親密度が上がって嬉しい。
でも。






Phantom Magician、16





いきなりお金持ちになったさんちのさんは。
まだ、ハリーとの待ち合わせには、若干の余裕があったけれど、早いに越したことはなかろうと、 待ち合わせ場所のフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームへとリーマスと二人で歩いて行った。

アッイッス♪アッイッス♪
あたし、ダイアゴン横丁で何より楽しみにしてたんだよねー、実は。
魔法のお店?もちろん興味あるし、店先見るだけで楽しいよ?
でも、それも、アイスには負けるよね!
だって、乙女のデザートは別腹という名のブラックホールへと消えて行くものだから!
嗚呼、魔法世界ならではの、おいしいアイスにめぐりあいたいっ!
サーティ・○ン・アイスクリームでのミレニアムの感動をもう一度っ!
(ああ、ミレニアムっていうのは、弾けるキャンディーの混じった奴でね?
今は名前変わってるけど、店頭に並んでるの見た時は感激したね。だって期間限定が定番品になったんだから!)

……あなたに、いま、逢いにいきますっ。

そして、あたしは、じゅるりとよだれを垂らさんばかりのハイテンションで道を進み。
お目当てのお店の前に熊がいるのを目撃した。


「!?」


ええええ、魔法界ってこんなショッピング街で熊出るの!?
ロンドンなのに!?おもっくそ、街中なのに!?
っていうか、外国の熊でけぇっ!すげぇ、毛むくじゃら!
えーと、ツキノワグマじゃないだろうから、あれか!グリズリー!
もふもふしてればまだ可愛いかもしれないかもしれないけど、ごわごわしてそう!可愛くねぇ!
その上、二足歩行っ!魔法界って無駄に凄い!

と、脅えてるんだか賞賛してるんだか、自分でもよく分からない感じで固まっていると、 あたしよりほんの少し遅れてその熊に気づいたリーマスの一言が、あたしの勘違いを訂正してくれた。


「……ああ、誰かと思えばハグリッドじゃないか」
「……ハグリッ…?」


…………。
……………………ですよねぇー!
こんな町中に熊出るワケないじゃん、もう、あたしったら☆

適当にぶりっこをしてごまかしてみた。
「ごまかせてねぇよ」とかわざわざツッコミ入れなくて良いよ?うん。
分かってるから。


「ああ、は知らなかったね。彼はルビウス=ハグリッド。
ホグワーツの森の番人で、見ての通り、巨人の血が入っているんだ」
「へぇ、そうなん――…「リーマスじゃねぇか!久しぶりだなー!!」


よい子のふりをして素直に頷こうとしたところで、馬鹿にデカイ声に邪魔をされた。
ちっ。あたしとリーマスの愛の語らいを邪魔すんじゃねぇよ、デカブツが。


『……態度悪いよ、。ついでに顔も悪くなってるよ』


うっさいなー。
あたし、ハグリッドって苦手なの!
なんか知んないけど、見ててイライラするというか、うぜぇってなるっていうか。
いや、嫌いじゃない。嫌いじゃないよ?単純なキャラもいないとなーとは思うし。
でも、なんていうか……遠くの方でやってて下さい、みたいな?
(……っていうか、スルーしかけたけど、顔が悪いのかよ!表情カオじゃなく!?)


『分かるけど』


分かるのかよ!


『でも、初対面の相手にそれはないんじゃないかと思うよ。
まぁ、の自由だから止めないけど。
あんまり酷い態度で、狼男に幻滅されても僕には関係ないし――…』

「はじめまして!あたしって言います!
リーマスのところに居候させてもらっていて、今年からホグワーツに通います!
動物大好きです☆よろしくお願いします!!」


スティアの発言を聞き終わらない内に、あたしはかなり爽やかかつ元気いっぱいに声をあげた。
もちろん、浮かべているのは満面の笑みである。
うん、やっぱり差別は良くないよね!
今仲良くなっておけば、一角獣ユニコーンとか見せてもらえるかもだし!

あまりの変わり身の早さにスティアが胡乱な視線を向けてくるが、さくっと無視してあたしはハグリッドに握手を求める。
すると、ハグリッドはあっさりとその笑顔に騙されて破顔した。(単純万歳!)


「おお!お前さんがか。話にゃ聞いとったが元気がいいな!
オレはハグリッドだ。ホグワーツで森の番人をしちょる。よろしくな」
「はい!」


もう聞いたよっていうか知ってるよボケ、とはおくびにも出さない。
これがハリーだったら、間違いなく「買い物にでも来たの?」とでも言って話題を広げるが、 相手はハグリッドなので、ただ元気の良い返事だけで留めた。
が、しかし。
あたしには広げる気がなくても相手はそうではないらしく、ハグリッドは興味津々で口を開く。


「それにしてもはちっさいな。ちゃんと好き嫌いせず食っちょるか?
たっぷり食べてしっかり寝んと、ドラゴンでも何でもそうだが大きくなれんぞ」
「……ちゃんと食べてます」


ドラゴンやらお前やらと比べるなと思いつつ、 この世界ではこうして誰も彼もが自分をちびっこ扱いする事実に思い到る。
……東洋人は童顔だというのは周知の事実だ。
現に、あたしが読んだ異世界トリップものでは、ヒロインは2〜3歳年下に見られてばかりだった。
日本人的には童顔でもなんでもないが、外国人的にはどうだろう。
……考えるまでもなさそうな結論にちょっぴり泣けてくる。
ただでさえあるリーマスとの年齢差がさらに開いた気がする。
体が軽くなったのは良いが、その分なくなってしまった胸のボリュームとかボリュームとかボリュームとかが懐かしい。

がしかし、遠い目を察してくれるのは足元の黒猫だけ。
細かい機微なんて察しようはずもないハグリッドは、そうかと豪快に笑った。


「そんならええ。お前さんもハリーもきっとこれから大きくなるんだろう」
「ハリー?」


何でここでハリーの名前が出てくるんだ、と思って思わず声にした疑問だったが、 ハグリッドはそれを別の意味で捉えたらしい。
不思議そうにつぶらな瞳を瞬かせた。


「なんだ、知らんのか?リーマスんとこにいるから知っちょると思っとったが。
ハリー。ジェームズのとこのハリー=ポッターだ」
「いや、それは知ってますけど」
「ハリーも細っこくてなぁ。今、マダム=マルキンで採寸しちょるが、 きっと、採寸用のローブはぶかぶかだろう。アイスでも買ってやらにゃ」


人に話を振っておきながら、勝手に一人でぶつぶつ呟き出すハグリッド。
その、採寸、アイスといった単語に、思考が閃く。
ひょっとすると、これはあれか。ハリーとドラコの出逢いか。
ジェームズたちがいるせいで、その光景は見られなくなったとばっかり思い込んでいたが、 どうもそうではないらしかった。
あれ?っていうかジェームズパパンは何処に?
一緒じゃないの?……やったー!
と、あたしと同じ疑問を持ったらしいリーマスが、ここでしばらくぶりに口を開いた。


「ハグリッド。その口ぶりだとハリーと一緒にここに来たようだけど、 ジェームズはいなかったのかい?」
「ん?いんや、一緒には来とりゃあせん。二人とはクィディッチ用品店の前で逢ったんだよ。
俺がここに来たのはちーっと、用事があってな。
ハリーのプレゼントのこともあったし、 ファングの奴も具合が悪いから、栄養剤を買ってやらにゃならんかったし」
「ハリーのプレゼント?ああ、誕生日の?」
「ああ、最近忙しくて買いにいけんかったんだ。
いや、今日、丁度プレゼントも渡せて良かったわい」
「へぇ。一体何をあげたんだい?」
「フクロウだ。雪みてぇに白い、気立てのいい奴でなぁ。
大抵のもんはジェームズたちが買ってやっちまってたが、フクロウはまだだっちゅーもんだから」
「ああ、あそこにはクロースもいるしね」


和やかに会話する大人二人組を余所に、あたしは浮かび上がってきた状況を整理する。

ふむ。
つまりは、ジェームズは普通にいる、と。
(……あたし、リリーに逢ってみたかったのにー)
んー。箒屋さんの前にいたのはちょっと謎だが、あの親だ。
一年生に対して箒をこっそり持たせる可能性もある。(っていうか、多分それだ)
つまり、あたしたちといる時にはできない買い物をしている最中、ハグリッドと逢ったってことね。
一緒に買い物をしようって言っても、まさか服まで一緒に買うワケにはいかないだろうしなぁ。性別も違うのに。
オーケー。大体のところは把握した。
それで、ハグリッドとしては知り合いの子に偶々逢ったので、気前よく奢ってやろうってことか?
まぁ、今日暑いし。採寸には時間かかるだろうしねー。

んで現在、ポッター親子はあたしたちと逢う前に、服を買っているところか。
それもフクロウ連れで。
ってことは、この後の買い物に漏れなく猛禽類が一匹ついてくるということで……。
考えただけでげんなりしてしまった。


「嘴怖い嘴怖い嘴怖い嘴怖い」
『……トラウマだね』
「虎でも馬でもないよ。フクロウだよ」
『知ってるよ!』


その後、ハグリッドは気前よくあたしにもチョコミントアイスを奢ってくれたが。
あと数十分後に待ち構えているであろう危機に、あたしは味も分からず完食してしまうのだった。







「やあ、リーマスと。元気かい?」
「そういう君は相変わらず元気そうだね。ジェームズ」
「もちろんさ!愛する息子とのショッピングだよ?これで憂鬱になるはずがないじゃないか!」
「……大変そうだね、ハリー。大丈夫?」
「ありがとう、。もう慣れたよ」


元気一杯の大人一名。
苦笑する大人一名。
遠い目をする子ども二名。
なんていうか、何かが間違っている気がするのだが、考えていると疲れそうなので止めた。

ハリーたちは、ハグリッドがいなくなった直後くらいに、どうしてだか手ぶらでやってきた。
(まぁ、魔法界だし、荷物は小さくするなりなんなり、どうにかしてしまったんだろう。フクロウがいない!万歳!)
ハグリッドは待ち合わせのことを聞き、ここに来るであろう二人をさっきまで待っていたのだが、 中々やってこないハリーたちに痺れを切らして帰ってしまった。
まぁ、ファングの具合が悪いのだから、心配で仕方がなかったんだろう。
(ちなみに、ハリーの分のアイスは溶けてしまいそうだったので、あたしのお腹の中に収まっている)


「ハグリッドがよろしくと言っていたよ」
「二人もハグリッドに逢ったの?」
「ああ、うん。なんていうか、でっかい人だったね」
「確かに、からしてみれば彼は小山のようだろうね」
「…………」


ヘドウィグがいないおかげで和やかに会話できそうだと思ったのだが、 ジェームズのせいでそれは無理だと気づくあたし。
っていうかお前ら!揃いも揃ってあたしをチビキャラにするのを止めろ!
ハリーと背丈そんなに変わんないだろうが!


『いや、でも、普通その年ごろの女の子は男子より体格良いはずだよ』


人種違うんだからしょうがないじゃんか!


『じゃあ、小さく見られるのもしょうがないって諦めたら?』


い〜や〜だ〜!!

頭では分かっていても、感情が拒否する事柄に、心の中で地団太を踏む。
こうしていると、自分の実年齢をうっかり考えそうになるが、今は子どもの姿だし、まぁ良いかとなる。
子どもの姿で大人の言動していたら不気味だろう。
どこぞの名探偵じゃないんだから。


「父さん……。父さんから見たってハグリッドは大きいじゃないか」
「まぁ、それはそうだけれどね。からしてみたら、もっとだろう?
なにせ、こんなに小さいんだから」
「……良いじゃないか。可愛くて」
「おや?僕の息子はいつの間に女性に対する言葉を覚えたんだい?
まぁ、確かには可愛いけどね。小さくて」


ひっとっこっとっ余計だっつーの!
小っさいっていうな!日本人としては平均だっ!
しかも、それ『小さい&可愛い』じゃなくて『小さい=可愛い』じゃねぇか!
ってことは、大きくなったら可愛くないってことだろうが、ああん!?

確実に喧嘩を売っているであろうポッター親子に、あたしは爆発寸前。
次になんか言った瞬間、人目も気にせず張り倒してやろう(主にジェームズを)と身構える。
しかし、次のリーマスの一言であたしは握っていた拳を解くことになった。


「二人とも何を言っているんだい?は大きかろうが小さかろうが可愛いに決まってるじゃないか。
確かに小さい方が子どもらしくて良いかも知れないけれど、大きくなってもは可愛らしいと思うよ。
東洋の人はいつまでも若々しいし、は照れ屋で性格も微笑ましいしね」
「「「…………」」」


天然って怖い。
それがこの場にいた全員の胸中であったことは間違いがない。
……何故だろう。
この間の謎のカミングアウトの後から、リーマスの余所余所しかった態度がなんか吹っ切れてしまった感じなんだけど。
タメ口のせいかフレンドリー一直線?
もういっそ開き直ったというか……。
ただ、悲しいかな。
その言葉の端々に溢れているのは異性に対するそれではなく。


「……リーマスがうちの父さんみたいになってる」


寧ろ、父が一人娘を猫っ可愛がりするかのようだった。





父性愛なんていらないっ!





......to be continued