変わらぬ日常に、幸せを思い描いた。





Life Is Wonderful?、50





燦々と降り注ぐ日差しを感じて、おれはゆっくりと目を開けた。
隣に人影はなく、自分が寝過したことを悟る。
今日は忙しいから、早く起きてかあさん・・・・を手伝おうと思ってたのに、出遅れた!

おれの名前は、。5歳。
若くて可愛くて美人のかあさんと、だらしなくてヘタレで情けないおやじの息子。
かあさんは、おれがおやじ似なのを喜んでるけど、おれとしてはかあさんに似たかった。
まぁ、かあさんが「将来、絶対得するから」って言ってくれてるので、早くその将来になってくんないかな、と思う。


ー?もうそろそろ起きなさーい?」
「はーい!」


自分を呼ぶかあさんの声に、ベッドから跳ね起きる。
そして、自分でタンスを開けると、今日着る服を引っ張り出して着始める。
ボタンって奴はどうしてこうも面倒なのかさっぱり分からない。
でも、おやじと違っておれは一人でも着替えられるってことを、かあさんに見せるんだ!
(おやじは酔っ払って帰ってきて、着替えもしないで寝そうになるのをいつもかあさんに助けてもらってる)

一回掛け違えたりもしたけれど、どうにか着替えを終えて、おれは一階まで駆けて行った。


「おはよう!かあさん」
「おはよう、。自分で着替えられたんだねー偉いねーv」


にこにこと、かあさんはボウル片手におれの頭をなでてくれた。
この、とってもエプロンの似合う可愛い女の人がおれの自慢のかあさん――かあさん。
うん。今日も一日良いことがありそうだ。


「じゃあ、。お父さんも起こしてきてくれる?」


が、続けられた一言に、一気にテンションが下がる。


「えー、おやじまだ起きてないのかよ。だっせぇ」
「……。悟空お兄ちゃんのマネをするのはやめなさい。『おやじ』も駄目」
「だぁってー。おやじなんて『おやじ』で十分じゃん。
いっつもダラダラして邪魔だし。かあさんとかおれにべたべたしてきてウザイし」
……交友関係間違えたかな


かあさんが、何故だかすごく困ったような表情カオになってしまった。
おれのせい、か?……いや、おやじのせいに決まってる。なんて奴だ!


「……とにかく、お父さんのことを起こしてきて?」
「……はーい」


何で起きてないんだよ、おやじの奴。
今日は大事な日だって、何度も何度も何度も言ってあるのに!
かあさんは、「お仕事が大変なんだよ」なんて言うけど、絶対嘘だと思う。
だって、お抱え運転手だし。
暇な時は昼寝できるーって言ってたし。

でも、かあさんと起こす約束をしてしまったので、義務を果たそうと、おれはおやじの部屋へと向かった。
おやじの部屋はかあさんとおれの部屋の向い。
夫婦別室って奴だ。
何でも、前におやじがかあさんを怒らせて、部屋から追い出されたとか。ざまあみろ。


「おやじー!起きろー!!」
「…………」
「起きろってばー!おやじー!くそおやじー!」
「…………」
「いいかげん起きろよ、エロおやじー!」
「…………重いわー!」


いい加減焦れてきて、力一杯上に飛び乗ったところで、おやじは起きた。
手間かけさせやがって。


「だから!いつも乗ってくんなって言ってんだろ、!」
「起きないおやじが悪いんだろ。はやく起きろよなー」


飛び降りると同時に布団を引きはがし、おやじがもう一度寝ないようにする。
この、明らかにダメ人間っぽいのがおれのおやじ――ゴジョおやじ。
……本当に、どうしてかあさんがこんなのと結婚したのか分からない。
それなりだと言われる顔も、髪の毛ぼっさぼさで不精ひげが生えてる状態じゃ見れたもんじゃないし。
中身だって、お世辞にも良いとは言えない。
おれとしては、かあさんには八戒さんとか三蔵とかのがお似合いだと思うんだけど。


「ったく。誰に似たんだかなー、お前は」
「いつもかあさんがおやじ似だって言ってんじゃん。迷惑だけど」
「……。そんなにとうさんいじめて楽しいか?」
「うん」


素直に頷けば、ガーンとか、微妙な効果音がした。
でも、おれはとりあえずかあさんとの約束を果たしたので、それは無視して一階に戻ることにする。
……うん。後ろでおやじが頭抱えてるけど、無視。







そして、おれがかあさんに、おやじを起こしたご褒美で生クリームを舐めさせてもらっていたところで。


、おはよーさん」


ようやくおやじが起きてきた。
髪はさっきと違ってばっちりブローしていて、髭もない。
ちょっとだるそうに着崩したその姿は、まぁ、おばさま受けしなくもない。
おれ、これ似なんだよなぁ。なんだかなぁ。

と、おれが微妙な表情カオをしている内にも、おやじはかあさんのおはようのキスを贈る。
ムカつくけど、かあさんが嬉しそうだから、我慢だ。


「おはよう、悟浄。朝ごはんできてるよ?」
「あー、んじゃあ、食べる」
も一緒に食べておいで?」
「え、かあさんは?」
「かあさんは、二人がなかなか起きてこないから先に食べちゃいました」
「えー!?」
「ごめんね。今日忙しいから、色々やらなきゃいけないことがあるの。お昼は一緒に食べようね」
「……しょうがねぇなぁ。ほら、食べるぞおやじ」


一緒に食べられなかったのは残念だけど、忙しいなら仕方がない。
わがままを言ってかあさんに嫌われたくはないので、おれはせめてかあさんの負担を減らそうと、おやじを促した。


 「……なぁ、。最近、が俺に厳しいんだけど」
「うーん。反抗期だからなんじゃない?」
「いや、俺限定なのよ」
「んー。あ、この前ぽろっと、前に悟浄にいじめられたって言ったからかな?」
「それかっ!」



が、いつまで経ってもおやじが来ないので、仕方がなく、おやじのズボンをひっぱる。
すると、おやじはおれを目線を合わせる為にかがんで、がしっと肩を掴んできた。


「な、なんだよ、おやじ」
。よぉ〜く聞け。おれと母さんは仲良しだ。それは分かるな?」
「はぁ?」


突然何を言い出したんだ、このおやじ。


「仲良しじゃなきゃ結婚しないだろ。馬鹿じゃねぇの?」
「……そうかそうか。じゃあ、そんな父さんが母さんをいじめる訳ないのも分かるよな?」
「でも、かあさんはいじめられたって言ってた。『頼むから、お父さんに性格だけは似ないでね』って」
「……
「……ごめん」


何とも言えない表情でおやじに見られて、かあさんはふう、と小さくため息を零した。
そして、おれと目線を合わせて、口を開く。


。あのね?お母さん確かにお父さんにちょっといじめられたけど……」
っ!?」



「でもお母さんも、お父さんいじめちゃったから、おあいこなの」



「だから、あんまりお父さんのこといじめちゃ駄目だよ?」そう笑ったかあさんは、いたずらに成功したように楽しげで。
まぁ、おやじをいじめるのは、時々にしてやろうかと思った。







その後は、おやじと朝ごはんを食べてやって、おれはかあさんと一緒にケーキ作りをした。
おやじは、酒を買いに行ったりする食材調達係で、正直、邪魔者がいなくなってホッとしている。
だって、気がつけば、あのおやじはかあさんにベタベタべたべた……。
そこはおれの場所だっつーの!

そして、ある程度料理とかケーキができたその時、玄関のチャイムが鳴った。


「あ、悟空にいちゃんたちだ!」
ー。ちゃんとインターフォンで相手を確認しなきゃ駄目だからねー」
「はーい」


ぱたぱたと、うさぎさんのスリッパが音を立てる。
まるでおれの心情を表わしているかのように、それは軽い音だった。

悟空にいちゃんはおれの友達で、かあさんの恩人。
三蔵は悟空にいちゃんの保護者?で、かあさんの恩人で、おやじの上司。
八戒さんはかあさんの友達で、おやじの恩人。
ねえさんは、かあさんの大親友で、おやじの恩人。
みんな、かあさんとおやじが大ゲンカした時に助けてくれた人たちなんだって。
詳しいことは知らないけど、どうせおやじがロクでもないことしでかしたんだろうなっておれは思ってる。
前に、それを八戒さんに言ったら、綺麗な笑顔で頷いてたから、実際そうなんだろう。

今日はお祝いだから、みんなでわいわい騒ぐ日。
毎年恒例の行事だけど、いつもは忙しい人がみんなで仕事休んだりしてくれるから、おれはこの日が大好きだ。
だから。



「ありがとうな!ねえちゃん!
あと、たんじょうびおめでとう!」



今はいない、ねえちゃんの写真にお礼を言う。
本当はねえちゃんも一緒が良かったけど、おれが生まれる前にいなくなっちゃったから。
寂しいけど、我慢する。

でもさ。
優しいかあさんがいて。
馬鹿なおやじがいて。
楽しいにいちゃんたちがいて。
可愛いねえちゃんもいて、おれって幸せって奴?

これからも色々あると思うけどさ。
人生、山あり谷あり当たり前じゃん?
そりゃ、なけりゃない方が良いかもしんない。
でも、なかったら、たぶんつまんないし、格好悪いと思うんだ。
やっぱ、何かあっても、それをバッタバッタなぎ倒してく奴の方が格好良いじゃん!
だから、おれは今を精いっぱい頑張ろうと思うんだ。
ねえちゃんの分まで!誰にも負けないくらいに!
いつだって、幸せだって言えるように!
胸張って言うよ。
だって、ヒーローって幸せの為にがんばる奴のこと言うんだろ?

もちろん、こんなこと照れくさいし、上手く言葉にならないから、口には出さない。
でも、心の中で思ってる分にはいいと思うワケだ。
そして、そんな風に決意も新たに、おれは楽しい人たちを迎えるべく、足を速めた。


「にいちゃんたち、いらっしゃーい!」
「ひっさしぶりー、!元気だったかー?」
「おう!」
「お出迎えに来てくれたんですか?偉いですねぇ」
「ふふん。おれはよい子で賞もらったからな!」
「そりゃ、めでてぇな」
「!!わーい、三蔵にほめられたー!」
「良かったわねぇ、くん。それは珍しいわよ?」
「だよなー!三蔵、には甘くねぇ?」
「……どこがだ」
「どこもかしこもじゃないの。まぁ、気持ちは分かるけどね。
くんって、見た目はいけすかないけど、性格は中々だもの」
「いやぁ、さんの教育の賜物ですねぇ。悟浄に性格まで似たら洒落になりません」
「……反面教師じゃねぇのか」

「たで〜ま……って、うぉ!?お前ら玄関先に溜まってんじゃねぇよ!」
「おやじ、おかえり〜」
「ぷぷっ。おやじだってvなんてお似合いw」
、手前ぇな……」
「ふん、事実だろうが」
「俺が『親父』なら、手前ぇらはおっさんかジジイだっつの」
「おや?そんなことありませんよ。ねぇ、くん?」
「……っ!おう!」
「あらあら。脅されちゃって、まぁ」

「みんなー?来たのー?ご飯出来てますよー!」

「はーい」
「よっしゃー!飯ー!!」
「楽しみですねぇ。さんの手料理」
「ふふっ。シャンパンの準備は出来てるんでしょうね?」
「……行くぞ」



嗚呼、なんて素晴らしき人生かな?





日常が変わっても。
幸せはすぐそこにあった。

Life Is Wonderful!






......This is HAPPY HAPPY END!