11歳ってそういえば、青春真っ盛り!? Phantom Magician、37 「あの、……もし君が良かったら、なんだけど……」 とある放課後、ひと気のない廊下での一幕。 もじもじ、と言い辛そうな様子で頬を染める少年が一人。 はてな?と首を傾げつつ、続きの言葉を待つ少女が一人。 美しい夕日を受けての絶好のロケーション。 相手が相手でなければ、このあたしですら期待と緊張にドキドキと鼓動を高鳴らせていたであろう。 そのくらいの素晴らしい雰囲気。 お約束な呼びかけ。 そんな、なんとも絶好の告白日和に、少年――ロンはこうのたまった。 「付き合ってくれないかいっ!?ハリーの練習を観に!」 ああ、うん。 そんな事だろうと思ってたよ。 「……別に良いけど」 「ほんと!?やった!」 何故だか、もの凄い勢いで喜ばれているが、こっちとしては「あ〜あ」な感じである。 分かってたよ。分かってたけどさ。 なんでこんな雰囲気ばっちりな場所で紛らわしいこと言い出すかなぁ。 あたしじゃなかったら、ほぼ確実に勘違いして、怒られてたよ。 いや、正直な話、ロンに好かれても困るってか迷惑なんだけれども。 乙女としては、期待するところでしょ、今のは。 でも、相手がロンって時点で「告白?ないない」って思っちゃったじゃん。 乙女な反応なんてできもしなかったっつーの。 「はぁ?」とか力一杯言っちゃったもん。 案の定、違うしね。 ああ、もう凄ぇ複雑な心境だ。 お前、あたしのこと女の子だって認識してないんじゃないか、この野郎。 が、あたしの静かな怒りなんて、まったく気づいていないらしく、ロンは「良かったぁ〜」と胸を撫で下ろしていた。 「ずっと誘おうと思ってたんだけど、君ってハーマイオニーといつも一緒にいるからさ。 ここ二週間くらい、一人になるのを待ってたんだよ」 人はそれをストーカーと呼ぶ……。 「別にハーマイオニーも一緒に誘ったら良いでしょ、なにも」 その妙な情熱に呆れ交じりで視線を送る。 確かに、今はハーマイオニーが授業のことで質問するために教室に残っているが、 基本はあたしと彼女はセットである。 そうでなければ、パーバティとかラベンダーと一緒にいるし。 (だって、一人になったらいつ遭難するか分からない) うん。そういえば、一人でてくてく歩いてるの久々だ。 (ちなみに、パーバティとかは女の子の都合で医務室だ。この時期は不定期で困る) よくこんなうっかり隙間が開いちゃった!みたいな瞬間を発見できたものだと思う。 激しく無駄な労力を費やしたに違いない。 と、視線の意味に気付いたのかどうなのか、ロンは激しくあたしの言葉を拒絶した。 「ええ!?冗談キツイよ!ハーマイオニーなんか誘ったら、またごちゃごちゃ言われるに決まってるじゃないか! ハリーが箒をもらったってだけで、馬鹿みたいに怒ってるのに!」 「まぁ、否定はしないけど……」 水と油なみに反発しあう二人の姿を思い浮かべる。 そうか。ハーマイオニーが怒ってるのは分かるのか。 それなりに客観視できたんだ、へぇ。知らなかった。 だったら、授業中もわざわざ突っかかっていかなきゃ良いのに。 言っても無駄そうだから言わないけど。 と、そこで、だったらなんでわざわざハーマイオニーと仲の良い(?)あたしに声を掛けてくるのかという、 ごく当然の疑問が湧きあがる。 ハリーの練習ってつまりはクィディッチでしょ? 魔法界ナンバー1人気のスポーツでしょ? きっとその練習見たい奴なんか腐るほどいると思う。確実に。 少なくとも、接触の難易度が高いあたしにわざわざ話を持ってくる意味が分からない。 で、そう思ったら、思わずあたしはそれを口に出していた。 「でも、何であたし?他にも色々誘う人いると思うんだけど」 たとえば、ディーンとかシェーマスとかネビルとか。 どっちかっていうと、そういうスポーツに熱を上げるのは男子である。 いや、あたしもサッカーとか試合観るの好きな方だから、誘われれば嬉しいけれども。 普段、そんなスポーツ好きな発言してないのに、何であたしを誘うんだ? と、明らかに同室の男子を誘う方が自然なため、とりあえず訊いてみると、 ロンは「そんなことか」とでも言いそうな感じで気軽に答えた。 「一応、ハリーのことは『秘密兵器』になってるからさ。 本当は練習風景なんか人に見せちゃいけないんだよ。 まぁ、僕はフレッドたちが選手だし、ハリーの友達だから、バレてもしょうがないって思われてるんだけど」 「で?あたしには何で秘密じゃなくても良いの? その理屈でいったら、あたしにも見せちゃいけない気がするんだけど」 「はさ、この前大広間でハリーが箒持ってるのを、生き残ってたから見てたんだろう? ハーマイオニーと違って目くじら立てなさそうだし。 ウッドが――ああ、グリフィンドールのキャプテンなんだけど。 そのウッドが女の子にも激励して貰った方がハリーもやる気が出るだろうって」 ふむ。つまりはこういうことだろうか。 ハリーがシーカーに選ばれたことを知っていて、なおかつ、煩くなく、 おまけにハリーとそれなりに仲の良い女子ってことっで白羽の矢が立った、と。 なんとなくだけど、ロンの喜びようからいって、「そんな子と一緒なら」って感じで練習見学が許されたような気がする。 まぁ、この年頃なら、確かに異性の応援は嬉しいものだろう。 問題は、その異性があたしってことなのだが。 ハリー、女なら誰でも良いや!ってタイプじゃないし。 「うーん。あたしに応援されても、ハリーのやる気出るかなぁ?」 とりあえず、やる気出なくてもしらないよ、と言外に告げる。 すると、ロンは大げさに目を見張った後、何故だか力強く請け合ってきた。 「大丈夫!が来るなら、いつも以上に張り切るに決まってるよ! ……まぁ、逆に緊張しかねないかもしれないけど」 「……はぁ。そうなら良いんだけど」 根拠のない断定に一抹の不安を抱きつつ、まぁ、良いか、とばかりにあたしは見学の日程を話し合うのだった。 あ、差し入れとかした方がいいのかな?乙女として。 レモンの蜂蜜漬けとか……あ、レモンも蜂蜜もない。無理だね☆ そして、ロンに誘われた翌日、あたしはハーマイオニーをどうにか誤魔化して、二人でハリーの元へ向かった。 ちょっと罪悪感もあったけど、クィディッチ観てみたかったのは確かだしね。 ぶっちゃけ、あたしルールとか詳しくないんだけど。 まぁ、役割の名前はうろ覚えだけど、なんとなく分かるから良いや。 基本ハリーっていうかシーカーに注目してれば問題ないだろうし。 そもそも練習だから、ルール関係ないだろう。 そんな感じで、なんだかクイディッチについて熱く語っているロンのことは半ばスルーしていると、 徐々にすり鉢状の競技場が近づいてくる。 で、サクサクと芝生を踏みしめて向かったそこでは、ハリーが素晴らしいスピードで急上昇、急下降を繰り返していた。 ?あれがクイディッチの練習?? なんていうか、想像してたのと違うんだけど。 若干首を傾げながら、がらっがらの客席のどこに行こうか考えていると、そんなあたしを怒鳴りつけてくる男子が一人。 「そこ!勝手に入ってくるんじゃない!ここは今、使用中だ!!」 ……般若のような形相に、相手の素性がなんとなく分かってしまった。 初対面でいきなり下級生を怒鳴るような熱い男といったら、グリフィンドールチームで一人しかいない。 「ウッド!この子は違うよ! ホラ、前に言ってたミス !ハリーの友達なんだ」 「なに?」 案の定、あたしの予想通りの呼びかけをするロンだった。 すると、ウッドの態度が目に見えて軟化する。 「ああ、君がそうなのか?僕はキャプテンのオリバー=ウッドだ。宜しく」 「ええと、よ、宜しく?」 「本当はハリーのことは極秘なんだけれどね。 彼も初めてのことで大分緊張しているんだ。どうにかして二人でその緊張を解してやってくれ」 ウッド曰く、試合が近づくにつれてハリーのコンディションは落ち込みまくっているんだそうだ。 試合を意識しなければ素晴らしい飛びっぷりだが、試合形式の練習になると一気に調子が悪くなるらしい。 まぁ、考えてもみれば、1年生でいきなりチームの花形に大抜擢だ。 緊張するのも当然といえば当然だろう。 あたしなら、2秒で逃げだす自信がある。 大観衆の視線にさらされての大勝負? 無理無理、絶対無理。そんなんなったら、あたし貧血でぶっ倒れるよ。 絶対、あの親だからね。観に来るだろうしね。 うふふふふ。絶対ぇ嫌☆恥ずかしすぎるw 前途多難な少年の心境を慮り、そっと袂で目元をぬぐう。 と、同時に入ったのがグリフィンドールで良かったね、と思う。 なにしろ、選手のメンタルケアにまで気を配るキャプテンの鏡のような人がいるのだから。 これがスリザリンだったりしてみろ。まず間違いなく「とにかくやれ、死ぬ気でやれ」で終わるから。 本当にあいつらロクでもないよね。 「ああ、うん。分かった。頑張ってみるよ」 「助かる!これで、実力を発揮してもらえそうだ! このままだったら、ハリーをどうしてしまうか分からなかったからな。本当に良かった!」 「「…………」」 ……前言撤回。 コイツも大概、ロクでもねぇ。 「え、ええと、!じゃあ、邪魔しないようにあっちに行こうかっ」 あたしが若干人間不信に陥ってるのに気づいたのか、不穏な雰囲気にロンは慌てて観客席を指し示した。 かなり不自然な挙動だったが、まぁ、この場合は仕方がないのかもしれない。 あたしも白けた視線を送っているのがバレると面倒なので、素直にその促しに従うことにした。 双眼鏡なんかは持っていないのであまり上の席に行くのもどうかと思い、下の方の席にロンと座る。 見学者はあたしたちしかいないので、どこ行っても良いんだろうけど。 どうせなら、そこそこ選手たちと近い方が嬉しい。 そして、とりあえず、キョロキョロと初めて見る競技場を観察してみる。 実はあたし、原作読んでる時点じゃイマイチ、クィディッチがどんなものか分かんなかったんだよねぇ。 映画観てようやく、どんな感じか分かったっていうか。 この競技場は、映画で観たそのまんまって感じで、スクリーンに飛び込んだような奇妙な感覚がした。 芝生も、すり鉢状の観客席も、感触はリアルなのに、いまいち馴染みがないというか……。 まぁ、これも夢ならではの感覚なんだろうけど。 マグルの作る人工物(コンクリートとか)に慣れている身としては、やっぱりどこかで何かが違くて。 自分はやっぱり異物なんだろうな、と小さく思う。 思うだけで終わるけれど。 思ってもどうしようもないけれど。 それは決して消えないから。 あたしは、そっとその感覚に蓋をする。 あー、それにしても練習風景とか、映画じゃ全然出てこないから新鮮かも。 ここにこんなに人がいないのって、本でも映画でもあんま描写されないしなぁ。 選手も皆、試合用のマントとかじゃないから、なんか地味だし。 動きが速いので、ハリー以外は正直見分けられない。 って、ハリーとウッド以外のグリフィンドールチームって二人しか顔知らないんだけどさ。 さて、ではその件の二人はどこだろう、と棍棒を持つ人影を探したその時、 丁度こっちに彼らが向かって来るのが見えた。 「あ、フレッドとジョージが来るよ?」 「え?あ、本当だ。あの二人はビーターっていう役でね?チームの守りを担当してるんだ。 まぁ、二人の場合、敵の選手にブラッジャーを当てるのが得意だから、どっちかっていうと攻撃って印象が強いけど」 「確かに。そんな感じだね」 だから目敏いのか、と妙なところで納得する。 と、そんなこんなロンと話していると、ドッペルはあたしたちの前で箒を急停止した。 「やぁ、ロニー坊やに。応援に来てくれたのかい?」 「〜〜〜〜その呼び方は止めろって言ってるだろ!」 「おやおや。真っ赤になっちゃって。そんな風だから、いつまで経っても坊やなのさ。我が弟よ」 「うるさい!」 末の弟の宿命か、からかい倒されるロン。 それをぼけっと見ていると、ドッペルの片割れがそれは楽しそうにあたしに話しかけてきた。 「本当にロンはからかいがいがあるな。そうは思わないかい?」 「あー、なんていうか、いじられキャラだよね、ロンって。 分かりやすいし、反応大袈裟だし」 ついでに言うと、ヘタレだ。 ああいうタイプが良いって人には申し訳ないが、あそこまで直情だと面倒臭さの方が先に立つ。 男子はどうだか知らないが、早熟な女子っていうか、あたしはそこまで関わりたくないタイプだ。 と、そんな素直なあたしの意見に、うんうんと少年は頷いた。 「やっぱり、とは意見が合うと思ってたよ」 「あー、ありがとう。えーと……ジョージ?」 「当たり!よく分かったね」 「フレッドがこんなフレンドリーに話しかけてくるはずがないと思いまして」 以前、メガホンをけしかけたことを思い出しつつ、目の前の少年を見る。 コイツらが悪いとはいえ、まぁ、窮地に追いやったのは確かなので、嫌味のひとつやふたつ言われるかと思ったのだ。 がしかし、予想に反して、ジョージは軽快に笑った。 「ああ、この前のアレかい?確かに、フレッドはしばらく悔しそうにしてたかな。 一年生にしてやられたなんて悪戯仕掛け人の名折れだし。でも、今はもう気にしてないみたいだよ。 ロンをからかい終わったら、何事もなく話しかけてくるんじゃないか?」 「へ?ああ、そう?」 「そうそう。『は僕たちの好敵手になり得る存在だ!』って喜んでたし」 「うわー、マジで?」 超 迷 惑 w 鬱陶しいっていう心情を包み隠さず表情に表すと、ジョージはぷっと噴き出した。 「あはは!そんな嫌そうにしなくたって良いじゃないか。 別に悪戯に付き合えとは言ってないんだしさ。ただ、面白そうな子だって思ってるだけだよ」 「……なら良いけど」 若干、微妙な評価なのは気のせいだろうか。 まぁ、双子に好かれるのは悪い気がしないので、良いっちゃ良いんだけど。 女の子認定されてない気がひしひしとする。 ……まぁ、ハリーとかマルコにはされているっぽいので良いとしよう。 と、あたしがジョージと和やかに話していると、 ロンで遊ぶのに飽きたのか、片割れの宣言通りフレッドが会話に参加してきた。 「なに、二人で盛り上がってるんだい?僕も混ぜてよ」 「なーに。ちょっとキャラ付けについてお互いの見解を確認してただけさ」 「へぇ?ちなみに、誰のだい?」 「それはここじゃー言えないな。本人の前でなんて可哀想で可哀想で」 「って、なんでこっちを見ながら言うんだよ!?」 「それは、なぁ?」 「あー、うん。何でもないよ、ロン。何でもない。 ロンがヘタレだとかいじられキャラだとかいう話は全然してないよ」 「……!君まで僕をからかうの!?」 ショックを受けているロンの様子に、思わず笑みが零れる。 分かりやすっ!っていうか、からかいやすっ! なんだ、そのガーンって効果音! 漫画じゃないのに、今どきそんな効果音出ちゃまずいだろ! ああ、ハーマイオニーもどうせならガミガミ言わないで、こうやって適度にあしらえば良いのに。 今度二人がじゃれてたら、適当にからかおうかな。 ロンは沸点が低いので見極めが肝心だが、そうすれば大分あたしのストレスも解消されそうだ。 うん。そうしよう。それが良いわ。 ……人知れず『ロンからかい倒し大作戦』の決行を決めるあたしだった。 と、あたしたちがそんな感じで変に盛り上がっていると、その様子を見かねたのか、誰かがこっちに飛んできた。 最初は近づいてくる影にウッドかと思ったが、その小柄な身体付きを見ればそれがハリーだと知れる。 そういえば、あたしはハリーを応援しに来たんだった、と当初の予定を思い出すが、 「やっほー」と手を挙げるあたしに対する彼の反応は結構辛いものだった。 「二人とも!練習するんじゃなかったの!?いつまでとしゃべってるんだよ! も!何でロンと二人で来たんだ!?」 「えええぇ?何でって訊かれても、誘われただけなんだけど」 何でハリーがお冠なんだ!? 『何で来たんだ』とかならまだ分かるんだけど、『何でロンと二人で来たんだ』ときたもんだ。 前の発言といい、自分一人除け者で寂しくなっちゃったとか? 自分本位のお年頃だからねぇ。分からなくはないんだが。 っていうか、あたしハリーが怒ってるの初めて見た。可愛い。萌え! そうだよね、そうだよね! 原作より若干落ち着いてるからあれだったけど、今のハリーって多感な11歳だもんね! もっと色んな表情を見せてくれても良いと、お姉さんは常々思っていたよ! あ、やっべ。ちょっとテンション上がってきた! 考えてみれば、今の状況って逆ハーじゃん! なんか、ハリーの発言ってあたしにあんまり他の人と仲良くして欲しくない!っていう風にもとれるような内容だし! まぁ、相手にロン混じってるのがなんとも微妙だけど、逆ハーだよ、逆ハー!人生初! ああ、ここにチビリーマスとかセドリックとかリドル混じってたら最高なのに! なんとも幸せな妄想に、一人うふふふふと笑みを浮かべる。 すると、そんなあたしに視線が一瞬集中した。 「「「「…………」」」」 が、見なかったことにするらしく(失礼な)、フレッドが宥めるようにハリーの肩を叩く。 「まぁまぁ、ハリー。せっかく応援に来てくれた子をそんな邪険にするもんじゃない」 「……別に邪険になんてしてないよっ!」 「落ちつけよ、ハリー。そうも取れるってことさ。 じゃあ、僕たちは練習に戻るから、ハリーはその説明でもしたらどうだ?」 「ああ、それは良い考えだ。ウッドのことは僕らに任せておけ。 じゃあ、お二人さん。大したお構いもできなかったけど、楽しんでいってくれ」 「あ、うん。分かった」 そして、ドッペルは流れるようにその場を後にした。 嵐のような連中だが、同学年で寮も一緒のはずのロンよりも話が弾んだ気がするのは何故だろうか。 ……ああ、好感度の違いだよね。そりゃそうだよね。 対して考え込むこともなく、疑問を自己完結し、あたしは影の薄いロンに憐みの視線を向けておくのだった。 「で、さっきまで僕がやってたのはスニッチを取る動作の練習。 スニッチってどこを飛んでるかまるで分からないし、近くを飛んでるとも限らないから、 あんな風に一気に方向を変えたり、急加速する必要があるんだよ」 「へぇ。なるほどー」 ふむふむ。と興味深げに相槌を打つ。 最初はちょっと不機嫌だったハリーだが、クィディッチの話を振るとその内ご機嫌を直していた。 (所詮は子どもである。大人が手玉に取るくらい楽勝だ) 逆に空気扱いのロンは微妙にご機嫌が宜しくなくなっていったが、まぁ、ロンだし。 あたしもハリーもさらっと無視して、和気藹々とおしゃべりに興じることにした。 まぁ、今日の主役はハリーだから、当然っちゃ当然か。 なので、ロンは不満そうにしつつも口を挟むことなく、 あたしとハリーのラブラブっぷりやら、他の選手の練習やらを傍観している。 「ウッドとはもう逢ったんだよね?」 「うん。イケメンだったね」 ハリーの言葉に映画と同じく素敵なフェイスの持ち主を思い出し、にっこり笑顔を浮かべる。 と、同時にセドリックに対する期待が最大値に高まってたり。 だって、あのウッドが嫉妬するくらいの格好良さだよ? そりゃあね、期待するなって方が無体じゃないか! まだ見ぬセドリックに夢を膨らませるあたし。 がしかし、そんなあたしの態度に何を思ったのか、ハリーがそれは鬼気迫る様子で肩を揺さぶってきた。 「ま、まさか、はああいう人がタイプなの!?」 「うぇっ!?え、や、別にそういうワケじゃ……」 「ダメだよ、!ウッドは、クィディッチのことになるとヒトが変わるような人なんだから!」 「いや、ダメと言われても……。違うって!あたし、ああいう無駄に熱いタイプ苦手だからっ! ちょっ、ハリー!?ガクガクすんの止めてっ!吐いちゃう!」 なんだなんだ。 凄ぇ勢いでウッドの駄目出ししてるぞ、ハリー。 何だろう、ウッドに変なトラウマでも植えつけられたんだろうか。 突然の温度差に目を白黒させながら、どうにか必死にハリーの誤解を解く。 すると、ハリーは憑きものでも落ちたみたいにほっと安堵の息を漏らして、冷静に戻ってくれた。 ……今日のハリーは随分とアグレッシブなようだ。 「……ああ、そうなんだ。良かった」 「うん。そうだよ。あたし、もっとこう……笑ってるのに目は笑ってないような猫目でSな人が好きなんだ」 「!!?」 具体的にはリーマスとかリーマスとかリーマスとか。 まぁ、リーマス猫目じゃないんだけど。 そこは許容範囲だ。 理想と現実は違うものである。 理想とか言っちゃうと、あたし忍者な竹巳思い出しちゃうもん。 ナイス腹黒vそのくせ爽やか!最高だよね! ああ、そういえば現実世界でハリー腹黒説って結構よく見たなぁ。 今のところ、そういう兆候はあんまり見られないけど。 そうなれば、将来的な期待値は大きいかもしれない。 顔も可愛いし。これで、腹黒な笑みを習得すれば、なんて将来有望なのだろうか。 期待にきらめく瞳でハリーを見つめると、ハリーは若干顔を赤くしつつ、 「それってマルフォイとか?」と、絶妙に的外れなことをのたまってくれた。 ので、私は軽やかに微笑みながら、それを一蹴する。 「それはない(キパッ)」 うららかな秋の午後。 一陣の風はどこまでも爽やかだった。 「そ、そう……」 「うん。マルフォイはからかったら面白そうだけど、世間知らずのボンボンだしねぇ。おまけに頭やばそうだし。 それより、よっぽどハリーの方が好感度高いよ?箒も上手いもんね。 ハリーだったら、初めての試合でもきっと凄い活躍すると思うんだ、あたし」 「!!!」 軽い調子で、今更ながらに『ハリーを元気づける』という本来の任務を実行してみる。 まぁ、かなり忘れていたとはいえ、頼まれたことはきっちりやる主義だ。 ま、人間褒められたら勝手に色々伸びるものだし。 この歳なら、こんなベタなノセ方でも特に問題はなかろう。 すると、その効果が早速、表われたのかなんなのか、ハリーはがしっと箒を引っ掴む。 その顔は闘志に輝き、見るも眩しいやる気に満ち溢れていた。 「僕……やるよ!」 「ああ、うん。頑張って、ハリー」 ひらひらと手を振ってその頼もしい背中を見送る。 そんなあたしの頭に浮かんでいたのは「任務完了」という文字だけだった。 「って……」 「うん?なに、ロン」 「いや、何でもない……」 嗚呼、男の子って単純。 ......to be continued
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