フクロウって、鷹と同じ猛禽類なんだね。





Phantom Magician、7





とりあえず、家の中を探検探検♪
と、家主がいないのを良いことに、あたしは鼻歌交じりであちこちを見て回った。

まずは、暖炉でしょー?(正直、ただ煤で黒いだけで普通だった)
ダイニングはいいとして、キッチンでしょー?(リーマスの性格が伺える整頓されたキッチン!)
お風呂でしょー?(バスタブなかったけどね!流石、欧米)
フクロウの睨みつける窓でしょー?

……おかしくね?


「怖っ!」


猛禽類怖っ!でかっ!!
知らない人をお家に入れてはいけません。
でも、知らなくてもフクロウはお家に入れるべき……なのか?
ほら。何か口にくわえてるもん。
明らかに何か連絡持ってきてるもん。


「でも怖い……」
『いや、開けようよ。そこは』


躊躇するあたしに構わず、スティアは器用に窓を開け放った。
すると、茶色のフクロウは迷うことなく部屋に飛び込んでくる。
どういうわけだか、あたし目掛けて。


「ぎゃあっ!?」


どうも、手紙を渡そうという勢いではない。
あわよくば体当たりしてやろうって位の感じ。
どうするあたしっ!?

1、逃げる。(何処に?)
2、暴れる。(クマアタック!ただしぬいぐるみ!!)
3、土下座。(無理だろ)

考えがまとまらないまま、鋭い嘴が目前に迫る迫るませるっ!


『余裕だね、君』


ふっと、頭にかかる重み。
子猫と成猫との中間くらいの大きさのくせに、スティアはかなり軽い。
が、軽くたってなんだって、人の頭を足場にするとは如何なものか。
そして、彼は迫り来るフクロウに対して猫パンチを繰り出した!
バシッという軽快な音と共に、あたしの足元に墜落するフクロウ!と手紙!


「うぉあっ!?」


しかし、敵もなんのその。
すぐさま起き上がり、あたしの足目掛けて嘴を突き出してくる。


「ヤダヤダヤダ!」


容赦のない攻撃を必死に足を引きながらかわしていく。
どすどすと嫌ぁ〜な音を立てながら、フクロウはフローリングに穴を開けている。
がしかし、いつまでも避けてなんていられないわけで。
っていうか、正直、あんな速いの避けられるか!
一、二度攻撃を喰らって、血に染まる足……。
ひぃっ!見てて痛い!いや実際に痛いんだけれども!

と、あたしはとにかく何も考えないで攻撃を避けていたので、 後ろに迫り来る食器棚に気づかなかった。
そして、まぁ、当然の結果として、


『あ』
「いでっ!!?」

ガチャゴトパリーンッ!


力いっぱい身体と頭をごっつんこ☆
はい、痛いー。マジ痛いー。若干、自分涙目wもうあたし帰って良いですか。
がしかし、不幸中の幸いっていうのはあるもので。
棚の一番上に飾られていた大きめの皿がフクロウの上に直撃。
そして、奴は、ばたっと倒れ伏したまま動かなくなった…………。


「……死んだ」
『いや、まだ生きてるけどね?』
「どうしよう。この状況どうすべき?」


リーマスの家の皿割っちゃった!
人様の家のフクロウ殺しちゃった!
(『いや、だから死んでないって。脳震盪起こしてるだけだって』)
うわん!あたしは悪くないのに!!
こんなことなら、人目を気にせず蹴り飛ばした方が、お互いにダメージ少なくて良かったよ!!


『一応、にも人目を気にするとかいう心があったんだね』
「あるよ!力いっぱいあるよ!!っていうか、お前助けろよ!!
お陰であたしの足血まみれじゃん!いってぇ!マジいってぇ!!」
『助けたじゃないか。一回』
「全面的に助けろよ!そして、いい加減頭から降りろ!」


スティアに文句を言いながら、おそるおそる、自分の足を見てみる。
スリッパの上からの攻撃だったために、傷は深くない。
深くはないが、流血中。
夢の中だと痛みないって言うじゃん?でも、あれって嘘だよね。
夢でも痛い時ってあるよね。今まさにそれ!
あたしが何をしたって言うんだろう……。
憎しみ篭もってたよ、奴の嘴には。

と、フクロウに目を向けながら、自分の行動を振り返ってみる。
…………。
……………………。
………………………………ない。
あんな攻撃を受ける要素は一つもない。
あたし、鳥類?猛禽類?に嫌われる体質だったんだろうか。
犬と猫は大丈夫なんだけど……。
ああ、そういえば、小さい時烏に威嚇されたことがあるようなないような……。

と、半ば以上ショックを受けていたその時。
ぴくり、と、茶色い物体が動き出した。


「ぎゃあぁあぁー!動いた!動いた!!」


光速の動きで距離を置く。
背中を向けるなんて恐ろしいことはできないので、またもやバック走。
今度は背後にも気を配って、武器になりそうな物体がないかを探す。
が、残念すぎることに、周りには物がなかった。
そして、何かを手にする前に、よろよろと起き上がったフクロウと目が合ってしまう。

……うん。こうなったら、スティアぶつけるしかないよね!?

あたしが決意を固める中、フクロウはまだ若干フラフラしつつも空中に飛び立った。
あたし達を警戒してか、さっきのようにつっこんでくることはなくなったが。
同じ所でバッサバサしながら、こっちをずっと見てくるのって怖いよね。
眼光鋭すぎるだろ自分!


『生き物全般好きなんじゃなかったの』
「そうだけど!そうなんだけど、あんな攻撃されたら駄目でしょ!
 ってか、ほんと頭!頭足蹴にして良いと思ってんの!?ちょっと!」
だから良いかな、と』
「うーわ、良くねぇー」


一度助かったのは事実なので、とりあえず、頭から振るい落とすことはしないでおく。
そんなことをしたら、確実に目の前のフクロウに攻撃されること請け合いだしね。
っていうか、一蓮托生。お前も一緒に戦え!


「ねぇ、郵便フクロウ?がこんなに凶暴で良いの?」
『きっとが嫌いなんじゃない?』
「初めて見るのに!?」
『うん。前世とか』


理不尽すぎるw

本当にあたしが何をしたって言うんだ、と思いながら、あたしはゆっくりと距離を取ろうと試みる。
が、もちろん、動いた分だけフクロウもくっついてくるわけで。
ほとんど膠着状態、っていう状況が延々と続くことになった。







…………。
……………………。
一体どれくらいの時間それが維持されただろう。
きっと体感してるよりは短いが、それでもそれなりに時間が経っていたはずだ。
だって。


「ただいま」


リーマス帰って来ちゃったからね?
なんかすっごい疲れた表情したシリウス後ろに引き連れて。
もちろん、大量の荷物の大半はシリウス持ちですが、何か?

と、あたしの前でホバリング(?)する物体に気がついたのか、リーマスは破顔した。


「クロースじゃないか。手紙を届けてくれたのかい?」


どうも、部屋に入れたことは正解だったらしい。
が、ここで問題が一つ。すなわち……、


「このフクロウ、リ…ルーピンさんの……?」


正直に言おう。
こんな敵意たっぷりなペットと一緒に暮らす自信ないよ、あたし!
間近で見たら、鳥ってこんな凶悪な人相してたっけな感じだし。あれ、鳥相?


「いや、私はフクロウを持っていなくてね。これは私の友人のフクロウだよ」
「良かった!なんかさっきから殺されそうなんで助けて下さい!」


そう、殺気!殺気感じる!何故!?WHY!?

とりあえず、現状を打破しようと、怪我をさせられた足を指し示しながら、 この中で最強と思われる人物に助けを求めてみる。
が、彼は不思議そうな、戸惑うような表情をするだけだった。


「クロースが……?」


いや、ぼけっと見てないでどうにかして下さい。
その一言を発しようとした瞬間、思っても見なかった人物からの助けが入った。


「……止めろ、クロース」


そう、即ちシリウス。
もう、全っっっっ然アテにしてなかったイヌ。
低い唸るような一言だったが、ようやく、それでクロースと呼ばれたふくろうはあたしから離れた。
そして、手を差し出すシリウスの元へ飛んで行き、身体を摺り寄せる。
まるで絵画のようなワンシーンだが、お前態度違いすぎるだろう!とつっこみたくて仕方がない。
……きっとあのフクロウは雌に違いない。
鳥の性別なんて見分けられないけど!
スティアが上で『いや、雄だし』とか言ってるのも聞こえない!

と、半ば以上思考が逸れていったところで、手紙をいつの間にやら読んでいたシリウスが顔を上げた。


「リーマス。アイツが来るらしい」
「本当かい?また突然だね。いつものことだけど」
「ハリーの入学祝いをしたいらしい。プレゼントを用意しておけと書いてあるな」
「ジェームズらしいね。この間誕生日のお祝いをしたばかりなのに」


はい。あたしの天敵(確定)のご主人判明。
リリーに首ったけ!おそらく絶対確実に親バカ決定のジェームズ=ポッター!
でも、あたし正直ジェームズよりリリーの方が好き。口説きたい。
ジェームズなんかいらないよ、バカ!

しかし、あたしの心の叫びは通じず、「ケーキを買ってこなくちゃね」などとリーマスは楽しそうだ。
きっとチョコレートケーキに違いない。
心なしかシリウスも嬉しそうだ。
……お前もチョコ厨か!


『それはでしょうが。字もおかしいし。
名付け親としては、ハリーの成長が嬉しいんでしょ』


と、阿呆な会話をこっちでしていても、大人達には心の声もスティアの声も聞こえないわけで。
怪我をしているあたしを放置したまま、二人は穏やかに会話を続けている。
明らかに親しい人同士で、親しい共通の友人の話をしていると分かる、表情で。
本当に、リーマスは嬉しそうだった。
幸せそうだった。
まるで、一枚の絵のように、欠けたもののない素敵な笑顔だった。
その瞳に、あたしは映っていないけれど……。

酷くおいてけぼり感があったが、仕方ない。そこはぐっと我慢する。
邪魔をするのもあれなので、あたしはその目に優しい光景を、じっと見つめていた。
が、その和やかとも言える、空気は一瞬だけ暗いものに変わる。
「リリーは来るのかい?」というリーマスの一言によって。


「……いや、今回はハリーとジェームズの二人らしい」


そして、何故か向けられる視線。
それは、奇妙な視線だった。
怒っているような、でも、それ以外の何かが見え隠れする視線。
…………?
まだあたしがここで暮らすのに対して怒っているのだろうか。


「この子を紹介しようと思ったんだけど。またの機会になりそうだね。もう学校が始まってしまう」


ふむ、と、リーマスの言葉でハリポタの記憶が呼び起こされた。
そういえば、ハリーの誕生日のすぐ後にホグワーツが始まった気がする。
まず、フクロウで入学案内がきて、ハリーの誕生日までダーズリー親子は逃げ回ったはずだ。
あ、そういえば、ダドリーの豚化がないんじゃん!
ひそかに「ざまぁ!」なシーンがなくなって残念だー。
あれ?そういえば、ハグリッドからのプレゼントであるはずのヘドウィグはどうなるんだろう?
んー、まぁ、多分知り合いだろうから、そのままかな?
やっばいなー。怖いなー。また攻撃されるのかなー。
ヘドウィグにもやられたら正直、もう立ち直れないんだけど。
すでにトラウマなんだけど。
……あたしが一体、何したよ!?

こうして、色々原作を思い起こしたり、今後を憂えていたりするあたしの耳には、
「じゃあ、3日後の昼までに大掃除をしておかないとね」
というリーマスの不吉な一言が素通りしていくことになった。
っていうか、足痛ぇ……。





初対面で天敵決定……。





......to be continued