのに、 その夢のような時間は、すでに過去のものとなってしまっていた。 目が合えば逸らされるし、呼び掛けは無視されるし……。 気分はあれだ。 人生ゲームでようやくゴールが近づいてきたなーって思ったら、 負債を抱えた状態で振り出しに戻された、みたいな? 1年近く経って、ようやく積み上げてきた好感度は、先日の説教で一気に地に落ちたらしかった。 『大丈夫だいじょうぶ。どん底まで一回落ちてるから、後はもう這い上がるだけだよ』 ……それちっとも慰めになってないって分かって言ってるよね?スティア。 『うん』 こっくりと、膝の上で頷くスティアさんに、あたしは脱力せざるをえない。 何故、あたしの周りにいる連中は揃いも揃ってあたしに優しくないんだろう。 精神的なマゾと言ったって、優しくされたい時も多いってのに。 がしかし。 唯一、絶対的な優しさを見せてくれるリリーは生憎、すでに夕食を終えている時間なので、 残念ながら、あたしの嘆きを聞いてくれる存在はこの案内人だけだった。 いっそ、目の前にあるアツアツのポトフでも口の中に突っ込んでやろうか。 『動物虐待はんたーい』 煩い。お前、散々『僕は猫じゃない』とか言うくせに。 こんな時だけ猫面するんじゃない。 『いや、僕が問題視してるのは客観的にどう見えるかってことなんだよ。 ホグワーツって管理人筆頭に猫狂い多いから、どうなっても知らないよ?』 「…………」 思わずフィルチに視線を送ってしまうが、 目が合った(ガンを飛ばしてきた)という理由で罰則を加えられては堪らないので、さっさとテーブルに目を戻す。 確かに、ここでスティアに危害を加えたら、奴がすっとんできそうだ。 話に聞くところによると、彼の猫への愛情は、どうやらこの猫もどきにも適応されるらしいし。 (ちなみに、かくいうあたしも、世間一般の評価は猫狂いである) (マクゴナガル先生をひたすらに愛でたのがいけなかったらしい。いや、だって先生マジ可愛す) (がしかし、フィルチがあたしに仲間意識を持って優しくしてくれる、なんてことにはならない) (あたしに逆ハーの素養はないようだ。……知ってたけどね!) 仕方がないので、スティアへの鉄拳制裁は諦め、 溜息とともにキドニーパイをフォークでつつく。 どうしても、頭の中から、さっきのリーマスの微妙な表情が離れない。 やっぱり、偉そうに説教なんてするべきじゃなかったんだろうか……。 いやでも、 「嫌なものは嫌だったんだよね……」 弱い者いじめも。 それを見過ごすのも。 見過ごす誰かがいるのも、あたしは嫌だ。 我儘と謗られても、嫌なものは嫌なんだから仕方がない。 っていうか、言っても言わなくても嫌な思いをするってどうよ? 何度頭の中でシミュレーションしてみても、最終的にこうやって後悔してる自分しか浮かばないんだけど。 『しょうがないよ。いじめなんてものは、そもそも周囲の空気を悪くするものなんだから。 とりあえず“いじめ、かっこ悪い”って標語を掲示板にでも貼りまくってみたら?』 嫌だよ。絶対あたしの仕業だってバレるだろ、それ。 一人ムキになってる痛い奴になるだろ。 『まぁね。人によっては、“嫌な奴を嫌な奴だと言ってなにが悪い?”とか言い出しかねないしね』 そう考えると、問答無用で「いじめ=悪いこと」と先生の指導が入ったり、 わざわざ教えてくれたりする日本教育は、実はそう捨てたものでもないのかもしれない。 と、そんな風にスティアと二人で母国の道徳教育に思いを馳せながら、 悪戯仕掛け人の方をぼけっと見つめる。 目を逸らされて悲しい思いをするだけなのは重々承知しているが、 気が付けばそっちに視線が向いてしまうのだ。 太陽を追いかける向日葵さながらである。 と、ずっと見ていた甲斐があってか、悪戯仕掛け人の一人と目が合う。 「…………?」 『?どうしたの??』 「いや、なんかジェームズが口パクで何か言ってる……」 徹頭徹尾こっちを無視するリーマスとは違い、ジェームズとシリウスは説教の後も、 気まずそうにしつつ、一応あたしと普通に接してくれていた。 (シリウスは気まずそうにっていうか、不機嫌そうに、だけど) だから、ジェームズがリーマスに無視されてショックを受けるあたしに、 苦笑を向けてきたり、励ましのエールを送ったりしてくることも珍しくはない。 がしかし、今日はどうやらそれとは違うらしく、 彼の表情に労わりだとか労いの色はない。 寧ろ、それよりも救いを求めるような、縋るような。 彼にしては珍しい弱った雰囲気を醸し出していた。 『で?なんて言ってるの??』 「あたし、読唇術の心得ないんだけど……」 というか、普通はそんな心得はない。 がしかし、どうにかこうにか、その身振り手振りから苦心して読み取ったところによると、 どうやらジェームズはあたしに、大広間に留まっていて欲しいらしかった。 まぁ、奴がそんな表情をする時は大体、リリー関連の相談事がある時だけなので、 あたしは、とりあえず「OK」と指でサインを返しておいた。 やがて、あたしが食後のデザートを選んでいるくらいの時間に、 悪戯仕掛け人は寮へと戻っていった。 いやいやいや、ジェームズ、お前は残るんじゃないの? なんでナチュラルに退出してんの?? 疑問符たっぷりに彼らを見送るが、 肝心のジェームズはというと、目が合った一瞬に、ぱちりとウィンクをかましてくるだけだった。 「????」 そもそも、話がしたいなら寮で良いと思うんだけど。 わざわざ残れって言うからには、ここじゃなきゃいけない理由でもあるのか?? それとも、誰かと引き合わせよう!とかそういうこと?? ジェームズでなく、同じ寮の誰か、とかだったら、そういうことは今までに何度もある。 恋愛第一主義になりがちな年齢なので、まぁ、仕方がない。 ほら!あたしイケメンだし(笑) で、そんな場合には、適当にあしらってきたのだけれど……。 『知り合いからの紹介だと無下に断れないなーとか思ってるの?』 と、微妙な心境でデザートのプディングを取り分けていると、 スティアが膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしながら、そんなことを訊いてきた(器用だな、お前) いや、普通に断るけどね? リーマスLOVEを公言してるあたしが、そもそも応じるわけがないでしょうよ。 ただ、『それを踏まえても、ジェームズが紹介してくる相手』ってなっちゃうと、 はっきり言って面倒ごとしか起こらない気がするじゃん? 『まぁ、確かに。その場合って、ジェームズですら慮る必要のある人、とか、 がそこそこに好意を抱いていて望みがなくもない人、とかになるもんね。 どっちであっても、間違いなく面倒くさい』 まぁ、そんなものに該当する人間なんてそうそういやしないのだが。 それでも、一応可能性として考慮にくらい入れる必要があるだろうか、と、 不治の病を患っている薄幸の美少年を思い浮かべていると。 「お待たせ」 「!」 ぽん、と気の抜けていた肩を軽く叩かれた。 「…………」 「?僕の顔に何かついてる??」 「……いや、うん。分かってたよ。ええ。そんな美少年がそうそういるはずないってね」 「は??」 そこには、イケメンには違いないが、薄幸とはかなり縁遠そうなジェームズが立っていた。 ぱちぱち、と、あたしの意味不明発言に目を丸くしている彼の後ろには、もちろん誰もいない。 分かっちゃいたが……なんだ、この無駄ながっかり感。 どうやら、悪戯仕掛け人と途中で別れて、大広間に引き返してきたらしい。 彼は「そのデザート食べたら、この後付き合ってよ」と誘ってきた。 気軽な調子の言葉だったので、いつもの他愛ない相談だったか、と胸を撫でおろす。 「別に良いけどさ。え?どこか行きたい場所でもあるの?」 「え?そんなものあるはずないじゃないか。勝手知ったるホグワーツだよ?」 「そりゃあそうだけど。じゃあなに、話したいことでもあるの? あたし、今日のスペシャルプディング楽しみにしてたから、じっくり味わいたいんだけど」 言外にもうちょい時間かかるよ?と告げると、ジェームズはそこで顎に手を当てて考える姿勢を取ると、 「ごめん、ちょっと席1個ずらして貰って良いかな?と話したいんだ」 「ふぇ!?あ、は、はい!どうぞ……っ」 容赦なく一年生から席をぶんどった! 哀れ、可愛らしい彼女に抗うだけの力はなく、一人分のスペースが出来上がる。 「ジェームズ……」 「うん?なんだい?」 「……なんでもない」 とりあえず、親の顔が切に見たくなりました。まる。 そして、呆れ顔のあたしには気づかず、ジェームズはそこで自分も適当にジュースを手に取りながら、 挨拶もそこそこに相談の本題に入る。 こんなところで話し始めるんだから、大した相談じゃないだろうと高を括ったあたしだったが、 しかし、彼の口から出たのは、あたしの予想を斜め上にぶっちぎった代物だった。 「あれから色々考えてみたんだけど……」 「うん」 「リリーと仲直りするには、僕が多分謝らないといけないんだよね」 「うん」 「ただ、僕が悪い訳じゃないから、 そもそも何を謝ったら良いのか、ちょっと分からないんだ」 「うん?」 「、君なら分かるんじゃないかな?」 「……うん???」 至極真剣な表情のジェームズ。 ただ、その言葉を聞いていたあたしとしては、「はい?」ってな微妙な反応しか返せなかった。 えっと、ちょっと待ってね? 頭整理するからね? 直る程の仲だったかは置いておいて、自分が謝るべきなのは分かってる、と。 『多分とかついてたけどね』 でも、謝るのが何か分からない……? それがなにを意味するのか、それを察するに従って、 あたしの顔からはすーっと見事に血の気が失せていく。 で。 「WHY!?」 「!」 何で!?と絶叫したあたしは、誰にも責められないと思うの。 「びっくりしたー!なんだい、いきなり!?」 少なくとも、目の前のお馬鹿さん以外は。 あたしの、この得体のしれない戦慄をどうやって伝えたら良いのか。 はっきり言って、O.W.L試験以上の難易度な気がしたが、 しかし、逃げる訳にもいかない。 あたしはキリキリと痛む胃を抑えながら、ジェームズの肩を力いっぱい引っ掴む。 「ジェームズ」 「……なんだい?」 多分、多少痛みはあったと思うが、あたしのただならぬ剣幕に、 ジェームズは文句を言うこともなく、神妙に話を聞く態勢をつくる。 「それ、本気で言ってるんだよね……?」 「そりゃあ、もちろん本気だよ」 「神に誓って?」 「リリーに誓ってさ」 膝の上から注がれる、多大な同情の籠った視線に勇気を奮い起こし、 あたしはそこで覚悟を決めた。 「あたしがこの前説教した時のことは覚えてる……?」 「当たり前じゃないか」 「その時、あたし確か“言いがかりつけたり、 人の借り物ぶんどったりすんな”って言ったよね? それ、謝る理由じゃないの……?」 「んー……でもそれ、リリーにしたことじゃないだろう? この僕がリリーに言いがかりをつけたり、彼女が人に借りた物を取ったりする訳がない」 「…………」 あっけらかんと言われた言葉に、愕然とする。 言葉は通じているはずなのに、お互いがお互いの言っていることが、まるで理解不能だ。 すると、あたしのあまりの衝撃にフォローを入れるべきだと判断したのか、 普段のスティアにはあるまじき事だが、彼はまだ皿の片付いていないテーブルにぱっと躍り上がってきた。 『なんでもすぐ謝る日本人と違って、こっちだと謝った方が悪いことになるからね。 悪くもないのに謝るって感覚が分からないんだよ』 「それは、分かる、けど……」 でも。どうして? その言葉が鳴りやまない。 どうして、自分は悪くもない、なんて思うの……? あれだけ、酷いことをしておいて。 なにもしていない人間を攻撃したくせに。 どうして? 『それはね、。察するところ、ジェームズの中でセブルスは絶対悪だからだと思うよ』 スティアは語る。 他の人間とセブルスは、まるでカテゴリが違うのだと。 例えば、猫が服をひっかいて破いてしまっても、それは許せる。 でも、それが人間であるならば、許せない。 それと、同じことなのだ、と。 『まぁ、簡単に言えば、セブルスがやることは慈善活動であっても悪いことになるのさ。 そして、そんな悪者をやっつけるのは、正義の味方に決まっている』 「…………」 悪い奴にする制裁は、悪いことじゃない。 そういうこと。 『もちろん、悪者には素敵な友達も、優しい仲間もあり得ない』 それを聞いて。 本人の言葉通り、なにも悪びれることのないジェームズの瞳に、 どこかでやられたという心理の実験を思い出した。 看守役と、囚人役に分かれて演技をさせると、 これが実験であること、演技であることは百も承知なのに、 看守役は囚人役を必要以上に虐げる、という結果が出たものだ。 相手が悪者であれば、人はそれを虐げてしまう。 考えていた以上に根深い問題に、心から頭を抱えたくなった。 っていうか、どう考えても、こんな大広間でするような話題ではない。 ないのに。 ここで話を切り出してきたということは、 それだけで、彼の中では大した問題ではないのだと、否応なく分かってしまう。 今更、場所を変える訳にもいかず、あたしはもうやけくそで、 寧ろこの場を利用してしまえ!とばかりに、さっきから変に巻き添えを食っている一年生に目を向ける。 「……ごめん、ちょっと良いかな?」 「うぇっ!?ははは、はい!?」 急に下級生をナンパしだしたあたしに、ジェームズは片方の眉を上げる。 がしかし、続けられた言葉に、得心したように彼は頷いた。 「意見を聞きたいんだけど。 君の知り合いのAさんが、ある日Bさんの羽ペンを盗んだって非難されていた。 Aさんは、それをCさんに借りた物だって言うんだけど、Cさんはその場にいない。 で、BさんはAさんを泥棒だと言って、皆の前で非難して叩いた。 君だったら、この場合、一番悪いのは誰だと思う?」 つまり、客観的な意見を誰かに求める、ということだ。 少々の改変はあるが、大筋のストーリーにはなにも手を加えていない。 ジェームズも特に文句はないようで、 殊勝な態度の一つもなく、彼女の返答を待つ体制になる。 もっとも、 r> 「え……っと、それは、その、Bさん、じゃないでしょうか……?」 「えっ!?」 もちろんBさん――ジェームズが非難されれば、黙っていられなくなったようだけど。 「だって、そもそもAが盗んだのが悪いじゃないか! なんでBが悪いんだい!?あり得ないよ!」 「っ」 「ジェームズ煩い。……良いよ。この人は気にせずそのまま続けて? なんでBさんが悪いって思ったのかな?」 その気はなくても恫喝しているジェームズを一睨みで黙らせ、 下級生には元気づけるように、殊更優しい笑みを向ける。 果たして、それに効果があったのかどうなのか、 彼女はチラチラとジェームズの顔を伺いながら、しかし、きちんと自分の見解を述べた。 「あの、だって、Aさんが盗んだって決まった訳じゃないんですよね? あくまでも疑わしいってだけで。なら、まずCさんに確認するのが先だと……。 いきなり叩いちゃうのは、ちょっとやりすぎだと、その……思います」 「!」 望んでいた通りの答えに、うんうんと頷く。 そう、これが世間一般の考えという奴だ。 がしかし、それでもやっぱり納得できないのか、 ジェームズはさっきの設問にない設定を彼女に懇々と告げ、意見の撤回を求める。 「いや、でもAはそもそも、嘘つきの嫌われ者で、極悪人なんだよ? で、しかもBはCをそもそも知らないから、確かめようがない。 そうしたら、ホラ、Aの方が悪いだろう?」 「え……あ、うぅん……?」 「で、その羽ペンはBにとってすごく大切なものなんだよ。 そりゃあ、盗まれたら怒るだろう?君だってそうじゃないのかい?」 「それは……」 勢いに押されて、困り果てたような視線があたしに助けを求める。 なので、あたしは不公平を是正するためにも、口を開くことにした。 「ちなみに、盗まれたのは孔雀の羽ペンね。 貴重品で、あんまりないっていえばないんだけど、でも別に名前が書いてあった訳じゃない」 「…………」 「そして、Bさんの羽ペンは、騒動の後、Bさんの自室から見つかっている」 「…………」 まぁ、ぶっちゃけると、Bさんの羽ペンをCさんがこっそり借りて、 何も知らないAさんに渡した挙句に、またこっそりBさんの部屋に返しているのだが。 それはCさん――スティアとあたししか知らないことなので、黙っておく。 そして、全ての情報を加味した上で、少女が出した結論は、 「やっぱり、Bさんはやりすぎだと思います」 だった。 その後、他にも野次馬的に会話に加わってきた連中に、同じ質問をぶつけてはみたものの、 大方の人間の答えは皆、似たり寄ったりのものだった。 中には、疑われるようなAさんの日頃の行いが悪いという奴もいたが、 あくまでも問題視しているのはこの件に関してだけである。 結局、「じゃあ、お前がAになっても助けないからな」という、ルームメイトの無情な言葉に、 最終的な結論は、「Bが先走りすぎ」で落ち着いた。 で、そんな意見ばかりを聞かされたジェームズはというと。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 途中から、彼にしてはかなり珍しい無表情で押し黙ってしまった。 基本的には自分の思った通りになることの多い彼なので、 この四面楚歌な状況には癇癪の一つも起こすかもしれない、と危惧したあたしは、 食事が終わったこともあり、ジェームズを促して、大広間の外へ出る。 がしかし、彼は隣で歩きながら、 存外素直に、今回の件は自分が悪かったようだ、と認めた。 というか、元々その点は認めていたところなのだ。 じゃあ、次のステップの「リリーに謝ろう」に中々移れないというだけで。 案の定、「でもBさんがDさんに謝るのがよく分からない」とか言っているジェームズに、 さて、どうやって話を持って行くべきかと頭を悩ませる。 すると、スティアがこう言ってはどうか、と例え話を再度考えてくれた。 周囲を見回してみれば、うん。大丈夫、他に人はいない。 そのことに安心しながら、不謹慎と知りつつもあたしは仕方がなしに口を開く。 「……よし分かった。じゃあ、こう考えたらどう? リーマスが、ある日スリザリン生の羽ペンを盗んだって非難されていた。 リーマスは、それをおじさんに借りた物だって言うんだけど、おじさんはその場にいない。 で、スリザリン生はリーマスさんを泥棒だと言って、皆の前で非難して呪いをかけた――「!」 さて、この場合、一番悪いのは誰だと思う?」 「それは……」 言い淀むジェームズ。 当然だろう、さっきと同じ文面だが、その意味するところは彼にとって段違いだ。 しかし、繰り返して言えば、これは、全く同じ状況なのである。 ジェームズの正義を貫くならば、彼はリーマスを非難しなければならない。 「ちなみに、もちろん分かっていることだと思うけど、 リーマスは魔法界の嫌われ者である人狼で、決して裕福な家庭じゃない――……」 「リーマスがそんなことするもんか!」 がしかし、もちろん、彼は友人を取った。 あたしの、思惑通りに。 くすり、と我知らず零れた笑みが、ジェームズの神経を逆なでする。 「どうして怒るの?ジェームズ」 「なっ!?君、どうかしちゃったのかい!?『どうして』だって!? 親友を侮辱されて、怒らない訳ないだろう!」 「……はい、それ」 「は!?」 それが、リリーが君に怒った理由。 「!」 「他の人はどうだか知らないけど、ジェームズは知ってるでしょ? あの二人が幼馴染だってことくらい。 ジェームズからしたら、だからこそ余計セブセブが気に入らないんだろうけど。 大抵の人は、自分の友達が攻撃されたら嫌なんだよ。 リーマスが人狼なのも、裕福じゃないのも、侮辱した訳じゃない。事実だよ。 でも、それが理由で疑われるのを侮辱だと、ジェームズはそう言うんでしょう?」 リリーも同じ。 闇の魔術に傾倒していても、裕福じゃなくても。 それで、泥棒扱いして良いことにはならないと、彼女は怒った。 「だったら、分かるはずだよ。 スリザリン生が、『ポッターに何を謝る必要があるんだ。僕はそもそも悪くないのに』 なんて言い出したら、どんな気持ちになるか」 「…………」 まぁ、少なくとも愉快な気持ちにはならない。 無言でありながらも、彼の表情はそれを雄弁に物語っていた。 元々、学年で主席を取るくらい、頭の良い彼のこと。 流石にここまでくれば、どうすべきか、何を謝るのか、もう分かってきていた。 がしかし、分かったが故に、彼の顔色は決して明るいとは言えなかった。 今後、リリーに許してもらうのが、かなりの難易度だと判明してしまったからである。 しかも、この件がリリーとセブルスの絶交のきっかけにまでなっちゃってるしね。 と、さて、どうやってリリーに渡りをつけようか、とあたしが思案しだしたその時、 意を決したらしいジェームズは、真剣な表情であたしを真っ直ぐ見つめた。 お、これはあれか?正式にお願い的な奴か? そうやって真摯な態度で日頃生活していれば、とっくにリリーに好感持たれてたはずなのに、 本当、悪戯仕掛け人の連中は残念集団だよね、まったく。 と、つらつらと心の中で苦笑していたあたしは、だから、次の瞬間、 ジェームズが自分に対してしっかりと頭を下げた、という事実を認識するのが十数秒遅れた。 「ごめん、」 「……へ?」 「紛らわしいスネイプも悪いとはやっぱり思うけど、 でも、やっぱり、僕も悪かった。嫌な思いをさせてごめん」 「……え、あ、うん?うん。分かった、リリーの前の予行練習ね? うん、この位真剣な表情なら、反省の気持ちも伝わると思うよ」 ついでに、『止めてくれたのに、無視してごめん』も付け加えると更に良いと思う。 少しはリリーの努力も浮かばれるってものである。 がしかし、にっこり笑って及第点を与えたあたしに、ジェームズはしかし、 そっと首を横に振った。 その仕草の意味が分からず、首を傾げる。 「違うよ、。これは僕、ジェームズ=ポッターから=への謝罪だ。 君の友達を無暗に疑って、攻撃した」 「!」 嗚呼。 「しかも、止めようとした君も逆さづりにさせられた。 僕がやった訳じゃないけど、でも、同罪、なんだろう? 本当だったら、君もリリーと同じくらい怒っているはずなのに」 これだから、本当に悪戯仕掛け人は嫌だって言うんだ。 いつも自信に満ちているその顔が。 その声が。 「その君に、相談を持ち掛けたことも含めて……ごめん」 こんな時に弱弱しい、だなんて。 「許してもらえないかもしれないけど」 「……良いよ」 「え?」 「許す。許すに決まってるでしょ、当然」 抗えるはずがないじゃないか。 ぱっと笑顔に切り替わったジェームズの表情に、 ああ、これはリリーもやばいな、と思った。 えっと……ギャップ萌えって奴? 『うん。少なくともギャップ萌えは違うと思う』 大の男のくせに可愛いとか、反則だと思う。 ......to be continued
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