原作沿い、大いに結構。 Phantom Magician、32 「まったく、貴女って人は! マダム フーチがいらっしゃる前に戻ってきたからいいものの、そうじゃなかったら退学だったのよ! いいえ、もっと悪ければ大幅減点だったわ!聞いてるの、!」 「……あーい」 とりあえず、君の中であたしの退学より寮の大幅減点のが重要だってことは聞いてたよ。 目の前でブチキレしているハーマイオニーを軽くあしらいながら、ふぅっと溜息を零す。 九死に一生スペシャルをくぐり抜けてきたのにこの仕打ち。 頼むから、夕食くらい静かに食べさせてくれないだろうか。 ってか、あたし頭痛いんで、ちょっと頼むから黙っててくれ。 君のキンキン声は予想以上の破壊力なんだよ。 とりあえず、そんなことを言えばさらにエスカレートすること請け合いなので、 あたしはようよう辿り着いた大広間で、黙って目の前のマッシュポテトをフォークでつついた。 (彼女の言葉は友達として色々酷い発言だったが、心配のあまり混乱していたのだということにする) 激しい運動(?)後だけど、食欲は湧いてなかったり。体調最悪だし。 久しぶりにぼろ泣きしたせいでマジ頭痛ぇよ。 とりあえず、ケーが魔法で冷やしてくれたおかげで目が腫れるような事態にはならなかったけれど。 ちなみに爽やか美青年は、あの後校庭近くまであたしを送ると、それはもう爽やかに。 ええ、もう爽やかにその場から去って行った。 『じゃあね』 あたしの瞼にごくごくあっさりとキスを落して。 『ふぇ?』 『くすっ。またね、』 あたしはあまりの事態にさっぱり反応できなかったが。 とりあえず、その時のことを思い出すと、頭が大混乱だ。 自然、紅くなってきた頬を隠しつつ、どうでもいいことに思いを馳せる。 ええと、キスって場所によって意味が違うんじゃなかっただろうか。 瞼のキスって……何だっけ? 手首が欲望のキスってのは印象強かったから覚えてるんだけど。 っていうか、欧米文化マジ怖ぇ。 なにサラっとそういうことしでかしてんの? いや、実をいえばハーフの友達いるから免疫は多少あるんだけど。 あいつも案外キス魔だったからね。ほっぺたとかおでことかよくされたよ。 映画とかで欧米の人が友達とか家族にしてる感じ? でも、あくまで、ほっぺたとかだからね!唇とか意味深な場所じゃないしね! ……んで結局、瞼のキスって何だー!! 思わず隣りでいまだに説教している少女を見る。 ハーマイオニーならばこの疑問をあっさり解決してくれそうだけれど、 まず間違いなくそんな質問した理由訊かれそうだ。 それは個人的に恥ずかし死にしそうなので、うん。やっぱ訊くのはよそう。 「良い?。貴女まで規則破りの常習犯になんかなっちゃ駄目よ」 「やー。あたしそんな規則破った覚えないんだけど」 基本的には聞き流していたのだが、若干納得のいかない言葉に、思わず反論してしまう。 あたし、夜中に寮抜け出したり悪戯仕掛けたりなんてしてないよ? 宿題だってリーマス監修の元、ばっちりやってるし。 廊下では魔法使っちゃってるけど。えへv と、しかしそんなあたしの反論に対し、ハーマイオニーにはにべもない。 「先生の言い付けを守らないのは規則破りです」 さいですか。 あまりに厳かなその態度に、君もその内するようになるよとは言えないあたしだった。 さて、あたしが口応えしたことによって色々言いたそうにしている彼女をどうかわしたものか。 こういう場合、無理に抑え込まず発散させるのが一番だ。 「――魔法使いの決闘なんて聞いたこともないんじゃないか?」 「もちろんあるさ。僕が介添え人をする。お前のは誰だい?」 主に別人で。 ちょうど向かいななめ席の席に良い人材を見つけ、あたしはほくそ笑む。 「ねぇねぇ、ハーマイオニー。 あそこに珍しくマルコ……じゃなかったマルフォイが来てるよ? ひょっとして、ハリーとかロンと喧嘩してるんじゃないかなぁ?」 「……なんですって?」 簡単に矛先をかわせて、あたしはほっと息を吐く。 そして、あたしの思惑通りにハーマイオニーはハリーたちの様子に目を光らせ、 明らかな違反の気配にギラギラ視線を送るのだった。 あたしもそれにつられて連中の様子を観察し、おや?と首をひねる。 そういえば、今魔法使いの決闘云々カンヌンと言ってやしなかっただろうか。 んー、一巻読んだの結構前だから、記憶が曖昧になってる部分があるなー。 そういえばなんか決闘だか何だかをハリーたちがしたようなしなかったような……。 んで、フラッフィーに出逢うんだったっけか? まぁ、もっとも、ヴォルデモートがいない訳だし。 狙われているはずの物が狙われてなければ、フラッフィーはせいぜい禁じられた森の中だろうけれど。 とりあえず、折角の原作場面なので堪能しようとそちらを見つめる。 すると、その視線に気づいたのかばちっとマルコと目が合ってしまう。 「「…………」」 ……この前のあれがあるから、気不味いなー。 マルコのこと嫌いじゃないんだけど、そのいじめっ子体質どうにかしてくれ。 性格悪い奴とかじゃ、お近づきになれないじゃん。折角可愛いのに。 と、あたしが目を泳がせたのをどう勘違いしたのか、マルコはハリーへの決闘のお誘いにさらに言葉を付け加える。 「ああ、ほら。君たちがあんまり頼りないものだから、が心配しているよ」 「!そりゃあ、僕たちは同じ寮で友達だからね。君と違って」 「っ。僕たちだって友達だ。何しろ、は犬猿の仲の寮でも気にせず話しかけてくるしな!」 「それはが優しいから、マルフォイの声を無視できないだけだろ」 「黙れウィーズリー!」 ……あれ、ごめん。 なんか話の流れがまったく原作からかけ離れた感じになってるんだけど。 なんで話題の中心があたし? 「よぉし、分かった!白黒はっきりつけようじゃないか! 決闘に勝った方がの本当の親友だ!」 「なっ!」 「まさか断らないだろうな、ポッター! ああ、いや、断ってくれても僕はいっこうに構わないが。 そんな腰抜けはの方からお断りだろうしな!」 「……ふざけるな!お前こそ逃げるなら今の内だぞ、マルフォイ!」 「フン!好きなだけ吠えれば良いさ!!」 …………。 …………当事者、置いてきぼりだー。 え、ごめん。あたしの親友、日本にいるんだけど。 悪いけど、君たち友達かどうかも若干怪しいんだけど。 なに勝手に親友の座かけてんの、あたしに断りもなく。 マルコ、決闘の口実にあたし巻き込むなよっ! そして、何故ハリーまでそれに乗っかる!? 「……モテモテね。」 と、隣りでハーマイオニーが乾いた目であたしを見ていた。 あまりの展開に、忠告めいた言葉すら呆れて出てこないらしい。 あたしもそんな風に他人事っぽく眺めてたーい。 が、まぁ、どうにもそうはできそうもないので、あたしはとりあえず、 「ヤメテー。アタシノタメニアラソワナイデー」 こんな場合にヒロインが発すべき一言を、義務として口にした。 んで、現在地。 暗がりでもきらきら輝くトロフィーが大人しく棚に収まる、名前もそのまんまトロフィー室。 ハーマイオニーに例の如く巻き込まれたあたしは、大変不本意ながらここに立っていた。 それも、どうぞ見つけて下さいと言わんばかりの大所帯で。 ハリーにロンは良いとして、なんでハーマイオニーやらネビルやらまでいるのか、理解に苦しむ。 ハーマイオニーもさぁ……別にハリー達に説教するのは良いんだよ。 ああ、勝手にやってくれ、あたしは止めない。 だけど、なんでその説教にあたしを付き合わせるかなぁ!? なに、寂しいの不安なの?だったら、そもそもすんじゃねぇって思うのはあたしだけか? 確かに、なんでか気がついたらあたしの親友の座賭けてたけども! 本来的にあたしは全然関係ないっていうか! 一から十まであたしがここにいるのはおかしいと思うの。 おまけに、なんで太った婦人いなくなったからって、ハリーたちに付いて行くんだよ!? 良いじゃん、普通に肖像画の前で待ってて、婦人がいないことフィルチに訴えれば良いじゃん! 「猫が出てっちゃったんで、連れ戻そうとしたんです」とかなんとか言えば、あの猫好き絶対見逃してくれるって! それなのに、なんでわざわざ、夜の城を徘徊する!? ああ、もうやだ。 NOと言えない日本人体質が見事に反映されてるこの状況! 思わず地団太を踏みたくなるが、それは見苦しいのでどうにか抑える。 が、イライラしているのは確かなので、いつの間にやら無意識に指がトントンと動いてしまう。 と、明らかに不機嫌そうなあたしの様子にネビルがおどおどと顔色をうかがいだした。 「ええっと、?君たち、ここで誰か、ま、待ってるの?」 「…………」 「こ、こんな夜中に呼び出すなんて、なんだか決闘みたいだ、ね?」 だから、決闘だっつってんだろうこの野郎。 そう睨みつけようとして、そういえばこいつは何の事情も説明されないままここに来てしまったのだと思い直す。 いわば、あたしと同じ被害者だ。 正直、この頃のネビルはどこぞのネズ公を彷彿とさせるので嫌いな部類なのだが、 同じ境遇であるとなれば、多少見方も変わってくる。 ので、面倒であることは間違いないのだが、あたしは目の前のぽっちゃり少年に事情を説明してあげることにした。 「うん。ハリーがマルフォイと決闘するらしいよ」 「えっ!?」 「んで、ロンはその介添え人。ハーマイオニーはそれを止めに来た優等生」 「……も止めに来たの?」 「いや、あたしは何故だか巻き込まれた一般ピープル」 ここにいることが不本意なのだ、と言外に告げると、ネビルはどう反応したものか目を彷徨わせた。 ちなみに、ネビルも『気づけば被害を被っている通行人A』の立ち位置だということに彼は気づいていないに違いない。 そして、ネビルを見るともなしに見たあたしは、ふとそのローブに包まれた腕に気がついた。 包帯もなく、妙な方向にも曲がっていない手首。 魔法でさっさと治してしまったといえばそれまでだが、それはまるであたしの罪を最初から失くしてしまったようで。 正直……薄気味悪かった。 と、あたしがじっと自分の腕を見ていることに気付いたのだろう、ネビルは「ああ、これ?」と、 昼間折れてしまったであろう腕を持ち上げて見せた。 「大丈夫。マダム ポンフリーがあっという間に治してくれたよ」 「……痛く、ない?」 「うん。もう全然。心配してくれてありがとう。は優しいんだね!」 「…………」 照れたように純粋に喜ぶネビル。 それがトロフィー以上に眩しくて、あたしは思わず視線を逸らした。 「???」 「あたしは……」 優しくなんか、ない。 音にならない呟き。 止めて、と思う。 頼むから、そんな純粋な瞳をしないで。 あたしにお礼なんて言わないで。 あたしは弱くて醜くて。 そんな風に声をかけてもらう資格なんてありはしない。 嗚呼、本当にどうしてあたしは今、ここにいるんだろう。 猛烈に、痛烈にあたしは今、独りになりたいと思った。 独りぼっちで、泣きたいと思った。 と、あたしとネビルの微妙な空気に気付いたのか、ハリーが心配そうに寄ってくる。 「どうしたの、?元気がないけど」 「……何故か巻き込まれているこの状況で元気だったらおかしいと思うよ、あたし」 が、まさか本当のことなんて言えるはずもなく、 いつも通りのあたしを意識して言葉を返した。 まだハリーは若干怪訝そうにしていたけれど、 さらに突っ込もうとしたその時、隣の部屋で物音がしたため、会話は中断された。 そのことに傍目に分からないくらいほっとしつつ、救いの主ことマルコの株が上がる。 がしかし、ハリーが杖を振りあげようとしたその先から聞こえてきたのは、われらがマルコの声ではなかった。 「良い子だ。しっかり嗅ぐんだぞ。隅の方に潜んでいるかもしれないからな」 ……ああ、そうだったね。うん。 マルコってば藤○くんバリに卑怯だから、決闘なんて男らしいことしないんだよね。 血統にはこだわるのにね。 マルコ、株大暴落。 思わず遠い目をしていると、そんなぼけっとしていたあたしの腕をハリーががしっと掴んで奥の扉へ引っ張って行く。 最初は反応が鈍かったあたしも、捕まるのはごめんとばかりに忍び足で走りだした。 がしかし、慎重なあたしとハリー、ハーマイオニーの動作とは裏腹に、残りのおとぼけコンビは見事にやらかしてくれた。 何をって? そりゃあ、もちろん、こんな場合で絶対やっちゃいけない行為ですよ? 「ぎゃあぁあぁぁあぁー!!」 「ひぃいいぃ!?」 がっつん。 どっすん。 ガラガラガッシャーン! 悲鳴+騒音の二重奏。 あまりの不協和音に耳と頭を覆いたくなる常識人×3。 この音で気づくなっていうのは、無茶振りも良いところだ。 案の定、背後から恐怖の足音が聞こえ、あたしたちは一もニもなく走り出した。 先行するのはスポーツ万能ハリー。 続いてあたし、ロン、ハーマイオニー、殿がネビルである。 ただでさえ迷路みたいな回廊を、ジグザグとメチャクチャに走ったものだから、 今、自分達がどこにいるのかさっぱり分からない。 ただ、はぐれるのはヤバイ、と本能的に察したため、どうにかハリーを見失わないように走る走る。 (この世界に来てから全力疾走多すぎっ!いつか肉離れ起こすよ、あたし!) 人並の運動神経なんで、まぁ、なんとか遅れずについていくことができた。 で、ようやくハリーが止まったのは、それから数分後。 ネビルがいい加減限界で、ぎゃっ!と言ってすっ転んだところで、頼れる主人公は停止した。 「フィルチ、を、まいたと、思うよ」 「だから、そう、言ったじゃない」 「グリフィンドール塔に、戻らなくちゃ、できるだけ早く」 「マルフォイにはめられたのよ。ハリー、貴方も分かってるんでしょう? はじめから来る気なんてなかったんだわ。マルフォイが告げ口したのよね。 だからフィルチは誰かがトロフィー室に来るって知ってたのよ」 「うん。まぁ、それは今どうでも良いから、まずは逃げるのが先決だと思うよ。 しゃべってて捕まったりなんかしたら目も当てられない」 分かりきったことをゴチャゴチャ言っている暇は今のあたしたちには皆無だった。 とにかく戻らなきゃ、と思う反面、酸素不足の頭は、現在地が4階の禁じられた廊下ではないことを告げている。 流石のあたしでも、ここが妖精の魔法の教室前だということくらい、なんとなく分かる。 それなりに近い居場所なのは確かだけれど、例の廊下は確か普段使う教室の前ではなかったはずだ。 あれ?でも、じゃあ、ハリーたちってどうして廊下にまぎれこんだんだっけ? 確かフラッフィーのところに辿り着くのって、フィルチから逃げてる時とかじゃなかったっけ? まいちゃったら着かなくねぇ? だって、ここから寮までの道って、確か普通のとこしか通らないよ? ひょっとして、フラッフィーいないから、気づかない内に通り過ぎちゃったんかなー? そして、その答えは、あたしが閃く前に唐突に出現した。 「うあぁぁぁああ〜お!こんなところにチビちゃんが!!」 もはや脊髄反射くらいの勢いであたしはネビルの後ろに隠れる。 自分の為ってのももちろんあるが、まず間違いなくあたしがいると事態が悪化するからだ。 嗚呼、畜生。あたしコイツに呪われてんじゃないのか、実際。 「黙れ、ピーブズ!お願いだから……じゃないと僕たち退学になっちゃう」 ハリーの物言いは120%逆効果だと感じつつ、全力で気配を殺す。 すると、ピーブズは誰かが自分に怯えて隠れているとでも思ったようで、 ごくごく一般的な生徒に対する時と同じ、小馬鹿にしたような様子でにんまり笑った。 (ちなみに、あたし相手だったら奴は笑ってる場合じゃないので、もうちょい真剣な表情だ。 ついでに言うと、こんな悠長に会話をするような余裕はない。逢った瞬間即バトルである) 望みは薄いが、どうか何事もありませんように、と心から祈る。 「真夜中にフラフラしてるのかい?一年生ちゃん。 チッチッチッ、悪い子悪い子、捕まるぞ」 「黙っててくれたら捕まらずにすむよ。お願いだ、ピーブズ」 「フィルチに言おう。言わなくちゃ。君たちのためになることだものね」 「どいてくれよ!」 祈りはどこぞの赤毛のせいで木っ端微塵に打ち砕かれた。 苛々としたロンの一言に、ピーブズが大きく息を吸い込むのを見て、力一杯頭の中で警鐘が鳴る。 「生徒がベッドから抜け出した!『妖精の魔法』教室の廊下にいるぞ!!」 「「「「「!!!」」」」」 全力疾走再び。 あたしたちは打ち合わせをしたワケでもないのに、またもやハリーを先頭に走りだした。 が、あたしはネビルの後ろに隠れていたために、順番が若干入れ替わるワケで。 とりあえず、あたしは全ての怒りをこめた一撃を、無言でロンの後頭部へと放った。 「いでっ!」 運の良いことに、奴はその衝撃にも転ばなかった。 チッ。そのままあたしたちの生贄になっていれば良いものを! もくろみが外れたことに、あたしも苛々が募る。 理屈はしらないが、苛々した気持ちって奴は伝播するもので、 先行していたハリーとハーマイオニーも突き当たった先の扉が開かなくて苛々していた。 あ、やばい。すげぇ嫌な予感がする。 いやいや、でもホラ。フラッフィーいないワケだし、危険はないはず……。 あれ、でもじゃあ。 なんで目の前の扉は鍵が閉まっているのでしょう? 「開け!」 そして、止める間もなく、ハーマイオニーが魔法一発、扉を開放した。 正直、この流れに逆らうことはとてもじゃないけどできず、 あたしはハリーたちに続いてその扉に飛び込む。 がしかし、次の瞬間。 「っ!!」 ダッシュで逃げたくなった。 すみませーん! なんでここに地獄の番犬がふっつーに存在してるのですか、神様!! ここはオリジナルであっても良かったと思うな! ......to be continued
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