おちたのは 何を、と霞む思考で考える。 自分は一体何を――。 の手首には、いや足首にさえ、硬質な鎖が絡みつく。 「痛い」 ポツリと感情の篭らない声で呟き、彼女は深い闇に囚われ続ける。 きっかけは、ごく些細な出来事だった。 ただ、八戒と一緒に街へ買い物に出かけただけ。 が何処で何をしていようが、それは彼女の勝手というもの。 ましてや、三蔵とは恋人でも夫婦でもない。 は三蔵を想っていたにはいたが、それが実っている訳ではなかった。 彼女に咎はない。 しかし、彼女は例え無理だったとしても気付くべきだったのだ。 自分が三蔵に想われていた事を。 狂おしいほどに激しく。 焦がれるほどに切ない、その想いを。 気付いてさえいれば、こうはならなかった。 少なくとも、こうだけはならなかったに違いない。 けれど、結果的には気付けなかった。 彼女の知らぬ間に、男が壊れていった事に。 ぼんやりと考え事をする時間が延々と続く。 そして、それは一人の男によって終わりを告げた。 「起きたのか」 「……三蔵」 金糸の髪を見た瞬間、心の底で何かが疼いた。 この昏い場所でなくしてしまった、何かが。 しかし、はその感覚を無視して三蔵に微笑みかける。 「おかえり、三蔵」 虚ろな笑みは、彼女が壊れた証。 もう止めろ、と誰かが言っていた。 一緒に此処から出よう、と誰かも言っていた。 しかし、はただただ笑ってそれを断り続けていた。 無機質な笑みに、ある者は顔を歪め。 ある者は怒りを灯し。 ある者は天を仰いだ。 彼女はもう、彼らの知る彼女ではなかった。 誰もいないこの場所で、 何も分からず、ただひたすらに繋がれて。 孤独と絶望の中で、彼女は何日も何日も過ごした。 そこで、彼女が何を想い何を見たのか。 それは三蔵にさえ分かりはしない。 ただ、何かが壊れた音がした。 そして、三蔵はその音を聞いて、 心底嬉しそうに歪んだ笑みを浮かべた。 「それで良い……」 「三蔵……」 「お前が俺だけの物にならないのならば、仕方ねぇ」 「俺がお前を壊してやるよ」 何も映していないかのようなの瞳に自身を映し、 三蔵はその唇を己のそれで塞いだ。 初めてのそれは、深く重い罪の味がした――。 そして、陽の当たる場所。 最早、主のいなくなったとあるマンションの一室に。 三蔵に贈られるはずだった、小さな包みが残されていた。 Happy Birthday dear SANZOU ただただ、全ての元凶は主を待っていた。 落ちたのは君。 堕ちたのは僕。
|