変態とひとつ屋根の下ってありえない。 Phantom Magician、6 「ねぇ、このくまって結局なんなの?」 保護者二人組みがいなくなってしまったために、若干手持ち無沙汰な感じになったあたしは、 シリウスの落としていった件の物体に近づいていた。 とりあえず、触る。 もふもふもふ。 もふもふもふもふ。 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ……。 「これ良いっ!」 なにこれ、なにこれ!? マジ手触り良いんだけど!うっわ。気持ち良い!! 『お楽しみのところ悪いんだけど、開けたら?それ。リュックでしょ』 「いや、待って!本気で気持ち良いんだって!!」 『はいはい。分かったから開けて開けて』 面倒くさそうに促すスティアに、仕方なく従う。 ……ちょっとくらいなら見てもばれないよね?うん。 自分自身に適当な言い訳をいながら、あたしは背中のチャックを下ろした。 すると、その中から出てきたのは、 「!!!!!!!?」 あまりの驚愕に声が出ない。 え、嘘でしょ?そんなはずないでしょ?? 幾らシリウスがヘタレでも、これは流石にないでしょ? えぇえぇえぇえぇえぇー!!!!!! これって!これって―― 『小児の下着だね。女の子の』 「目の錯覚とか、どうでせう?」 『ない』 何故!?何故シリウスがそんなものをっ!? え、実はロリコンだったのあの人!? いやぁあぁあぁあぁー!!あたしやばいっ!!妊娠させられる!? 『は妊娠する年齢じゃないじゃないか』 「気分の問題よ!」 『ああ、想像妊娠だね』 「んなワケあるかい!」 知りたくもなかった大人の秘密を知り、どうしたら良いのか分からなくなる。 リーマスはこのことを知っているのだろうか? くっ、絶対リーマスの方がそのケがあると思ってたのに! 『全国のリーマスファンに謝れ』 「あたしだってその一人だっつの」 と、つっこんでいたその時、いきなり暖炉から緑色の鮮やかな炎があがった。 「ぎゃあ!」 「……ああ、ごめんごめん。驚かしてしまったね」 困った顔で炎の中から現れたのは、リーマスだった。 今思ったんだけど、この煙突飛行ネットワークって居留守とか使えなくね?しかも不法侵入楽勝じゃね? だれか暖炉に鍵掛けてっ。 「服のサイズとかを聞き忘れてしまってね。急いで引き返してきたんだよ。 君は服のサイズを知って……おや?」 リーマスは止まった。 あたしの手の中の物体を見て。 「……それは、さっきシリウスが持っていたくまかい?」 「は、はい」 「それで、その中にそれが入っていたと?」 「はい……」 「……そう」 シリウス、言ってなかったんだね。 一瞬、笑顔すら掻き消えて瞳が細められたのを見て、あたしはシリウスの今後を悟った。 やっぱり、犯罪だよね。うん。犯罪はいけないよ。 「新品みたいだから、下着は買わなくて良さそうだね」と、今度は爽やかに笑うリーマス。 その言葉にあたしはダッシュで下着をくまさんの中に突っ込んだ。 恥ずかしっ!見られた!?見られた!? あたしがこれから履くいちご柄パンツ見られた!? 『見られたに決まってるじゃないか』 「うっさい!…………ん?」 顔を真っ赤にさせて、下着を詰めていると、リュックの底で何かが指先に触れた。 ん〜?硬い。今度は何だ?? 恐る恐るといった感じで、その物体を引き摺り出して見る。 「鍵?」 それは、細かい細工が美しい、小さな鍵だった。 あれ?ハリポタで鍵っていったら何かあった気がするけど、何だっけ?? 「それは……グリンゴッツの鍵だね」 「へ?」 覗き込んできたリーマスとの距離にときめきつつも、間の抜けた声が出るのを止められなかった。 ああ!そういえば、あったね!そんなの!!で、 「……誰の??」 「…………さぁ」 シリウス?シリウスの?? この下着シリウスのならシリウスのだよね?そうだよね?? と、いい加減暴走する思考に嫌気がさしたのか、 それともシリウスが哀れになったのか、スティアが嘆息しつつ口を開いた。 『……愉快な勘違いしてるところ悪いんだけど、それ違うから。 シリウスロリコンじゃないし、それ全部のだから』 「はい?」 『考えれば分かるじゃないか。それはダンブルドアが寄越してきた君のだよ』 「……は?これあたしの!?」 スティアの言葉に驚いて声をあげると、リーマスまでが驚いたように目を見開いていた。 「君のなのかい?これは」 「へ?えっと、スティアはそう言ってるんですけど」 『僕がそうと言ったらそうなんだよ』 確かに、考えてみればシリウスの持ち物よりも、ダンブルドアに託されたと言った方がしっくりくる。 が、しかし。 問題は何故、ダンブルドアはさっき渡してくれなかったのか? いいじゃん、別にさっきだって! っていうか、何も持ってなかった気がするんだけど?呼び寄せ呪文でも使ったの?? 『耄碌したんじゃないの?いい加減歳だし』 今更かい。あの人幾つだよ。 『それか、その方が面白そうだからじゃない?やりそうだよ、あの爺さん』 ……あ、うん。それかな。多分。 なんだかやたらと疲れてしまったあたしは、適当に服のサイズを教え、リーマスに鍵を託した。 お金の心配いらないってこういうこと? ううぅ。確かにリーマスの買ってきた下着なんてっ!って思ってたけど、 ダンブルドアが用意したのも、それはそれで嫌だよ。 「じゃあ、今度こそいってきます」 「いってらっしゃーい」 こうして、あたしは一人、小さなログハウスに取り残された。 この後に、豆台風が文字通り飛び込んでくることも知らずに……。 とりあえず、身の危険は回避されました? ......to be continued
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