傲慢で。自己中心的で。
そういう人間は好ましいと思う。






Phantom Magician、58





その日、うんざりするような熱気がはびこる路地を目の前に、 しかし、私の高揚する気分は些かも衰えていなかった。
今日は待ちに待った、あの子ども・・・・・が指定した逢瀬の日だ。
この程度の陽気で、その楽しみを損なうなどあるはずもない。
(そもそも、ロンドンの夏の気温などたかが知れている)

あの時、賭けで勝った子どもの望みは『私の家を訪れること』だった。
見られて困るものは厳重に隠してある上、 ただやってくる程度ならば何の問題もないため、私はその申し出を快諾したのだ。
また、やってくる、という程度の用事でなかったとしても、 私の家に興味を持つ、というその行為の意味を、本人に確認する必要があった。
あのお方・・・・のために。
ひいては、自分自身のために。

普段であれば用があれば家に呼びつけるか、淑女であれば家に迎えに行くものだが、 子どもがどちらも拒否したため、今はよく一般人がする待ち合わせをしているところである。
そして、そのあまりすることのない行為に、気持ちが妙に浮き立つ自分がいた。
それこそ、まるで子どもの様な自身の姿に苦笑が零れる。
もっと冷静に、冷徹に自身を抑えなければいけない立場であるというのに、 いまだ、興味をそそられたものに対してこのような行為をしてしまえる自分は、きっと未熟なのだろう。


「……自覚していれば、何の問題もないことだがな」


ふと、軽薄な赤毛で。
興味のあることに対して猪突猛進で。
周りの視線などお構いなしの見苦しい男の姿が一瞬頭を掠めたが、0.05秒でその姿を抹消する。
……一気に気分が悪くなった。
よりにもよってあの男を思い浮かべるなど、どうかしている。
ああなっては、人間として終わりだ。


「私としたことが。あんなものを思い出すなんて忌々しい」


思わず、見苦しくも舌打ちを漏らしそうになり、寸ででそれを抑える。

…………。
……………………。
こんな不愉快なことを考えてしまうのも、子どもがいつまで経っても待ち合わせ場所に来ないせいだ。
こちらは、待ち合わせの一時間も前に来ているというのに、すでにそれから二時間は経過している。
つまりは、一時間の遅刻だ。
随分と焦らされたものである。
これが、低級なマグル生まれであれば、すぐさま罰してやるところだ。


「これで、私を満足させられないならば、その時は……ふふっ」
「ひぃっ!今笑ったっ!超不気味に笑った!!マジ怖い!!
『間違いなく邪なこと考えてる表情カオだったね。……鳥肌が立ったよ』


と、私が忍び笑いを漏らした瞬間、 僅かに離れた場所から息を呑むような音が聞こえてきた。
そして、そちらにふと目を移せば、こちらに向かってびくびくと歩みを進める少女・・の姿があった。
怯えたように一瞬表情カオを強張らせた彼女は、先日と同じように・・・・・・・・黒猫をお供にしている。
あの時は男か女かも分からなかったが、間違いなく、彼女がお目当ての人物だろう。

その奇妙な出で立ちを頭の先から爪先まで眺め、思わず感嘆の声が漏れる。


「ほう……」
「 舌 舐 め ず り っ!?
今、こいつ獲物に狙い定める蛇みたいだったっ!恐い怖いこわい超こいつ恐い!」
『ちょっと。それだと限りなく蛇のイメージ悪くなるから止めてよね』



象牙色の肌を彩るのは、真紅のローブ……ではなく、東洋の民族衣装だ。
(たしか、中国人チャイニーズが着るチャイナ服、とかいうものだったか。ということは子どもは中国人チャイニーズか?)
その丸く束ねた漆黒の髪と瞳を神秘的に際立たせるその衣装に、道行く人々も目を奪われている。
細かな龍の刺繍が施された、光沢のある生地でできたそれは、間違いなく一級品だろう。
それは、少女の身分を示すかのようで、私は気づけば満足げに笑みを浮かべていた。

そして、5歩程度こちらと距離を置く彼女に、手を差し伸べる。


「随分気を持たせた登場だったが……待ったかいがあったというものだな」
「……いや、もういっそ待たなくて良かったんだけど」
「ふむ。殊勝な態度は好ましいが、まずは謝罪が先ではないかな?淑女レディ
「そういう意味じゃないし……。遅れてスンマセンしたー」


ぺこり、と如何にも適当な感じで少女は頭を下げてみせる。
なんとも無礼な態度だが、ふと目に入ったうなじの白さに免じて許すことにした。


「っ!……どうしよう。あたし今すぐ帰りたい」
『なんか、色々失敗した気がしてきたね……』



がしかし、少女はいつまで経ってもこちらの手を取ろうとしない。
どうしたことか、と思った瞬間、私はそこでようやく、 彼女が手袋に覆われたその華奢な手に大量の本を束ねたストラップを掴んでいることに気付いた。
目に入ってくるタイトルは『幻の動物とその生息地』、『基本呪文集(3年)』、『上級変身術』etc……。
基本はホグワーツで使われる教科書だが、しかしその対象学年はてんでバラバラだ。
おまけに、黒い背表紙の薄い冊子・・・・・・・・・・も数冊そこには混ざっていた。
興味をそそられ、私はその本の山を思わず指差す。


「それは……」
「ああ、これ?学校で使う教科書とかの買い忘れデスよ。黒いのはノート。
あたしの国じゃ羊皮紙なんて使わないから、ノートじゃないと気持ち悪くて、思わず大量買いを」


まるであらかじめ用意していた台詞を言うかのように・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、すらすらと答える少女。
私が聞きたかったのはそういうことではないのだが。……まぁ、良い。


「なるほど。それで何故、君の学年以外のものまであるのかな?」
「あはは。予習復習は基本でしょう。お前に学年特定されたくないんだよ、ボケ
「何か?」
「イエ、ナンデモ?」


微かに見えた表情に、恐らくはなにか毒づいていたのだろうと思うが、 訊き返してみれば引き攣った笑みが返ってくる。
なんとも愉快な反応に気分を良くし、いつまでも空の手を一度ひっこめて杖を構えた。


「さて、淑女レディにいつまでもそんな重いものを持たせておくのも忍びない。
これは一旦、先に私の屋敷まで送っておこう」
「別にスティア特製スーパー手ぶ○ろがあるから重くないけどね。
じゃあ、お言葉に甘えて。望むところだし」


少女はずいっと私の目の前に本の山を突き付けてくる。
なので、その期待に応えるべく、ふわりと杖を振るった。
跡形もなくそれらが消える様を二人で見つめ、やがて私は距離の近づいた少女に再度手の平を向ける。


「では、改めて私の屋敷に招待しよう。お手をどうぞ、淑女レディ
「……あー、アリガトウゴザイマス」
「それで?」
「は?」
「我が家の客人の名前を、そろそろ聞かせて頂いて宜しいかな?」


お互いに、未だ名乗っていないことを強調すると、少女はにっこりと花咲くような笑みを浮かべた。


「私のことは珊璞シャンプーと呼ぶよろし☆」


がしかし、表情とは裏腹に、少女が差しのべられた手の袖口を掴む様は明らかにしぶしぶといった様子だった。
……東洋人がシャイだというのは本当のようだ。







「あ。あれって……」
『屋敷しもべ妖精、だね』


ふと、珊璞シャンプーと名乗った少女が声を上げ、私はその原因に目を向ける。
姿くらましで彼女を伴い、慣れ親しんだ屋敷の門前へとたどり着くと、 そこでは、我が家の召使いのドビーが控えていた。
いや、正確に言えば控えさせていた、のだが。
しもべが主を出迎えるのは当然のことである。
たとえそれが、焼けつくような日差しの中だろうと、極寒の吹雪の中だろうと。

だが、調和の取れた壮麗な屋敷の前に佇むその姿は、言いようもなく薄汚く見え、 私はその姿が視界に入った瞬間、無意識にその小さな体を蹴り飛ばしていた。
ぎゃっ!と醜い呻き声をあげて、召使いが転がる。


「!」
「早く門を開けろ。愚図が」
「……申し訳ございません!申し訳ございません!!」


そして、不様に地面に這いつくばるそれを見て息を呑んだ少女に、 見苦しいものを見せてしまった謝罪の意味も込めて笑みを見せた。


「私のしもべが失礼した。
この通り、大した役にも立たない連中だが、一応、私の屋敷の者でね。
気に入らないことがあれば、すぐに言ってくれたまえ」
「…………」


しかし、その程度では彼女の害してしまった気分を回復することはできなかったらしい。
珊璞シャンプーは不愉快そうに私を見ると、すたすたと勝手に門の中へ入って行ってしまった。


「ミス 珊璞シャンプー?」
「…………」


問いかけても、彼女がこちらを見ることはない。

仕方なしにその背を追いかけるが、その後も彼女からの芳しい反応はまるで得られず。
彼女は迷うことなく屋敷の扉に手を掛けた。

そして、進む。
どんどんと進む。
どこまでも進む。

……特に屋敷のことは話していないのだが、一体どこへ行くつもりなのだろう。
このまま止めなければ、ずんずん突き進んでトイレにでも迷い込みそうな気がするのだが。
それか、うっかり防犯装置を作動させて、落とし穴を踏み抜くとか……。


「…………」


流石にそれはあれなので。
小柄な背中の後ろを歩きながら、如何にして彼女の機嫌を直そうかと思案してみる。
が、逢って間もない人間の趣味嗜好を把握しているはずもなく、 一般的な女性に対するものしか浮かばない。
宝飾品の類は好きそうだったが、身に着けていないところを見ると特にこだわりがあるワケではないようだ。
それに、屋敷に着くなり宝飾品を贈るというのも、可笑しすぎる。

なので、とりあえず思いつくままに、少女に提案をしてみた。


「屋敷を案内する前に、我が家自慢の薔薇園などを散策してみないか?」
「はっ!薔薇の盛りは春だろうが」
「魔法でもちろん管理している。色とりどりで美しいものだ」
「そんな人工的なものはいらん」
「では、ティータイムにしようか。
最高級の茶葉とスコーンが用意してあるが」
「……気分じゃない」


がしかし、様々なことを言い募ってみるものの、彼女の反応はにべもない。
一般的なものに興味を示さないとなると……。
と、そこで私は彼女は賭けを行う際に、闇の物品に異常に目が利いたことを思い出した。
この歳にして、あれほどまでに呪いに精通しているなど、よほどの興味がない限りありえない。
物は試しとばかりに、ボージン・アンド・バークスで買ったあれこれを思い浮かべながら口を開く。


「ふむ。では私のコレクションなどは如何かな?
なかなかに珍しい品物も取り揃えているが」
「…………」
『……おお。まさかのタナボタだ。流石、


すると、少女はようやくこちらを振り返り、不機嫌そうな表情カオはそのままにこっくりと頷いた。
やはり、興味があるらしい。

その手のものは美観があまり良くないために、人目に付く場所には置いていない。
よって、そこそこの物品を入れてある隠し部屋の一つに案内することにした。
もちろん、防犯上の理由から屋敷の中を遠回りしながら、だが。

そして、その間彼女の素性を探ろうと、隣に並んで様々な質問を続けたが、 ようやく返ってくるようになった答えは何とも要領を得ないものばかりだった。


「それにしても、君のような愛らしい女性がホグワーツにいたとは知らなかったな。
まったく、損をしていたものだ」
「マルチ……ミスターがいない時に入学したからでしょ」
「お国はどちらかな?」
「格好を見て判断するアル」
「嗚呼、そうそう。私としたことがその素晴らしい姿にコメントも言っていないとは。
君によく似合っている、素晴らしい衣装だ。素材はシルクかな?」
「ご想像にお任せするアル」
「髪型も見事だ。ウィッグをつけてまでお洒落して来てもらえるとは光栄だな」

「……何故バレたし。え、あれ?この前姿見せてないし、あの時あたし髪長かったよね?」
『……だから、変装してきて正解だったでしょ』



煙に巻かれているような印象を与えられる会話だったが、それが奇妙に楽しかった。

思い通りに動く人間は興ざめだ。
どうせなら、自分に対して媚びず靡かず縋らない人間とこそ、話がしたい。
が、自分の身分を考えれば、それは中々に難しいことで。
だからこそ、この見るからに怪しく、裏があり。
それでいて、自身と対等のように対峙した魅力的な少女の申し出を、自分は受けたのだろうと思う。

と、むっつりと黙りこんでしまった彼女の横顔を眺めて、密やかに私は笑った。
その化けの皮を剥ぎ、彼女がうろたえる瞬間が、嗚呼、待ち遠しいことだ。







彼女とは正反対に機嫌よく、私はその後も隠し部屋に着くまで質問を続けた。
それによって分かったのは、彼女が中国系イギリス人で、ホグワーツに通っていること。
闇の物品に詳しいのは親戚の影響で、昔から興味があること。
由緒正しい家の出で、純血であるということだった。
マグルでない、という一点だけ分かれば、もうそれで十分である。
(恐らくはスリザリンかレイブンクローの所属だろう。
よって、後ほど、セブルスにでも詳しい話を聞くことにした)

そのことに更に気を良くし、隠し部屋に案内した後は是非妻にも紹介しようと思っていると、 気がつけばその目的の隠し部屋につながる書斎に辿り着いていた。
が、そこに案内した途端、


「……どこにコレクションが?」


少女はあからさまに不審そうな表情カオをした。
コレクションを見せると言いつつ、その手の物が何もない場所に連れて来られれば、そうだろう。
なので、私はその期待に応えるべく、書斎の一つの棚に収まっている本を数冊杖でつついて入れ替える。
もちろん、少女からは見えないように注意しつつ、だ。


「!」


と、最後の一つの背表紙をなぞった途端、その棚は宙に溶けるように消え去った。
半身をずらし、彼女にそこがよく見えるようにする。


「ようこそ、マルフォイ家へ」


棚が消えた場所には、闇が凝っていた。


「…………」


そして、珊璞シャンプーは促しに一度大きく唾を飲み込むと、やがて。


「っ!」


ふっと不敵な笑みを口の端に浮かべ、足を踏み出した。
それは、酷く決然として。
敵地に乗り込む騎士のような。
勇猛果敢な戦士のような、それだった。

そして、彼女と、使い魔らしき猫に続いて隠し部屋に足を踏み入れる。
すると、彼女は部屋を目にした瞬間、感嘆の声を上げた。


「うわぁ……趣味悪っ
『見事なまでに闇の一族のコレクション、って感じ?』
「……もう嫌だ。見たくもないようなグロイ絵とか色々あるじゃん。
あー、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い」



がしかし、由緒ある家柄の人間として当然のこととして、 彼女は礼儀正しく、周囲を不躾に見渡すような真似はせず、ちろりと一瞬視線を送る程度に留めた。
この手のものを好む人間であれば・・・・・・・・・・・・・・・、まず目を奪われるような光景のはずだが、 彼女はどうやら自制の利く人間であるらしい。
ふむ、素晴らしい。

礼儀のなっていない輩を相手にするのは面倒以外の何物でもないが、 このように殊勝な態度を取って貰えるならば、歓待するに吝かではない。
よって、機嫌よく私は近くのコレクションを指し示した。


「そう遠慮せず、自分の家と思って寛いでくれたまえ。
私が許可しているのだから、なんならこの部屋にあるものならば手に取って貰っても構わない。
君ならば、下手なことをして呪いを受けることもないだろう」
「あー……」
『……残念。ここにはなさそう・・・・・・・・だね』
「いや、もうお構いなく!」


と、手と首を振るジェスチャー付きで珊璞シャンプーはその申し出を固辞した。
彼女は先ほどから、ここに来るまでの勢いある態度がまるで嘘のように、謙虚な態度を崩していない。
いきなり随分と遠慮深くなったものである。
先日の姿からすると、ここから数点コレクションを掠め取ってもおかしくはないものを。

その態度に少し不自然なものを感じ、はてと首を傾げる。
彼女はざっとは部屋の中を見回したものの、すぐに興味が失せたかのように目を伏せてしまっていた。
……ひょっとして、ここには大したものがないから大人しくしているのだろうか。
ふと、そんな考えが頭を掠めた。

確かに、代々受け継がれているような闇の物品はここには一切置いていない。
また、自分が貴重と思うものも。
だから、彼女も大して興味がない。
もしくは興味のある物品が出てくるまで大人しく待っている……?
前者だとしたら傲慢で、後者だとすれば自己中心的だ。
見せろと言っておいて、いざ見せられたら文句があるなど、勝手にもほどがある。
がしかし……。

つまらなそうにしている、神秘的な横顔を見つめ、思わず口の端がつり上がる。


「そのような人間も、嫌いではないがな……」
「……は?」
「いや、こちらの話だ」


と。
怪訝そうにしてくる少女に、閃く物があった。
それは、悪戯心と嗜虐心と。
それらを満たすためのごくごく単純な好奇心。





この屋敷で最も崇高で、価値のある物品を見せたとするならば、彼女はそれに気づくだろうか?
この屋敷で最も尊く、手に入れ難い物品と持ち物をすり替えたとするならば、気づけるのだろうか?





見た目だけならば、彼女が今日持ってきたものと大差ない代物を頭に浮かべ。


「…………」


否、と心が否定の声を上げる。

あのお方が、自身に与えて下さったものは、かの有名な『秘密の部屋』を開けることのできるものだという。
それもあのお方が直々に御作りになったもの、である。
この私が見ても、あれはただの日記帳にしか見えなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それを幾ら闇の物品に目端が利くといっても、一介の学生が気づくことなどできはすまい。

まるで万能ででもあるかのような自尊心の高い子どもに、できないことを突き付けるのは、 嗚呼。ほんの少し考えただけでも、なんとも魅力的な考えに思えた。
そのまま気付かせないまま利用するのも良いし、指摘して気付かせ、プライドを傷つけるのも面白そうだ。

本来ならば、あの日記は私が使うのが一番良かったのだろうが、すでにホグワーツを卒業した身である。
そうそう簡単に敷地内に入り、怪しまれずに行動することなどできないだろう。
また、なにより。





あのお方の作られたものを完全に支配下に置く、などということが自分にできるとも思えない。





となれば、誰かに使わせない限り、あの日記帳は我が家でただただ眠るだけの物になってしまう。
それは、あのお方の意思に反するだろう。
が、マグル生まれにあのお方の持ち物を持たせることなど、ありえようはずもない。


「……くす」


滅多な人間を利用することはできないと思っていたが、目の前には純血だという少女が一人。
それも、簡単にすり替えられそうなものを持って、ここに来ている。
彼女ならば、あのお方の意向にも沿うだろうし、それになにより。

私を、楽しませてくれそうだ。

そう。彼女こそ、数十年ぶりに秘密の部屋を開くのに相応しい。
仕組まれたかのように・・・・・・・・・・都合の良いこの状況は、もはや神がそれを勧めているからではないか?
頭の片隅で、そんな声がした気がした。


そうと決まれば善は急げとばかりに、私はその場に少女を一旦残し、 さっそく日記帳を彼女の荷物に紛れ込ませるべく部屋をあとにした。
そして。


「……?」


背後で少女と使い魔が会話をしているらしい気配がしたが、 目先のことに捉われていた私がそのことに注意を払うことは終ぞなかった。


「……なんか急にいなくなったけど。家探しでもする?」
『いや、その必要はどうもなさそうだよ。餌に喰いついた』
「……変なところやっぱご都合主義を感じるなぁ。スティア、まさかなんかした?」
『そうだね。例えば幸福薬フェリックス・フェリシスの入った紅茶を飲ませる、とか。
ルシウス=マルフォイに錯乱の呪文を唱える、とか。
やり方は色々あるよね、色々と。まぁ……、ご想像にお任せするよ?』






けれど、利用しないとは言っていない。





......to be continued