フラグは立ったら回収しなきゃいけないと思う。
でも。






Phantom Magician、21





「うへへー」


自分の部屋でリーマスとの先日の逢瀬(きゃっw)を思い出しつつ、にやける。
これが、最近のあたしの日課となりつつあった。
いや、ちょっと自分の考えてたのとは違ったけど、結果的に仲良くなれた(?)からよし!
あの告白の後、リーマス達はとりあえずあたしを食べることを止めてくれ、 おまけに自分が人狼だという重要なカミングアウトまでしてくれたのだ!
嗚呼、たどたどしい口調で『怖く、ない?』と言ったリーマスが忘れられない。
何だ、あれ!あたしを悶え死にさせるつもりか!効果抜群だったよ、この確信犯!!
あ、もちろん、速攻で否定したよ!?
そうしたら、リーマスったらどうしたと思う?
ちょっと戸惑いつつも、『ありがとう』ってこの上なく優しく言ってくれたんだよっ!
嗚呼、もうあたしあそこで死んでも悔いないと思った!


「うへへへへー」
『喧しいわ!』


ベシッ!と机に飛び乗ってきたスティアがあたしの頭に猫パンチを繰り出してきた。
地味に痛い。


「何すんの!?」
『いや、ウザイから黙らせようと』
「普通に答えるなよ!そして、謝れよ!」


猫パンチが痛くないってあれ嘘だよね。
爪が出てないだけマシだけど、本気でやられたら痛いよね。

恨めしげに睨みつけてやると、スティアはそれはもう苛々と口を開いた。


『寧ろ、毎日毎日ここにいもしない人間・・・・・・・・・・のことを考え続けてることを謝ってよ。
思い出し笑いを見せられる度に不快指数がうなぎ上りなんだけど』
「思想の自由、全否定!?だって、しょうがないじゃん!
こんなことでもしてないとあたし耐えらんない!!」


そう、実を言えば、ここにリーマスはいない。
明日はあたしホグワーツに行くっていうのにね!?
もうすぐリーマスと毎日逢えなくなるのかって涙ぬぐってた矢先に、 当のリーマスったらあっさり仕事でいなくなりやがったんだよ!それも6日も前にっ!
ヒロインとの別れにいないってどういうことなんだよ。
いるのはまさかのヘタレワンコだよ。
普段は仕事の関係(闇払いだったか?)でいたりいなかったりするくせに、 この週はリーマスからの脅迫要請であたしの面倒みてくれるんだってよ。
実際、面倒見てるのはあたしなんだけど!
できない訳じゃないみたいなんだけど、なんかよっぽどじゃないとやってくんないんだ、あの俺様男!

分かってる。分かってるよ?
人狼は就職難だし?お仕事しないと食べてけないよ、うん。
それに、あたしはホグワーツ特急の出る9と4分の3番線の場所知らない設定だしね?
見た目10歳前後のか弱い女の子だもん。
保護者が必要なのは、あたしだって理解してるさ。
でも、何でそれがリーマスじゃないんだよぅ!?
お見送りしてくれるのがシリウスって何のイジメ!?
あたしとリーマスって運命の赤い糸で結ばれてるはずじゃなかったの!?


『それを人は妄想と呼ぶ』
「……何か、言った?」
『いいえ、なんにも』


と、あたしとスティアの会話がひと段落したところで、階下からあたしを呼ぶ声がした。


「オイ。そろそろ降りてこい。晩飯だ」


とっても素敵な言葉だが、裏にあるのは「晩飯作れ」の一言である。
それにしてはちょっと声掛けてくるのが遅かったが、まぁ、気のせいだろう。


「まったく。あいつあたしを家政婦か何かと勘違いしてない?」
『寧ろ、屋敷しもべ妖精じゃない?』
「もっと悪いな、それ」


はぁ……と盛大な溜息をつきつつ、仕方がないから部屋を出る。
すると、意外なことに漂ってきたのは如何にも美味しそうな、料理の匂い。
なんだか、香ばしいスパイシーな肉の匂いやら、何やらがする……。

かなり驚きながら、あたしはリビングへと向かい、そこで予想通り料理の山を発見した。
もう、何人分食べるんだ、これっていうような豪快な盛り方の食事がテーブルに所狭しと並んでいた。


「何だこれ?夢?」
「なにを訳の分からないことを言ってるんだ。早く席につけ」


固まっていると、シリウスが呆れたようにあたしを促した。
でも、思わず茫然となってしまったあたしを多分誰も責められないと思う。
だって!だって、あのシリウスが!
エプロン着けてパーティーばりの御馳走を用意してあたしを待ってただとう!?
え、明日って雪でもふんの?寧ろ槍?
ハッ!実は天変地異の前触れだったり……っ!?


「し、シリウスさん……熱でもあるの?」
「は?何でそうなるんだ」
「だって、いつもあたしにご飯作るの強制するくせに!そのくせ文句ばっかりなくせに!
いきなりこんなことするだなんて、熱で頭が沸いてるとしかっ!!」
「…………」


ごんっ!


無言で拳骨を頂戴した。
〜〜〜〜〜〜〜っ!暴力反対!!

あまりに理不尽なその扱いに、頭を押さえつつシリウスを睨む。
が、そっぽを向いたシリウスの頬が何故だか赤かったのを見て、あたしはきょとんと目を丸くした。
まさか本当に熱……なワケないよねぇ?さっきまで普通だったし。
それとも、あたしの色っぽい涙目に赤面を!?(……冗談です。石投げないで!)

妙な態度のシリウスに疑問符を浮かべながら、彼を凝視する。
と、その視線の先で、シリウスは小さくなにか呟いた。


……だろう
「はい?」


いや、聞こえないよ。そんな小さい声じゃ。
とりあえず、普通に促したあたしだったが、それに対してシリウスは苦虫を噛みつぶしたかのような唸り声を上げ、 もう、本気で無理矢理捻り出したかのようにさっきの言葉を繰り返した。


「だからっ!お前は明日から学校だろうっ!!」
「うぇ?まぁ、はい。そうですけど?」
「その祝いだ!折角用意してやったんだから、さっさと食べろっ!!」


…… シ リ ウ ス 、デ レ た ー !!
うええぇ!?いつのまにシリウスイベントのフラグがっ!?
この数日、ふっつーに生活してただけなんだけど。
っていうか、ごめん。あたしリーマスのものだからっ!
その気持ちには応えられないっ!
(『いや、立ってない、立ってない。せいぜいが友情イベントだって』)
いや、確かにこういうサプライズを一生懸命してるのを想像すると、ちょっと心惹かれるのがないでもないけど!
おまけに美形で声も良いとか、ストライクゾーンど真ん中だけれども!
あたしにヘタレは愛せないっ!


「何を見てるんだっ!」
「え、あ、シリウスさんの赤くなった顔を目に焼き付けようかと……」
「〜〜〜〜〜〜っ!」


何だ、このデカイ子どもは。可愛いな、オイ。
いつの間にこんなに懐かれてたんだ、あたし。
グラグラと理性が音を立てて揺れているのを感じていると、 スティアが『からかうの止めて、そろそろ座ったら?』促してきたので、とりあえずあたしは大人しく席についた。

落ち着け、落ち着くんだ、あたし。
とりあえずあれだ。料理食べよう。冷めちゃうし。

と、あたしがちゃんと席についたのを見て、シリウスもゴホンとわざとらしい咳を一度して座る。
どうやら、なかったことにするらしかった。


「「いただきます」」


で、合掌。
最初にやった時は、二人にきょとんとされたけれど、流石にもう慣れたもので、 今ではシリウスもリーマスも一緒に「いただきます」と「ごちそうさま」はしてくれるようになった。
元々、日本にそういう文化があったのは知っていたらしい。適応力が高くて助かる。

そして、あたしはその時のきょとんとしたリーマスの表情カオが可愛かったなぁと思いだしつつ、 目の前にあったステーキを切り分けた。
どうにも、坊ちゃん育ちだからなのかなんなのか、シリウスは肉系が好きらしい。
だから、動物もどきアニメーガスの時もでかい犬なんだよね、きっと。
が、あたしはあんまり肉が得意じゃない。
高校の時に、家庭科で豚の解体見てから、なんとなく駄目になった。
食べれなくはないんだけれどねー。あえて食べたくはないかな。

と、そこであたしはシリウスのとあたしの肉が大分違うサイズなのに気付いた。
大人と子供ってのももちろんあるんだろうけど、それにしても違いすぎる。
おまけに、よくよく見てみれば、あたしの好きなサラダ系やデザート系のものはあたしのエリアに集中していた。
これは、もしかして、もしかすると……?


「あのー」
「……なんだ」
「や、なんでもないです」


言うと、間違いなく食事どころじゃなくなりそうだったので、言葉を飲み込む。
……気遣いってものができたんだね、シリウス。(ほろり)
嗚呼、そういえば、何気なくスティアのごはんも毎度毎度ちゃっかりシリウスが用意していた気が……。
(うん?でも、それってただの猫好きか?……あたし猫以下の扱いっ!?)

が、そんなあたしの様子に、シリウスは怪訝そうな表情カオをした。
しかも、それだけじゃ飽き足らず、まさかの問い質すという行為に出てくる。


「言いかけておいて止めるのか。一体、何なんだ。
言いたいことがあれば言えば良いだろう」
言ったら、絶対照れるくせに……
「何だ」
「いや、本当に何でもないですってばっ!」


もう一度拳骨をされるのは嫌だったので、必死になって誤魔化す。
誤魔化し切れてない感がしたけど、それは無視!なせばなるっ!!

と、あたしが一生懸命話を逸らそうとしているのを見て、シリウスはそれは納得のいっていない様子だったが、 やがて埒が明かないと思ったのか、仕方なしに話を合わせてきた。(やっぱり明日は雪だな)


「ただ、シリウスさん料理上手いなーと思って!」
「……まぁ、もともと器用な方だからな。それに成人してからしばらくは一人暮らしだったし」
「へぇー。ちゃんと自活してたんですね」


魔法遣いの成人は確か17歳だっただろうか。
つまり、日本でいうところの高校2年生。
流石に、大学生になった時はあたしも自活を始めたが、実家の援助があってこそだったのを思い出す。
シリウスの家でそんなことをしてくれるとも思えなかったので、 援助もなしに独り立ちしたというシリウスに、あたしは素直に感心した。


「別にそのくらい、どうということでもない」


あたしが素直だったからか、シリウスも素直に笑みを浮かべて和やかに会話した。
き、貴重な笑顔だったっ!思わず目がチカチカしたよっ!!
いつもこうなら良いのにっ!!顔だけは良いから!


「いやぁ、凄いですよー!あたし家大好きだから、そんなの考えられないし」


っていうか、成人してもいまだに家から離れられていない自分がいる。
いや、ちゃんと一人暮らしだよっ!?
でも、家から30分のところで、土日に入り浸ってるから、正直自活には程遠い……。


「なら、何故、親元から離れて平気な表情カオをしていられる?」
「へ?」


と、実家のことを思い出していたため、あたしは不意のその質問に間の抜けた声を出してしまった。
……そういえば、前にもそんなことを言っていたような。
多分、自分は親元から離れても平気だったろうに。
あ、でもジェームズの家に居候してた時期があったんだっけか?
確かにシリウスの中で家族仲が良いだろう『ポッター家=普通の家』だったら、 あたしの態度は不自然に感じるだろうけど。

でもなぁ。これ夢だし。

幾らなんでも、夢で家族に逢えないからって、そこまで打撃うけないよ?あたし。
まぁ、流石に何年とかの長期間になれば寂しくもなるけど。
まさか、そんなワケもないし。
え、ないよね?夢だし。


「や、別に寂しくないとかじゃないですけど」
「けど、なんだ」


なら、思いっきり、ハリポタ世界を謳歌しないと損だと思ってるだけ。


「シリウスさん面白いし。リーマス格好良いし。
あんまり寂しいって思ってる暇ないなーなんて」


思わず、笑みが零れる。
思い返してみれば、なんて波乱万丈な一か月だったんだろう。
箒から落ちるわ。リーマスにぎゅっとしてもらえるわ。シリウスの破顔一笑目撃するわ。
ハリーの可愛さにやられるし、ジェームズにいじめられるし。
物凄い濃い内容だ。さすがあたしの夢。

と、シリウスはその一言に目を見開いた。
そんなことを言われるとはそれこそ夢にも思っていなかったらしい。
がしかし、次の一言はあたしも想像していなかったものだった。


「そう、か……」
「そうですよ」
「なら、最後に一つだけ訊く」
「はい?」
「お前の両親の名前は・・・・・・?」
「は?」


なんでこの流れで出てくる一言がそれなんだ。


「何ですか、突然やぶからぼうに」
「……娘を見ず知らずの人間に預ける失礼な連中の名前が気になっただけだ」


お前も十分失礼だけどな。と思いつつ、シリウスの言い分も一理ある気がした。
確かに、何の断りもなしに、ダンブルドア通じて娘寄越すとかどういう親だ。
まぁ、別に言っても問題ないので、あたしは口を開く。
(フルバじゃないし、名前があっても人呪えないよね?)


「えーと、××××と○○○○だよ」


が、きちんと答えたあたしの方は見ず、シリウスは急に興味を失ったかのように「そうか」とだけ言って食事を再開した。
うん。やっぱこいつの方が失礼じゃねぇ?







そして、リーマス宅での最後の晩餐(違う)を終えた、明くる朝。


「やっぱり、リーマスはいないのか……」


あたしのテンションはだだ下がりだった。
やっぱりあたしには主人公のミラクル体質がないらしい。
だって、普通、ここでタイミングよくリーマスが見送りにくるもんじゃん!
が、やっぱり目の前で荷物確認しているのはシリウス。
昨日の件で若干株が上がったけど、やっぱりリーマスには敵わない。


「……よし、全部揃ってるな」


うん。あたしこれでも成人してるからね。

半ば以上死んだ瞳をしながら、細々動くシリウスを見る。
が、しかしシリウスはその視線には気付かないようで、「そろそろ行くか」と言いだした。

……頑張れ。頑張れあたしっ!
ホグワーツ行けば、ハリーもいるし、マルコもいるんだからっ!!
前向き前向き!Let's ポジティブシンキング!!
魔法も使えるようになるし、ハーマイオニーとは友達になれるし!
スネイプの授業も受けれる(あれ、あんま嬉しくない響き)し!
休暇になればリーマスにも会えるしっ!!
…………。
……………………。
……って休暇で足りるかボケェエェエェーっ!!
うわん、やっぱ行きたくないよぉおぉぉー!
リーマスに逢えないなんて、あたしがこの夢を見てる意義はどこ!?なくない!?
うわん、リーマスが足りないリーマスが足りないリーマスがた〜り〜な〜い〜っ!!


『諦めてよ、


無理だよ!あの真っ黒な天使の微笑みがしばらく見れないなんてっ!!
駄目だ、耐えらんない!すでに禁断症状出かかってるもん!


『禁断症状ってなにさ。はい、行くよー』


心の中で絶叫するあたしをそれはもう物の見事に無視して、 スティアはあたしのトランクの上に飛び乗った。
最近、こうやって無視されるの多くないかなーって思うんだけど、どうよ!?

とりあえずスティアに八つ当たりをするべく、その首根っこに手を伸ばす。
が、その手がスティアに届く前に、あたしの首根っこをシリウスが引っ掴んだ。
待て待て待て、あたしは猫じゃないんだけど!?
あっち!猫はあっちぃー!!


「行くぞ」
「や、ちょっと待……っ!!!?」


そして、あたしは抗議する間もなく、姿くらましをさせられたのだった。
もちろん、ついた先では気分最悪。
さらには、首根っこ引っ掴まれてるところをホグワーツ生にがっつり目撃されるというおまけつきだった。
マジでお前、どっかでデリカシー買ってこい。





ごめん。やっぱ、お前のフラグはいらないわー。





......to be continued