勝手な偏見だけど、蛇って絶っっ対!執念深いと思うんだ。





Phantom Magician、25





「で、吾輩の授業にあろうことかずぶ濡れでやってきた君が、で間違いないかね」
「うぁい」



無遅刻無欠席記録、ここに敗れ去る。

それはもう、凍てつくようなスネイプの視線と同級生からの同情を一心に浴びて、あたしは心で滂沱の涙を零した。
それもこれも、全てが全て、あのむかつくピーブズのせいである。
水鉄砲事件ででそんなにプライドが傷つけられたのか、奴はあの後、ことあるごとにあたしを探しまわり、 ある時はバケツ、ある時はウォーターガン(だからお前はそんなもの何処で入手してくる!?)で、 あたしを襲ってくるようになってしまった。
(そんなに、ヒトを濡れ鼠にしたいのか、お前!)
で、もちろんそれらは全て華麗に撃退しまくったあたしだったが、 おかげでフィルチには目を付けられたり(床を水浸しにするため)、こうしてスネイプに怒られたり散々である。

ある時「何でお前はあたしをそんな目の敵にするんだ、バッキャーロー!」と問いかけてみたが、 「お前の顔がムカつくんだぁよぉおぉー!」と返されて、奴との決裂は決定的になった。
(ちなみに、一緒に教室へ向かうハーマイオニーも否応なく巻き込まれており、 おかげで、彼女の危機回避能力はうなぎ昇りである)

で、今日、あたしはローブの端っこに、奴の攻撃を浴びたままの恰好で地下牢教室に入り、冒頭へ到る。
だって!乾かす魔法掛けてる暇もなかったんだもん!!
それに、端っこだけだったから、まぁ、良いかなーって。
だってスネイプの授業に遅刻する勇気ないよ、あたし!


「聞いているのかね、ミス
「はいぃ!」


もう、マジでなんだこの迫力。
別に大きな声を出しているワケじゃないのに、大声で怒鳴られるより怖いってこれ如何に。
ううぅ。折角、遅れないようにハーマイオニーとダッシュしたっていうのに、意味なかったなんて。


「……グリフィンドール1点減点。身だしなみも整えられないなど、最低限のこともできないようだな」


ぐっすん。スネイプの嫌味は平和な時代でも健在だった。
「身だしなみって、お前だって清潔感皆無じゃないか!」と言ってやりたかったのだが、 どういうワケだか、このスネイプは原作と違い、 きちんと身だしなみに気を配っているのか、ちゃんとした容貌だった(何故)
トレードマークのねっとりした黒い髪はどこ行った!?
顔も土気色なんじゃなかったっけ!?色白だけど、あくまでふっつーってどういうこと!?
目に優しくて個人的には、無問題モウマンタイだけど!
気難しげな美系も嫌いじゃないんだけど!
育ち過ぎたこうもり的な描写が全くできないって、原作的には大問題だろ!


「何をじろじろ見ている。早く席に着きたまえ」
「……はい」


詐欺だ。絶対、詐欺だ。
そう思うあたしだったが、この直後の授業展開に、 詐欺どころじゃないんじゃなかろうかと、自分の目を疑う結果となった。


「ポッター。そこは違う。もっと細かく刻みたまえ」
「はい、先生」
「ふむ。見事なゆであがりだ。ポッターが角ナメクジを完璧にゆでたからみんな見るように」
「ありがとうございます、先生」


スネイプがハリーを い じ め な い だとぅ!?

っていうか寧ろあれなんだけど!贔屓してる気がするんだけど!?
え、それってマルコのポジションじゃなかったの!?
これには、あたしはおろか、グリフィンドール、スリザリン、両陣営目を見張るばかりである。
ロンは「え、どういうこと?またジョージ、僕に嘘言ったのか?」と、落っことさんばかりに目を見開いているし、 マルコは元々青白い顔を更に白くさせながら「馬鹿な、ありえない」と呟いていた。
あのスリザリン命なスネイプがどういう風の吹きまわしだ!?と周囲の視線は一点集中。
が、当のハリーはその態度に微塵も疑問を抱いていないようで、和やかに(!)スネイプと会話していた。

もう凄ぇ違和感。
お前、いつのまに頭のネジ落っことしてきたんだ、ってくらいの有様だ。
がしかし、スネイプがグリフィンドールに優しくなったのかと言えばそうでもなく。


「何をしているんだミス 。この程度のこともできないのかね」
「ゆですぎだ。君は魔法薬学を調理実習か何かと勘違いしてやしないかね?
まぁ、もっとも料理としても惨憺たる有様が目に見えるようだが」
「〜〜〜〜〜っ!」


etc.etc……。
寧ろ、ハリーの分の嫌味があたしにきちゃいました☆みたいな?
まさか、あのしょっぱなのことで目をつけられてしまったんだろうか。
いや、まぁ、あたしの手際が悪かったのも怒られる要因の一つな気がしなくもないけれど!
(実を言えば、あんまり料理とか得意じゃないんだよね。)
嗚呼、リーマスに逢いたい。激しく逢いたい。
癒されたいってのももちろんあるんだけど、目の前の陰険教授をどうにかしてほしい。この前のロンみたいに!
(いやぁ、ローブに穴開けられちゃった日のリーマスの笑顔思い出すと未だに心が震えるね。
あれは凄かった。ロンなんてキョンシーみたいな顔色になって、気失ったもん。
リーマス親馬鹿。あたし涙目w)


「お言葉ですが、スネイプ教授」


と、そんな感じで現実逃避する横で、あまりにあたしが怒られまくっているのを見て、 気がつけば、有り余る正義感の持ち主ことハーマイオニーがここぞとばかりに抗議していた。
……あたしが助けを求めたの、別人ですから!残念!
あー。ぶっちゃけ、その後の展開が読めすぎて、気持ちはありがたいが余計なことしやがって、な気分だー。
……言わないけどね。ああ、言わないけどね!


のものより、あっちのクラッブとかの方がよっぽど酷いと思います。
まず先に、あちらの方を注意すべきではないでしょうか」
「ほう、グレンジャー。君は自身より下の者を引き合いに出して、己の失敗を隠そうとするのかね?」
「っ!!」
「……グリフィンドール、卑劣な態度にさらに1点減点」


うふふふふー。もうやめてー。
あたしが原因で、あたしの意思と関係なくことが運んで行くー。
こういう場合はもう諦めるのが一番なのにー。
何でわざわざつっかかっていくんだい、マイハニー。

そんなこんなで、スネイプとハーマイオニーのお互いの印象が最悪になっていくのを目撃し、 あたしはもう色々投げ出してしまいたくなった。
簡単に言えば、脱力である。勝手にやってくれーって感じ。


「もう、あれだよね。1点や2点ごときどうでも良いやって感じー。うふふー」
「大丈夫、!?しっかりして!」


と、がくがくと隣から肩をゆすられて、あたしの意識はようやく現世へと舞い戻る。
瞬いた先には、プリティーフェイスの癒し系眼鏡っ子が、心配そうな面持ちで立っていた。
うわい。黒ぶち眼鏡ー。


「減点されちゃったのは残念だけど、気を落とさないでよ、
「ありがとう、ハリー。君のおかげで、とりあえず正気に戻れたよ」


っていうか、眼鏡のおかげで若干浮上したっていうのが正しい。
が、まぁ、ハリーのおかげっちゃおかげなので、弱々しく笑みを浮かべてお礼を言っておく。
すると、純情ボーイはそれに対して頬を染めつつ、一生懸命弁解を開始した。
え、誰の弁解かって?そりゃあ、もちろん、我らがスネイプ教授でございますことよ?


「悪い人じゃないんだけど……グリフィンドールが嫌いらしいんだ」


ええ、まぁ、嫌いでしょうねぇ。
グリフィンドールの人ってデリカシーに欠けるし、ジェームズのいたところだし。
あたしの友達もグリフィンドールないわーって言ってたよ、確か。


「僕にも『くれぐれもスリザリンになってくれ』って言ってたくらいだし……。
よっぽど、学生の時に嫌な目に合わされたんだろうね」


へぇーほーふーん。
そうなんだぁ……――


「って、ちょっと待った」
「?なに?」
「ハリーってスネイプ先生の知り合い……なの?」


あたしの恐る恐るの問いかけに、ハリーはそれは良い笑顔で答えた。


「うん。母さんの親友なんだ」


嗚呼、良い笑顔。
ってそうじゃなくて!!


「え、本当に?妄想とかじゃなく?」
「もちろんじゃないか。よく父さんがいない時に遊びに来てくれるよ?」


な ん て こ っ た 。

そ、そうか!リリー生きてるんだもんね!?
おまけに愛の障害ことヴォルデモートもいないワケだし、 ジェームズのことさえなければ、ハリーは愛する人の愛する息子なワケか!?
見た目はジェームズだけど、ハリー性格は(おそらく)リリー似だし!
そりゃ可愛いわ!


「え、つまりはあれ?ハリーにとってスネイプ先生って『素敵なおじさん』な立ち位置なワケ?」
「え、あ、うん。そうだね。血は繋がってないけど、父さん以上に父さんらしいよ」


……さすがスリザリン。
将を射んとすればまずは馬からですか!?

思わぬところで、ポッター家分裂の危機を知ってしまったあたしである。
間違いなく、ハリーの評価はスネイプよりだ。
ジェームズ、お前家族自慢してる場合じゃないって!
っていうか、スネイプ執念深いな、オイ!諦めとけよ、そこは!
相手もう人妻じゃん!

スリザリンの鏡ともいうべきスネイプの行動に恐れ慄く。
なので、思わず、スネイプの方へ視線を向けてしまった。


「「…………」」


がっつり目が合った。



「……は、はい」
「余所見をするとはなかなかの度胸のようだ。そんなに減点されたいのかね?」
「す、すいませんでした……っ!」





嗚呼、誰かこいつをストーカーで訴えようぜ?
冤罪でも構わないからさっ!






......to be continued