逃げたのならばスタート地点まで戻れば良い。 逃げられたのなら追いかければ良い。 Life Is Wonderful?、32 何度も、思った。 言ってしまおうと。 謝ってしまおうと。 でも。 時間が経てば経つほど、言いづらくなって。 黙っていた罪までプラスされて。 結局俺は何も言わないまま、から離れるだけだった。 時が流れていくのに身を任せていた。 このまま、全てが消えちまえば良いと思いながら。 そして、から遠ざかって。 逢う時間も短くして……。 そうすればどうなるかも分からなかった。 ――行ってらっしゃい、悟浄。 ――おかえりなさい、悟浄 ――悟浄? ――悟浄。 ――悟浄……。 話もしなくなれば、情も薄れて。 かけられる優しい言葉も、ただの雑音のように。 些細な、けれどとても大切な気遣いにも、気付かない。 ――じゃあ……行ってきます。 俺は馬鹿だ。 時間って奴がどんなに残酷なものか知ってたはずなのに。 緩やかに、優しく、全てを無に帰すものだと知っていたはずなのに。 彼女を傷つけた。 ある時は態度で。ある時は言葉で。 大切な約束も何も頭の隅に追いやって。 何度も何度も何度も……。 今なら分かるのに。 あんなに長く離れているべきじゃなかった。 いや、寧ろ言ってしまえば良かったんだと。 許してもらおうなんてムシは良すぎるが。 でも、ならきっと許してくれた。 自惚れなんかじゃなく、そのくらい俺はに愛されていたから。 + + + 鳴り出した電話に閉じていた瞳を開ける。 相手は当然、連絡をこの一週間待ちに待ったあの野郎で。 一瞬。 ほんの一瞬だけ通話ボタンを押す手が震える。 「っざけんなよ……」 逃げるな。 諦めんな。 どんだけ惨めで哀れで。 みっともなくても何でも良いから手を伸ばせ。 「もしもし」 『……その声の感じだと、大切な事は思い出せたみたいですね』 「ンな事ぁどうでも良い。……は?」 足掻けるだけ足掻いてみやがれ。 『もちろん……』 死に別れた訳じゃない。 だから、 ――見つけましたよ。 俺達は、まだ、手遅れになんかなってねぇんだよ……! 尻込みする自分を叱咤して。 これから君を迎えに行くから。 ......to be continued
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