ゲームでもなんでも、装備は拘るものだとは思う。






Phantom Magician、17





ジェームズだけでなく、リーマスまで揃いも揃ってどうしてあたしを疲れさせるんだろう。
自分の前方で楽しげに話している保護者連中を見て、あたしは誰にともなく愚痴を零したい気分だった。
唯一まともなのが、最年少のハリーってこれ如何に。

ダイアゴン横丁で過ごした数時間で分かったことだが、 リーマスはヘタレが近くにいないと天然で爆弾のような人だった。
ジェームズは良い。
ジェームズは元々性格がアレであることは知っていたし、やることなすこと基本は計算づくだ。
大体において、自分をからかおうとしていると決めてかかれば、対処を間違えることもない。
シリウスも良い。
無駄に顔が良いことを除けば、奴は結構単純で分かりやすいし、行動も裏がない。
がしかし。
リーマスはそんな一筋縄ではいかなかった。
ヘタレが傍にいる時はまだ良いのに。
だって、真っ白な天使の微笑みの裏が真っ黒だって、オーラで分かるもん。
が、今みたいにリラックスモードで素が思いっきり出ている時の彼は、何を言い出すか分かったものではない。
日本人が慣れていない、女の子を褒め称える言葉を連発するし、 落ち着いた成年男性からは考えられないような突飛な発言を真顔で発したりするのだ。
いや、そんなところも若干キュンとする部分なのだけれど。
……前者が限りなく疲れる。
頼むから、そんなあたしを美化しないで欲しい。


『いやいやいや!リーマスそんなことないよ?あたし、顔も平均だし。声も低めだし』
『本当には控え目だね。
瞳は神秘的な黒色で大きいし、頬はいつも林檎みたいで愛らしいのに。
声だってその歳にしたら酷く落ち着いていて、聞いていて心地良いよ?』
『…………』


一を言ったら十を美化150%で言われるあたしの心中を察してくれ。
どんなポジティブシンキングなんだ。
……ちなみに、こんなやりとりが買物の最中、結構な頻度で行われていたりする。
言えば言うほど恥ずかしくなっていくってどんな拷問なんだ。黙るしかないじゃないか。
もう、どうしてそんなふっつーの表情カオでリーマスがそんなことを言えるのかさっぱり分からん。


「……大丈夫?
「……大丈夫ー」


心優しき少年――ハリーが気遣ってくれて、ほろりと涙が零れそうになる。
間違いなくリリーの教育が良かったに違いない。
下がる一方の父親と違い、心の中でハリーとリリーの株はうなぎ上りである。
そして、年下の可愛い男の子に心配されっぱなしじゃ女が廃るとばかりに、 あたしは自分を奮い立たせるために口を開いた。


「ええと。次は何を買うんだっけ?」
「鍋とかはもう買ったし、ローブは終わった。あとは……」


へぇ。鍋もう買い終わったんだ。
それはあたしがジェームズにさんざんからかわれていた、あのやたらと銀色が店の中に溢れかえっていた場所か。
……いつの間に。
買い物は楽しみにしていたはずなのに、 余計なところに気を取られて、肝心の商品選びの記憶がないとは本末転倒だ。
魔法薬の材料は正直ドン引きのものばかりなので、そういう関係の店はどうでも良かったが。
それでも、秤やらなにやら、自分が使うものはできるだけ気に入ったものが良いじゃないか。
……こうなったら、自分の持ち物を色々カスタマイズしてやろう。デコってやろう。
ゴテゴテしてるのはうざいが、少しぐらいであれば可愛いとか思う乙女心があたしにもあるのだ。
さて、次の店でこそちゃんと選ぶぞ、と気合を入れると、ハリーが思いついたように次の行き先を告げる。


「ああ、次は杖だよ!オリバンダーさんのとこだ」
「え、本当?」
「他に買ってないものもないしね。道もこっちだったし」
「杖かぁ……うわぁ……」


魔女っ娘の必須アイテムがとうとうお目見えかっ!
嗚呼、長かった。
ここまでの道のりが、もうビックリするくらい長かった気がする。
そうだなー。夢小説で言えば、普通2、3話でGETするものを17話くらいかかった感じ?
まぁ、妙に現実感のある夢だからかもしれないけれど、ままならないものである。
原作だって、もっとさくっと買い物していたというのに。

まぁ、とにかく。
ハリーの一言で一気にテンションの上がったあたしは、自分の杖がどんなものなのか想像の翼を逞しくするのだった。


「杖かぁ〜、どんなのだろう?木の素材とか芯とか色々違うんだよね?」
「そうだよ。リーマスにでも聞いたの?
父さんはマホガニーで、母さんは柳の木なんだ。芯はえーと……何だったかな……。
確か、身長とか得意な呪文とかでも長さとか全部変わるって聞いたよ」
「へぇ。そっか。長さも違うんだったっけ。
ハリーはどんなのが良いとか決まってるの?」
「うーん。どんなのっていうか、使いやすければ何でも良いけど。
ただ、早く杖選びが終わって欲しいかな。
オリバンダーさんって前に逢ったことあるけど、ちょっと苦手なんだ」


ハリーのオリバンダーに対する苦手意識は変わっていないらしい。


「そういうは?どんな杖が良いの?」
「へ?あー、うん。あたしも使いやすければ良いけど。
そうだなぁ。木の材質とかは桜とかが良いかな。あたし桜好きだし」
「サクラ?」
「あ、ヨーロッパの方ってないんだっけ?
薄いピンク色でね、春に木に咲く花なんだよ。
満開だと圧倒されちゃう位でね。散る時もはらはらって落ちて綺麗なの」
「へぇ。見てみたいな」
「うん。見せてあげたいなー。本当に綺麗なんだよ。
桃とか梅も良いけどね。でもやっぱり春って言ったら桜かな」


思わず、友達と行った花見を思い出して、口元が弛む。
馬鹿騒ぎする感じではなく、本当に花を愛でに行った、懐かしくも愛おしい景色を。
嗚呼、そうか。
ここには桜はないのか。
それは、桜が身近な日本人からすれば、微かな違和感を感じる事実だった。


「ふーん。そっか。じゃあ、桜の杖がを選んでくれると良いね」
「うん。ハリーもね」


まぁ、どんな杖を買うにしても、それは店に行ってみなければ分からないことだった。







最後の買い物の店は狭くて、言っちゃなんだがみすぼらしかった。
ショーウィンドウは埃まみれだし。
正直、本でもそんな描写だったけれど、もうちょいどうにかならなかったのだろうか。
紀元前創業にしたって、改装とか色々すべきだと思う。
ああ、でもあれか。
杖って確か七ガリオンだか八ガリオンで案外安かったりするんだっけ。
(どっかで誰かがガリオンをポンドで計算して、更にそれを円に直してたところ、1ガリオン=870円とかだった気がする)
ってことは、多く見積もって8×870=6960円?
いやん!む、く、ろ……っ!?
ちっちゃいところだけど、やっばい、ちょっとテンション上がった!
これはもう、あたしいよいよクロームに改名するしかないかな!


『するな!っていうか、君本当に気が多いなぁっ!
ハリポタの世界に来てて、某週刊連載のマフィア系漫画のキャラを思い出すなよ!
言葉だけでにやけるってどんなレベルの腐女子なんだ!
というか、そもそも1ガリオン=820円だし!6560円でムツゴロウだし!!』


…………。
いや、うん。こんな妄想してる場合じゃないな。
だって、あたし腐女子じゃないし。

鋭すぎるスティアのつっこみに、若干冷静さを取り戻すあたしだった。

そして、こんな狭い店に4人+1匹も入るのか、といらん心配したが、一応それは杞憂に終わり。
店の奥からは、チリンチリンという鈴の音と共に、一人の小柄なお爺さんが現れた。


「いらっしゃいませ」
「やあ、オリバンダー老。お元気そうでなによりだ」
「これはこれはポッターさん。二十六センチ柳の木。よく覚えておりますとも。
今日は一体何をして杖を折られたのかな?」


ジェームズ、まさかの常連だった。
なるほど、まだ杖を持っていないハリーがなんでオリバンダーが苦手なのかと思ってたが、 ジェームズの買い物にでも付き合った時に逢ったんだろう。
なんか、無駄に不気味だもんなーここ。

と、オリバンダーの勘違いをジェームズはそれこそ悪戯っ子のように快活に笑い飛ばした。


「あははっ!違うよ、今日は息子とその友達の杖を買いに来たんだ。
僕とリリーの自慢の息子のハリーさ。前に来てただろう?」
「おお。では、そちらの坊ちゃんが。通りで」
「どうだい?僕に似て賢そうだろう?」
「それはどうじゃろうな。お母さんと同じ目をしていなさる」


慣れているのか、ジェームズの息子&嫁+自分自慢をさらっとオリバンダーは流した。
どうやら、中々の強者のようである。
と、ハリーを見ていた視線が、その隣にいたあたしに移った。


「!こちらのお嬢さんは……」
「ああ、この子はだよ。私が預かっている子なんだ。
それよりもオリバンダー氏。早く杖を選んでくれないかい?」


どこか驚いた風なオリバンダーの声を、少し強いリーマスの声が遮る。
きっと、長々とした口上を聞かされるのが嫌だったに違いない。
まぁ、ハリーと違ってあたしは比較される親族も何もいないので、話す内容はなかっただろうけど。


「……ふむ。では、ポッターさんから始めましょう」


ちらっと、リーマスに目を向けたオリバンダーだったけれど、 大事なお客さんなのでそれ以上は言わずに、素直に仕事を開始した。
利き腕を聞いたり測ったりしながら、杖についての説明を受けるハリーは真剣だ。
そういえば、ヴォルデモートと対の杖は結局どうなるんだろう。
んー。やっぱりハリーのものになるんだろうか。
まかり間違って、あたしの杖になっちゃったりしてvきゃっw

と、ハリーの杖被害の及ばない場所で、あたしが一人妄想に耽っていると、 思ったよりもすんなり、原作通りにハリーの杖は決定した。
すなわち、柊と不死鳥の羽根、二十八センチ、良質でしなやかである。


「…………」


……自分の杖に〜云々かんぬんと考えていた自分がちょっと空しくなった。

さて、自分の杖に感動しているハリーだったが、次の瞬間、彼の表情は硬く強張ることとなる。
なにしろ、これまた原作通りに、オリバンダーがヴォルデモートと兄弟杖だとか言いだしたからだ。
今はヴォルデモートがいない世界だとかスティアから聞いてはいたものの、 希代の闇の魔法使いと同じ杖だなんて言われて嬉しいはずもないだろう。
空気読めや!と思いつつ、あたしはオリバンダーとハリーの間に体を滑りこませ、自己主張をしてみた。


「オリバンダーさん、次はあたしの杖選んでください」
「……ええ。そうですな。次は貴女の番だ」


あからさまに後ろでほっとした気配がしている。
嗚呼、良いことしたなーと、地味に浸っていたかったが、 あたしはこのあと延々と続く杖選びに、もうちょい覚悟を決めてから臨むべきだったと後悔することになる。


「では、さん。これをお試しください。ぶなの木にドラゴンの琴線。
二十三センチ、良質でしなりがよい。手に取って、振ってごらんなさい」
「……何も出ませんねぇ」

「楓に不死鳥の羽。十八センチ、振り応えがある。どうぞ」
「……はい。無反応」

「黒檀と一角獣のたてがみ。二十二センチ、バネのよう。さぁ、どうぞお試しください」
一角獣ユニコーン!良いなぁ、これ良いなぁ……で、なんもなし、と」

「樫の木に何かの生き物の鬣。二十センチ、脆く弱い。これなど如何かな」
「何かの生き物って何!?そんな得体の知れないの嫌だーっ」

「柊に妖精の尿道。十センチ、細身でしなやか。これは……」
「ぎゃああああー!そんなん誰が触るか、この変態ぃいぃー!!」

「ならば、これはどうじゃ!杉の木に水虎の爪。三十センチ、力強い!」
「……水虎ってなんか格好良い!」
『いや、それって河童っぽい生きもので格好良くはないよ』
「え、河童!?それって奴良組の河童!?」
「……は?いや、水虎は河童ではないですな」


そんなこんなで、難航する杖選び。
生き生きするオリバンダーとは打って変わって、あたしや他の面々はもうぐったりしている。
ジェームズに至っては、「僕、ちょっとハリーとお茶してきて良いかい?」とか言いだす始末だ。
リーマスが無言で笑顔を向けたら黙ったが。

そして、心なしか肌つやの良くなったオリバンダーは嬉々としながら、店の奥をごそごそと漁る。
後半になるにつれ、芯がゲテモノ染みてるのは気のせいだと願いたい。


「難しい客じゃの?え?心配なさるな。必ずピッタリ合うのをお探ししますでな。
……さて、次はどうするかな……おお、そうじゃ……。
桜の木に人魚の鱗と涙。二十七センチ、細やかで大胆」


そのまともな説明を聞いた途端、あたしにぴったり!とか思わず思ってしまった。
ああ、なんだろう。
すっごくこの杖があたしのものだって気がする!
っていうか、これ以外にもうまともな杖を出してもらえない気がする!
どきどきと、もはや事務的だった杖を受け取る動作にも心が入り、 あたしは期待にキラキラと瞳を輝かせながら、掛け声とともに杖をふるった。


「えいっ!」


杖がすっぽ抜けた。


「…………」


もちろん、周囲には何か変化が起こったとかそういうことはない。


「ぶっ!くっくっく……あーっはっはっはっは!」
「……父さん、そんなに笑うとに悪いよ」


心優しいハリーがジェームズを諌めるが、ツボにでも入ったのか、奴は苦しそうに椅子の上で悶えていた。
そのまま笑い死んでしまえ。
と、あたしは愛しのリーマスの反応が気にかかり、 オーバーリアクションのジェームズから離れた位置にいる彼に目を向けた。


「…………っ」


……リーマスは、それはもう微笑ましそうに、見るものが癒されるような真っ白な微笑みを湛えて立っていた。
何だろう。激しく複雑なんだけど。
笑われてるのは恥ずかしいけど、でもそんな笑顔が見れるなら、何回でもやりたくなるような、うん。
それをやっちゃ、おしまいだけど。

と、難しい表情カオで唸っていたあたしの元へ、 同じく今の醜態で笑っていたのであろうスティアが口元をぴくぴくさせながら近づいてきた。


『えいって信号機にかけるんじゃないんだから、もうちょい他に掛け声なかったの?』


うっさい!1年生の国語の教科書なんぞ引き合いに出すな!!
あたしだってなー!すっごい確信を持って振るった杖が外れで落ち込んでるんだよ、この野郎!


『いやあ、残念だったね。残念無念また来週ー』



手前ぇー……おちょくってんな?おちょくってるんだな?
その棒読みにすらなってない、超適当感溢れる慰めは喧嘩売ってるとみて間違いないな!


『いやだなぁ。喧嘩なんか売ってないよ。
ただ、僕はの無駄な努力を生暖かい目で見てただけ』


気持ち悪いわっ!
って、うん?『無駄な努力』?

物凄く聞き捨てならない一言に、思わず首根っこをひっつかんであたしはスティアを宙釣りにした。

オイ。無駄な努力ってどういう意味だコラ。


『え?そのままの意味だよ?
僕、最初に言っておいてあげたじゃないか。には魔力がないって。
そりゃあ、どの杖使ったって、反応なんかするはずもないよ』


……その一言に、あたしの中で驚いていたオリバンダーの姿がありありと思い浮かぶ。
ああ、そりゃそうだよな。
魔力を欠片も持ってない子が杖買いに来たとか言ったらそりゃ驚くわなっ!


「ふざけんなぁあぁあぁあぁー!!」


あたしは思わず激情のまま、スティアを力強くぶん投げた。
横でハリーがぽかんと目を瞠っているのに気付いたのは、その数秒後のことである。
……大和撫子の幻想は儚くも散ったようだ。







『やれやれ。いつか動物虐待で捕まるよ、君』


ハリーたちにどう言い訳をしようと頭を悩ませていると、 そういけしゃあしゃあ言いながら、スティアは悠々と足元に戻ってきた。
何で無傷なんだ、コイツっ!
ちっ!壁に叩きつければ良かったか!


『なに、血も涙もない、ヒロインにあるまじき思考に走っているのさ。
まぁ、とにかく。はい。これがの杖。待ってるのにも飽きたし、僕が持ってきてあげたよ』


やたらと恩着せがましい言い方をしながら、スティアは口に咥えた木箱をぽとっと落とした。
しゃべりながらそんなものを咥えるなんて器用な奴だと思ったが、 まぁ、実際に声を出しているワケでもないので、どうにでもなるんだろう。

……いや、っていうか、持ってこられても。
あたしに魔力がないから、どの杖も無理とかのたまったのはどこのどいつだ。

と、あたしの全力で呆れかえった瞳を、スティアは鼻で笑い飛ばした。


『だから、これは特別製。とにかくごちゃごちゃ言わずに、良いから振ってみてよ』


……もう一回投げてやろうか、と思いながらも、不承不承その箱を拾い上げる。
何であたしの案内役がこんな奴なんだろうと嘆きつつ、さてどんな杖か、と覗きこんでみると。


「おお!それがあったか!」
「んぎゃあ!近っ!近いよアンタっ!」


いつの間にか足音も気配もなくやってきたオリバンダーが、杖を奪い去っていった。
それは、漆黒の杖だった。
曲がりもせず、折れてもいないその杖は、つやつやとその滑らかな質感を光沢で伝えている。


「ええと、その杖ってどういう杖なんですか?」


驚くほど愛おしげに杖を見つめる老人に、心も体も距離を取りつつ、そう訊ねる。
何しろ杖のエキスパートだ。
店の杖は全部知っていると豪語するんだから、この爺さんに訊くのが一番良いだろう。
(スティアには訊かない。訊きたくないっ!)
がしかし、それに対する、オリバンダーからの返事は、それはつれないものだった。


「分からん」
「…………は?」


アンタが作ったんじゃないのかよ。


「黒狐の尾、二十二センチ。激しくも繊細。それは確かじゃ。
十年前・・・、甚大な力を持った九尾の狐自らこの店にやってきて提供していったものじゃからのう」


九尾の狐という単語は、漫画好きとしてちょっと胸躍るものだった。
黒いのなんて聞いたこともないが。
普通、九尾の狐と言ったら、白面金毛九尾の狐である。
が、しかし、それは良いとして、じゃあ、木はどっから持って来たんだ、お前と思う。


「えーと……芯は分かりましたけど、木は……」
「それが分からん。わしは今まで数多くの杖を見てきたが、こんな木は見たことがなかった。
なにしろ、この木は天から降って来たんじゃ。見ただけで甚大な力を秘めていると分かった。
じゃから、わしはそれを持ちかえって杖の材料にした……」


いや、するなよ。そんな得体のしれないの。
なんて爺さんだ、と思いつつ、材質が非常に気になる。
芯ほどの奇抜さはないと信じたいが、ここは魔法世界。
変なものでできている可能性大だ。……暴れ柳とかだったらどうしよう。


「ささっ!振ってみなされ!!」
「え、や。まずは何で出来てるか知りたいんだけれどもっ!」
「ええい、そんなものは後でどうとでもなる!さあ!さあ!さあ!」


がしっと老人とは思えない力強さであたしに杖を握らせたオリバンダーは、 鬼気迫る様子であたしの利き腕を振り下ろした。
ぎゃあ!止めて止めて!この爺さん誰か止めて・・・・・・・・・・!こんなので魔法できちゃったら困るんだけど!
すると、一気に体中の細胞が活性化したかのような高揚感と共に、周囲の空気が一変した。
そう、空気。
さっきまでざわついていた、生き物の気配とでもいうべきものが一瞬にして消え去った。
が、ぱっと見た感じでは、特に何が変わったようにも見えなかっただろう。
だって。


「皆、石化しちゃったじゃん!」


ああ、どうしよう!
これで、この謎な杖はあたしの決定だし、皆動かないし!
石化解く魔法なんて知らないよ、あたし!
はっ!いや、でもスティアがあたしが願うだけで良いとかなんとか抜かしてた気もするから……


「石化解けろ石化解けろ石化解けろ……って解けないじゃん!
スティアの嘘吐き!お前を信じたあたしが馬鹿だったよ!
よく考えてみたら、あたし願ってないのに石化させてるし!」
『いや、時間が止まってるんだよ。君が“止めて”とか思うから』
「時間を止めろなんて言ってないよ、馬鹿!
オリバンダーの横暴を止めてって思っただけなのに!」
『止まったじゃん』
「いや、確かに止まったけど!そうじゃなぁあぁーい!
どうすんだよ、こんな謎の物体Xでできた杖なんて、気になって使えないじゃんか!」


実は古代の恐竜の糞の化石でしたとか言ったら、あたしもう泣く。絶対泣く。

すでに半泣きの状態で、手の中にあるつやつや美しい杖を見る。
あうう。
二十二センチ、つまりはにゃんにゃんセンチだってことを差し引いても、得体が知れなくて怖い。


『……君が猫派なのは分かったけど、にゃんにゃんセンチとか絶対口に出さないでよね。
僕の品性まで疑われるから』
「……じゃあ、言わない代わりに、これ何でできてるか教えてよ」


はっきり言って、コイツに訊きたくはなかったが、背に腹は代えられない。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ!ガ・マ・ン!


『うわぁ、ムカつくなー。
……まぁ、仕方がない。それはね、世界樹の枝だよ』
「せんせーい!あたしには、先生の言うことがわかりませーん!」
『煩い!黙れ!団体行動を乱すな!』
「付きあい良いね、スティア」
『……ねぇ、君本当に聞く気あるの?』
「いや、あるけど。マジに世界樹って何さ」


結局、あたしは止まった時間の中で、スティアが面倒臭そうに説明するのを長々と聞く羽目になった。
で、まぁ、要約すればとにかく凄い木らしい。
というワケで!
さんは世界樹の枝、黒狐の尾。二十二センチ、激しくも繊細。を手に入れた。
……凄い恐れ多いものを手にしてしまった感じなのは、きっと気のせいじゃない。





気分はレベル1の勇者、だけど装備は最強で!





......to be continued