誰かと誰かを重ねるのは当然だ。 だって、人は自分の物差しでしか物事を捉えられない。けど。 Phantom Magician、33 意味が分からない意味が分からない。 え、すいません。なんでフラッフィーいんの? なんで城の中? 賢者の石ありませんよねぇ?ありませんよねぇっ!? 原作沿いは大歓迎だけど、つじつま合わないのは気持ち悪いんですけど! っていうか、なんでハリーたちはこの圧倒的な存在に気付かないの? メッチャ、よだれ垂らしてるっ! メッチャ、ハァハァ言ってるよ、この犬!! デカイし!頭も体もデカイし! ごめん、あたしワンコも好きだけど、これは流石にない! デカワンコです☆とか可愛く言っても少しも許されないこの感じ!! なんでこれが『ふわふわのフラッフィー』なんだハグリッド! どっからどう見ても地獄の番犬ケルベロスです☆って感じだろ! いやぁあぁぁー!!あたし、こにゃにゃちわ!って言ってくれるケロちゃんが良いっ!! 助けて、李ーくん!ヘルプミー!! とりあえず、目線を外したら病院直行コース確実なので、真正面を見据えることしかできないあたし。 すると、あたしに遅れること数秒でネビルもその存在に気付いたようで、 必死になってハリーにこの危機を知らせていた。 が、ハリーはフィルチが気になって仕方がないご様子。 世の中には陰険にゃんこ好き管理人より気にしなきゃいけないことがあるんだけどっ!! 「フィルチはこのドアに鍵がかかってると思ってる。 もうオーケーだ。……ネビル、放してくれ、よっ!?」 で、ようやくあたしたちが見据えている生き物を見たハリー絶句。 ですよねー。 不意撃ちでこんな超一級危険生物目前にして言葉なんて出ないって。 だって、あのスネイプ先生に重症負わせる怪物ですよ? 全員が『石になれ』を喰らったかのような有様だったが、 その間が宜しくなかったらしい。 あたしたちよりほんの一瞬早く自分を取り戻したフラッフィーは、 その馬鹿デカイ顎を開いてこっちに襲いかかってきた。 ちなみに、目標は喰いでがありそう、ぽっちゃりネビルくんである。 「っ!!」 昼間と同じで、ネビルを助けようと手が動く。 ただ、昼間と違ったのは、手にしていたのが箒ではなく杖だという一点。 そして、その一点は天と地ほどの差がある物だった。 「吹っ飛べっ!!」 正直、自分でも何やってるのかは不明だ。 ただ、思いついたままに。 心が命ずるままに魔法をぶっ放す。 上手くいくいかないは、まったく念頭にも浮かばなかった。 ただ。 ただ、あたしはもう二度と。 目の前でネビルが怪我するのは嫌だったのだ。 そして、その強烈な一撃に、三頭犬は言葉通り吹っ飛ばされ。 意識を失うことこそなかったものの、あたしは皆が扉の外へ逃げ出す隙を作ることに成功したのだった。 今この一瞬だけは、練習台になったピーブズに感謝しても良いかもしれない……。 そんなとりとめのないことを考えつつ、あたしたちは飛ぶようにその場をあとにした。 んで、現在地。 超不明、再び。 「……またこういうオチか。どんだけあたしの迷子キャラ定着させるつもりなんだ」 ぐすっ。 涙は浮かばないが、泣きたい気分だった。 そう、禁じられた廊下から逃げる際、さっきのフィルチと危機感が段違いだったせいか、 皆てんでバラバラの方向へ命からがら逃げ出してしまったのだ。 とりあえず、身近にいたロンの後を追っかけることにしたあたしだったが、 まぁ、あいつの逃げ足の速いこと! 火事場の馬鹿力を証明するかのごとく、ギアチェンジしたロンはあたしを置いてすっ飛んで行ってしまった。 あいつに女の子に対する配慮とか期待してなかったから、ショックはすくないんだが。 現実問題、遭難の危機リターンズである。 HELP ME。SOS。エマージェンシー。Oh,My GOD。ジーザス。 嗚呼、あと他に助けてっていう感じの英語って何があったっけ。 まぁ、助けを求めたところで、それを聞いてくれる相手がいなければ意味なんてありゃしないのだが。 「……とりあえず、疲れた」 ペタン、と冷たい廊下に座り込む……のは衛生的にあれなので、古き良きヤンキー座りで足を休める。 魔法使えば服は簡単に綺麗になるんだけど、気分的に。 だから、土足は嫌なんだってのに。 嗚呼、裸足で室内ぺたぺた歩きたい。 偏平足になっても知らないぞ、欧米人。 ふいーっと大きく溜め息を吐く。 本当に疲れる一日にもほどがある。 こんな盛りだくさんな一日を送らなきゃいけないだなんて、主人公は大変だ。 と、その盛りだくさんの内容を思い浮かべていたあたしは、 一番最近のハプニングを思い出し、渋い表情になった。 「ってか、なんでフラッフィー……」 もう他の言葉は浮かんでこない。 や、ハグリッドのネーミングセンスじゃなくて、奴の生息地のことね? なんだって、校内にででん!といたんだろう……。 思わず、入学式(?)の時にダンブルドアが何か言っていたか考えてしまうが、 そもそも、あの時は久しぶりのリーマスと組み分け帽子とハーマイオニーのトリプルパンチで、 少しも話なんぞ聞いていなかったことを思い出すだけだった。 じゃあ、と思ってフラッフィーの足元にしかけ扉があったか思い出してみるが、 やっぱり、あの迫力満点の鼻面を見てるので精いっぱいだったのが分かるだけだった。 だって、視線外したら間違いなく襲われてたんだもん。 『フラッフィー=賢者の石』というのが原作での常識だ。 がしかし、『賢者の石がホグワーツ=ヴォルデモートが狙ってる』ってことになるので。 ああもう、頭がこんがらがってきた。 かといって、こんなこと相談できる人間はこの世界にはいない。 相談したが最後、気味の悪いものを見るような視線か、可哀想な人を見る視線を浴びるからだ。 じゃあ、と残る選択肢は我らが案内にゃんこなのだが、アイツが素直に相談に乗ってくれた覚えは終ぞない。 『いるからいるんじゃない?』とでも言われそうだ。投げやりな感じで。 「……くぅっ!っていうかこういう時こそ、あいついるべき場面じゃねぇのか、くそ」 相変わらず役に立たない奴だ。 もう、こうなったら自ら暴れてフィルチでも呼び寄せてくれようか、と、 半ば以上、自棄っぱちの行動を本気で検討し始める。 すると、廊下のちょっと奥の方から、何やら人の声らしきものが微かに聞こえてきた。 「!」 地獄に仏!? 声の感じから言って、廊下にいる感じではなさそうだが、それでも近くの部屋に誰かいるらしい。 まぁ、スネイプは地下牢に引き籠ってるであろうと仮定して。 さて、このどこぞの廊下の近くに部屋をお持ちの先生はというと……。 と、考えに考えてみて、そういえばこの景色に若干の見覚えがあることに気づく。 それも割合頻繁に。 「……ま、まさか!」 一気に気分が浮上して、さっきまで棒のようだった足もなんのその。 愛の原動力であたしはたったったっと走り出す! そして、あたしの予想通りの見覚えのある扉から、人の話し声が聞こえて来ていたりするのだった。 で、その扉に掛かってるお名前はと言えば『リーマス=J=ルーピン教授』。 これも日頃の行いって奴のおかげだよね! 嗚呼、空気読み過ぎな貴方が好きです! 感激のあまり告白しながら突撃してやろうかと、ノックのために拳を振りかぶる。 「――ふざけるなっ!!」 ばんっ! ビックゥっ!と小動物なみの反応の良さで、あたしはその扉から距離を置いた。 いやいやいや。あたしじゃない。あたしじゃないぞー、今の騒音! 扉一枚隔てた部屋の中は、なんていうか、ドシリアス。 嗚呼、なんかこんなの覚えがあるぞ、あたし! まぁ、もっとも、ヘタレワンコがこんなところにいるはずはないので、 今、怒鳴り散らして、あろうことかリーマスの部屋の扉に危害を加えたのは別人なんだが。 っていうか、さっき真っ先に否定したスリザリンの教授様なんだが。 「――物に当たるのは止めてくれないか、セブルス」 「フンッ!貴様こそ現実逃避は止めたらどうだ、ルーピン。 貴様ももうとっくに気づいているはずだ」 「……なんのことだか分からないな」 とりあえず、こっそり耳を澄ましてその不穏な会話を拾い上げる。 が、まったくもって意味不明。 まず途切れ途切れでよく聞き取れないし、主語も補ってくれないからあたしにはさっぱりだ。 さっぱ○妖精出てきそうなレベルのさっぱりだ。 とりあえず、リーマスと決闘なんて流れにはなってないみたいなので一安心だけど、 部外者お断り、乱入者厳禁な感じにとりあえず大人しく廊下で話が終わるのを待つことにした。 む、難しい話に子どもは立ち行っちゃいけないんだよ、うん。 正直、もうあたしいっぱいいっぱいなんです。 これ以上厄介事の匂いぷんぷんしてるのは自分、無理ッス。 キャラが崩壊してきたのを感じつつ、ヤンキー座り再開。 「恍けている場合ではないと思うがな。あれは奴の娘だろう?」 「……根拠のないことを。あの子の両親はマグルだとシリウスが聞いている」 「ブラックの言うことを信じるとは、滑稽だな。 真実薬も使っていないくせに、何故それが真実だと言い切れる?」 「それはあの子が嘘を吐く必要性がないからだ」 「フン。仮に嘘でないとして、だ。それが真実であるとは限らない。 奴はマグル生まれだった。マグルとして身を隠すくらいワケはない」 「……っ!何故、君がそれを……」 ……足が痺れてきた。 ああもう。リーマスとスネイプは案外仲悪くないんじゃないかって思ってたんだけどなぁ。 早く終わんないかなぁ。 「……いや、訊くだけ無駄だったね。あの人と君は仲が良かった」 「奴が勝手に懐いてきただけだ。そんな表情をされる覚えはない」 「……それで?あの人と仲の良かった君から見て、あの子がその娘だと?」 「それは貴様の方がよほど思っていることだと思うがな」 「……確信なんて、持てるはずもないけどね。確かに、あの子はあの人と同じ日本人だ。 だけど、碌に覚えてもいない人と似てるかどうかなんて、誰にも分かりはしない」 「……だが、似ている」 「…………」 ああ、もう体育座りしちゃおうか。 お尻冷たいけど、しちゃってもいいかなー。いいよねー? まぁ、小学生とか中学生の時とか、校庭に体育座りなんて当たり前だったし。 ……うん。座っちゃう。もう限界、あたし。 「それは、奴を知るほとんどの者が感じているようだ」 「……それで、君は僕にどうしろって言うんだい?」 「別に何か行動を起こせとは言っていない。 が、目の前で女々しく悩み事を言われるのは不愉快だ。さっさと現実を見ることだな」 あ、やばい。 疲労ピークで眠くなってきた。 マジ眠い。睡魔のスイマーに襲われてるあたし! 嗚呼、体育座りって身体縮めるからあったかいんだよねぇ……。 と、うつらうつらと船を漕ぎだしたその刹那。 ごんっ! 「「「!?」」」 腰をドアで強打された。 睡魔撃退。ついでにあたしも撃退。 これぞ一石二鳥。 あたしにとっては油断大敵。 とりあえず、声もなく腰を押さえて悶える。 こ、腰は女の命ですことよっ!?(あ、なんか微妙に違う。混ざってる) なんてことしやがんだ今畜生!とばかりに、斜め上方を涙目で睨みつけてみる。 「……貴様っ」 ワオ!下から見上げる激怒顔って 大 迫 力 ! あーうん。何て言うか噛み殺されそうです。ヤバげ。 おまけに呼び捨てから『貴様』呼ばわりに格下げされてたり。 あたし戦闘狂じゃないから、殺気浴びるのは勘弁して欲しいなぁー!なんて思ったりっ!? 「盗み聞きとは良い度胸だなっ!」 「うえぇぇ!?いや、ままま待って下さい! あたし今、ついさっき来たところです、いやマジで!」 「座っていたではないか!」 「や、なんかお客様っぽかったんで、大人しくうとうと待ってました! 天地神明にかけて盗み聞きなんてしてませんっ!真実薬でもドンとこいですっ」 これ以上ないってくらい必死に、スネイプの鬼の形相を逸らそうとしてみる。 とんだ言いがかりだ。 だって、本当にあたし何も聞いてないよ! あたしに関係ない話をわざわざ聞くほどの体力、今のあたしにはないよ! これがリーマスの好きなタイプ☆とか素敵な恋バナだったらドアにかじりついてでも聞いていたが、 明らかにそんなノリではなかったので、もうガッツリ無視したのだ。 妙な言いがかりでまたもやいじめられるのは避けたい。 と、この場で唯一あたしを救ってくれるであろうリーマスに、助けてーと目線で訴えようとして。 「っ!?」 あたしは、今にも崩れ落ちそうな顔色をしたリーマスを見つけた。 今にもがくがくと震え出しそうに。 どこまでもボロボロの体にムチ打って立っているような。 「……?」 あたしよりよっぽど独りぼっちな、人がいた。 思わず、目の前に立ち塞がる形になっているスネイプを、力づくで押しのけて駆け寄る。 そして、ほとんど無意識にその綺麗な鳶色の頭を、あたしは自分の腕に抱いていた。 その体は、氷みたいに冷たくて。 呼吸は馬鹿みたいに弱々しくて。 いつの日か見た、狼の姿を思い起こさせた。 『怖く、ない?』 怖く、ないよ。 狼は怖いけど、君のことは、怖くない。 それに。 それにね。 ここには君を怖がらせるものはない。 恐がらなくて、良いんだよ? ここは、怖く、ないんだよ。 だからお願い。 笑って。 笑って。 君の居場所は、私が守るから。 「 あたしに喧嘩売ってんですか?決闘ですか?受けて立ちますよ、この野郎」 さて。 それじゃあ、いっちょう殺して解して並べて揃えて晒してみようか。 戯言だけどね。 「何……?」 「『何……?』じゃあないんですよ。訊いてんのはあたしですよ。 何この状況?リーマスがこんなボロッボロになるくらいの何言ったんですか。 誰の許可とってそんなことやっちゃってんの?何様のつもりだ、この陰険野郎が」 「何、だと?」 一気に怪訝そうになった陰険教授は、米神をぴくぴくさせて爆発寸前。 が、まぁ、そんなもんは完全無視の方向で。 授業中ありえねぇとか思いつつも、反抗なんてしてこなかった奴が睨んできたらそれは驚くし、ムカツクだろう。 でもさー。 「だから、リーマスに何かするんだったらまずあたしに話つけろっつってんの!」 リーマスを放しつつあたしは真っ直ぐに奴を睨みつける。 恋する乙女は最強なんだよ。知ってた? と、あたしが叩き売りってくらいの感じで突きつけた挑戦状を、 しかし、スネイプは受け取ってくれなかった。 どころか、 「…… 」 スネイプの瞳に映っていたのは、なんとも複雑怪奇な感情の渦。 怒りと憎しみと恨みと、憧憬と悔悟と恐れ。 そのどれともつかない、どれでもある瞳が、どこか切なく揺れていた。 その口は音にならない声で誰かを呼ぼうとしたが、結局それが形になることはなく。 スネイプは苦悶の表情で俯いてしまった。 ……え、なにこの予想外の展開。 ぶっちゃけ本日何回目かのバトル勃発かと身構えてたんだけど。 何、その誰も触っちゃいけない古傷うっかり抉っちゃった!みたいな表情。 一気にあたしが悪者っぽいのは何故だ!? 「何故、だ……」 「や、何故って訊きたいのはあたしなんだけど……」 勝手に思考の世界へトリップしちゃってるっぽいスネイプの扱いに困る。 が、そんなあたしの困惑を余所に、スネイプはなんだか泣きそうな感じで声を絞り出した。 「何故、貴様はここにいる……っ!」 「!?」 そ、そんな存在理由聞かれましてもっ!? うえぇ?そんな人生の命題をこんなところで訊かれてあたしにどう答えろと? もっといい場面だったらさー。 『君のために生まれてきたんだよ』とかなんとか良い感じのセリフも出てくるけどさー。 よりによって、ここかいっ!答えようねぇー! なんて残酷な教授の命題!? スネイプは真剣なんだろうけど、真剣すぎてギャグっぽい。 完全にあたしのシリアスモードはどっかに吹っ飛んでしまい、おろおろと目の前の男を見つめる。 だって、他にできることないし。 すると、明らかにあたしが戸惑っているのを感じたのか、 背後に庇う形になっていたリーマスが、あたしの前に出てきた。 そして、対峙するのは自分とばかりにスネイプと向き直り、逆にあたしをその背に庇ってくれる。 「何故、今更ここに来た……!」 「セブルス……っ!違う!この子は……あの人じゃないっ」 ええぇえぇー。またあたし置いてきぼりな予感ー。 もうキレる余裕もなく、ただ脱力しか覚えないあたしである。 世の中の人間、皆自分と同じこと知ってると思ったら大間違いだからね! 勘違いはケンカの基だよ!ダメ、ゼッタイ! と、あたしの白けきった視線に気づいたのか、 それともあまりに切羽詰った感じのリーマスの声に我を取り戻したのか、 スネイプはいつもの冷酷陰険モードに戻って、極寒の視線でリーマスを見下した。 「そんなことは分かっている……。 奴に言うのなら、『何故ここに来たのか』ではなく、『何故戻って来たのか』と言うだろう」 「…………っ!」 嗚呼、ワケが分からない。 誰か置いてきぼりのあたしに詳しい説明してくれ。 奴って誰さー? 「もっとも、現状では『何故、ここにいないのか』だがな……」 「それは……セブルス、君のせいじゃない」 ここにいない人とあたし接点皆無だぞ、オイー。 ああもう、まったく。いい加減あたしキレたい。体力ないけどキレたい。 暗いんだよ、お前ら! あたしに関係ない話で盛り下がってんじゃねぇよ! 「多分……僕のせいだ」 リーマスはあたしの内心の叫びに気づくことなく、相変わらずのトーンのまま懺悔するかのように目を閉じた。 嗚呼、まつげ長くて素敵……ってそうじゃない。 いい加減、その暗い響きの声を聞きたくなくて、あたしはもう止めてとばかりに二人を見つめる。 すると、その一言が契機になったのだろう。 スネイプはバサッと蝙蝠のようにローブをはためかせ、くるりとあたしたちに背を向けた。 「……すまない、 」 ドアに向かう背中が発した一言は、誰一人として届きはしなかったけれど。 限度があるよね、実際。 ......to be continued
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