お宝発見!って凄い嬉しいフレーズだよね。 でも。 Phantom Magician、28 「うっうっうっぅ……」 ごめんなさいもうしませんゆるしてください。 嘆きのマートルもびっくりの嘆きっぷりを披露しているのは ○○歳。 そう、がっつり成人を迎えている社会人である。 見た目は小学校高学年くらいだから、社会的にはまだセーフだけど。 個人的には完全なるアウトだった。 キャッチャーフライどころか、完封負けだった。 同じアウトでもかすりもしないのでは、まるで受ける印象が違いすぎるw ……でも、この現状には涙を浮かべるくらい許されるはず。 「ここどこだよぅ……お腹すいたよぅ……」 そう、なにしろ現在、絶賛迷子中☆ ああ、くそ。 フレッドに仕返しなんぞするんじゃなかった。 幾らムカついても、寮の談話室とかに案内させれば良かったっ! これが因果応報って奴なのか……。 や、でも、あたし元々被害者だからこの表現はおかしいな。 ……泣きっ面に蜂? 「誰かー、いませんかぁ……?」 とりあえず、駄目元で声を出してみる。 が、こんな時に限って、何故だか人の気配なし。 歩けど歩けど、誰にも会わずに、気づけば数時間が経過していた。 いつもは無駄に出会うピーブズにすら逢わないよ。 ゴーストもちっとも通らないし! 絵画の中の人はあたしを見てひそひそ話はすれど、話しかけようとすると何故だか逃げ出すし! 「どう考えても、この城無駄にだだっ広すぎるんだよっ」 とりあえず、外国特有の敷地の無駄遣いを批判してみる。 せせこましい日本で生きてきた人間には、なんとも不親切な設計だ。 1〜7年生合わせて1000人くらいしかいないのに、これは幾らなんでも広すぎるだろ! 何考えてんだよ、創設者! 無駄な階段やら廊下やら教室やら多すぎんだよ、今畜生! おかげで、あたしみたいな遭難者出ただろうが!! おまけに造りがほとんど変わらないと来たもんだ。 どんなに歩いても、ひたすら石造りの廊下が続くあの絶望感。 もう、あたしには自分がいま何階を歩いているかも分からなかった。 「せめて、もうちょい目印になるもん置いといてくれよ……」 ぶつぶつ言いながら、角を曲がる。 そう、例えば、目の前にある馬鹿デカイ、ガーゴイル像みたいな……。 「って、ガーゴイル?」 若干見覚えのあるようなそれに、ぴたり、と思考が停止しかける。 が、次の瞬間、あたしの中で洪水のように記憶が押し寄せ、ここがどこだかがようやく判明した。 そう、ここはあたしが一番最初にホグワーツに来た時にやってきた場所――校長室だ。 まぁ、現在地が分かったところで、そこから寮への帰り方は分からないのだけれど。 でも、ここが校長室ということは、絶対誰かがいるか来るかするはずだ、ということだ。 ようやく一縷の希望が見え、あたしは瞳を輝かせた。 これで!これでやっと部屋に戻れるっ!! とりあえず、ダンブルドアが御在宅(?)か知りたくて、あたしは部屋に入るべく口を開いた。 「……で、合い言葉は何じゃい」 思わず、どこの方言かもよく分からない言葉が飛び出す。 ああ、うん。よく考えたら、あたしここの合い言葉知らんわ。 まぁ、入らなくてもその内出てくるのを待ってれば良いんだけど。 ……石造りの廊下って案外寒いんだよね。 うーん、と一人首をひねる。 駄目元で、お菓子の名前連発してみるか? 「えーと、レモンキャンデー、百味ビーンズ、蛙チョコレート、 大鍋ケーキ、ゴキブリ・ゴソゴソ豆板、フィフィ・フィズビー、 ハエ型ヌガーに、胡椒キャンディに……あとなんだっけ?砂糖羽ペン……」 とりあえず、覚えているだけのお菓子の名称を挙げ連ねてみる。 (正直、魔法界のお菓子って微妙なもの多いよね。 まぁ、外国のお菓子って無駄に甘ったるいから元々微妙なんだけど) と、一体どれがヒットしたのかは分からないが、不意にガーゴイルが反応し、身軽にその場を離れた。 で、その背後にはゴゴゴゴゴという音を立てて動き続ける螺旋階段が――…… ……どうでもいいが、この城、セキュリティ能力はあまりないらしい。 「まぁ、もしかしたらダンブルドアが誰でもウェルカム!ってしてるだけかもだけど」 とりあえず、これ以上足を疲れさせたくなかったあたしは、ひょいと気軽に螺旋階段に飛び乗った。 見た目は違うけど、ようは石造りのエスカレーターだ。嗚呼、便利。文明(?)の利器万歳。 そして、そのまま1分もしない内に、階段はあたしを目的の部屋に連れてくる。 目の前にはグリフィンを模ったドアノッカーがあった。 グリフィン……良いね、グリフィン。 あたし、ドラちゃんの日本誕生でグリが一番好きなんだ。 親友のこと『ぐり』って呼んじゃうくらい好きなんだ。 さて、若干テンションが上がったところで、あたしは礼儀正しくドアを三回ノックした。 (あ、知ってる?ノックニ回ってトイレ限定らしいよ?) 「…………」 が、反応はなし。 もう一度、試しにドアノッカーで呼んでみる。 ガスガスガス 「…………」 返事がない。ただの屍のようだ。 ……じゃなくて!ダンブルドアは不在のようだ。 ここまで来ていないんかい!と思いつつ、物の試しにドアノブをひねってみる。 ……あっさり開いた。 うえぇ?マジで? 鍵掛かってないよ、ちょっと! こういう時のお約束っていえばお約束だけど、すげぇ大問題じゃないのか、コレ。 さて、ダンブルドアの不用心さのせいで、あたしの前には選択肢が二つ。 1、しめしめ!部屋に入ってやれ。 2、そんな失礼なことはできん!部屋に入らない。 ……常識的には2番である。間違いない。 が、しかし、前に入った時に校長室がよく見れなくて心残りだったといえば心残りだった気も……。 いやいや、主不在の部屋に入るなんて泥棒みたいじゃないか。 でもでも、校長室に入れる機会なんてもう二度とないかも……。 心の中で天使と悪魔がバトルを繰り広げている心境だった。 んで、数分後、どっちが勝ったかって言えば。 「ダ、ダンブルドアなら許してくれるよね、うん!」 当然、悪魔のささやきの方だったりする。 スネイプやらマクゴナガル先生だったら、即回れ右だったんだけどね! あの金庫の鍵ぽん!ってくれるダンブルドアだから! 結局あたしは好奇心には逆らえず、ハリーが夢中になったという校長室に再度足を踏み入れたのだった。 そこは、まるで塔のてっぺんのような、円形の部屋だった。 なんといえば良いのか、まぁ、さっぱり意味の分からない器具があるものの、妙な美しさと音で溢れている。 コチ コチ コチ ざわざわざわ チクタク コチコチ ポッポッポ ここまでごちゃごちゃ物があれば、普通なら雑多な感じがするものだが、ここにはそれはない。 見るからに繊細そうな秤や、クリスタルの小瓶など、思わず手にとって見たくなるものばかりだ。 あの、妙な煙を吐いてる物体は何だろう? なんか抽出してるっぽいんだけど。ラメでも入ってるみたいにキラッキラした液体だな、オイ。 あ、あそこにある銀のお盆ってひょっとして、憂いの篩じゃね? うわぁ、近寄らないでおこうっ!うっかり変な記憶見たら居たたまれない! と、憂いの篩らしき物体から離れようと、若干目を動かした先にはガラスのショーケースがあった。 博物館とか、そんなとこにありそうな感じの。 で、その中には当然貴重品らしき物体があるわけで。 「グリフィンドールの剣っ!」 あたしは、そこに卵大のルビーがはめ込まれた、豪奢な剣を発見した。 おおお!まさに勇者とかが持ってそうな、実用性あんのか不明な剣! うわぁ、なんか感動だ!原作のキーアイテムじゃん! あれ、剣って組み分け帽子の中に収納されてるんじゃないんだっ!? すっごいすっごい!うわー、派手だ! 日本刀と全然違うよね! 日本刀はモノクロな感じだけど、こっちはカラフル! まぁ、あれかな。 日本刀は切れ味重視で、こっちは殺せれば良いやってノリだから、その違いかな。 あー、それにしてもなんて見ごたえのある剣なんだろう。 「どう考えても、真っ先にこれが目に入るよねー」 見れば、その隣に何かの資料っぽい黄ばんだ羊皮紙もあり、その落差が非常に強調されている。 いや、ケースに入ってるくらいだし、貴重な文献とかなのかもだけど! 宝石キラキラの剣と紙っぺらじゃ、どう考えても見劣りするよねって話さ。 あたし、博物館とかでも、あんまり巻物とか見ないもん。 が、あまりにけなすのも悪い気がしたので、とりあえずその紙っぺらも読むだけ読んでみることにした。 若干、なんか見覚えのある文字な気がするが、まぁ気のせいだろう。 ふむ。なになに? 『親愛なるアルバス=ダンブルドア校長へ』……? あれ、普通にダンブルドア宛の手紙じゃん。 なんだよ、ケースに入れるほどのもんなの?これ。 流石に人様の手紙を読むのは気が引けて、最初の文章だけ読んで、あたしはそれから目を離す。 んー。誰か有名な人からの手紙とかなのかな? ダンブルドアって無駄に顔広そうだし。 ……はっ!まさか、初恋の人からのラブレターvとか言わないよね? 愛至上主義なダンブルドアだし、ないとも言い切れないのが怖い……。 と、あたしが興味津々で部屋を見回していたその時、不意に歌うような美しい鳴き声がその場に溢れた。 が、不法侵入者のあたしはそれに聞き惚れるどころか、ビクッ!と体をすくませる。 「え、ええと……」 「ピールルルル」 おそるおそる振り向いたその先には、見たこともない美しい鳥がいた。 「鳥っ!!」 ザザザザッと出来得る限りの速さで後ずさる。 なんと、その鳥――不死鳥のフォークスは鳥かごではなく、止まり木でこちらの様子を窺っていた。 金と赤のコントラストが美しい……が、なんといっても鳥。嗚呼、鳥。 前に襲われた記憶があるあたしとしては、半径5m以内には近寄って欲しくない存在だ。 あいつら、嘴マジ硬いんだぜ!? 「ピルル?」 が、そんな心底怯えるあたしを見て、フォークスは戸惑い気味。 ……っ!そんな可愛らしく首傾げたって、騙されるもんか! クリックリのつぶらな瞳でこっち見て来たって……っ 「ピル?」 嗚呼、可愛いなこの野郎! その、あたしに対して敵意0ですって様子に、思わず理性が崩れる。 元々は結構鳥好きだったからさぁ!? 無理だって、こんな可愛らしくこっち見られちゃったら! で、おそるおそる近づいてみる。 フォークスはそんなあたしを見つめるものの、飛びかかってこようとか逃げようって動作はない。 それに勇気を得て、そろーっと手を伸ばす。 そして、もうちょっとでそのつやつやの羽に手が届く、というその時。 「そこでなにをしているのかね、」 「!!!」 なんとも陰険な声がした。 うああああ、と頭を抱えたくなるのをなんとか堪え、ギギギっと振り向けば、そこには黒づくめなお方が一人。 「何をしているのか、と訊いているのだが?」 米神をぴくぴくさせた、セブルス=スネイプ教授がいらっしゃいました。 寧ろ、お前がなんでいんだよ!と思いつつ、あたしはおろおろと挙動不審気味にあたりを見回す。 うん。この窮地を脱するような、奇跡のアイテムはここにはなかった。 ……役に立たねぇな、グリフィンドールの剣! 「答えたまえっ!」 と、あたしが何も言わないのでスネイプは若干キレ気味。(この短気め!) ここはどうにかその怒りを納めるべく、あたしは必死に口を動かした。 「みみみみ、道に迷いましたっ!!」 「くだらん戯言をっ!!」 うえぇっ!?純然たる事実ですが!? 「いや、本気で迷子なんです、先生!」 「ただ迷っただけの者が、合い言葉がなければ入れない校長室に入れるはずがなかろう!」 「っ!!」 うぉぅ!そうだった!そりゃ、怪しいわ! 合い言葉なんて実際知らなかったし! でもでも、本気であたし、悪いことなんかしてないし、する気もないよ!? ど、どうしよう!?とあたしはこの現状を打開すべく、脳みそフル回転。 考えろ!考えるんだあたし! 神は乗り越えられる試練しか与えないっ!! すると、火事場の馬鹿力というべきか、あたしは矛盾の一つもないパーフェクトな回答を弾きだした。 思いついたら、即実行! あと必要なのは、演技力だ! 「合い言葉なんて、あたし知りません!」 「なにっ?」 「ただ、さまよってたせいで、晩ご飯食べれなかったからお腹がすいて……! ガーゴイルの像の前でお菓子の名前呟いてたら、勝手に階段が出てきたんです!」 ぐーっぐきゅるるる……。 「「……………」」 素晴らしいタイミングで腹が鳴った。 乙女としては恥じらう場面なのだが、状況が状況だけに、空気を読んだあたしの腹に拍手喝さいしたい気分である。 そして、その回答にスネイプを取り巻く空気が変わった。 さっきは「ふざけんなこの野郎!」って感じだったのが、今では「マジで?」に変わっている。 「マジでこの馬鹿、そんな間抜けな偶然で校長室に入り込んでんの?ありえなくね?」みたいな? ……………。 …………………………。 あれ、おかしいな。急に視界が潤んで前が見えないよ?ぐすっ。 ……まぁ、良かった。 ダンブルドアの合い言葉、お菓子限定で。 良かったと思うことにしよう。うん。 と、やがて、あたしを探るように見ていたスネイプは、その言葉に妙な説得力を感じてしまったらしい。 彼は更なる追及をすることなく、心底呆れたように嘆息した。 「まったく……何故はそう、奴を思い起こさせるようなことを……」 「うぁい?や、奴……?」 「貴様には関係ない」 ぴしゃり、とスネイプはあたしの疑問を切り捨てた。 そういう思わせぶりなこと言うくらいだったら、最初から声に出すんじゃねぇよと思うのはあたしだけか? うーん。誰だろ。 スネイプって交流関係狭そうだし……。 ジェームズとシリウスって線はまぁ、ないだろうから、リーマスあたりかな。 あ、それありそう。笑ってごまかしそう、あの人。 と、反応に困っていたその時、あたしはスネイプの背後に誰かがひょっこり現れたのを発見した。 「おやおや。まさかそのように生徒が迷い込んでこようとはのう」 「っ校長!」 スネイプがぎょっとしたように身を引く。 と、その開いたスペースに颯爽と現れたのは、我らが校長ダンブルドアだった。 うん。スネイプが来て、ダンブルドアがいないのっておかしいもんね!? 「ふーむ。話は後にした方が良いようじゃの、セブルス」 「……急ぎの話ではなかったのですか」 「もちろん、急ぎではある。が、どうやらの空腹を満たす方が急を要するようじゃからの」 話の流れからすると、どうやらスネイプは何か話をするためにここにきたらしい。 うわぁ、あたし超お邪魔じゃん!おじ○魔女じゃん! でもごめんね、あたし一人で寮に帰る自信ないんだ! っていうか、そんなもんあったらそもそも迷ってないし! と、あたしができる限り殊勝な表情でスネイプを見つめていると、 スネイプはぐったりと疲れたように溜め息を吐くのだった。 ……ご、ごめんね?先生。 もちろん、この後あたしが盛大に嫌味を言われ続けて、心身ともに疲弊したのは言うまでもない。 腹の足しにはなりません。 ......to be continued
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