好感度は高い方が良いに決まっているけれど。 Phantom Magician、164 「えぇっ!?死喰い人と戦った!!?」 「しーっ!ジェームズ煩い!!」 クリスマス休暇が明け、新年一発目の授業から、 ジェームズは素っ頓狂な声を上げていた。 がしかし、話題が話題だし、今は授業中。 あたしは、ぱこんっと容赦なく、そのくしゃくしゃ頭をひっぱたく。 「痛っ!酷いよ、!」 「酷くない!デカい声出して良い状況かちゃんと考えろ」 「えぇ〜?ちゃんと考えてるよ。だって、この授業じゃ、誰も他人のことに構ったりしないじゃないか」 「いや、まぁ、確かにそうだけど」 周囲をぐるりと見回してみれば、ジェームズの言いたいことも少しは分かる。 今は呪文学の授業中なのだが、なにしろ休み明けということもあるし、 O.W.L試験もいい加減近くなってきたしということで、 フリットウィック先生厳選の、試験に出そうな呪文をおさらいしている最中なのだった。 (ちなみに、1〜4年未履修のあたしこそ、誰より真面目に受けなきゃいけない授業である) 今は皆大体「元気の出る呪文」を練習中で、周囲からはあはは、うふふという幸せそうな笑い声ばかり。 ぶっちゃけ、笑顔健康法とかそういうのをやってる講習会場のような有様だった。 で、そんな風に騒がしければ、ジェームズが一人奇声を発しても、多少は紛れてしまうことだろう。 それは分かる。分かるのだが、しかし。 「それでも、そういう話題はもっと小さな声で話すのがマナーって奴でしょ?」 「あはは。まぁ、確かにそうだね。それにしても、学校外で魔法使って、よく退学にならなかったね? 幾ら人助けって言っても、確か、自分の身を守る時以外は、基本的に未成年って禁止でしょ? あ、君の場合は厳密には未成年じゃないのか?」 「……あー、うん。まぁ、そんな感じ?」 スティア曰く、学校に入学した時点で、未成年の周りで魔法を使うと反応する匂い??とかいうのが付くらしいので、 ぶっちゃけて言ってしまうと、あたしも未成年者の枠には引っかかってしまうのだが。 しかし、そういうことにしておいた方が都合が良いので、適当に肯定しておく。 実は、あたしがいつ退学警告を持った梟が来るかとビクビクしていたら、 つい先日、スティアさんが、未成年の魔法禁止法の意外な抜け道を教えてくれたのである。 曰く、時と場所さえ条件が揃えば、引っかかることはない、と。 時は、ホグワーツの休暇中で。 場所は、ホグズミードだ。 『魔法族の子の周りでは、基本的に魔法はご法度だ。 事前に申告でもしてない限り、大人が魔法を使っても違反と勘違いされるからね。 ただ、ホグズミードは唯一の魔法族しかいない村だろう? 生徒やら未成年の子も遊びに来るのに、その周りでは魔法が使えないなんて拷問だよ。 だから、例外的にここでは休暇中、未成年の子の近くでも魔法が使えるよう申請されてるんだ』 『……それ早く言って!』 幸い、森の中もホグズミード村の範疇に含まれていたらしく、事なきを得たということらしい。 なんの魔法を使ったか、なんて細かいところまで分かるくせに、 肝心の誰の魔法か、ってことは分かんないとか、魔法界って変なところザルだよね。 あたしとしては、この素敵情報を公開しても全然良いんだが、 悪戯仕掛け人(特に鹿と犬)にバレると、後々面倒事を引き起こしそうな気がするのだ。 だったら、最初から教えておかない方が、世の為人の為というものである。 と、あたしが沈黙を決意している横で、しかし、ジェームズは不意に思い当たることがあったらしく、 あれ?と首を捻る。 「でも、そういえば満月の時に僕も魔法が普通に使えたような……」 「ぎくっ」 おぉっと!なにも言ってこないから気付かないかと思ったのに、変な連想ゲームで思い出しちゃったっ! ええ、そうですよね。リーマスっていうかシリウス暴走時に、あたしもばんばん魔法使ってましたよ。 がしかし、その時は魔法省からのお咎めはなし。 「……ということは、ホグズミードだったら使えるってことなのかな?」 「いや、あれは闇の魔術的な物体が作用してたんで! 普段は魔法なんて使えないよ、うん」 『ホグズミード=魔法可』という恐ろしい図式が定着しないよう、慌てて否定するあたし。 本当のところ、リドルがばれないよう魔法を掛けていたのか、 それとも、万が一に備えて、ダンブルドアが叫びの屋敷自体に、なにかしらの手を打っておいたのか、その辺りは謎だ。 がしかし、ダンブルドアがやったことだとすると、常時あそこで魔法使い放題、なんていう恐ろしい事態である。 先生の目の届かない場所でそんなことになってみろ。間違いなく犯罪者集団が出来上がるから。 (というか、未登録の動物もどきな時点で犯罪者なんだけど) で、そんな失礼なことを思われているとはつゆ知らず(自業自得なんだけど)、 ジェームズは、一応あたしの言葉に納得したのか、その話題についてはそこで追及を止めた。 そして、あたし達が死喰い人と戦っているところを想像したのか、実に悔しげな表情を見せる。 「それにしても残念だったなぁ。僕もぜひその場にいたかったよ」 「……不謹慎だよ、ジェームズ」 ジェームズは対峙していないから、そんな呑気なことが言えるんだ、と言おうとしたあたしだったが、 いや、こいつの場合、対峙したとしてもそれを何処かで楽しみそうな所があるなと思い、止めた。 原作でリリーとハリー庇った時にも、自分に酔ってる部分があったせいで、 リリー達に守護の魔法掛からなかったらしいもんな。 無私の心でハリーを守ったリリーとはその点が大きく違う。 と、クリスマスの話題のはずが、大きく脱線してしまった方向を、 あたしはごほん、と一度咳払いをすることで修正する。 「とにかく、そんな訳でリーマスとらぶらぶwデートはできませんでした」 「まぁ、クリスマスにホグズミードに行った時点で、できる訳がないけどね。 ってどこか抜けてるというか、おっちょこちょいというか……」 「っ!途中まではこれでも良い感じだったんだよ! 邪魔さえ入らなきゃ、リーマスがあたしを『』って呼びだしそうな空気もあったもん!」 「いまだ『』呼びだけどね」 どこか意地悪い表情で、しつこくいじってくるジェームズ。 言い返していると、まず間違いなく馬鹿馬鹿しい会話が延々と続く羽目に陥るので、 あたしは「ふんっ」と子どもっぽくそっぽを向いて対応した。 すると、流石にそれには苦笑した彼は、全然反省していなさそうな声と表情で謝ってくる。 「ごめんごめん。顔背けないでよ」 「つーん」 「うわぁ、古典的……。えーと、あ!そうだ、遅くなったけど、プレゼントありがとう。 あのゴーグル欲しかったんだ」 「……ああ、前に一緒に箒買いに行った時に似合いそうだな、と思ってね?」 「うん。まるで僕の為にあるみたいにぴったりだったよ!」 「気に入ったなら良かったー」 なにしろ、カラーリングが赤と金だったのだ。 これはもうジェームズ以外の誰にやるんだ!?ってな感じで、即買い決定。 箒選びのお礼にでもしようとか思わなくもなかったけど、結構良い値段だったもんだから、 クリスマスまでお取り置きしてもらってたんだよねぇ。 早速、友人が着けている所を想像し、内心で自分のチョイスを褒め称えていると、 ふと、ジェームズは「そういえばー」などと話のついでのような前置きしながら、 しかし、ずっと気になっていたであろうことを、口にする。 「……あのさ」 「うん?」 「一緒に入ってた、あのクレイジーな人形?は一体なんだい?? なんだか『ナッシーナッシー』煩いんだけど」 「ああ、あれ?ミニミニふなっ○ー(動いてしゃべって跳ね回るver)だけど?」 「……答えを聞いてもなんだか分からないな」 珍しくも、本気で困っている風のジェームズ。 いやー、最初はゴーグルだけをあげるつもりだったんだけど、それじゃちょっと面白くないじゃん? んで、そうしたら真っ先に頭に浮かんだのが、何故かふ○っしーと格闘するジェームズだったんだよね。 こう、「ふなっしーだ、なっしー!」ってあの甲高い声出して跳ね回ってるのを、 必死に捕まえようと追いかけている感じ? ということで、久しぶりに裁縫道具を引っ張り出して、チクチクつくっちゃったんだよ、梨の妖精さん。 動いているところは実際に見ていないんだけど、どうやら上手くいったようだ。 「スニッチより捕まえるの大変だったんだよ」 「そりゃあね。日本で一大ブーム巻き起こすくらいのアグレッシブさだから」 「ホグワーツ特急の中でも煩くてねー。お客が少なくて良かったよ」 「あれ連れてSL乗ったの!!?」 どんだけ気に入ったんだ、それ!? なんか、途中で面倒くさくなって、若干クオリティが下がったのが申し訳ない位である。 「え、えっと、あの、箱から出して10日もすれば動かなくなるからね?」 「ああ、そうなんだ?じゃあ、あと数日だね」 「い、今どうしてるの?それ」 「うん?部屋の中で暴れまわってるのは、流石にリーマスに怒られたからね。今はトランクの中さ」 「…………」 ふむ。ジェームズ達の部屋に行くと、ガタガタ暴れるトランクに出会いそうだ。 あれだね。ファンタスティックビースト的な?スキャマンダー先生真っ青、みたいな? なんだか、安息の場をぶち壊しているような気がして、 後で誠心誠意リーマスに謝っておこう、という気になった。 でないと、後が怖そうだ。 と、あたし達が話し込んでいるので、興味を引かれたらしいシリウスが、 のそのそとこっちにやって来るのが見えた。 最初は毛嫌いされていたというのに、こうして普通の友達風の関係が築けたなんて嘘のようである。 おかげで、周囲の腐女子の視線の熱いことっていったらないのだが、 鈍感な彼はそれに気づかず、それはもう無造作に、あたしとジェームズの肩に腕を回してきた。 「なーに、話してんだよ?」 「「!」」 思わず、ジェームズさんとアイコンタクト。 (どうしよう、腐女子の皆さん、大フィーバー的な?) (大丈夫。今はカメラないから、噂が出回る位だよ。ぶっちゃけ、凄い不本意なんだけど) (同感w) が、見つめ合うせいで今度はジェームズとカップリングされては堪ったものではないので。 あたし達は、何事もなかったかのように、それはもう爽やかに会話を継続する。 「ああ、クリスマスのプレゼントの話だよ。まだにはお礼を言っていなかったからね」 「あ、あたしもまだだ。プレゼントありがとう!あれ、自分で作ったの?」 「まぁね。君の癒しにと思って」 「?コイツになにやったんだ?癒し??」 「えーと、観葉植物的な物体、かな?」 「?ふーん。そんなん貰って嬉しいのかよ」 全然ぴんときていない様子のシリウスに、こっそりジェームズと二人で笑う。 あれ、というのは、素敵な花の置物である。 といっても、もちろんジェームズがくれた物なので、唯の置物ではない。 最初、アクリルのドームの中に花が見えた時は、プリザーブドフラワーかと思ったのだ。 が、しかし。 なんと、その花はあたしが見ている間にも、しゅるしゅると時間を巻き戻すかのように縮んでいき、 種の状態になってしまった。 で、なんだこりゃ、あたしに観察日記を書けってか?と、首を傾げていると、 今度は、時間を早送りするかのように、種から芽が出て茎が伸びて――……さっきとはまるで違う花が咲いた。 どうやら、何種類もの花が、ランダムに咲くようになっていたらしい。 何度見ても違う花の姿には、感嘆の溜め息しかつけなかった。 「君も少しは女の子らしくした方が良いからね」 「!」 ぱちん、とウィンクが見事に決まる。 こういうところが、本当に憎めない男だ。 そして、あたし達がささやかながらも楽しく会話をしていると、 プレゼント繋がりで思い出したのか、シリウスが憮然とした表情をこちらに向けてきた。 「あ、そうだ。、お前日本語の本送ってくんじゃねぇよ。読めないだろ」 「っ!」 「へぇ。シリウスには本だったんだ?どんな奴だい??」 二人の、どこか無邪気な声に、ぎくり、と体が強張る。 そう、あたしは確かにシリウスには日本の新書をプレゼントしていた。 だがしかし、今思うと、なんであんなもん贈っちゃったんだろう!と後悔しきりなのである。 「え、えっと、あの、たしなみ、的な?将来役立つに違いないっていうー……」 「?How to 本みたいな物かい?へぇ、気になるね」 「ええと、勉強にもなるし、辞書とかで調べながら読むと良いんじゃない?うん」 「って、日本語の辞書とかどこに売ってんだよ?」 「さぁ〜?」 目がうろうろと泳ぎまくる。 いっそもう、読まずに存在自体忘れてくれた方が助かるくらいだった。 何故なら、あたしが渡したのは『紳士の品格』とかいう、啓発本だったのだから。 …………。 ……………………。 だ、だってね?シリウスのプレゼント買った時期って丁度、クリスマスのダンスパーティ付近でね? シリウスが女の子に対して、えげつない断り方してるとか聞いてた時だったからっ ちったぁ、女の子に対して優しく接しろや!っていう訓戒を込めたチョイスだったんだよ。 なにしろボンボンだから、大抵の物は持っちゃってるだろうし。 まさか。 まさか、シリウスが一眼レフなんてものくれると思ってなかったから……! しかも、メイド イン ジャパンの、世界のライカ様である。 カメラについて詳しくないあたしが知ってる位の超有名ブランドなので、 詳しい値段は分からないものの、それがお安くないことくらいは容易に想像が付く。 少なくとも、あたしのプレゼントの百倍、下手したら千倍を覚悟しないといけないのかもしれない。 それだけ仲良くなったってことだよ、とスティア辺りは言ってくれたが、 あまりの格差に、はっきり言って、あたしはプレゼントを確認した瞬間、目の前が真っ白になった。 やっちまった!!と思わず叫んだとしても、誰もあたしを責めないだろう。 セレブって超怖い。 まさか、カメラを突き返す訳にもいかず、追加でプレゼントってのも明らかにおかしい。 で、散々悩んだ結果、あたしはしばらくの間はシリウスに優しくしてやろう、 女の子とのトラブルもフォローしてやろう、と心に決めていたりする。 しどろもどろなあたしの様子に、ジェームズは不思議そうな表情をしていたが、 なにか察するところがあったのだろう、なおも本の内容について追及してこようとした。 すると、あたしが困り出したのを確認したのだろう、そこにリリーが颯爽と現れた! 「今は授業中よ、ポッター!から離れて頂戴。 さ、。私と一緒に練習しましょう?」 「そんなつれないこと言わないでよ、エバンズ。 あ、そういえば僕からのプレゼントどう――…「暖炉にくべたわ」 「ええっ!?」 「私、親しくもない人からのプレゼントは受け取らない主義なの。ごめんなさいね」 にっこり、と氷柱よりも冷たい空気を纏いながら、リリーは問答無用であたしの腕を取る。 真っ黒リーマスと同じで、こういう時のリリーには逆らわない方が賢明だ。 あたしはちょっとジェームズが気の毒になりながらも、 ひらひらと手を振ることで、彼らから離れていく。 (あ、でも、冷たくても笑顔を向けられた!って喜んでる……。ジェームズ、お前凄いな) で、悪戯仕掛け人から十分に距離を取ったところで、 一応、お互いに杖を構えながら、あたしは不機嫌そうなリリーに話しかけてみた。 「えーと、ジェームズなにやらかしたの? リリー、基本的に人からのプレゼント燃やすなんてしないでしょ?」 まぁ、例えばジェームズブロマイド集とか寄越されたら、燃やすかもしれないけど。 がしかし、嫌そうなリリーから返ってきた答えは、「本よ」という意外な物だった。 「?それなら別に良いんじゃないの?リリー本好きでしょ?? まさか、BL小説送ってこられた訳でもないだろうし」 「小説じゃないわ。ポッターが送ってきたのは……図鑑みたいなものよ」 「図鑑?」 「ええ、そう。『現代の悪戯 百選』とかいうふざけた、ね」 「……ああー」 多分、ジェームズ的には凄く良い本なんだろう。 ただ、渡す相手を決定的に間違っているだけで。 なんで、あたしに対しては女子なら大抵喜ぶ素敵すぎるお花さんで、 リリーに対してはそれなんだ。 お前のセンスはどうなってるんだ。 どう考えても反対だっただろ、それ。 「……ジェームズって頭良いのに馬鹿だよね」 「ええ。一応中に目を通しては見たけれど、愚にもつかない内容だったわ」 「怖っ」 まぁ、そう言いつつちゃんと読んでくれる辺り、リリーらしいっちゃ、らしい。 多分、本も部屋の奥ーの方にしまってあるんだろうな。如何に怒っても。 彼女が、嫌な表情をしつつも、段ボールとかに本を仕舞い込む姿を想像してしまうと、 「ダンスパーティーで少し見直した私が馬鹿だったわ」と、 ぷりぷり怒っている姿さえどこか微笑ましかった。 「へぇ。ダンスパーティーの時はそれなりだったんだ?」 にやにや、となんだか緩む口元。 すると、馬鹿にされたと思ったのか、むっと可愛らしく口を尖らせるリリー。 「少しだけよ。ダンスは上手かったし、誘い方もスマートだったの。 普段、変な人がまともなことをすると、そこそこ良さそうに見えるっていうのは真理ね」 「ふーん?ってことは、ダンス踊ったんだ?」 「っ〜〜〜〜1曲だけよ?貴女がいなくなった後にタイミングよく来たものだから断れなくてっ」 「うんうん。分かってるよ。リリー」 ああ、それはもう、ジェームズの人生最良の日だったことだろう。 そういえば、あたし自身に余裕がなかったのであまり構わなかったが、 奴は帰省するまでの間に、凄まじくテンションが高かったような気もする。 きっと、その浮かれ気分のまま、よく考えもせず妙な本を贈っちゃったんだろうなぁ。 嗚呼、その現場が見たかった、と心の底から残念に思うが、 見れなかった物は仕方がない。 折角なので、このまま恥らうリリーを存分に愛でよう、とにこにこ笑うあたしだったが、 肝心のリリーがどうやら耐えかねたようで。 「〜〜〜〜〜〜っ!」 これ以上あたしがしゃべらないよう、不意打ち気味に魔法をぶっ放してきた! さっきも言ったが、今は元気の出る呪文の練習中だ。 そして、普段如何に秀才であったとしても、多感な少女の照れ隠しに放った魔法で。 当然、いつも通りの効果を発揮する訳はない。 というか、変に力がこもってしまっていたのだろう、 結果、あたしは。 「あ、はははは……うっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」 いまだかつて出したことのない大声で、奇妙に大爆笑する羽目に陥った。 ……それを見たフリットウィック先生が、復習に力を入れることを決意したのは言うまでもない。 数十分後、頼れる先生に解除の呪文を何度かかけてもらい、 なんとか笑いを収めることのできたあたしは、リリーと二人でとぼとぼと次の教室へ移動していた。 「ご、ごめんなさい、。一緒にやろうなんて言ったばかりに……」 「ああ、うん。大丈夫だよ、リリー」 ちょぉおぉっと顎と頬と腹の筋肉が痛いが、 あんまり彼女が消沈している様子に、あたしはなんとか引き攣った笑みを返す。 そもそも、あたしがからかう姿勢を見せたのが一番の原因なので、 ある意味、自業自得とも言える。 とりあえず、数週間分の笑いを一度に使ってしまった感じだが、 腹筋が肉離れを起こしてはいないので、まぁ、大丈夫だろう。 もうあと数分笑っていたらやばかったかもしれないけど。 そして、明日は確実に筋肉痛だな、なんて思いながら、どうにかしてリリーを宥めようとしていると、 前方から、レイブンクローのタイを付けた男子生徒が笑顔で走って来るのに遭遇した。 「ああ、ミスター !ミス エバンズも!丁度良かった」 「?どちら様??」 「あら、はまだ知らないの?例の写真サークルの部長さんよ」 「ああ!例の!!」 詳しい実態はよく分からないものの、確かな存在感を放ってる団体。 それが、写真サークルである。 一体どんなオタク系男子がやっているんだ、と思っていたが、 こうして見る分には知的な感じのそこそこイケメンだった。 なにより眼鏡っていうのが良いね!うん。 と、中々の好印象を獲得した写真サークルの部長は、 前置きもそこそこに、小脇に抱えていた茶封筒をあたし達に差し出してきた。 ぱっと見た感じ、あたしの方のが明らかに分厚い。 「これ、良かったらどうぞ。この間のダンスパーティーの時の君たちの写真だよ」 「え?良いの??」 「こんなに?なんだか悪い気がするわ。他の人たちは買ってるんでしょう?」 「良いの、良いの!君たちのおかげで、今回凄く稼がせて貰ってるからね!」 寧ろ、モデル代を出さなきゃいけないくらいだ、とほくほく顔の青年の姿に、 リリーと思わず目を見合わせる。 確かに、いつもの隠し撮りと違って、今回はリリーとのスナップショットがあったとは思うが、 それでも、そこまで稼げるものだろうか? この写真サークルは、よっぽど貴重なショット以外は、 そこそこ良心的な値段設定しかしていないという話だった。 まぁ、悪戯仕掛け人やらあたしやらがいるせいで変な感じになっているが、 元は、ホグワーツの日常を記録する、牧歌的なサークルだったらしい。 で、映っていた人が、思い出に欲しいと言い出したのがきっかけで、写真の販売も始めた、と。 イメージ的にはあれだ。壁に貼られた修学旅行の写真を買うような感じ。 肖像権云々、という問題もあるとは思うのだが、 こっそりと好きな相手の写真を自分の物のついでに買う、というのは分からなくもない。 そんな訳で、甘酸っぱい暗黙の了解の下、写真サークルは絶大な支持を得ているのだった。 売り上げも、全部カメラ関係に消えるから、恨みもあんまり買わないしね。 ただ、そんなサークルの部長さんが満面の笑みになるくらい稼いだ、となると、 なにより先に疑問ばかりが頭に浮かんでしまう。 まぁ、写真を見れば分かるだろう、と、まずは量の少ないリリーの方から先に開けてみる。 で、真っ先に出てきた写真に、あたしの目は釘付けになった。 「リリーとリーマスのダンスシーン、だとっ!?」 「あらやだ、リーマスったら表情が硬いわねぇ」 「!!!!り、りりりリリーさん!?ひょっとしてファーストダンスのお相手って……っ!」 「ええ、リーマスよ?」 「!!!!!」 優雅に微笑み合っている二人の姿は、嫌になる位にお似合いだった。 凄い俺得なはずの写真なのに、若干凹むってなんだこれ! と、あたしが地味にショックを受けているので、リリーは慌てて口を開き、フォローを開始する。 「実はね、リーマスったらドレスローブがないからパーティーに出ない、なんて言ってたのよ。 折角、貴女が着飾るっていうのに。 せめて会場にはいてくれないと、踊れる可能性が0になっちゃうでしょう? だから、どうにか説得する口実に、ダンスを申し込んでみたの」 「リリー……っ」 ごめん!醜い嫉妬なんかして、ほんっと、ごめん! 溢れる友情に、涙さえ出てくるくらいだった。 ので、あたしはがばっとリリーに抱き着くことで、謝罪と感謝を伝えてみる。 と、その瞬間、横合いから強烈なフラッシュの一撃を喰らった。 「「…………」」 「あ。あとでこれもあげるよ?」 違う、催促したんじゃない……っ まるで悪びれる様子のないその姿に、ジェームズと近しいなにかを感じながらも、 しきり直すように「じゃあ、この写真焼き増しもお願い」と遠慮なく頼むあたし。 (人間、諦めと開き直りが大切だと思うの) で、二人のファーストダンスに始まり、あたしとくるくる踊る姿やら、ツーショット。 はては、さっき話題になったジェームズとのダンスシーンなどを収めた写真の数々を眺め、 リリーの写真は特に何の問題もないことが確認された。 (いや、まぁ、ツーショット写真が数か月前に見覚えのあるそれだった、っていう大問題はあったけど) (そういえばリリー、あの時言ってたよね。『初めてのツーショット写真だ』って) (男装どころか、ガチに薬で男になってる時に撮った写真だったとは……) (ただ、写真の売れ行きにそれは関係ないんだよねぇ) ジェームズとの写真は、きっと本人が山のように買うだろうから、 まさか、それで売上げが上がったのだろうか?マジで?? ネガまで買おうとしたという話にドン引きしつつ、何気なくあたしは自分の方を見始める。 最初は、さっきリリーの封筒に入っていたのと同じダンスシーンとツーショット写真。 で、次に菫色の妖精さんとのダンスがあってー………うん? と、何枚かクィレル先輩の艶姿を見たところで、あたしはようやく異常に気付く。 あたしはあの時リリーとクィレル先輩としか踊ってないし、 その後はミネコさんスタイルになっていたので、 クィレル先輩の段階で写真が半分にもいっていないのは、どう考えてもおかしい。 で、疑問符たっぷりに写真をめくっていったあたしは、 そこに移る不敵な笑みを見た瞬間に、あらゆる事態を悟った。 「なっ、なっ、な……っ」 「まぁ、よく撮れているわね。貴女のナンパシーン」 なんっじゃ、こりゃあぁぁぁあぁぁぁぁああぁー!! パラパラと捲って見れば、出るわ出るわ。 『あたし』が女の子と楽しそうに踊ったり、話したり、 あまつさえ、手を取ってそこにキスしていたりと、目を覆わんばかりの決定的瞬間の数々。 頬をうっとりと染めている少女の熱い眼差しに、頭がくらくらとしてくる。 そりゃあね、あたしだって、目の前でこんなイケメンな笑顔を浮かべられたらね。 頬の一つや二つ染めるでしょうとも、ええ。 しかも、トドメに「あの日から、貴女に想いを寄せる女子急増よ。一体どうしたの?」だなんて、 そんなことをリリーに言われた日には、立ち直れそうになかった。 もちろん、あたしは断じてそんなことはしていない。 可愛い女の子は大好きだけど、ここまでのサービスもしない!多分。 あたしでない以上、ここに写っているのは、じゃあドッペルゲンガーか幻か、という話になるのだが、 あたしは生憎、そのSっ気たっぷりな表情に見覚えがあるのだった。 思えば、何故あたしを着替えさせるのに、自分も着替える必要があったのか。 考えてみれば、答えは明白でしかない。 「……スティアの野郎」 「え?」 「ぶっとばぁあぁぁああぁぁぁあぁす!!」 決意の叫びに、同じ頃、城内でくしゃみをする黒猫さんが目撃されましたとさ。 薬も過ぎれば毒になるって本当だね!? ......to be continued
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