イケメンにダンスに誘われて嬉しくない女子はいない。





Phantom Magician、154





さて、約束はこれで全部消化した。
とっぷり日は暮れているものの、まだ門限の12時には及ばない。
となれば、さっさと自室に帰る、というのも一つの選択肢な訳だが、 汗をかいたせいでカラッカラの喉と、漂うごちそうの匂いがそれを許してくれなかった。

もうね?疲れてるし、足痛いしで、すげぇ帰りたいんですよ?
でもね、今日のご飯はここで食べなきゃ食いっぱぐれちゃう訳です。
厨房に取りに行くって手もあるけど、まぁ、あそこは今頃戦場のようになっているだろうし。
幾ら僕妖精がいつも歓待してくれるといっても、流石に邪魔をするのは気が引ける。

ってことで、あたしはできるだけスリザリン的な女性陣の少なそうな隅っこのテーブルから、 ちょっとしたサラダやら料理やらを取り分け、栄養補給をすることにした。


「シーザーサラダに、フィッシュアンドチップス、七面鳥は……うん。止めておこう」


このダンスパーティーは、どうやら最初の一回以外のダンスに関しては扱いがぞんざいらしく、 中央付近の開けた場所で踊る以外の決め事は大してないようだった。
各々、どうやらお腹がすけば立食スタイルで適当に食べ、 おしゃべりがしたい、となれば壁際やバルコニー、中庭に出ていくようである。
もちろん、良い感じの相手がいるなら、また中央に出て行って踊るも良し。

どうせなら壁際に椅子置いておけや、と主催者を詰りたい気分だったが、 まぁ、そこに壁の花が根付いてしまっても困る、というところだろう。
実際、椅子がなくても、周囲には井戸端会議のように集まっている女の子たちの集団がちらほらいた。
正直、群れるのが苦手なあたしには中々に怖い光景である。

そんなものは見ていてもちっとも気が紛れそうもないので、 あたしは、ぼんやりと中央に煌びやかな人々を眺めながら、ちまちまと取ってきた料理を食べ始めた。
気分は、「街の人ごみ 肩がぶつかって 一人ぼっち」である。
まぁ、そんな一人ぼっちも嫌いではないのだけれど。


「なにやってるんだろ、あたし……」


ぽつり、と知らず知らずの内につぶやきが漏れる。

決意表明をレギュラス本人にしたことで気が抜けたのか、あたしは非常にアンニュイな気分になっていた。
だって、あんな大層なことを言っておきながら、今はクリスマスのダンスパーティーを眺めているだなんて、 世界観が違いすぎやしないだろうか?


「まぁ、四六時中、全力投球とかは無理だけどねぇ」


常に、目標の為に行動をし続けるというのが理想で、立派で、そうあるべきだとあたしも思う。
人を助ける、だなんて並大抵のことじゃないのだ。
その位、やってしかるべきだ。
でも。


らしく、ええ格好しいを止めた方が良い。


「うん……。そうだよね、サラ」


それができたら、人間ではない。
ギャップが激しすぎるのは確かだし、違和感も覚えるけれど。
今のこれがあたしの精一杯なのだから、 妙な罪悪感とか、後ろめたさを感じるのは傲慢というものなのだろう。

となれば、あたしにできることと言えば、パーティーを満喫することではないだろうか?
まぁ、ダンスを踊らないにしたって、友達とおしゃべりくらいはできるだろう。
とは言っても、この姿で話せる相手となるとリリーとセブセブ、 ジェームズくらいのものなのだが。

そして、見慣れない東洋人、ということで多少の注目を浴びながらも、 愛しのリリーにドレス姿を披露するべく、ふらふらと会場内を見回す。
と、ほどなくして。


「なぁ、そこのアンタ」


行く手を阻むイケメンが一人現れた!

視界に入った一瞬、レギュラスのお戻りか?と身構えかけたあたしだったが、 しかし、ほぼ同時にかけられた尊大な口調と声に、その考えを打ち消す。
あたしのレギュは「アンタ」だなんて呼びかけは間違ってもしない。


「ちょっと良いか」


ぱっと見は非常によく似ているが、きちっと隙なくローブを着こなしていたレギュラスと違い、 目の前の人物はちょっと砕けた感じに服を着崩しているし、束ねられた髪も長い。
なにより雰囲気がまるで違った。
顔も服もほぼ同じなのに、よくぞまぁこれだけ別物になったな、と感心してしまうそれは、 もちろん、ブラック家の長男だ。


「はい??」


がしかし、なんであたしに声をかけて来るんだよ、お前?と思わなくもない。
いつもの『』であれば、まぁ、声を掛けられる可能性もあるだろう。
最近、シリウスとの仲も中々好調だ。
でも、今のあたしは『ミネコ』スタイルなのである。
シリウスの性格上、よっぽどの美女でない限り、わざわざ見知らぬ相手に声を掛けてはこないはずだ。
(自分で言ってて悲しくなるがな!)
なにしろ、ハイエナのように瞳をギラつかせる美女が選び放題だからな、コイツ。
しかも、とてもナンパ、という感じのノリでかけられた声でもない。
彼から感じられたのは、なんだか非常に戸惑っているような、なんとも微妙な空気だった。

と、そこであたしははっとした。

…………。
……………………。
まさかあたしがだとばれたか!?

まぁね!?結構な知り合いに逢っちゃうと、そういうこともあるかもとは思ってたけど!
ジェームズとか逢ったらダンス誘っちゃおうかな、とか思ってたけど!
よりによってお前かい!
うあああぁぁぁあ、そういえば、前に女装と称して女の子の姿で逢ったことあったな、コイツと!
(※ キリリク17000hit「Phantom Magician〜デートの心得〜」参照)

思い至った可能性に、一気に顔色が悪くなるあたし。
だとすれば非常に危険だ。
なにしろ、頭が良いくせにシリウスという男は今まで散々やらかしてくれた過去がある。
どうやら確信を持っている、という様子でもないが、 こうして声までかけてきたからには、大いに怪しんでいるのは間違いない。
となると、注目度抜群の癖に、それに頓着しない性格も災いして、 下手をすると、こんな公衆の面前で大暴露されてしまいかねない!


「〜〜〜〜〜っ」


流石にそんな騒ぎはごめんだったので、あたしは有無を言わさず、 シリウスの腕を引っ掴み(その瞬間、女性陣の息を飲む声が聞こえた)、
できるだけ人気のいないバルコニーの方へとシリウスを引っ張っていった。

最初はぎょっとしていたシリウスだったが、 追いかけてくる視線の多さには流石に思うところがあったのか、 あたしが頬を染めるそぶりもないためか、結局は大人しく後をついてくる。

一気に呼吸さえ怪しくなったあたしは、 ぜぇはぁしながらも、やがて、シリウスを物陰に連れ込むことに成功した。
(なんて犯罪臭い響きなんだ)
と、あたしのそんな疲労困憊な様子に、シリウスの怪訝な視線は止まるところを知らない。

がしかし、あたしの呼吸が整うのをほんの少し待っただけで、彼は痺れを切らしてしまったらしく、


「ちょっと訊きたいことがあっただけなんだが……まぁ良い。
ここなら邪魔も入らないだろうしな」


と、なんとも不穏なことを言い出した。

ぐはっ!とうとうか!?とうとうバレるのか!
まぁ、セブセブにもバレたし、もうなんかいっそ気が楽に――……


「お前……レギュラスと踊ってた奴だろう?」


…………。
……………………。
……………………うん?

身構えていたあたしだったが、今、自分が聞いたセリフが予想外のそれだったため、 ぽかん、と間抜けのように口を開いてしまった。
あれれ?なんか思ってたのと違うぞ??

と、あたしがそんな反応しか示さないので、シリウスは再度、辛抱強く同じ言葉を繰り返す。


「だから、アンタがレギュラスのパートナーで踊ってた奴だろう?」


彼にしては珍しくも慎重な口調だった。


「えー、あー、はい?そうですけども??」
「やっぱりか。まぁ、東洋人の女なんてそうそういないからな。
まず間違いはないだろうと思ったが。
ホグワーツ生じゃないだろう?レギュラスとはどういう知り合いなんだ?
言っておくが、ウチは家柄重視の家系だからな。
レギュラスと簡単に付き合っていけると思うなよ」
「…………」


あ、コイツ本気で気付いてないわ。

あたしは若干遠い目をしかけながらも、そう確信する。
正直、何で気づかないんだ、お前!?と思わなくもないが、 そういえば、思い込みと単純さにかけては他の追随を許さない男だった。

一体、なにがどうしてこうなった?と内心首を傾げながら、 とりあえず「貴方こそ、レギュラスとはどういったご関係ですか?」と訊いておく。
まぁ、どういった、もなにも、近しい人間だと一目瞭然なのだが。
暗に、人に名前訊く時はお前が名乗れ、と大上段からの言い方に物申す。

ところが、常識的な問いかけだったと思うそれに対し、


「なに……?」


言われた側のシリウスとしてはきょとん、と鳩が豆鉄砲をくらったような有様だった。
多分、そんなことを言われたのは初めてだったのだろう。
ブラック家の長男である彼にとって、 シリウスが先でレギュラスが後、というのが基本だっただろうから、さもありなんだ。
いや、でもミネコはシリウスなんて逢ったことないしな。不自然じゃないよな……。

レギュラスと初めて逢った時に、「悪戯仕掛け人を陰で操る女」設定だったことはすっかり忘れ、 あたしは半ば喧嘩腰でシリウスの返答を待つ。

で、時間的には大したものではなかったと思うが、 数十秒後、シリウスは気を取り直したらしく「レギュラスの、兄だ」とぼそっと呟いた。


「嗚呼、シリウスさんですね。初めまして、あたしはミネコ=フジと言います」
「……聞かない名前だな」
「まぁ、出身が遠いですから」


ブラック家の英才教育がどの程度かは知らないが、 全世界の純血やらなにやらを把握するほどではなかろうと、あたりを付けて適当に話を合わせる。
で、隠すことでもなかったので、あたしは一般的な説明をしてみることにした。


「えーと……レギュラスとの関係ですけど。
なにか勘違いしているみたいですが、彼とはペンフレンドでして」
「ペンフレンド?」
「そうですそうです。従弟を通じて文通してるんですよ、あはははは」


これほど乾いた笑いをしたことが、今までの人生で一体何度あっただろう?と、 本気で思いたくなるほど、棒読みの台詞だった。

この黒兄弟、実はお互いのことが大好きなのは、ちょっとしゃべればよく分かる。
で、その大事な弟が見知らぬ女(多分名家とかじゃない奴)と親密そうに踊っているのを、 見たか聞いたかしたもんだから、弟思いのお兄ちゃんとしては、 相手の素性を確かめずにいられなかった、とかそんなところだろう。

あーもう、お前ら勝手にやってろよ、マジで。
そんな掛け値なしの本音がだだ漏れそうなあたしだったが、 しかし、シリウスはそんなあたしの生暖かい目にも気づかなかったらしく、 不思議そうな表情で首を傾げていた。


「従弟?」
「ええ。って転入生がいると思うんですけどね。
私の従弟なんですよ」
「なっ!?アンタ、の親戚か!?」


いや、寧ろ本人だよ。
そういえば似てる気がするとか言ってんじゃねぇよ。似てるなんてもんじゃないだろ。
だから、レギュラスはと図書室で逢ってたのか!?とか今更すぎるわ。

この兄弟はお互いを褒め称えるだけじゃなくて、もっとよく知り合うべきだと思う今日この頃だ。
そして、どうやら色々なことが一気に腑に落ちたらしいシリウスは、 さっきとは打って変わって晴れやかな表情になった。
で、


「悪いな。アンタもウチの財産目当ての馬鹿女の一人かと思ったんだ」


本人に面と向かって言っちゃう強心臓の持ち主に顔が引きつる。


「あははは。まぁ、誤解が解けたのならなによりです」


普通のヒロインなら、ここは兄弟愛にときめくシーンなのかもしれないが、 生憎、ヒロインなんて言葉から程遠いあたしはドン引きである。

なんかもう、さっさとこの居心地の悪い空間から逃げ出したいなー、と願うあたし。
がしかし、明らかにシリウスに興味ありません、って態度がどうやら彼には新鮮だったらしい。
満更作り物でもなさそうな、ちょっと悪戯っぽい表情になった彼は、 あろうことか、あたしの目の前に手を差し出してこう言った。


「折角だから、俺とも踊ってみないか?」
「…………」


……チェンジで!!


「いやいやいやいや!すみません。そういうお誘いはちょっとっ」
「?良いじゃないか。一曲踊るくらい」


あたしは全力で辞退するが、
断られるなんてこれっぽっちも思っていなかったらしいシリウスはしつこく食い下がってくる。

正直、ほのかな好意を感じるその口調と笑顔は、胸きゅんなんだが、 普段を知っているだけに、身の危険しか感じられない!
全世界のシリウスファンには、ダンスお断りだなんて嫉妬のあまり殺されそうな気がするけど、 こんなぴらっぴらの露出の多い恰好でシリウスと密着するとか無理!マジ無理!!

あからさまに逃げ腰である。
で、逃げられればそれだけ追いかけたくなるっていうのが人間の心理な訳で。
段々、獲物を狙うワンコみたいな目になってきたシリウスは、 踵を返そうとしたあたしの腕を引っ掴み、妖しい笑顔で詰め寄ってきた(ヒィイィ!)


「そうつれない態度を取るなよ?悲しくなるだろ」
「〜〜〜〜〜っ」


あまつ、顎クイまで仕掛けてくる馬鹿犬に、 こうなればセクハラってことで足の小指をヒールで踏み砕こうと決意したあたし。
と、その瞬間。


「あれ?ひょっとしてお邪魔かな??」


能天気とも取れる、どこかのんびりした声をかけられた。
シリウスは、その聞きなれた声に気を取られた様子で、視線を向ける。
で、至近距離にあった、整いまくっている顔が逸れたことを悟ったあたしは、 その男にしては長い髪の束をむんずと掴んで、容赦なく引っ張った!


「っ!?いてぇっ!!」


そして、奴がひるんだその隙に、あたしはその体を突き飛ばして、 救いの主ことジェームズの方に勢いよく抱き着く。


「ジェームズ!!」
「わーお、なんか僕ヒーローみたいじゃない?」


いきなりの行動だったにも関わらず、余裕綽々であたしの体を受け止めたジェームズは、 その展開に、にこにこと、楽しそうな様子で笑み崩れた。


「いやぁ、役得だなぁ。で、大丈夫?」
「大丈夫じゃない!妊娠させられるかと思った!!」
「にんしっ!?お前、人聞きの悪いこと言うなよ!」


どう考えても男のメンツを潰されまくっているシリウスは、 さっきとは一転、あたしに向かって牙を剥くように怒鳴った。
もちろん、か弱い女の子なあたしは、それをジェームズを盾にすることによって受け流す。
と、ジェームズもそれに気を悪くした素振りもなく、 寧ろ庇うかのようにシリウスに対して指を突き付けた。


「駄目じゃないか、シリウス。女の子に強引に迫るだなんて。
いつもの君らしくない失敗だよ?こういう子はじっくり口説くのが定石だろう?」
「いつもここにいる奴ならそうするけどな。部外者じゃ、今やるしかねぇだろ」


お前らなんの話してんだ!
この年頃の青少年としては、なにもおかしな話じゃないかもしれないが、 特にそこの眼鏡!お前、あたしがあたしだって分かってるくせになんてこと言うんだ!?

あたしの非難の眼差しに、しかし、ジェームズはちょっとそれを確認すると、 ぱちん、と軽やかにウインクしてきた。
その茶目っ気溢れる仕草には、もう脱力するしかないというか……。
しかも、それでもどうにか口を開こうとしたあたしに対し、 「ドレス姿も可愛いね」だなんて、素で言ってくるのだから、本当に困った男だ。

相変わらず、出所を心得ている点に言及すべきか、 はたまた、リリーとは結局踊れたのか、言うべきことは色々あるような気もしたが。
とりあえずは現状打破を目指し、大広間の方を顎で示す。


「……丁度良いから、ダンスする?」
「ああ、それも良いね!こんな素敵な女の子からのお誘いじゃ、断るわけにはいかないよ」
「はぁ!!?」


が、邪魔をされたシリウスがそれをすんなり許してくれるはずはない。
あたしの手を取って、おもむろに大広間に戻ろうとするジェームズに対し、 シリウスは横に並んで歩きながらも抗議し続ける。


「お前には愛しのリリーがいるだろうが!俺が先に誘ってたんだぜ?」
「それはそれ、これはこれだよ。
助けを求める女の子を見捨てていくのは、騎士道に反するじゃないか」
「別に求められてねぇだろ!?」
「いやぁ、十人が十人、狼さんに怯える子羊ちゃんを連想すると思うけど」


子羊ちゃんことあたしの取り合いっぽい、なんとも夢ある展開になってきている現場。
よくある、あたしの為に争わないで!という奴だ。
これで、手を引っ張りあったりすると大岡裁きになっちゃうんだよな、なんて、 段々このノリに飽きてきたあたしなんかは、呑気に思う。

と、あたしと踊ることが目的っていうよりも、シリウスをからかうのが目的って感じで、 中央を目指していたジェームズだったが、


「あ」


ふと、はしばみ色の瞳が周囲を見た後、ぴたりとその歩みが止まる。
当然、彼にくっついてきていたシリウスもあたしも立ち止まることとなり。

なんだろう?なにか見つけたのだろうか?と、あたし達が疑問を呈する前に
ジェームズはそれはそれは不敵な表情で、
「ここはダンスの権利をかけて決闘だ!!」などとのたまいだした。


「はぁ?」


唐突なその宣言にあたしとしては疑問符を飛ばしまくるだけだったが、 しかし、テンションの上がってきたらしいシリウスは、 止せばいいものを、「良いぜ!」なんて言って、杖を取り出している。

流石、魔法使い。ドレスローブ姿であっても、杖は肌身離さず持ち歩いているらしい……ってオイ!
お前ら、こんなところでドンパチやろうっての!?
女性陣がきれいに着飾って、畏まってるこの席で!?

先生方に見つかれば、減点・罰則間違いなしな状況なのだが、 むしろそれが彼らの変なやる気に火をつけてしまったようだ。
二人は妙な気合と共に、周囲の物をどかして、着々とスペースを作ろうとしていた。
その場合、あたしにまでいらぬ火の粉が飛んでくることは間違いないので、 あたしは被害が拡大する前に、と、丁度近くを通りかかったグリフィンドールの先輩に助けを求める。


「大変です!あそこで、決闘を始めようとしている人達が!!」
「なんだって!?」


他人行儀な説明になったのはご愛嬌だ。
なにしろ、あたしは部外者である!

と、なんとも頼りがいのあるその先輩は(クィディッチの選手だった気もする)、 あたしの言葉に素早くジェームズ達を発見し――……


「なんて奴らだ……いいぞ!もっとやれ!!」
「なにぃ!?」


あろうことか嬉々として煽りだした。
人選を誤った!と気付いた時にはもう遅い。
そのよく通る大きな声が届いた範囲の皆様――特にグリフィンドール勢は、 突如起こったこのイベントを見逃すはずもなく。
気が付けば、やんやの喝采を浴びせていたりする。


「うああぁあぁ。また『これだからグリフィンドールは!』って言われちゃうぅ」


頭を抱えたくなったが、しかし、他人事ではいられない。
なにしろ、賞品が『あたしとのダンス』権である。
あたしは、はっと我に返ると、最後の手段に頼ることにした。
すなわち、


「グッバイ!」


逃避である。
こうなれば一刻も早くここから離脱し、 事態が深刻な物になった時には、「ミネコ?誰それ?」を装うしかない!!

できるだけ速やかに且つ、目立たないようにフェードアウトしたあたしに、 いつの間にやら魔法の応酬を始めていた彼らが気づくことは終ぞなかった。







で、こうなったらもう、寮の部屋に帰ってしまおうか、と。
二人と十分に離れてから黄昏ていたあたしだったが。


「こんな所で何をしてるんだい?



ぽん、と肩に触れた手に、呼吸を止めた。





けれど、敢えて言わせて欲しい。
嬉しくねぇな、オイ!






......to be continued