それは日常に潜む不穏の影。 Phantom Magician、165 年明け以降、いよいよO.W.L試験が近いということで、 先生方はぎりぎりまで生徒を追い詰めるおつもりらしく、宿題の量が倍になっていた。 一応、進学校出身の身としては、いやいや、宿題の量増やすんじゃなくて、 補修してくれるとか、自主学習の時間作ってくれよと思ったものだが、 先生以上に必死の生徒にそんなことを思う奴はいないらしく、宿題地獄は終わらない。 「精神的にも追い詰められるだけだと思うんだけどなぁ」 「……煩い。黙って手を動かせ、馬鹿が」 「、貴女そこのスペル間違ってるわよ」 「マジか」 カリカリカリカリ、とペン先が紙を引っ掻く音が充満する、図書室。 そこに集合したあたし、セブセブ、リリーの三人は、すでにぶっ続けで2時間も勉強し続けていた。 今日、休みなのに……っ! おかしいだろ!?なんで休みの日に休まないんだよ!? っていうか、図書館なのに、物書いてる音ばっかりってどういうこと!? 普通、ページ捲る音の方が多いだろうが! ページを捲る音ももちろん聞こえるのだが、しかし、それはじっくり読んでいるというより、 なにかを探す、鬼気迫ったジャッジャッジャ!って感じの音だ。 十中八九、読書を楽しんでいるのではなく、調べ物に躍起なのだろう。 ここ最近見慣れた、血走った目が見えるようで、うんざり以外の言葉が浮かんでこない。 ところが、 「もうやーだー。止めたいー」 「だったら止めろ。煩い。帰れ」 「〜〜〜〜っセブセブリンがいじめるっリリー、助けて!」 「……この場合は、フォローできないわねぇ」 「ガーンっっっ!」 ここには、あたしの味方は一人もいなかった。 いや、まぁ、分かってるっちゃ分かってるのだ。 なにしろ、図書館を埋め尽くしているのは、O.W.L試験とN.E.W.T試験の控えた5・7年生。 人生の大一番と言っても過言でない試験の対策に燃えている人々である。 日本で言えば、高校受験だの、センター入試だのに臨む方々だ。 それをあたしみたいなちゃらんぽらんな人間が邪魔しようものなら、間違いなく祟られることだろう。 (あたしは、まぁ、こっちで就職する気もないので、記念受験な感じ?) だから、極力大人しくしなくちゃいけないし、そうしたいとも思っている。 がしかし、である。 授業中に突然奇声を発して倒れる子が出てきたり、 談話室で皆ぴりぴりして空気悪くしてたり、 お前誰だよって奴が魔法のコツを訊いてきたり、話してきたり……エトセトラetc. はっきり言って、精神衛生上、大変よろしくない状況に長期間置かれているのだ。 あたしだって、いい加減ストレスフルである。 それでも、健気に気分を盛り上げようと、軽い口調を目指してみたのだが、 残念ながら、その心意気は誰にも通じず、普通に非難の視線が寄越されるだけだった。 まぁ、グリフィンドール&スリザリンっていうミスマッチな3人組なので、 注目を集めないように魔法で別人に見えるよう細工している分、まだマシなのだが。 嗚呼、あと、怒られないように外に音が漏れない魔法もばっちりです。流石優等生×2。 なにげに心に大ダメージを喰らいながら、 ここは大人の余裕を見せるところだと念じながら、二人にとりあえずチョコを配付する。 「なんだ、これは?」 「糖分補給用食品?」 甘い物食べると幸福ホルモン?かなんか出るんだよ、確か。 「図書室は飲食禁止だぞ。マダムに見つかったら出入り禁止だ」 「いや、まぁ、確かに基本禁止なのは知ってるけど。 机とか本に食べかす零さなきゃいいんじゃないかなぁ〜。こんな時くらい」 本を汚されるのが嫌なら、そもそも貸出しも禁止にならなきゃ不公平だろう。 部屋でスナック菓子ばりっばり食べながら本読んでた眼鏡男子見たことあんぞ。 まず間違いなく、監督生の指導対象になりそうなことを言うあたし。 がしかし、我らが愛すべき監督生様は、苦笑しながらチョコを口の中に放り込んでくれた。 「ふふっ。一口で食べれば証拠隠滅よね?」 「さっすがリリー!話が分かるね」 「…………」 きゃいきゃいと、殺伐とした空気を寄せ付けないあたし達2人に、 面白くなさそうな表情をしつつも、チョコを頬張るセブルスを見て。 案外、こいつ素直じゃないようで素直だよねー、と更に笑ってしまった。 笑うだけで、ほんのちょっと気持ちが軽くなるから、不思議なものである。 で、あたしは、栄養補給も済んだことだし、ということで、再度宿題に向き直る。 あたしを手こずらせてくれているのは、消失呪文の術式と効果の記述だ。 反則技で実技だけは120点というあたしが、最も苦手とする部分である。 変身術はただ杖をひょいひょい振るだけでなく、その術式も理解しなきゃ本来は使えないんだそうな。 でも使えちゃってるあたしが、筆記はできないとかになると、色々ゲシュタルト崩壊起こしちゃうのでー。 基本丸暗記で、必死に詰め込んでいるところである。 ただ、やっぱり本だけじゃよく分からん!ってところもあるので、 申し訳ないが、リリーとセブセブに勉強に付き合って貰っている、と。 ああ、でも完全にあたしだけが利益を甘受しているって訳じゃないんだよ? 5年の内容について授業で習っているし、スティアさんから日頃鍛えられているので、 あたしでも彼女達に教えられることがあったりするのだ。 まぁ、 「良いか?安らぎの水薬はかなり出題頻度が高い。 作り方はもちろん、その成り立ちまでしっかり覚えておけ。 特に、温度には注意が必要で――…」 「14世紀に魔法界の法律を決めようとした動きがあったけれど、 それが失敗した経緯まで含めて覚えておくと良いらしいの。 2足歩行の生き物をヒトとして定義しようとしたんだけど、小鬼がたくさんの――……」 「あ、リリー。傷よ、癒えよで治した傷は幻肢痛が残る場合があるよ。 注釈で多分書かないと減点されると思う。マジ痛いらしいから。 で、セブセブは、そこの文字走り書きすぎて読めない。書き直した方が良いわ」 内容的に、ギブとテイクの割合が8:2だけどな! うううぅ。あたし別に頭悪くなんかないのに、劣等感が半端ねぇー。 よく夢小説とかで、ヒロインぶっちぎりの成績叩き出すけど、あれはやっぱおかしいって。 無理だって。普通に。 どんな優れたブレーンがいようが、家庭教師がいようが、人間できることとできないことあるって。 延々書き取りをしているせいで、利き腕は最早腱鞘炎になりかかっている気がする。 くっ。社会人になってからはPCだのタブレットだの、素敵な文明の利器がついていたのにっ すっかり黒くなってしまった小指を見て、テスト前の宿命とはいえ、溜め息が出てしまう。 が、まぁ、羽ペンで書くよりマシだよね……と、カチカチ芯を出しながらシャーペンを見つめていると、 ふと、周囲から熱い視線を感じた。 「……え、なに?」 「……いや」 「……なんでもないのよ?」 なんでもないと言いながら、あたしの筆記用具から目を離さない2人……。 いやいや、絶対なにかあるだろ。 っていうか、この視線って……なんというか、物欲しげ?? まさかそんなこともないだろうと思いつつ、「欲しいの?」と試しに訊いてみたところ、 予想外の食いつきで、二人とも頷いてきた。 「実は……が使っているのを見て、ずっと欲しかったの」 「書いた物がすぐ消せるのは、便利だな」 「羽ペンだと、ペン先が引っ掛かって文字が滲んでしまう時もあるし……」 「引っかからなくても、滲むことがある」 「可愛くもないし」 「嵩張る」 「…………」 思った以上に、羽ペンの評判悪っ! いや、あたしも一番最初のレポートの数行書いた時点で、別のペンに代えたくなったけどね? ボールペンになれちゃってる現代人としては、ペン先にインク沁み込ませる作業の面倒なこと、面倒なこと。 と、いうことで、基本あたしのノートはシャーペンで取られ。 レポートはボールペン仕上げの翻訳魔法〜って感じ。 消せなきゃ良いんだろ?っていう、もはや開き直りです。 でも、それで先生方から怒られたことはありません。 っていうか、先生方に羽ペンとそうじゃないペンの違いが分かるのかって問題が……げふんげふん。 と、そんな風に、レポートの文字について想いを馳せていたあたしは、 しかし、そこで重要な問題に直面しているという事実に気付いてしまった。 そう、授業でノートを取るのと、試験。 その違いは……決定的だ。 「のノートはいつもカラフルだし、綺麗よね。 日本語で書いてあるせいで、私達にはよく分からないけれど……」 「それだよっ」 「?は?なんだ、突然」 「……どどど、どうしよう!!?」 気付いてしまったからには、対策を立てなければマズイ! 善は急げということで、急に慌てだしたあたしに疑問符たっぷりな二人に、 「ごめん、シャーペンは後で届けるから!」と言い置き、 あたしはダッシュで荷物をまとめ、寮の自室へ向かって走り出す。 ううぅうぅう、うああぁぁぁぁぁああぁぁ! しまった!すっかり忘れてたけど、あたし英語で答案書けないじゃぁああぁぁぁあぁん!! 普段のレポートは良いよ!?日本語で書いた後に杖でぽん!って叩くとか、 最初から児童筆記羽ペンさんに英語で書いて貰えば良いんだからさ! でも、O.W.Lって……試験じゃん!テストじゃん!! 確か、羽ペンも試験官から渡される奴で、カンニング防止魔法掛けられてる奴じゃなかった!!? 一番厳しい不正防止されてるんだよね!?これ! どないせぇっちゅーんじゃあぁあぁあぁあぁぁぁぁ!と、 エセ関西弁で雄叫びを上げながら走るあたしに、 廊下の人々は痛ましい物を見る目をしながら道を譲ってくれる。 (完全に受験ノイローゼと間違われてんな) これが結構切ないのだが、いや、でも、構ってる余裕ないな。 ある意味、試験のことで困っているので、まぁいいかと結論付け、 あたしは頼れるにゃんこを求め、更に加速する。 すると、 がつんっ 「ぎゃっ!」 角から曲がってきた人物の胸に、がっつり頭突きをかましてしまった。 しかも、相手は細身だったにも関わらず、当たり負けをしてしまい、 後ろにひっくり返るというおまけ付き。 「うあー、いっっってぇー!っていうか、床冷たっ!」 「すみません。大丈夫です………かっ?」 と、尻餅をついたあたしを立たせようと、 手を差し伸べようとしてくれた心優しき少年がいきなり動きを止めてしまう。 その不自然さに「うん?」と顔を上げると、そこには素敵なイケメンが一人、 ただでさえ大きい目を更に見開いて立っていた。 「あ、レギュ。明けましておめでとー。そして、体当たりしてごめーん」 「先…………っ血がっ!」 「ほえ?」 え、別に尻餅着いたから膝とは擦りむいてないよな、と首を傾げていると、 慌ててシルクのハンカチをあたしのデコにあてるレギュラス……って、え!? あたし頭から流血してんの!? 嘘だろオイ、と、レギュのハンカチを奪い取って見てみれば、確かに赤い血痕がついていた。 っていうか、見ている傍から、ぽたぽたと服に血が……。 「うぉう!?そんなに量ないけど、なんか切ってる!」 「すみませんっ。おそらく、その、これが原因かと……」 珍しく歯切れの悪い口調でレギュラスが示したのは、 彼のタイにくっついたネクタイピンだった。 プレートには唐草模様が刻み込まれ、さり気なく高級感が漂う逸品だ。 真新しいそれには、角ばったエメラルドがはまっており、 多分、さっき衝突した時に、丁度あたしの額がそこにぶつかってしまったのだろう。 なんたる不運っ! 「しまった。丸石にしておけば良かったか……」 「はい?」 「え、あ、うん、えーと、そのピンよく似合ってるね!」 「っっ。……ええ、気に、入ってます」 どこか複雑そうなレギュラスの表情には気づかないふりで、 あたしはにっこりと自己満足の笑みを浮かべる。 嗚呼、本当に良かった。 想像した通り、レギュラスに似合ってて。 実は、捨てられてしまうことも、あるかと思ってたんだ。 なにしろ、ダンスパーティーで、ミネコとレギュラスの繋がりは、切れてしまったから。 でも。 律儀に、クリスマスカードに「さよなら」を書いて送ってきてくれた彼に、 どうしても、プレゼントがしたくて。 願いと、魔法を込めて、それを贈った。 それを身に着けてくれさえすれば、危機に駆けつけられるように。 それを見て、少しでも勇気が持てるように。 だから、それを着けてくれたことが、胸を潰すほどに、嬉しい。 「そっか。大事にしてね」 「………失礼、します」 あたしを介して手紙のやり取りをしていた分、どこか気まずいのだろう、 レギュラスはあたしの笑みから逃げるように、ハンカチを残していなくなってしまった。 ぽつん、と残されたあたしは、痛む腰を抑えつつ、 今度はもう人にぶつからないように、並足で歩き出す。 ただ、その足取りが、どこか軽やかになってしまうのは、致し方がないことだった。 やがて、てくてく歩いて辿り着いた自室には、残念ながら黒猫の姿がなかった。 ので、心の中で盛大に喚いて彼を呼ぶ。 がしかし、 「…………」 反応がない。 これはあれだな。敢えて無視してるか、ホグワーツにいないかのどっちかだ。 後者は何か用事があるんだろうからともかくとして、前者だったらどうしてくれよう。 人が慌ててる時にシカトするとか、本当に人でなしですよ?ちょっと。 大体、あたしでさえ気づいたことにアイツが気づいていないとか、そこんとこどうなの? ちょっと平和ボケしてきちゃってるんじゃない? 最初、あんなに不吉な気配を漂わせて、尖ってたお前はどこに行ったんだよっ きゃわいい女の子に鼻の下伸ばしてる場合じゃないんじゃないのぉ〜? 苛々が募るあまり、指先は椅子の肘かけをとんとんとんとんと、リズミカルに叩き続ける。 さっきまでレギュにほっこりしていたことは忘却の彼方で、 あたしはぶちぶちと心の中で、金髪イケメンに対して文句を挙げ連ねていた。 すると、 パチン 「いつ僕が鼻の下なんて伸ばした、無様な顔面を披露したのさ」 「どわっ!?なんだ、やっぱりシカトかい!」 なんとも微妙な表情をしたスティアが唐突に出現した。 あたしが心の中で言っていたことを感知している風なので、これは外出ではなさそうだ。 ということで、あたしはきっとそのご尊顔を睨みつけ、名探偵の如く指を突き付ける。 「無様かどうかは知らないけど、証拠写真がある!」 「……まだ言ってるの?君。何度も言うけど、不可抗力って奴だよ。 そして、その写真でも鼻の下は伸びていた覚えがないな」 「慣用句だっつーの! っていうか、不可抗力で何故にほっぺチューだの、手の甲キッスだのが生じるんだ!?」 「……えーと、やきもち?」 「ちゃうわい!」 元が外国人なスティアさんには、この間の軟派な所業の何処が悪いのかが、 いまいちピンとこないらしかった。 がしかし、あれ以来、マジにあたしを見て頬を染める乙女が激増したのだ。 文句を言って然るべきところだろう。 例え、ここ数日に渡る抗議に、スティアの対応がおざなりになってきているとしても! 「気が付いてたのなら、いい加減その話題止めようよ。 っていうか、今はシカト云々が問題なんじゃないの?僕に用があったんでしょ?」 話がすり替えられている気がひしひししたが、確かに話の本題はそっちの方なので、 あたしはスティアが黒猫の姿になるのを見ながら、不承不承、彼の誘導に乗って口を開いた。 「実は、あたし気付いちゃったの」 『うん?なにに?』 「あたし、このままじゃO.W.L試験0フクロウかもしれない!」 『えぇ?これだけ何人も家庭教師について貰ってるくせに自信喪失したの? 大丈夫だって。幾ら君でも、流石に一個も成績がふるわないなんてことないから』 「ちっがーう!!」 ぴょん、と膝の上に乗ってきたスティアのくりっとした瞳が、これほど小憎らしかったことはない。 労わっているふりして、暗に馬鹿にしてるの、あたしだって気づいてるんだからな!こんにゃろう!! 「あたしの頭が悪いとか良いとかの問題以前に、英語で回答できないってことなんだよ!」 『ああ、なんだ。そんなことか』 「そんなこと!?大問題だろうが!」 『君が気にするほどのことでもないから、“そんなこと”だよ』 安定のドヤ顔を決めたスティア。 その自信は一体どこからくるんだサラだってもうちょい謙虚さ持ってたぞオイ、とか思っていると、 スティアは「本当は出来上がってから言おうと思ってたんだけどね」と言いながら、1本の羽ペンを差し出してきた。 なんというか、色気も素っ気もない、シンプル〜な奴。 はて?今の流れで何故こんなものが?? 仮にこれが自動翻訳機能付きでも、羽ペンを試験官とかが用意するんじゃ、意味ないよね?? と、疑問符たっぷりなあたしの姿に、説明好きな血が騒いだのか、スティアの得意顔は留まるところを知らない。 『実は、君が勉強を始めてすぐ、魔法省に行ってきたんだ』 「うん?魔法省??」 『O.W.L試験は魔法省の管轄だからね。で、試験で使う羽ペンを見つけてー……。 盗ってきちゃったwてへ』 「てへwって……可愛いなオイ!」 じゃなかった! うおぉおおぉおぉい!ナチュラルに窃盗犯が目の前にいるよぉおぉ!? 『今、必要の部屋で改造してたところなんだ。君の声が聞こえなかったのもそのせいだね』 「へぇ、必要の部屋って心の声も遮断するんだー……ってだから!そうじゃないって! え、ちょっ!流石に不正はマズイんじゃないの!?」 まぁ、聖人君子ではないので、多少のことには寛容なあたしでも、 流石に試験での不正はちょっと気が咎める。 と、そんなあたしの心中はお見通しらしく、黒猫は大層悪どい笑みを浮かべてくれた。 『別に不正をしようっていうんじゃないじゃないか。ペンが勝手に答えを書いてくれる訳じゃないんだし。 あくまでも試験は君の実力?だよ。まぁ、実技自体は僕が魔法を使う訳だから、ミスなんてありえないけどね』 「今、さらっととんでもないこと言わなかった!?」 え、あたしお前の魔力借りて魔法使ってるんじゃなかったの!? でも、そうなると、『僕が魔法を使う』なんて表現使わない……よね!? じゃあ、今までの魔法って、あたしがやろうとしてた魔法を代わりにスティアがやってたってこと!? 『魔力を借りて魔法を使ってた』と『使いたい魔法を他の人に使って貰ってた』だと、天と地ほどの差があるよ!? 後者、完全に他力本願じゃん!無責任すぎるじゃん! あたし、ずっとそれだったっていうの……!? いや、でも。 それじゃ、あたしが持ってる杖から魔法が出る仕組みがよく分かんない、な?? 普通、使ってる人の持ってる杖から魔法って出るよ、ね? ってことは……どういうことだ!? 『おっと、うっかり失言を』 「!!!やっぱり、あたし魔力借りてすらいな――……『忘却』ぎゃふっ!」 急に、ぱしん、と熱くも冷たくもなく、ただただ眩しい光が、あたしを包む。 目の前がぐるぐる回るような気持ちがして、椅子に座っているはずなのに、視界が歪んだ。 けれど、そのぐるぐるが治まってしまえば、急に頭がすっきり目覚めたような気持ちがして。 体は、椅子から1mmだって動いていなくて。 「…………?」 急に夢から現実に引き戻されたような。 一瞬、別のことを考えていたのに、違う話題を振られたような。 そんな違和感を感じる。 けれど、その違和感は一瞬だったから、気のせいとしか思えず。 あたしは、無意味に瞬きを繰り返す。 えっと、あれ。 あたしたち今。 なんの話をしてたんだっけ? 頭の中にぼんやりした霞が経ち始めたその時、 『なに寝惚けてるの?』 少年のような鮮やかな声がその思考を断ち切った。 『君のその頭は、誰にかち割られたんだって話をしてたんでしょ?』 「!!!」 『頭』『割られ』というキーワードに、さっき廊下でぶつかったレギュラスの姿を思い出す。 そして、不穏な空気を醸し出しているスティアになんとか弁明しなければ!と焦りに焦ったあたしは、 さっき浮かんだ疑問も忘れてしまった。 「いや、これは事故だよ!?レギュのたくましい胸板にあたしがダイブしたら……」 『“寄るな変態!”とばかりに反撃を喰らったってことだね』 「っレギュはそんなことしない!!飛び込んだ先にネクタイピンがあっただけ! 大丈夫だいじょうぶ。こんなもの舐めてれば治るって。もう血も止まってるしー」 『……ふむ?』 ぺろっ 「!!!!!お、おまっ、いまっなに……っ」 『舐めれば治るんだろう?』 「それ、言葉の綾……!」 ぺろぺろ 「ひぃっ猫舌がざりざりして痛いっ!!」 『はいはい。良かったね。ところで、猫で思い出したんだけど。 君、そろそろ変身術の補習の時間じゃなかった?』 「うっそ!?もうそんな時間!?愛しのにゃんこを待たせるなんてっ」 『教師へのセクハラはんたーい』 「セクハラなんかしてないもん。猫を愛でてるだけだもん」 『その猫が教師だって言ってるんだよ。可哀相に。偶に屈辱に打ち震えてるって噂だよ?』 「マジで!?」 一度消えた記憶は、もう消えたことさえ、気づくことがなかった。 いつか、目を背けられなくなる時がくる。 ......to be continued
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