目の前に傷ついた鳥がいたら。
保護するのが普通だと思っていた。






Life Is Wonderful?、another47





少女然としたスーツ姿の女性が、靴音も高らかに駆け出した。
そして、取り残された形となった三蔵は、小柄な背中が遠ざかっていくのを、静かに見届ける。


カチッ


「ふぅー――……」


ゆっくりと、慣れた動作で愛飲しているマルボロを咥えた。
けれど、その、好ましいはずの紫煙のなんと苦いことか。
そのことに美麗な眉を寄せ、三蔵は鋭く舌打ちを洩らした。


――……チッ。俺も大概、馬鹿だな」


言うつもりもなかった一言が、気づけば口から零れていた。
そのことにが幸いにも気づかなかったことが、三蔵にとって唯一の救いだ。



――追うな。



それはきっと、零れてしまった本音。
そんなつもりはなかった。
なかったが、しかし。
だからこそ、それが隠された真実であったのだと、聡い彼は気づいてしまった。

最初は、ただ傷ついた小鳥を保護したような、そんな気持ちだった。
お節介にも菩薩が寄越してきた、怪我をした小鳥。
深入りをするつもりはなく、のプロフィールも、目を通すこともなく握りつぶした位だ。
けれど。


――忘れよう?
――……忘れなきゃ、駄目なんだよ。



その傷ついた姿に、心を動かされたのは、確かだった。
おそらく、三蔵がもっと積極的に彼女に関われば、何かが変わったのだろう。
けれど、三蔵は傷ついた彼女に更に踏み込んで、壊すような真似だけはしなかった。
そんなこと、したくはなかった。

自分は、ただ。
傷ついた小鳥を、傷が癒えるまで保護していただけだ。
だから、その傷が癒えて飛び立つそれを、遮るのはお門違いというものだろう。
どれほど、それに愛着が湧いていても。
どれほど、そのぬくもりに未練が残っても。

そう自分に言い聞かせて、三蔵は支社長室へと足を踏み出した。


「……猿が煩そうだな」


こんな三蔵の独白を、彼女は知らない。





まさか、その鳥に心を奪われるなんて思ってもいなかった。





......to be continued