隣人は密かに思う * 注:このお話の舞台は元連載の最遊学園高等部ですが、ヒロインは全くの別人です。 生徒会メンバーは連載ヒロインさんラブ状態で、今回のヒロインさんとは悪友といったところです。 焔が色々残念なことになっています。 しょっぱなからテンション高めですのでご注意を。 何で!どうして!この私がこんなめに合わなきゃいけないのよ!? 世の中間違ってるわ!不公平よぉおぉおぉおぉー!! 私こと は目的地に向かって全力疾走をしていた。 何で高2になってまでこんなばかみたいに広い校内ダッシュしなきゃなんないの! これは訴えるしかないわ!直訴よ直訴! あそこにっ!あの場所に!! 「どうにかしてよ生徒会長!」 そして、ようやく辿り着いた目的地に私は勢いよく乱入を果たした。 すると、壊れる位の力強さでドアをぶち開けた為、中にいた人間達がうんざりしたような表情でこっちを見てきた。 その人間とは――最遊学園高等部生徒会メンバー。 何よ!うんざりしてんのはこっちよ!? 「またか」ってデカデカと顔に書くの止めてよね! とにかく、そんな失礼な連中は無視して、私はとある女生徒を探して眼を走らせた。 この学校で理事長と並ぶ権力を誇る女生徒会長をっ! がしかし、彼女は運悪くこの部屋にはいない……。 何でよ!? 「ちょっと!生徒会長は!?」 「あ〜、今確か他の女子と買出しに出てたはずだぜ?チャン」 「……嘘!?」 椅子にだらしなく腰掛けていた悟浄に返答を貰った私は、一気に引く血の気を自覚した。 どうりでむさ苦しいと思ったわ。 いつもいる可愛らしい後輩ズ(女子)がいないじゃない! ……冗談じゃないわ。 今まであれから逃げおおせてきたのは生徒会長に賄賂贈って撃退してもらってたからなのにっ! あまりの事に悟浄に「チャン付けで呼ばれる筋合いはない」とかつっこむのも忘れてしまった。 どうすれば良いかと頭を抱えると、今まで黙っていたもう一人の生徒会長――三蔵が相変わらずの仏頂面で口を開いた。 「……煩い。とっとと帰れ」 「何の役にも立たないヘタレの会長(仮)は黙ってなさい!じゃあ、八戒でも良いから〜!た・す・け・てv」 「手前ぇ……っ」 「いやぁ、彼は僕もちょっと専門外でして……」 「クラスメートのよしみでしょ!?」 大丈夫よ!貴方も生徒会長ほどとは言わないけど十分黒いわ!! 青筋立てて怒っている三蔵をスルーして、私は八戒を拝み倒す。 前はどうだかしんないけどね。 下級生に恋焦がれてヘタレ街道爆進中の男なんてアテにできる訳ないでしょ! それだったらこっちの天然クーラー男に借り作った方が有意義よ! がしかし、私の涙ぐましい努力も虚しく。 生徒会室に避難してから数分後。 最近の私を悩ませる元凶がやってくるのだった。 「どうして逃げる? !」 「ぎゃあ!来たぁあぁー!!」 「……もうちょい色気のある悲鳴は出せないもんかねぇ」 うっさい赤ゴキ! アンタにときめくお嬢さん方じゃないんだから、色気なんか求めてんじゃないわよ! 激しく悟浄を睨みつける私。(八つ当たり?上等じゃない!) すると、あまりの取り乱しっぷりに悟空君が声をかけてきた。 「、落ち着けって大丈夫だから……」 「何処が大丈夫なのよ悟空君!?落ち着ける訳ないでしょ!こんなストーカー野郎前にしてっ!」 「ストーカーとは心外だな……」 びしっと段々近づいてくる(ヒィ!)男子生徒を指差して私は叫ぶ。 ……いつもいつも私が叫んでると思わないでよね。全てはコイツのせいよコイツの! この焔とかいう変態野郎の! 年上だとか先輩だとかそんな事意識するのもおぞましい! 「彼氏に向かってそれはないんじゃないか? 」 ……確かに目の前のコイツの顔が良いのは認めるわよ。か・お・は! 男嫌いの私だって美的感覚がない訳じゃないからね。 海のように広大な心でもってそこだけは評価してあげる。 でも。 休み時間ごとに人の教室に出没するわ出会い頭に突然抱きしめてくるわ前触れもなくキスを要求し隙あらば押し倒そうとする男が彼氏なんて冗談じゃない! 断じて認めない!認めてたまるか!! しかも、 「毎度毎度フルネームで呼び捨てにしてんじゃないわよ、この変態!」 「なんだ、下の名前で呼んで欲しかったならそう言えば良え。v」 「キモっ!」 いやぁあぁあぁー!! 何か、何か両手広げて「さぁカモンv」って表情してるー!! 「助けて八戒!」 「……あまり係わり合いになりたくないんですが」 「じゃあ、悟浄でも良いから!」 「オレもパス。ここで暴れたら後で何言われるか分かったもんじゃねぇし」 「このヘタレめ!……悟空君は!?」 「オレ、今腹へってて動けねぇ……」 「どいつもこいつも役立たず!アンタら生徒会役員でしょうが!?」 「「「生徒会役員関係ねぇ(ないですよね)」」」 くっそぅ。こうなったら最終手段に訴えるしかないわ。 にじり寄ってくる焔と距離を一定に保ちながら、私は三蔵を振り返った。 こんなんでも銃刀法違反してる分だけいないよりマシでしょ。 「さんぞ――」 「断る」 って言い終わってもいないのに即答すんな! 「アンタ、コイツのクラスメートでしょ!?何とかしなさいよ!!」 「オレの名前は『コイツ』じゃない。『ほ・む・らv』もしくは『ダーリンv』と呼べと何度も言ってるだろう?」 「消えろ妄想族が!」 「ふっ……、恥ずかしがる必要はない。ただあるがままに心を表現……」 「私の心は今目の前にいる変態を殺す事で一杯よ」 「オレは別に構わないがな。沙 悟浄がどうなろうと」 「オレかよ!?」 突然とばっちりを受けた悟浄。 ああ、うん。それもまぁ変態の一種だけどね。 周りの人間が微妙な相槌を打っているのに気づいた悟浄は、失礼な事を言い出した焔に文句を言い出した。 ん?あれ?これってひょっとしてチャンス到来? そして、悟浄が焔につっかかっていこうとしているこの隙に逃げ出そうとした私。 薄情だとか言われたって常識人はこうすると思うの。 がしかし。 「何処に行くんだ?」 「きょぅあ!?」 変態は目敏かった。 「何処触ってんのよ!?」 「を触っているに決まっているだろう?」 「ンな事訊いてないでしょ!?これって立派に犯罪よ!」 「両者の合意があれば何一つ問題はない」 「何処に合意があるんだボケぇえぇえぇー!!」 渾身の力を込めて暴れる私だったが、流石に体格の良い男子の力に敵うはずはない。 抱きしめられた腕は緩む事なく、焔は至って満足そうに満面の笑みを浮かべる始末……。 何をしても無駄だと悟ると、私は周りで何気に傍観していた男共に助けを求めた。 「見てないで助けなさいよ!アンタらの可愛い後輩ちゃん達に色んな事ばらすわよ!?」 「「「「っ!?」」」」 いや、正確に言うと助けを求めたっていうか脅したんだけど。 その後の連中の反応は……それは面白かったわ。 「嫌がる女性に無理強いとは感心できませんよねv」 ……黒い。アンタ黒いよ! 「まぁ、さすらいのフェミニストとしては放って置けないよな」 さっきまで放っといたくせに何がフェミニスト!? 「オレ腹減ってるけど、頑張る!」 嗚呼、悟空君は何て良い子なのかしら……(遠い目) 「今すぐその手を放して失せろ焔」 殺気だってる。殺気だってるわこの人。 調子の良すぎる生徒会メンバーに、この学園の未来はどうなるのかと心の底から問いたい。 どうでも良いけどどうして本人達はここまであからさまなのに、後輩ズは気づかないのかしら。 どうなの、この大好きオーラ。鬱陶しいわー。 私だったら、一瞬で気づいて盗塁の如く逃げ出すっていうのに。 「彼女がいないからといってひがみか?玄奘 三蔵」 「手前ぇにだきゃ言われる筋合いねぇんだよ、変態」 「妬けるのならそう言え。は渡さんがな」 「そんな喧しい可愛げのねぇ女いるか」 「の魅力が分からんとは、気の毒な男だ」 えーと、これって怒るべき?喜ぶべき?泣くべき? いやーん、美男子が二人で私を取り合って争いをっ! 「私の為にアラソワナイデー」 「心が篭ってねぇ!」 「声小っちゃ!」 「……というか、僕達を巻き込んだのってさんですよねぇ?」 すぐ近くから聞こえてきた声に、私は驚いて振り返る。 あれ?いつの間に私は八戒の腕の中? 「……瞬間移動?」 「いえ、焔さん三蔵との言い争いに夢中になってたもので」 普通に回収させて頂きましたv にっこりと爽やかなかつ真っ黒な笑顔を浮かべられた。 やっぱり、コイツも敵に回したらまずいなーと再認識。 脅したのはまずかったかな……普通に毒吐かれてるよ私。回収って。 「あ、ありがとうv」 「いえいえ、どういたしましてw」 「今度恋のキューピッドしてあげるからねw」 「いえ、嫌な予感がするので遠慮しますw」 ……誰か助けてっ! 「えーと、いい加減に下ろしてくれるかなv」 「……嗚呼、すみません忘れてましたv」 嘘だ。絶対嘘だ! 私をいたぶって楽しんでたんだ!サディストめ!! 「それにしても、さんは軽いですね。腕がつるかと思いました」 「それ絶対軽くないわよねっ!?」 最後の最後まで嫌味で締めくくられつつも、ようやく地に足をつけた私は、不毛な争いをしている焔と三蔵を見た。 馬が合ってるんだか合ってないんだか、毎度のことながらよく分からない連中だなぁと思う。 あ、三蔵、銃取り出した……。 …………。 ……………………。 …………よし、逃げよう☆ 三十六計逃げるにしかず!ってことで、私は抜き足差し足忍び足でその場を後にした。 その後、一体どうやってあの争いが終結したのかは分からないが。 まぁ、恐らくはお嬢言葉でダイヤモンドダストを発生させることのできる女生徒会長が、一瞬にして事態を収拾したのだろう。 いつものように。いつものごとく。 最遊学園高等部は、今日も物騒に平和です。
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