君の言葉はいつだってストレートで。 嘘を吐く時も、酷く分かりやすい。 Phantom Magician、169 「あぁー!終わった!!」 肩の凝りそうな筆記試験の最後の一つが終わり、 俺は晴れ晴れとした気持ちで、伸びをした。 もちろん、試験の結果なんて物は、大して気にかかっていなかったのだが(どうせほぼ『O 優』に決まっている) それでも、やっぱり独特な空気を感じなくなるのは嬉しい。 なにより、周囲が殺気立たなくなるしな。 周囲の試験に対する意気込みは、今まで経験した学期末試験の比ではなかったので、 流石にここしばらくは俺たち悪戯仕掛け人も大人しくせざるをえなかったのだ。 なにしろ、今後の一生がかかってる連中もいたし。 仕方がないから、お茶目な悪戯で息抜きをちょっとさせてやるくらいに留めたぜ。 「ようやく、って感じだね」 「おう」 と、満月が近づいているせいか、少し顔色の悪いリーマスが、 しかし、ほっと息をついたような表情で俺の言葉に同意する。 こつこつとこの日の為に準備していた秀才なので、俺以上に閉塞感を感じていたに違いない。 俺たちは、その解放的な雰囲気に背中を押されるように、 周囲の流れに乗って、湖の方へと歩き出した。 昼食で大広間が開くまでまだ少しばかり時間があるから、おそらく皆暇つぶしをするのだろう。 (なにしろ、さっきまで俺たちが試験で使ってたからな) 「ムーニー、第十問は気に入ったか?」 「ばっちりね。『狼人間を見分ける五つの兆候を挙げよ』良い質問だ」 「全部の兆候を挙げられたと思うかい?」 「そう思うよ? 一、狼人間は僕の椅子に座っている。 二、狼人間は僕の服を着ている。 三、狼人間の名前はリーマス=ルーピン――……」 「ぷっ!」 「さっすが、リーマス!」 校舎の外は、気持ちの良い陽光で満たされていた。 うららか、というのはきっとこういう時に使う言葉に違いない。 ピーターがうだうだと、まだ狼人間を見分ける兆候について不安を言っていたが、 さくさくと小気味良い音を立てる芝生に、全て消えていく。 風が吹けばまだ少しばかり寒いが、元々暑さの方が苦手な俺としては、この位の気候が丁度良かった。 が、流石にまだこの明るさに疲れ切った目が順応していないので、 湖の端にあるブナの木陰に俺たちは腰を下ろし、気分よくその場に転がる。 すると、暇だったのかなんなのか、ジェームズはおもむろにポケットの中から、 奇天烈な形のぬいぐるみを取り出した。 その、先日までに見慣れたシルエットに、思わずあれやこれやを思い出し、表情を顰める。 「っ!」 「げっ。お前、それ……っ」 「『げっ』とは酷いなぁ。折角がくれたのに」 『友達から貰った物は大切にしなきゃ』だのなんだのと嘯くジェームズ。 だが、それとこれとは話が別である。 「ようやく静かになったのに、なんで持ち歩いてるんだよっ!」 「え?見慣れると愛嬌がないかい?ふなっ○ー。この絶妙に歪な形とか」 「どこがだ!?」 なにを模しているのかは知らないが、この黄色い物体にはたった数日だというのに本当に苦労させられた。 ジェームズのトランクがやたらとガタガタいっているな、とは思っていたが、 まさかこんな物が入っていようとは予想だにしない事態である。 うっかりとピーターがトランクを倒し、これが飛び出した時といったら、もう……っ 部屋中を跳ね回るわ、奇怪な声を上げるわで、周囲からはもちろん、リーマスからも非難殺到だった。 しかも、捕まえようとしても、その逃げ足の速いこと速いこと。 ならばと、魔法で呼び寄せようとしても、ちっとも効かないという謎仕様。 物を破壊しないだけピクシー小妖精よりは良い気がしたが、あいつ等の方が魔法が効く分まだマシかもしれない。 最終的に、部屋中の物を魔法で総動員して追い込んだのは、記憶に新しかった。 とにかく、こいつが動いている時は、それはもう迷惑だったのだ。 に対して苦情を言ったのは、一度や二度じゃきかない。 と、俺が半分トラウマ状態でその物体を見ていると、何を思ったのか、 ジェームズはくったりと動かないそれにぱっと杖を向けた。 すると、魔法を掛けられたそいつは、前よりは遥かに遅いスピード(常識的な速度)で、 元気良く飛び跳ねだす……ってオイ! 折角動かなくなったのに、なんでまた動かすんだよ!? 「ジェ、ジェームズっ!に、逃げちゃうよっ」 「大丈夫だよ、ピーター。この位なら楽勝楽勝。ホラ」 「「!」」 気軽に請け合ったジェームズは、一度捕まえたぬいぐるみから手を放すと、 脱兎のごとく逃げ出そうとするそれを、すんでのところでキャッチする。 キャッチアンドリリースならぬリリースアンドキャッチだ。 じたばたと暴れる人形を、まるでスニッチを掴むかのように捕まえている……。 案の定、そんな凄ワザを見せつけられたピーターはというと、 さっきまでの困り顔から、一気に羨望の眼差しをジェームズに向けだした。 「うわぁ!流石、ジェームズ!」 「だろう?最初の速さは無理だけど、これならいけるよ」 「……俺はいいわ。パス」 「僕も」 スニッチを捕まえるシーカーはクィディッチにおける花形だ。 基本的に他のポジションの人間はスニッチを目にすることはあっても、触れることはない。 だから、チェイサーであるジェームズがスニッチをいじっているのなら、 密かに憧れている、だとか、実は興味があった、で済む話なのだが……。 あろうことか、遊んでいるのは謎の人形。 眩しい物でも見るかのような表情をしているピーターには悪いが、絵面はあまりよろしくない。 リーマスなんか見てみろ。 視界に入れるのも嫌で、変身術の本なんか取り出し始めただろうが。 俺も流石にぬいぐるみ遊びをしているのに混ぜられては敵わないので、 暇つぶしで、忍びの地図を取り出した。 「悪戯計画中っと」 そして、呪文とも言えない物を呟きながら、ぽんっと気軽に杖を地図にあてると、 まるで浮き上がるかのようにホグワーツの図解が現れた。 特に何をするつもりもなかったのだが、案外この地図は眺めているだけでも楽しい。 (例えば、校内でピーブズから走って逃げている奴がいる、だとか) そして、なんとはなしに湖の周辺を眺めていた俺は、 そこに天敵の名前を見つけてしまい、思わず眉間に皺を寄せる。 「スニベルスがいるのか?」 しかも、結構な近場だ。 もしかしたら、自分達へ攻撃する機会を計っているんじゃ、と、俺はすぐさま周囲を見回した。 がしかし、割と目立つ、黒ずくめの男の姿はどこにも見当たらなかった。 「?」 間違いなく、あそこの灌木辺りにいるはずなのだが、角度的な問題か? それとも、地図になにか不具合があるのだろうか? 不可解な現象に、地図と木陰を見比べていると、 不審な動きに気付いたらしいジェームズが、ぬいぐるみの魔法を解いて「どうしたんだい?」を尋ねてきた。 「いや、あの辺にスニベリーがいるはずなんだが……」 「へぇ?あ、本当だ。名前があるね」 「ででで、でも、あの、い、いない、ね?間違ってる、のかな??」 「うーん。一応、地図は間違わないはずなんだけど」 が、見当たらないものは見当たらない。 「幾ら奴が陰険だっていっても、流石に影と同化まではしないだろうしなぁ」 「…………。あ!もしかして」 と、なにか閃いたのだろう、ジェームズは地図上ではスネイプがいる辺り、 しかし、実際はなにもない灌木の茂みを狙って、杖を構えた。 「終われ!」 「!?」 ぱっと、明るい閃光が木の幹に向かってひた走る。 本来であれば、幹にぶつかって四散するはずのものだ。 がしかし、その光は、どういう訳だか、その手前でまるでなにかにぶつかったかのように砕け散った。 その不可思議な光景に、気づけば俺も、ジェームズも、ピーターでさえ立ち上がる。 が、どうやらジェームズは思い当ることがあったのか、掲げたままだった杖から、 今度は別の魔法を放った。 「!あれ、おかしいな?透明になる魔法かと思ったんだけど……。 ……まさかっ!?来い、透明マント!」 「「「!?」」」 と、ジェームズが魔法を唱え終わった瞬間に、ずるり、とセブルス=スネイプが姿を現した。 ぐしゃぐしゃとテスト問題を丸めてポケットにねじ込む奴は、 まるで、最初からそこに座っていた、とでもいうような、そんな体勢だった。 いや、きっと最初からそこにいたのだろう。 なにしろ、見えはしないものの、ジェームズの腕がしっかとスネイプを隠していた物を、掴んだようだから。 「……と、透明マントかい?」 「…………」 そして、姿を見つけられたスネイプはというと、舌打ちをしながらこっちを睨みつけていた。 「それを返せ!」 がしかし、俺たちは激昂する奴の言葉などまるで聞こえないかのように話を続ける。 視界の端で、リーマスが流石に表情を顰めるのが見えたが、 興奮してきた俺は、敢えてそれに気付かなかったフリをした。 元々、試験のせいでストレスが溜まっていたんだ。 少し発散するくらいでバチは当たらないだろう? 「……スニベリーの家に透明マントを買うなんてお金があるはずはないよね」 「オイ、プロングズ。お前の透明マントは?」 「部屋に置いてあるはずだけど、分からないな。最近あまり使っていなかったし」 「ってことは、それはお前の物って可能性が高いよな?」 「!」 もちろん、一応半分純血らしいし、あいつの家に元々ある物という可能性はあった。 それに、ポッター家の家宝ほどじゃなくても、出来の悪い物(効果が一週間で切れる等)であれば、 魔法道具の店に幾らでも転がっている。あいつが持っていてもおかしくはないだろう。 だから、言っておきながら、俺はそれがジェームズの物だろうとなんだろうとどうでも良かった。 ただ、それと同じ物をジェームズが持っていて。 しかも、スネイプが O.W.L試験当日に使っていた、その事実があればそれで良い。 俺の言葉から、言わんとすることを悟ったのだろう、 ジェームズもにんまりと笑みを浮かべる。 「嗚呼、その通りだ!友よ」 「なにを訳の分からないことを……っ。それは人に預けられている物だ! さっさと返せ!!来い、透明マントっ」 「護れっ!」 お返しとでもいうつもりか、ジェームズの腕から魔法でマントを取り上げようとしたスネイプだったが、 しかし、ジェームズもそれは予想がついていたのか、ガードが堅い。 と、俺は魔法に失敗したばかりの、無防備な奴にに向かってばーん!と一発、武装解除術をお見舞いする。 「っっっ!!」 案の定、スネイプは吹っ飛び、受け身も取れずに無様に地面へと転がった。 綺麗に魔法が決まったので、大層気分が良い。 しかも、武装解除で杖はスネイプの手から離れたので、 それに気づいたジェームズが取り戻される前に、奴の杖を更に遠くへと魔法で放る。 すると、憎々しげで醜悪な表情で悪態を吐くスネイプ。 「やはり、一人で向かってくる度胸もない腰抜け共だな!!嘘つきのペテン師めっ! 今に見ていろ。貴様らのような下衆は――……」 「口が汚いぞ、スニベルス。清めよ!」 「ぐっ!げほっ!!!」 と、その罵詈雑言の飛び出してくる口に向けて、ジェームズは魔法を放った。 本来なら、それは自分やら部屋やらを綺麗にする、ただの便利魔法だ。 だが、人間に向けると、どうやら相手から泡を吐き出させるらしい。 スネイプは、げほげほと、派手派手しいピンクの泡を吐きだし、それはもう苦しそうだった。 元々汚らしかったコイツにはまぁ、お似合いの魔法だろう。 おそらく、こうして魔法を喰らっているのが善良な一般生徒であれば、 周囲の連中も心配して近寄ってくるのだろうが、なにせ、やられているのは嫌われ者のスニベリーだ。 寧ろ、良くやったと言わんばかりの視線を向けてくる生徒さえいる有様である。 それに笑顔で手を振りながら、ジェームズは余裕の瞳でスネイプを見下ろす。 最近、過激な連中と、裏で闇の魔術の練習をしていると噂がある男だ。 身の程を思い知らせるためにも、次はどうしてやろうかと考えていると。 「止めなさい!」 どこからか息を切らせて走ってきたエバンズが、俺たちとスネイプの間に立ちはだかった。 「なんてことをしているの!?」 「やあ!元気かいエバンズ?」 「彼に構わないで!」 途端に朗らかな声を出すジェームズ。 だがしかし、それが逆にエバンズの逆鱗を撫でてしまったらしい。 見るからに険しい表情で、彼女はジェームズを睨んでいた。 がいたおかげで、最近はあまり見ることのなくなっていた、険のある眼差しだ。 が、冷たい表情をされるのなんて慣れっこなジェームズは、どこ吹く風で飄々と現状を説明する。 「実はそいつが僕の透明マントを盗んだんだよ。 きっとO.W.L試験で使ったんだろう。 だから、これは正当な仕返しさ」 「彼がカンニング?しかも、盗んだですって?盗まれるところを見たとでも言うの?」 「いいや?でも、スニベリーが透明マントなんて持ってるはずがないだろう? よく考えれば分かることじゃないか」 「なんですって!?貴方は証拠もないのに、人を盗人扱いするの!? 彼が貴方になにをしたっていうの!?」 「なにって……なぁ?」 「そうだな。寧ろこいつが存在するって事実そのものがね。分かるかな?」 「っっっっ」 がしかし、お優しい監督生は、こんな救いようのない人間でさえ、庇い立てしないでは気が済まないらしい。 少しずつ集まってきた群衆が笑うのを、ざっと一睨みで黙らせると、 殊更冷徹な声で、ジェームズを非難した。 「冗談のつもりでしょうけど。でも、ポッター。 貴方はただ、傲慢で弱い者いじめの嫌な奴だわ。彼に構わないで」 「エバンズ、僕とデートしてくれたら止めるよ。 どうだい?僕とデートしてくれれば、親愛なるスニベリーには二度と杖を上げないけどな」 「っ!」 まるで脅すようなジェームズの言葉に、スネイプでさえも軽く息を飲む。 あー、俺が言うのもなんだが、ジェームズ。 お前は交換条件くらいの軽い気持ちなんだろうけど、それ、最低の誘い文句だと思うぞ? 案の定、エバンズはとうとう感情の閾値が振り切ったのか、 能面のような無表情で「貴方か巨大イカのどちらかを選ぶことになっても、貴方とはデートしないわ」と告げた。 「残念だったな、プロングズ――」 「切り裂け!」 「っ!」 「石になれ!」 と、ジェームズがエバンズに夢中になっている隙に、どうやら多少回復したらしいスネイプは、 いつのまに手にしたのだろう、杖を掲げて真っ直ぐにジェームズを狙って呪いを放っていた。 どうやら持ち前の反射神経で直撃は避けたらしいが、ジェームズの頬に、ぱっくりと大きな切り傷ができる。 流石にこれは笑えなかったので、俺はとっさに、石化呪文でスネイプの動きを止めた。 血を流すジェームズの姿に、本当ならもっと色々やってやりたいくらいだったが、 かっと駆けあがった激情に水を差すように、エバンズが立ちはだかる。 「彼に構わないでって言ってるでしょう!?」 「嗚呼、エバンズ。君に呪いをかけたくないんだ」 「それなら呪いを解きなさい!」 もっとも。 「汚らわしい『穢れた血』の助けなんかいらない!!」 血でも吐くように投げつけられたその言葉には、動きを止めたが。 「な……に……?」 恐らく、今までそんな風に悪意をぶつけられたことがないのだろう。 はた目にも分かる位、エバンズは顔色を失った。 『穢れた血』とは、非魔法族生まれに対する蔑称だ。 例え冗談であろうと、口にすることが許されるような言葉ではない。 ましてや、純血主義のスネイプがそんな冗談を口にするはずもなかった。 この時、奴は断ち切ったのだ。 自分に降り注ぐ、温かな光を。 明るい世界とのつながりを。 そうすることが、あいつにとって、大切な物を守る唯一の方法だったから。 けれど、そのことを俺は知る由もなかったし。 知っていたとしても、多分、行き着く先は同じだっただろう。 エバンズへのあまりの罵倒に、流石のジェームズも笑ってはいられなかったのだろう。 試験中でさえ見たこともない程真剣な表情で、スネイプへ杖を向けた。 本人としては騎士道精神を発揮した場面だったのだが、 残念ながらことの経緯が経緯だけに、当のエバンズがそれを激しく拒絶する。 曰く、エバンズの中で、スネイプもジェームズも同罪、ということらしい。(そりゃあそうだ) ただし。 流石にあそこまでの侮蔑的な発言をされては、庇う気もなくなったのだろう。 エバンズはいつもジェームズに向ける視線と同じくらい冷たいそれをスネイプへ向けると、 「これからは邪魔しないわ。スニベルス」と、未だかつて使ったことのない差別発言を奴に残し、去って行った。 「エバンズ!おーい、エバンズ!」 「…………」 後に残ったのは、重苦しい雰囲気と、荒んだジェームズだ。 折角エバンズを庇ったというのに、効果はまるでなかったらしい。 「元気出せ、友よ」 「くそっ!リリーは一体どういうつもりなんだ? 僕は彼女を『穢れた血』なんて呼んだこともないのに!」 「だな」 そして、俺は親友を慰めるためにも、そもそもの元凶に対して杖を突きつける。 「ああ、最悪だ!憂さ晴らしがしたい気分だよ!」 「良いんじゃないか?そもそも盗人は晒し者って相場が決まってるだろ。身体浮上!」 「っっっ」 踵を掴み上げられるようにして、スネイプは宙吊りの状態になっていく。 急に視界が180度変わるのだ。咄嗟にはとても反応しきれない。 結果、ローブは見事にまくれ上がり、スネイプの奴の小汚い下着姿がお目見え…… と、嘲笑が浮かびそうになった刹那、そんな奴の姿をうっかり見てしまった女子から。 「「きゃぁあああぁあぁあぁーw」」 黄 色 い 悲 鳴 が上がった!?(なんでだよ!?) 「見た!?あの下着、○○が愛用してるのと同じ奴よ!?」 「うそ!?あの○○が!?今年のチャーミングスマイル賞でしょ、それ!」 「やだ!インドア派だと思ってたのに、筋肉あるじゃないっ」 「いやぁん、腹チラ萌えっ!」 「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」 目を覆ってるフリして全く覆っていない女子連中だった。 ローブが覆い被さったスネイプの顔が、青やら赤やら、なんとも形容しがたい色へと移り変わる。 そのギラギラとした視線はなんだろう、 それこそ、男子が女子の下着の線が透けている様に狂喜乱舞するような感じで。 「「「…………」」」 正直に言って、ドン引きである。 男も女も、この位の世代はどうやら皆腐っているようだ。 自分ももしかしたらこんな風に見られているんじゃ……っ?と軽く女性不審になりそうだった。 どうして、宙吊りにされているスネイプと同じように、俺らがダメージを受けなきゃいけないんだろう。 とりあえず、俺は無言で魔法を解除し、 スネイプもくしゃくしゃとローブに絡まるようにして地面へと転がる。 と、そんな風に女子連中に気を取られた為、俺は次の瞬間、 ひゅんっ ごすっ 自分目がけて飛んできた物体を、うっかりと避け損ねた。 「ぐぁっ!?な、なん……っ」 ぴぎゃぁああぁぁあぁぁー!! で、それはさっきのふ○っしーとは比べ物にならない位不快な声で泣きわめく。 「なんでマンゴレイクが……って、ちょ、オイ、噛むなよ馬鹿!!」 授業の時のようにドラゴン革の手袋なんてつけていないので、 もがくマンドレイクがこっちを噛もうとしてくるのを必死に避ける。 で、魔法でどうにか抑え込み、こんな危険物を投げつけてきた馬鹿はどこのどいつだ、 と、飛んできた方向へと目を走らせた。 すると、 「ふはははは!残念だったな、シリウス!こんなこともあろうかと、 セブセブのパンツは僕が全てスタイリッシュな物に変えておいてやったぜ!」 「「ぎゃぁあああぁあぁあぁーw」」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 勝ち誇るような声を張り上げ、仁王立ちをしているが立っていた。 (表情は、何故だか自棄を起こしているような、妙なそれだったが) 耳をつんざくような女子の悲鳴に、とりあえず、思考が10秒くらい停止する。 「それってクリスマスの……?一体、どういう状況を想定しているんだい、君」 色々言いたいことが、この場にいる全員の頭を駆け巡っていたが、 ようやく発せられたのは、リーマスのそんな呆れとも取れる言葉だった。 それにはっと、我に返った俺は、とんでもない邪魔を入れて来たに、 とりあえずは、ばっとマンドレイクを投げつけ返す。 なんだかもう、あらゆることが台無しにされたような気がした。 「おわっ!?なにすん……っ」 「やかましい!そんな危険物投げてきやがって!っていうか、いい加減頭に来たぜ。 いつもいつもいつも!――邪魔の仕方がおかしいだろお前!」 「え、そこぉっ!?」 「俺の腹筋と精神を破壊する気か!?」 「お前の鈍感な精神がそう簡単に壊れる訳ないだろ!」 「煩い!もういっそお前も仲良く逆さ吊りになれっ!!身体浮上!」 「「なっ!!?」」 「仮にも女に対してなにをっ!?」 ぱっと閃光が走り、の踵が掬い上げられる。 さっきスネイプにやった時以上に周囲の歓声が沸き起こるのを感じながら、 俺はさっきのと同じように勝ち誇った笑みを口に貼り付け――… ガスッ さっき、マンドレイクがぶち当たったところを、今度はグーで殴られた。 え?誰にだって?それが、どういう訳だか、ジェームズにだよ! 「てっ!なにすんだよ、ジェームズ!?」 「なにすんだはこっちの台詞だよ!君、なにやってるんだい!? よりにもよって、を逆さ吊りにするだなんて!!」 「はぁ?」 自分が頬を切り裂かれた時よりもよっぽど焦ったような表情のジェームズ。 ?女子を逆さ吊りにした訳でもあるまいし、別にちょっと頭に血が上る程度だろ?? なんでこんな風にキレられなきゃいけないんだよ、俺が。 それとも、逆さ吊りにしたらマズイなにかがにはあるのだろうか、と。 俺は不満たらたらの表情のまま、目線を上に戻す。 すると、 「……あ?」 どういう訳だか、は半泣きの状態で、ロープでぐるぐる巻きになっていた。 簀巻きのようで、中々にシュールな光景だ。 「……う、う、うぅうううぅうううぅううぅ。念の為にスパッツは穿いてたけど! やっぱりシリウスなんて嫌いだ。最低。最悪。地獄に堕ちろ」 「いや、俺はお前を縛ったりしてねぇからな!?」 「知ってるわ、ボケェ!」 滑らかな額を晒しながら、は真っ赤な顔でこっちを睨みつけてきた。 不幸中の幸いというかなんというか、ロープで身動きは取れないものの、 おかげで肌の露出を避けられたらしい。 周囲から、なんとも残念そうな嘆きの声やら溜め息やらが聞こえてくるのはきっと幻聴に違いない。 「え、なに?お前自分で咄嗟に自分縛ったのか?どんなマゾだよ?」 「違ぇわ!っていうか、いい加減下ろせ、馬鹿野郎! 脳味噌が茹で上がるだろうが!!」 ぎゃんぎゃん喚く体力があるのだから、まだまだ放っておいても大丈夫そうだが、 確かに、このまま吊り上げておいても、いまいち意味がない。 いや、でもこの位しないとコイツまた懲りずに茶々を入れてきそうなんだよな……。 と、もう少しこのままでいようかという方に心の天秤が傾きかけたその時、 「……シリウス?」 ひんやりと。 まるで、首筋に氷のナイフを突きつけられたような、そう思える位の冷ややかな声がした。 騒ぎが大きくなってきた為か、 それとも自分のオモチャを取られたからか。 見なくても分かる位の、リーマスの怒りが横顔に突き刺さる。 「っっっっっ」 そもそも、軽い八つ当たり位の気持ちだったので、 俺は逆らうことなく、を地面に下ろしてやった。 スネイプの時のようにぞんざいに落とすと、間違いなくヤバそうだったので、そっと、慎重に。 と、途端にはらり、と奴を縛っていたロープが解ける。 それを見て、どこか満足そうな空気になったリーマス。 ひょっとして、このロープはリーマスがやったのだろうか?と、 いつの間にやらそこそこ仲良くなっている二人の距離感に首を傾げていると、 ふと、今の今まですっかり存在を忘れていたスネイプの姿がどこにも見えないことに気付く。 「オイ。スニベリーの奴、どこ行った?」 「え?あれ。本当だ!いつの間に……っ」 まぁ、奴のことだ。 自分を庇ってくれた奴を見捨てて、さっさとこの場から逃げ出したのだろう。 どんよりと負のオーラを背負いながら、芝生を見つめてぶつぶつ呟いているをちらっと見て、 多少の同情が沸き起こる。 「オイ、」 「……なんだよ」 「これでも、お前、あいつと友達でいる訳?お前を置いてく、あいつと」 「…………」 ピタリ、と。 その問いに、は動きを止める。 いつもなら、間髪入れずに返ってくるはずの反発の言葉が、返ってこない……。 訊いてはみたものの、きっとこいつはまた馬鹿みたいに友達だと言うのだろうと思っていたから、 そうでないことに、気付けば俺はを凝視していた。 そして、はほんの十数秒考え込んだ後、 まるで自分に言い聞かせるかのように、「いや」と一言口にした。 「いいや。もう……友達は止めるよ。 その方が、セブルスにとって良いみたいだから」 「!」 一瞬、耳を疑う。 だが、それも一瞬でしかなく。 考えてみれば、そうだ。 もう、愛想が尽きたって仕方がないことを、あいつはしている。 俄かに気分が浮上してくるのを感じながら、 俺はそのの判断を奨励した。 「そうだよな!やっと分かったか。お前って本当にお人よしだからなー」 「……え、なにうきうきしてんの、この人。気色悪っ」 「そもそも、あんな、人に向かって『穢れた血』だとか言う奴と友達なんてなれる訳がないんだよ「え?」 まったく。まぁ、これでお前もようやく肩の荷が――……」 「ちょっと待て!」 と、滑らかに動いていた俺の舌を、が遮る。 それは、衝撃を受けたとしか言いようのない、青ざめた顔だった。 「今、お前なんて言った?」 あたしも君に伝えたい。君のことが嫌いだよって。 ......to be continued
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