人の話はよく聞きましょう。





Phantom Magician、9





「さて、問題です。あたしはここで何をしてるんでしょう?」
『迷子(きっぱり)』


待て。迷子してるって文法おかしいだろ。
っていうか、お前!
あたしがこんなに困ってるのに、何で助けないんだっ!!


『へぇー。困ってるんだ。ふーん。
僕、に言ったよね?間違いなく言ったよね?
“絶対に無理だから止めろ”って。
諦めて、待ってれば迎えが来るから、大人しくしてろって言ったよね、


遥か下の方で、スティアはご立腹だった。
いや、だってさ?
まさか、木に登って降りられないなんてコメディみたいなこと、実際にある訳ないと思うじゃん。


『そのまさかだけどね?今ね?』
「……すみませんでしたーっ!!」


だから助けて下さいお願いします。
ってか、高い!ここ高いよ!!怖いし!

ことの始まりはそう。一昨日のフクロウ襲来。
明日来るんだそうですよ、ハリーとジェームズが。
で、当然リーマスもシリウスも大張り切り。
昨日は、一日使って、あたしの部屋の確保と客室の全面お掃除 etc……。
(ほら。あたし一昨日はいきなりだったから、客室使ったじゃん?
その時にフクロウに攻撃された足からの流血でベッドは血塗れ☆みたいな?
寝てる間にガーゼは何処に消えたんだろう??)
で、今日はケーキに使う木苺を摘んでくる任務を受けたんだよね。明日ケーキ屋さんお休みだったから。
(それで、自分で作っちゃおうっていうあたりリーマス凄すぎる!)
森で汚しちゃいけないと思って、買って貰ったばっかりの黒い服を着こんで、準備も万端だったさ。

が、なめちゃいけない、あたしの方向感覚。
(あたしは過去1つ先のバス停に行こうとして、駅4つ先に辿り着いた伝説を持つ女だ!)
見事に迷いましたv
ごめん、直感に頼っちゃいけなかった。
スティアの言葉を冗談だと右から左に聞き流してちゃいけなかったっ。
とうとう、木苺に辿り着くどころか、家の方角さえ見失ったあたし達。
ここまで言えばもう分かるよね?
はい。
「家探そうとして木に登ったは良いものの、見つからなかった上に降りられなくなった」って思った人正解!


『“正解!”じゃないだろ!!正真正銘の馬鹿だろ、君!!』
「おおぅ。スティアが怒鳴ってる。でも遠くてよく分からないことにしてしまおう」
『聞こえてるから!』
「ってか、早く降ろしてよー。お尻痛いー」
『態度デカイな、オイ!』
「キャラ変わってんゾー。早くおーろーせー」
『……もう良い』


よし、勝った。
やっぱり、ペットは最初のしつけが肝心だよね、うん。
すでに出会ってから数日経過してるとか、そもそもペットじゃなくね?
ってつっこみは華麗にスルーして、あたしは足をぶらぶらさせながら上を見上げる。(下は怖いからね!)
まだ頂点まで行っていないので、見えるのは基本葉っぱだけである。
つまらん。
どうせなら、真っ青な蒼穹が見たいのが乙女心ってもんじゃなかろうか。


『今日、曇天だけどね』
「ぎゃあっ!?」


唐突に目の前にいるスティア。
し、心臓が!心臓が口から飛び出しましてよ、奥様!?


『人間の身体の構造上ありえないから』
「うっさい!気分の問題だ!!ころすけか!」
『あ、噛んだ』
「うるちゃい!」


動揺のあまりカミカミだ。
っていうか、あたし的にはふわっと身体が浮いて、ゆっくり某天空の城のお姫様みたいに降りていく予定だったのに!
なんか、明らかに違う感じになりそうなこの予感。


『とりあえず、受け止めてくれるパ○ーはいないよ』
「あたし、〇ズー派じゃないから良い。
っていうか、何でスティアが此処に来るの。しかも、普通に木登って。
浮けてたじゃん。前」
『現実世界で浮ける訳ないだろ。君、頭大丈夫?』
「うーわー。殴って良い?殴って良いよな?」
『ヒロインが暴力的なのは如何なものかと思うけど』
「あたしは戦うヒロインが好きなんだよ」


笑いながら拳をボキボキ鳴らすと、スティアは手を上に挙げた。所謂、降参のポーズだ。
浮けないくせに、後ろ両足で立つのはお手の物らしい。何故だ。


『……で、いつまでこのコント続けてれば良いの?』
「いつまでもって言いたいけど、飽きたから終わりにしようか。
それで?どうやってあたしを下に降ろしてくれるの?」


阿呆なことしてる場合じゃなかった。
未だに任務は達成していないし、そろそろ日も暮れてきてしまう。
同居3日目にしてドジっ娘の称号はいらない。
そんな風に考えるあたしが、ようやく真剣にスティアを見つめると、猫は眼を細めてのたまった。


『もちろん。が自力で降りるんだよ』
「そっれができたらだっれも苦労しないだろっが!」


思わず変なリズムでつっこんでしまった。ちぇりおの掛け声で繰り出されたチョップと共に。
(『ちぇりお』が分からない良い子の皆は、西尾維○先生著の刀○をチェックだ!)


『……僕帰って良いかな』
「寧ろあたしが帰りたいんだよ!降りたいんだよ!降りれないから!!」


人が空を飛びたいと願うのは何故か?それは自分が飛べないからだ!!


『降りられるよ。忘れたの?
「いや、何を?あたしに地上7mから飛び降りられる特殊能力ないんだけど」
『魔法使えば良いじゃないか』


…………。
……………………あ。


「そうか、あたし今魔女っ娘じゃん!」


なんてことだ。青天の霹靂とはまさにこういう場合に使うのか!
人生で一回も魔法使ったことないから、全然思いつかなかった!
まさかあたしが魔女っ娘だとは!


『まぁ、杖持ってないけどね』
「……意味ねぇー!!」


期待させといて、どん底につき落とすスティアの手際は見事としか言いようがない。
ツンデレか!それともヤンデレか!?


『そういうこと言われると微妙な気分になるから止めてくれない?本気で』
「じゃあ、ドSで」
『まぁ、それなら良し』


良いのかよ!


『もう面倒臭いんだよ。で、話は戻るけど。杖がなくてもできる魔法があるよ』
「え、何!?」
動物もどきアニメーガス


サラリと言われた言葉に、一瞬意味を掴みかねる。
が、思い返してみれば、アズカバンの囚人でそんな一幕があった。
つまり、アズカバンで投獄されていたシリウスのこと。
イヌになって逃げ出したシリウスが杖なんか持ってる訳がないので。


「目から鱗がっ!!」
『良い機会だし、一回試してみたら?何になるか知りたいんでしょ?』
「散々焦らされたからな!……で、どうやったら良いの?」


魔法の基礎の基礎もやってない人間が、 果たして杖もなくて高度な魔法である動物もどきアニメーガスを成功させられるのか?
そう思っていると、眼の前に突き出される棒――
って、棒?


『心配なら杖貸してあげるけど。はい』
「…………」
『なに?』
「…………いやいやいや、お前それどっから出した?」


あたしの記憶にある限り、お前杖なんか持ってた(銜えてた)の見たことないんだけど!
今、瞬きの間に何があった!?え、パクってきたの?パクってきたの、それ?
(っていうか、さっきの杖なしで云々カンヌンのくだり意味ねぇし!)


『いい加減、って失礼だよね』
「あ、実は自分のだったり――
『借りてきただけだよ』
「うぉおおおおぉーい!?それ犯罪だよ!誰の!?それ誰の!!?」
『1、通行人B
 2、シリウス=ブラック
 3、リーマス=ルーピン
 4、ヴォルデモート卿
 5、サラザール=スリザリン
さあ、誰でしょう?』
「選択肢おかしくないっ!?」

3以降が恐ろしすぎるわ!しかも通行人Aじゃないんだ!?
あれ、杖って物凄く魔法使いにとって重要アイテムじゃなかったっけ!?
そんな簡単にパクってこれるとか、コイツ怖い!


『……?』
「ははははい!」
『どもり過ぎだから。っていうか、早くするんじゃなかったの?』
「いや、あの、流石に盗品はちょっと……」
『だから、借りてきただけだってば。
 嫌なら別に良いんだよ?が魔法に失敗して一生を奇天烈生物で過ごす羽目になるだけだから――
「謹んでお借りしまーす!」

ごめんなさい、通行人Bさん(断定)
背に腹は代えられませんでした。
ま、杖持ってたからって成功するとは限らないんだけど!ないよりある方が良いよね!
そもそも、動物もどきアニメーガスのやり方すら知らない素人さんですから、あたし!





「いや、もう本当に。どうやってなるんだよ、動物とか」

気分を切り替えて、質問してみる。
疑問と不安で一杯のあたしだったが、スティアに教わった方法はごく簡単なもの。
ただ、「変われ」と。
願うだけ。
嘘を吐くなと怒ったら、『僕の力だよ?それだけで十分に決まってるじゃないか』と返された。
……基本コイツ、ナルシーだよね。


「希望の動物思い浮かべなくて良いの?」
『まぁね。基本的にその人に相応しいのになるから。
っていうか、希望とか下手に持つと変なのなったらショックでしょ?』
「変なのになるの決定!?」
『変じゃあないけどねぇ……』


微妙なスティアの反応に、若干腰が引ける。
が、ここでグズグズしていても、どうにもならなそうだ。
ぎゅっと目を瞑って覚悟を決める。


「どうにでもなれ!……いや、やっぱ可愛いので!!」


“変われ”

そう、願った。
強く。強く。
生涯で、初めてというぐらい、強く。
変わりたいと。
変わらなければならないと。
それがどんな姿であったとしても、あたしはあたしだから……。


『や、シリアスに浸ってるとこ悪いだけど、もう目を開けたら?』


と、なんとも失礼なスティアの声かかる。
しかし、それはさっきとはまるで違うものに聞こえた。
身体の感覚が軽々としたものに変わる。
そう、まるで羽でも生えてるみたいに――


『ん?』


っていうか、これ、羽じゃねぇ?

パッチリと目を開ける。
と、目の前に巨大なスティアの顔が見えた。


『んぎゃあ!』
『はいはい、食べないから。そんなに怯えないの。幾ら鳥になったからって』


我輩は鳥である。名前はまだない。
って、そんなわけはない。
ええ?鳥!?この前酷い目に合ったのに鳥なの!?同属嫌悪!?
っていうか、視界広い!気持ち悪っ!!
身体の感覚おかしい!変!


『そりゃあ、人間と鳥が同じ感覚の訳ないじゃないか。
まぁ、サービスで人間の時と同じように考えられるようにしておいたけど』
『どうせなら感覚も同じようにしといてよ』
『同じ感覚で飛べると思ってるの?で、感想は?』
『感想って言われても……』


自分が何なのか分からない状態なのに、感想が浮かぶはずもなく。
本当にあたし、今何になっちゃってんの?
とりあえず、この小ささから言ってフクロウではなさそうだけど……。


『ついでにコノハズクでもないよ。
っていうか、現存するあらゆる鳥類に同じ姿の奴いないんじゃない?』
『ええ〜、じゃあ、あたし何になったんだよー』


ピーチチチ。
大変可愛らしい鳴き声が口から洩れている。
最初はよく分からなかったが、意識してみれば、自分が出している音がちゃんと分かるようだ。
まぁ、面倒なので基本意識しないと思うが。
と、一人自分の声を聞いてみたり、姿を見ようとくるくる回っていると、スティアが頭に前足を乗せてきた。
止まれということなのか、保護者面をされているのか、悩むところだ。


『邪魔しないでよ。自分がなんなのか見たいんだから』
『無理だよ。鳥が下向いて自分の姿が見れるはずないじゃないか』
『え、マジで!?』
『目のつき方からも分かるでしょ。鳥は自分を見るようにできてないんだよ』
『えー。じゃあ、どんなんなってるか教えてよ』
『とりあえず小さい』
『その位自分でも分かるよ。他には?』
『他って言われてもねぇ。普通に鳥でしょ。青い鳥。今着てる服のせいでちょっと黒っぽいけど』
『え!?幸せの象徴!?』


一部聞きなれたフレーズに一気にテンションが上がる。
最初はアレかな、と思ったが、それなら良いかも知れない!
輝く満月の夜、狼になった不幸を嘆くリーマスの所へ幸せを運ぶのっ!!!
嗚呼、ニヤニヤが止まらないっ。
それでね?リーマスがね?
自分を恐れない愛らしい小鳥に、優しく微笑みながら手を伸ばすの。
それに応えて舞い降りるあたし!
リーマスは幸せそうに微笑みながら、二人で頬を寄せ合う……。


『スティア、グッジョブ!』
『いや、僕がその姿にしたんじゃないし。そういう意味で“青い鳥”って言った訳でもないし』
『じゃあ、あたしのファインプレイ!』
『……いや、それもどうだろう。ファインプレイには程遠いような……』
『何だよ、文句ばっか言ってー!
さっきも、“変じゃあないけどねぇ……”とか文句つけてきたし!
何が気に入らないんだ!青い鳥とか最高だろ!!』


本当に、スティアは文句ばっかり言っている気がする。
というか、ボケを余すところなく拾いすぎだ。
おかげで、貴重なリーマスとの会話よりも、コイツとの会話との方が格段に多い。
いや、ちょっと楽しいんだけど。こういうやりとり。
でも、物には限度って奴がある。
あたしはリーマスと話がしたいんだ!
イヌと戯れて肉球で癒されたいんだ!
なのに、何でこんな人のこと貶しまくる猫もどきと漫才をしなきゃならないんだ!?


『僕、正論しか言ってないよ』
『どこがだよ!あたしのこと貶してばっかだろ!アレ正論か!?』
『それはが色々……ねぇ?今も気づいてないし』
『は?何?何に気づいてないって??』
『……これだよ。はぁー』
『溜め息つくな!あたしが気づいてないって何!?気になるだろ!!』
『本当に気づいてないの?』
『だから、何が!』
『……君、満月の夜にあの男の所へ元気付けに行きたいんだよね?』
『……うん?そうだけど』
『……でも、鳥目だよね』


…………。
……………………NOォオォオォオォー!!!!





でも、人の話を聞いてばかりだと、考えられない子になるようです。





......to be continued